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2011年10月16日 (日)

新線試乗記-九州新幹線、博多~新八代間

「祝!九州」のCMに感動したせいか、今年(2011年)3月12日に全線開業した九州新幹線(鹿児島ルート)が、何かしら旅心を誘う。夏には阿蘇と高千穂を巡る家族旅行で使い、先日は鹿児島からの帰路に利用して、新規開業区間の駅もいくつか見てきた。今回はその印象を綴りたい。

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800系電車入線、新鳥栖駅にて
 

九州新幹線の開業順序はちょっと変則的だ。南側の新八代(しんやつしろ)~鹿児島中央間が先行して2004年3月に開業し、他の新幹線とは接続しない飛び地のまま7年間運行されてきた。八代~西鹿児島間は、在来線特急で2時間10分程度かかっていたのだが、新幹線の登場で一気に40~50分まで短縮されてしまった。初乗りした時は、和風の意匠を凝らした800系車両も居心地良く、もう少しゆっくり走ってほしいとさえ思ったものだ。

一方、北側の博多~新八代の開通は後回しにされ、ダークグレーの渋い面構えで気を吐く787系電車が、「リレーつばめ」の名でこの間をつないでいた。新八代では新幹線のホームに上がり、あたかも通勤電車の緩急接続のように、横に並んだ新幹線の「つばめ」号と乗客を受け渡しするというので話題になった。

しかし、この長らく続いた乗継ぎの手間も今年、ついに解消するときが来た。前日に東日本を襲った大地震を受けて祝賀行事は全面中止となったものの、運行は予定通り始まり、実キロ256.8kmにおよぶ九州旅客輸送の新しい動脈がここに完成を見たのだ。

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800系車内
(左)粋な和のインテリア
(右)金箔貼りの妻壁も

今回の旅の1日目は、鹿児島中央から熊本まで移動する。東海道新幹線の「のぞみ」「ひかり」「こだま」に対応して、九州新幹線には「みずほ」「さくら」「つばめ」が設定されている。「みずほ」は熊本しか停まらない速達便、「さくら」は主要駅停車、そして「つばめ」は全ての駅に停まる。ただし日中の「つばめ」は熊本以南に入らず、「さくら」がその役を代行する。今回は乗車目的からして、1時間に1本あるこの各停「さくら」を敢えて選んだ。

車両はN700系8両編成、連続35‰勾配に対応した九州仕様だ。始発駅だからすいているものと高を括って自由席に乗ったら、窓側はたちまち塞がり、発車時点で空いていたのは3連中央のB席程度という盛況ぶりだった。川内(せんだい)、出水(いずみ)と、どの駅でも乗降客が結構あり、すっかり地元の足として定着しているようだ。

新八代からは初乗りになるので、車窓に集中する。新幹線は広い八代平野を縦断していく。ルートは在来線より3~4kmも海寄りで、江戸期に干拓で造成された土地を通っている。区画の整った農地を貫くまっすぐな水路に、夕闇迫る西の空が映える。視野の先に広がる水面は八代海で、背景に浮かぶシルエットは三角半島か天草か。最近の新設区間は防音壁が高くて興をそぐのだが、このあたりは上部を透明素材に変えてあり、断続的でも眺望が保てるのがありがたい。

しかし、宇土以北、熊本平野では在来線に寄り添うように敷かれていて、周囲に人家が増えるため、視界はほとんど絶望的だ。

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(左)新八代駅
(右)夕映えの八代海(遠景)、松橋南方にて
 

いつのまにか減速して、熊本駅に到着した。さすがは中九州の中心、2面4線が大屋根を戴く堂々たる駅だ。東口(白川口)に回る前に、西口(新幹線口)に出てみた。こちらは市街の反対側で駅前はまだがらんとしているが、駅舎の透ける外壁を通して、上り外側線(11番線)に停車した列車を眺めることができるのが売りだ。日が傾いてホームに明かりが点ると、さらに見栄えがした。

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熊本駅到着
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車両もインテリアの一部、熊本駅西口

2日目は、熊本から博多までの行程だ。この区間は夏の旅行の際に通しで乗っているので、今回はいくつか途中駅を訪問してみるつもりだ。当然、乗る列車は各停の「つばめ」となる。噂には聞いていたが、車内に入ると見事なほどすいている。昨日の「さくら」とは大違いだ。

「つばめ」に主として使われる800系は、自由席でも1列4席という他の新幹線電車ならグリーン車並みのゆったりした座席配置が特色だが、それでも不人気の理由はおよそ見当がつく。熊本から博多へ行く人は、停車駅の少ない「さくら」を選ぶ。安くあげたい人は、中心部から頻繁に出ている高速バスを利用する。途中駅の利用者はというと、新玉名、新大牟田は中心街から離れていてアクセスがよくない。

久留米はもともと西鉄が中心で、特急なら天神までわずか30分強だ。新幹線でも2枚きっぷのような格安切符が発売されているが、値ごろなフリークエントサービスに慣れた市民には、費用対効果が低いと見なされているのではないか。京阪神間でもそうだが、新幹線はよそ行きの乗り物なのだ。

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朝の熊本駅に列車入線
 

列車が熊本市街を去る前に、ビルの間からお城の天守閣が見送ってくれるが、それもつかの間、視界はトンネルで閉ざされる。しばらくこの闇と明かりが断続したあと、田園地帯に出て新玉名(しんたまな)、トンネルを過ごして新大牟田(しんおおむた)と、こまめに停まっていく。この2駅は在来線の接続がなく、降りてしまうと次の列車は1時間後なので、今回は敬遠した。

下車した筑後船小屋(ちくごふなごや)は熊本から3つ目の駅で、在来線である鹿児島本線に5分もあれば乗換えられる。というのも、この辺りからしばらく新幹線は在来線に並行しているからだ。新幹線の開業を期に、元来もう少し北にあった在来線の駅(駅名は船小屋)が真横に移設された。両駅舎の間には小ぶりなロータリーがはさまれているが、通路にシェルターがあるので一体化も同然だ。

しかし、ここも市街地から遠く、上り列車から降りた客は私の他になかった。改札口の前も閑古鳥が鳴いていて、立派な構えの駅舎が手持ち無沙汰に見えた。

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(左)在来線側から見た筑後船小屋駅
(右)駅前の公園化計画
 

ここから久留米(くるめ)へ行くのに新幹線を使う人はいまい。距離にして15.8km、在来線の電車でも15分ほどで着く。久留米には、石橋美術館へ青木繁の名作を見に行くために寄り道したことがある。都会的な西鉄久留米に対して日通倉庫が似合いそうな雰囲気を漂わせていたはずの駅は、全面改築により面目を一新していた。線路に直交してドーム状の翼部が設けられ、柱はレンガ調、天井と正面にはステンドグラスが嵌められている。駅前広場も整備されて、昔の鄙びた面影はない。

ちょうど午後3時で、正面に据え付けられた田中儀右衛門のからくり時計(下注)が始まるところだったので、しばし見とれた。こうして朝8時から夜7時まで1時間おきに、儀右衛門人形と彼の手になる発明品たちが、5分間のちょっとしたショーを演じている。

*注:儀右衛門こと田中久重は江戸時代、久留米出身の発明家。東芝のルーツの一つとなった田中製作所を設立した。

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(左)改築された久留米駅
(右)ドーム状の中央通路
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久留米駅前のからくり時計
 

まだ時間があったので、次の新鳥栖(しんとす)まで再び在来線で行くことにした。この駅は長崎本線との交差点に設けられている。それで在来線の場合、鹿児島本線で鳥栖へ着き、長崎本線に乗り換えて1駅目となる。

在来線が形作る三角形の二辺に対して新幹線は残り一辺を通り、久留米~新鳥栖間の実キロは5.7kmとあまりに短い。これでは電車が十分加速する間もないのだが、駅が存在する理由は二つある。将来ここから長崎新幹線(九州新幹線 長崎ルート)が分岐する予定であることと、今のところここが佐賀県にとって唯一の新幹線駅であるということだ。

鳥栖は読んで字のごとく鳥のすみかなので、駅舎のファサードも鳥の翼をイメージしているそうだ。私にはユーロ通貨のマークにも見えたが。筑後船小屋と同様、この駅も新幹線の改札が地上にある。ホームに上がるには3階分の長いエスカレータを使う。島式2面4線のホームは一方が通過列車なら不要なはずだが、これも長崎新幹線のための準備らしい。

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(左)新鳥栖駅正面
(右)2面4線が用意されたホーム
 

久留米方から800系がゆっくり進入してきた。これに乗って博多に戻ろう。鹿児島から2日かけて乗継いできた九州新幹線もいよいよ最後の行程になる。新鳥栖を出ると、列車はすぐに、脊振山地を貫く九州新幹線最長11935mの筑紫トンネルに突入する。トンネルを含む前後に35‰という急勾配のアップダウンがあって、全電動車の本領が発揮される区間なのだが、乗客はせいぜいトンネルを出た博多方で、左手に見える宅地の高さの変化に気づく程度だ。

その頃、右手車窓には、レールスターをはじめ、さまざまな新幹線電車が居並ぶ博多総合車両所が開けてきて、山陽新幹線の縄張りに入ったことを意識する。車両所からの線路が合流すると、側壁の色が古くなりスピードも落ちて、まもなく博多、「つばめ」の終点だ。

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(左)防音壁越しに博多総合車両所
(右)博多駅到着
 

■参考サイト
JR九州-九州新幹線 http://kyushushinkansen.com/
熊本駅付近の1:25,000地形図
http://maps.gsi.go.jp/#15/32.790000/130.689200
熊本駅付近のGoogle地図
http://maps.google.com/maps?f=q&hl=ja&ie=UTF8&ll=32.7900,130.6892&z=16

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