ドイツの地形図概説 III-カタログおよび購入方法
外国の官製地形図を手に入れたい、というときにどうしたらよいか。ヨーロッパの他の国なら、おそらく数行で片付いてしまうような実用的話題でも、ドイツの場合は一項目設けるだけの価値がある。
まずは各測量機関が作成している製品カタログを一読することをお勧めしたい。ドイツ語で Kartenverzeichnis(カルテン・フェアツァイヒニス=地図目録)あるいは外来語そのままに Produktkatalog(プロドゥクト・カタローグ)などと題されている。たいてい公式サイトの、地形図を解説しているページかその近くにPDFファイルで上がっている(下注)。
*注 各測量機関サイトのURLは、「官製地図を求めて-ドイツ」および各州のページにあるURL欄に記載している。
各測量機関のカタログ |
たとえば、最も充実しているヘッセン州の場合、製品カタログは5分冊になっていて、第1号 Heft 1が地図(現行の)とCD-ROM/DVD製品 Karten und CD-ROM/DVD-Produkte、第2号が旧版地図 Historische Karten、第3号が空中写真製品 Luftbildprodukte、第4号がデジタル地理基礎データ Digitale Geobasisdaten、第5号が一般情報 Allgemeine Informationen という構成だ。
ヘッセン州製品カタログ (左)第1号 (右)第2号 |
カタログ集成版 |
ドイツの測量機関が刊行する地図製品は、現行の地形図やデジタルデータにとどまらない。ハイキングやサイクリングのルート、休憩施設などを加刷した旅行地図が州域をおおむねカバーしているし、旧版地図つまり過去の地形図は、18世紀の初期測量図から複製品のストックがある。製品カタログには、こうした製品の特徴、一覧図(図番、図名、製作年などを含む)、価格などが詳しく記載されていて、頼もしい道案内を務めてくれる。
しかし、惜しいことにカタログには自局の製品しか載っていない。連邦各地の地形図がほしいと思えば、それぞれの測量機関のカタログに当らなければならない。かつては、全測量機関(当時は旧西独地域)のカタログをリング綴じしたファイルが存在した(右写真)。これは、前回紹介した協議機関、ドイツ連邦共和国州測量機関作業委員会 Arbeitsgemeinschaft der Vermessungsverwaltungen der Länder der Bundesrepublik Deutschland (AdV) がヘッセン州測量局に委託して作成した集成版 Sammelband だった。厚さが5cmもあって、わが家に郵送されてきたときは予想外のボリュームに腰を抜かしたものだ。
総合地図目録 1995/96年版 |
しかしこの形式は1992年で終了し、翌1993年から、新連邦州(旧東独地域)の製品を含めて1冊に編集した総合地図目録に切り替わった(右写真)。収録内容は現行地形図と、その集成図である地方図 Gebietskarte、旅行地図などの特別地図 Sonderkarte に絞られたが、これまで目にしたことのなかったドイツ全土のTKシリーズと東独全域のAS、AVシリーズの地図一覧図が添付されていたので、たいへん重宝した。写真は第2版に当たる1995/96年版の表紙だ。残念ながらこれも、知らない間に廃刊になってしまった。
現在、国内すべての公式地図製品を概観できる資料やサイトは見当たらない。州が製作を担っている1:100,000とそれより大縮尺の地形図については、一覧図も州別でがまんするしかないようだ。
◆
さて、入手したい地形図の目星をつけたら、次は発注にとりかかることになる。方法は2通りある。一つは各測量機関への直接発注、もう一つは民間の地図店への発注だが、それぞれメリットとデメリットがある。
測量機関直注のメリットの第一は、カタログ掲載の地図が在庫切れでない限りすべて揃っていることだ。特に旧版地図の複製品や空中写真などは、地図店でほとんど扱っていないし、ノルトライン・ヴェストファーレン州のように市販しなくなった場合(下注)もほかに選択肢がない。メリットの二つ目は、定価で買えることだろう。地形図の価格はヘッセン、バーデン・ヴュルテンベルク、バイエルン州などを除いて5ユーロに設定されているが、これは測量機関での販売価格だ。地図店の店頭では、1~2割のマージンを上乗せした価格になる。
*注 ノルトライン・ヴェストファーレン州は、地形図の刊行を廃止し、直注のオンデマンド方式でのみ頒布している(前回の記述参照)。また、ヘッセン州は、2012年1月1日から地形図の市販(地図商・書店での販売)を行わなくなった。旅行地図等はこの限りではない。反対にバイエルン州は直販を行っておらず、市販のみ。
では、いいところばかりかというと、そうでもない。カタログと同じく、原則的に自局の刊行物しか取り扱っていないのだ。地形図の場合は、隣の州が製作したものでも、図郭に自分の州域が含まれれば販売しているが、例外措置はその範囲にとどまる。全国各地の地図がほしいと思えば、それぞれの州とコンタクトをとる必要がある。これはいかにも不便だ。
さらに問題なのは代金の支払いで、ネットショッピングのサイトがある場合でも、たいてい即時決済はできない。請求書が郵送されてくるので、そこに書かれている銀行口座に対して、市中銀行か郵便局の窓口から指定金額を振込むことになる。請求書はドイツ語だし、送金手数料も数千円かかる。手続きとしてはたいへん煩雑で、ハードルが高い。
一方、民間の地図店の場合は、上記のメリット、デメリットが逆転する。特殊なものは扱っていないし、少々価格は高くなるが、全国の地図が買え、支払いにクレジットカードやペイパル PayPal が使える。ただし、ドイツ国外の地図店の場合は概して価格が高く(下記のような例外はあるが)、需要度を反映してか、扱っているのは旅行地図が中心になる。さまざまな種類の地図をできるだけ早く入手するには、同国内の地図店に依頼することだ。
筆者は、時々の事情に応じていくつかの店を使い分けている。急がないときは、手近な紀伊國屋書店BookWebをまず探す。ここのレパートリーは主として旅行地図だが、バイエルン州やバーデン・ヴュルテンベルク州の地形図もリストに上がっている(Topographische Karte などの語句で検索するとよい)。すべて取寄せのため届くまでに3~4週間かかるが、日本語で手続きでき、価格も現地とほぼ同じなので、お勧めだ。
急ぐ時やここにないアイテムは、ドイツ国内の地図商の MapFox.de か Karten-Schrieb に注文を出す。前者はオンライン画面で発注し、添付メールで送られてくる見積書に従って、銀行送金する。画面表記はすべてドイツ語なので、その知識が必要だ。後者は発注画面が用意されていないので、最初から英語でメール発注する。前者と同じように見積書が送られてくるが、こちらはペイパル決済が可能だ。いずれも現地価格(店によって価格設定は異なる)だが、日本への送料が7~20ユーロ加算される。現物は2週間もあれば到着する。
他に、クレジット決済ができる地図店サイトもある。地図購入に関する情報は、上記「官製地図を求めて」各ページの現地販売の項を参照されたい。
次回からは、縮尺別にドイツの地形図の特色を探っていく。
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