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2013年3月23日 (土)

アメリカ合衆国の地形図-廃止された旧体系 I

1884年12月5日、アメリカ合衆国地質調査所 U.S. Geological Survey(以下、USGSという)の第2代所長ジョン・ウェズレー・パウエル John Wesley Powell は、連邦議会で次のように証言した。「この国に適した地形図を構築すること以上に、政府は、人々の役に立ついかなる科学事業もなしえません。」 民生用地形図作成の幕開けを告げる声明だった。時は移り2009年、USGSは地図事業が始まって125年になるのを盛大に祝ったが、皮肉なことにその時すでに、パウエルの後継者たちは、地形図の改訂作業を放棄してしまっていた。伝統的な手法による地形図の維持更新は、前年の2008年をもって中止されたのだ。

印刷を前提にした地図の時代は終わり、現在は、その代替として特別なフォーマットによるデジタル地図(USトポ)が提供されている。製作過程は大きく異なるものの、図郭の踏襲を含め、従来の地形図の使い勝手をそがない配慮を払った設計が特徴だ。一方で、これまで製作されてきた膨大な数の地形図も、価値ある歴史資料として、インターネット上で大規模に公開されている。これから数回にわたり、アメリカ合衆国の変貌する地形図体系を、過去から現在へと順に紹介したい。

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1:24,000 Washington West  1956年版の一部
右端にユニオン駅や国会議事堂
中央にホワイトハウス、左はポトマック川

地形図の用途には大別して軍用と民生用がある。もとをたどれば、地形図は主に軍事作戦や国土防衛のための資料として整備されたのだが、近代国家が成熟する過程で、段階的に機密が解除され、国土の開発計画や民間のさまざまな用途に供されるようになった。

USGSは1879年に創設され、それまで陸軍工兵隊と内務省が行っていた地図製作業務を引き継いだ。1917年、アメリカの第一次大戦参戦を機に、海外(特に欧州)の地形図整備のために軍用地図部門が新たに編成されていった(下注)が、USGSは内務省のもとで民生用地形図の製作部局としてとどまり、現在に至っている。

*注 このとき陸軍工兵隊に設置された工作複製部隊 Engineer Reproduction Plant (ERP) が、第二次大戦下の1941年に、戦後日本の地形図作成にも少なからぬ影響を及ぼした陸軍地図局 U.S. Army Map Service (AMS) に発展する。

2008年以前、USGSの地形図は次のような体系を持っていた。

・合衆国全図
 1:10,000,000(1000万分の1、1982年版)
 1:7,000,000(700万分の1、1974年版)
 1:6,000,000(1974年訂補版)
 1:3,168,000(1インチ50マイル図、1965年版)
 1:2,500,000(1972年版)

・1:1,000,000 国際図
・1:500,000 州別地図
・1:250,000(1×2度地図 1x2 degree map)

*注 以上は、USGS "Index to Small-scale Maps of the United States", April 1, 1989による。ただし、第二次大戦以前の編集図は省略した。

・1:100,000(30×60分地図 30x60 minute map)
・1:62,500(15分地図 15 minute map)。アラスカ州は1:63,360
・1:24,000(7.5分地図 7.5 minute map)。一部図葉は1:25,000

USGSが築いた地図体系は、さまざまな地図カタログからも跡をたどることができる。"Catalog of Maps"(下写真) は、地図の種類をサンプル図とともに列挙したリーフレットだ。本稿の記述の多くもこれに拠っているが、地形図はもとより、USGSのもう一つの重要業務である地質調査、鉱物資源探査などに関するカラフルな地図も多数紹介されていて、たいへん興味深い。内容はUSGSのサイトにも転載され、今でも残置されているが、地図画像が粗くて詳細が読み取れないのが残念だ。

■参考サイト
USGS地図オンライン版-地形図(内容は従来地形図廃止以前の状況)
http://egsc.usgs.gov/isb/pubs/booklets/usgsmaps/usgsmaps.html

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"Catalog of Maps" 1991年8月版
表紙と内容の一部
 

ほかに地形図に特化したものでは、小縮尺図(合衆国全図~1:250,000)の索引図 "Index to Small-scale Maps of the United States"、中縮尺図(1:100,000、郡別地図)の索引図 "Index to Intermediate-scale Mapping"、同(7.5および15分地図)の刊行・改訂範囲の表示図 "Status of Topographic Mapping" などがある。図葉ごとに刊行年次や異版の列挙など、刊行状況が詳しく記載されている貴重な資料だ。

これらは全国版だが、州ごとの編集版も別に用意されている。「刊行図索引図 Index to Topographic and Other Map Coverage」と「刊行図カタログ Catalog of Topographic and Other Published Maps」だ。

「刊行図索引図」は、当該の州に関するすべての地形図シリーズの索引図を集めたもので、簡単な紹介記事もついている。とりわけ1:24,000地形図の索引図は、居住地名、交通網、水部が描かれた図をベースにしていて、膨大な面数から見たい図葉が簡単に特定できる優れものだ。

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州別刊行図索引図、カリフォルニア州版
(左)表紙
(右)索引図の一部
 

「刊行図カタログ」は、縮尺別にファイル番号、図名、刊行年、索引コードを列挙したリストを収載している。索引コードというのはUSGSの作成図に共通のコード体系で、5桁の数字で緯度(2桁)と経度(3桁)を、次の2桁でその枠内の位置を、次の1桁で地図の種別を、次の1桁で単位系(フィートまたはメートル)を、次の3桁で縮尺を表す(下写真)。地形図の表紙や整飾にも必ず記載されていたが、新しいデジタル地図では省かれてしまった。

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刊行図カタログ、カリフォルニア州版
(左)表紙
(右)刊行図リストの一部
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索引コード
 

これらUSGSの地形図は直販サイトまたは合衆国内の主要地図商で扱っていて、旧体系の更新が廃止された今でも、現物のストックがあればそれを、なければプリンタ出力のコピーを送ってくれる。ただし、USGSの直販サイトは国内専用のため、国外から発注するには、注文書面をFAXか郵送しなければならなかった。しかし、高精度の地図画像が製作時期の新旧を問わずPDFファイルで直接入手できるようになった今では、その手間も昔語りになったといっていい。

ウェブサイトからのダウンロードについては、稿を改めて紹介することにして、次回は、この地形図体系を個別に見ていこう。

(2006年12月8日付記事を全面改稿)

Map images courtesy of the U.S. Geological Survey.

■参考サイト
合衆国地質調査所 USGS http://www.usgs.gov/
ナショナル・マップ(国勢地図) http://nationalmap.gov/

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