オーストラリアの鉄道地図 III-ウェブ版
ウェブサイトで見られるオーストラリアの鉄道地図には、決定版と呼ぶべきものがある。「オーストラリア鉄道地図 Australian Rail Maps」と題されたサイトで、普通鉄道、トラム、長距離バス、フェリーなど全土の公共交通路線網を20面もの地図でカバーする、まさにウェブ上の鉄道地図帳だ。路線の密度に応じて大小さまざまな範囲の地図が用意され、それによって全系統全停車駅の表示を可能にしている。
■参考サイト
オーストラリア鉄道地図 Australian Rail Maps http://www.railmaps.com.au/
その特徴を筆者なりに挙げるとすると、一つ目は、情報リンクの徹底ぶりだ。地図中に張られたリンクからより詳細な図へ、あるいは隣接する図へと自在に移動できるだけではない。各路線をクリックすると当該路線の時刻表が現れる。時刻表の駅名をクリックすると、その駅へ通じている公共交通の路線名や運行頻度、路線の利便度のランク付けまで見ることができる。ウェブならではの痒いところに手が届くシステムだ。
二つ目は、デザイン性に優れていることだ。すべての地図で、路線を平面上の地理的位置によらず、縦横斜め45度の単純な形状に整理する、いわゆるスキマティックマップ(位相図)の表現法が用いられている。そのため、錯綜する都市圏の路線網や運行系統も、苦労せずに追うことができる。さらに、太めの線幅、目を引く配色、拠点駅の強調など、的確に見せるための工夫が各所に施されている。
三つ目は、地図とともに、当該地域を走る列車や鉄道の現状を紹介した記事が添えられていることだ。鉄道網を理解し、旅行計画のヒントを得るのに、こうした文字情報が参考になる。
地図はどのような内容をもっているのか。いくつか見てみよう。トップページは中・長距離列車やフェリーのルートが表示されたオーストラリア全図だ。表示はPNG画像だが、印刷用のPDFファイルもある。
試しに、東海岸のシドニー Sydney の上にカーソルを置いてクリックすると、「NSW南部とビクトリア東部 Southern NSW & Eastern Victoria」の地域図に切り替わる(NSWはニューサウスウェールズ New South Wales の略)。この図は、シドニー~メルボルン Melbourne 間、首都キャンベラ Canberra といった同国の中心的エリアを描いたものだ。列車のルートが系統別に色分けされ、主要駅は赤いボール状、その他の駅は短線を立てて表示されている。駅の横に白抜き文字で6:00などと記されているのは起点からの所要時間、2, 2, 2などとあるのは左から平日、土曜、日曜の1日当りの列車本数だ。週数便しかない路線では、これが数字ではなく曜日の頭文字になる。また、観光用の保存鉄道が白抜きの線で、貨物専用線や休止線が薄めた色で描かれている。
シドニー周辺は矩形の枠で囲まれ、拡大図があることがわかる。そこをクリックすると、「イラワラ、NSW南海岸および南部高地 Illawara, NSW South Coast & Southern Highlands」、すなわちシドニーから見て南西方向の地域図に切り替わる。この地域には、メルボルン周辺などとともに中距離列車の充実したネットワークが築かれているので、地図もそれに合わせて念入りに作られているのだ。
シドニー都市圏 Metropolitan Sydney はさらに拡大図「シドニー鉄道・フェリー地図 Sydney rail & ferry map」がある。これが地図の中では最も詳しく、普通鉄道ばかりかライトレールやモノレール、そして湾内の足であるフェリーの系統も特定できる。凡例に、これは公共交通の公式地図ではないと断り書きがしてあるが、それはなかば謙遜のようなもので、自社線中心になりがちな事業者提供の地図に比べて、格段に使い勝手がいいのは間違いない。
ところで、このサイトには、同国鉄道地図の集大成のような作品が隠されている。トップページ左メニューの2番目、「National Bus & Rail Map」と書かれたところが入口だ。クリックで現れる「NATIONAL PUBLIC TRANSPORT MAP(全国公共交通地図)」は、3MB以上ある特大画像だが、これは単に地域図を貼り合せたものではない。貨物線や休止線といった使えないルートを省略する代わりに、長距離バス、現地で言うコーチ Coach のルートを加えている。つまり、今ある公共交通で到達可能なすべての土地とそこへの行き方が示されているのだ。
鉄道は太線、バスは細線で、それぞれに運行事業者名が入り、鉄道と連絡しているバス路線には同じ色が充てられている。アリス・スプリングズ Alice Springs からエアーズ・ロック Ayers Rock(ウルル Uluru)やカタジュタ Kata Tjuta へ、パース Perth からシャーク湾 Shark Bay のモンキー・ミア Monkey Mia へといった、有名だが交通の便が悪い観光地へのバス路線もすべて表示されている。ローカル路線の場合、中小業者によるワゴン車運行が多いため現地での確認が必須だが、記載された走行経路は必ず参考になるはずだ。
ここまで鉄道地図を中心に紹介してきたが、実際、一般旅行者にとって便利なのは、移動の出発地と到着地を入力して、利用可能な交通機関と所要時間や発着時刻を表示させる機能だろう。このサービスも、左メニューにある「Journey Planner(乗換案内)」から提供されている。列車、バスもしくはその組合せで何通りかのルートが提示され、時刻表にももちろんリンクしている。こうしてサイトを使いこなすうちに、オーストラリアの公共交通機関をすべて手中にした気分になったとしても不思議ではない。
各交通機関の鉄道地図については次回。
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