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2011年4月 4日 (月)

インドの鉄道地図 III-ロイチャウドリー地図帳

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「インド鉄道大地図帳」初版
 

今回紹介するのは、サミット・ロイチャウドリー Samit Roychoudhury 氏が自ら企画・製作・出版する「インド鉄道大地図帳 The Great Indian Railway Atlas」だ。2005年6月に出版された(下注)。"Great" というタイトルに似合わず、サイズは横18cm×縦24cm、ページ数は84ページと、前回紹介したIMSの鉄道地図帳とほとんど変わらない("Great" の形容詞は、あるいは Railway に係るのかもしれない)。

*注 この記事は「インド鉄道大地図帳」初版を扱う。2010年10月に刊行された第2版については「インドの鉄道地図 IV」で詳述している。

しかしそれ以外の点では、両者はまさに好対照を成している。IMSが赤い表紙なら、こちらは青表紙で、ブルーアトラスとも称される。政府監修に対してプライベート出版、文章主体に対して図版に専心、さらに誤解を恐れずに言うなら、IMSが古いインド映画を思わせる時代がかった編集スタイルなのに対して、こちらはコンピュータ世代が創り出したスマートなデザインと明快なコンセプトの刊行物だ。

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サンプル図(裏表紙より)
 

メインは1:1,500,000(150万分の1)の区分図で、鉄道のない地域を除いて全土が61ページに分割されている。また、デリー、コルカタ、ムンバイなどの大都市近郊は、別に拡大図がある。この中に、インドの鉄道路線に関する情報が満載なのだが、まず画期的なのは、廃駅を含めて合計1万もあるという駅が、残らず掲載されていることだろう。線路の状況も、軌間、単線・複線、電化・非電化の別、新線、線増、電化の工事中・計画中、休止線に至るまで、実に詳しく表示されている。

さらに、記号デザインが直感的で迷いがないのがいい(下写真は凡例の一部)。単線の線路は1本線、複線は2本線で描くといったように、線の数で線路数が分かる。建設中の路線は破線で表すので、この破線が1本線に添えてあれば、複線化工事中ということだ。軌間も広軌は太線、狭軌は細線と、まさに見たままだ。インドの鉄道は、幹線こそ1676mm(5フィート6インチ)の広軌だが、地方の支線には1000mm(メーターゲージ)をはじめ、762mm、610mmの軌間が残っている。改軌の計画がある狭軌線は、細線に、計画中の広軌線を表す薄い破線が添えてあるので、すぐ判断がつく。

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鉄道を表す地図記号
 

この種の地図では、区分が詳細になればなるほど、凡例(記号一覧)と首っ引きを強いられる。2色刷りという制約がある中で、こうした素直で明快なデザインは稀と言ってよく、特に評価されるべきだろう。

図示されているのは線路にとどまらない。鉄道施設では、車庫にEL、DL、SLの別があり、工場、貨物ヤード、コンテナターミナルが記号化されている。かつての日本の時刻表添付地図のように、管理局の境界が、管理局 Division 名の略称とともに書き込まれている。さらにつぶさに見ていくと、主なトンネルや鉄橋が注記されていたり、山岳路線が網掛けで示されていたりと、地図ファンの興味までそそるのが小憎らしい。この国はほとんどの官製地形図を国外に公開していない。そのため、詳細な地形を知るすべがなく、かえって焦燥感を掻き立てられるのだ。

付録や検索機能も充実している。表紙の裏には、ここだけフルカラーの全国図がある。地勢のシェーディング(陰影)を施したベースマップに、現在の全国鉄道網を地域鉄道 Zones 別の色分けで示したものだ。また、巻末には、1893年の全国鉄道網(略図)、南ベンガルの狭軌鉄道網の地図、そして最後に20ページに及ぶ駅名索引(これも休止駅を含む)がついている。

地図帳の裏表紙に記された著者紹介によると、「サミット・ロイチャウドリー氏は1990年代、アーメダバードの国立デザイン研究所に学び、その後数年間カルカッタのコンピュータ会社に勤務した。彼は少年時代から列車に熱中していたが、この地図帳から彼の長年の研究と詳細な情報収集の成果が読み取れる。」 個人でこつこつ集めたデータから鉄道地図帳を作った例はイギリスにもあるが、彼が相手に定めたのは巨人のごとき鉄道大国だ。並みの決意ではできなかっただろう。

紹介文は続く。「これはきっとあなたの役に立つはずだ。なぜなら他の地図帳と違い、鉄道を深く理解し愛する人々のために編まれているのだから...。」 1冊24.99USドルと多少値が張るとはいえ、推薦の言葉どおり、インド鉄道の情報源として第一級の図化資料が現れたのは間違いない。

(2007年7月12日付「インドの鉄道地図 II」に加筆)

■参考サイト
The Great Indian Railway Atlas  http://indianrailstuff.com/
 ただし、現在は第2版の紹介になっている。

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