カナダの鉄道地図 II
![]() |
前回、旅客列車の鉄道地図を話題にしたので、今回は範囲を拡大して、貨物専業を含めカナダの全ての路線網を表示したものを紹介したい。
本題に入る前に、カナダの鉄道業界を概観しておこう。貨物と旅客に大別するとして、まず、貨物鉄道には、ファーストクラスすなわち一級鉄道 Class I carrier にランクされる大手2社がある。前回も触れたが、もと国鉄のカナディアン・ナショナル鉄道(CN)と、由緒ある大陸横断鉄道カナディアン・パシフィック鉄道(カナダ太平洋鉄道、CPRまたはCP)だ。この2社で、貨物鉄道路線の約7割を所有している(下注)。
その他は、短距離路線 Short Lines または地方鉄道 Regional Carriers に分類されるが、中には、バンクーバーから北上するBCレール BC Rail のように2,303km(1,431マイル)もの路線長をもつような鉄道も含まれる。
*注 下記地図帳 p3によると、一級鉄道21,154マイル(68%)、その他9,812マイル(32%)。
一方、旅客鉄道はVIAレールが唯一全国規模で(ただし、ごく一部を除き線路は保有しない)、それ以外はモントリオールやトロント、バンクーバーといった大都市圏の通勤路線 Commuter Railways と、若干数の観光鉄道 Tourist Railways だ。
これら、カナダの鉄道約50社が加盟する業界団体として、カナダ鉄道協会 Railway Association of Canada (RAC) がある。協会が情報提供活動の一環として編集しているのが、「カナダ鉄道地図帳 Canadian Railway Atlas」だ。判型はA4判に近い横21.5×縦28cm、フルカラー72ページで、州別概観図、全駅記載の詳細図、都市圏拡大図、さらにアメリカ合衆国とメキシコの概略図から構成され、巻末に駅名索引がつく。
![]() オンタリオ州概観図の一部 「鉄道・自治体近接問題情報ベース」より |
少し詳しく説明しておこう。各州1ページを充てた州別概観図は、各州の鉄道網の全体像をつかむための図だ。路線は会社別に色分けされ、主要駅とともに、社名の略号(報告記号 reporting mark という)、管理区分 subdivision 名が付されている。余白にはその州を運行する鉄道会社の一覧があって、会社のクラス別に、親会社名、所轄(連邦か地方政府か)、州内の路線延長などのデータがリストアップされている。
路線網を詳しく知りたければ、次の詳細図だ。会社別着色はここでも踏襲されているので、前の概観図と直感的に同期がとれるのがいい。駅の密度は一見、日本の時刻表並みだが、縮尺が1:2,000,000(200万分の1)程度なので、駅間距離を計算すると平均10kmを越える。旅客扱いのある駅は限られているはずだが、ほかはまだ貨物扱いを続けているのだろうか。地形の描写は水部(主要河川、湖、海)だけの白地図のような体裁だが、背景にハイウェー網が番号つきで薄く刷られていて、位置特定の助けになる。
都市圏拡大図は、さらに縮尺が大きくなる。ヤード(操車場)や飛行場への引込み線のほか、インターモーダル基地 intermodal facility や積替えセンター transload center(いずれも鉄道輸送と自動車輸送の接続点)の記号も現れ、鉄道の果たしている役割が想像できる。
合衆国とメキシコの路線図では、CNとCPRが太く強調されて、特別扱いだ。CNは1998年にイリノイ・セントラル鉄道 Illinois Central Railroad を買収した。その結果、シカゴ Chicago から南部のニューオーリンズ New Orleans までの合衆国縦断ルートを含む約5,000kmの路線を獲得し、カナダの鉄道がメキシコ湾に到達することになった。国境を越えて延びる線路を描いて、カナダの鉄道産業の進展を誇らしげにアピールするこの地図は、一巻の締めくくりにふさわしい。
地図帳は内容ばかりか、地図デザインも簡潔かつ機能的で、同国の鉄道網を一目で見渡せる良質の資料だ。ところが残念なことに、2003年の第4版以来、更新が止まったままで(下注)、協会の直販サイトでも品切れになっている。同業者団体が監修するいわば公式資料でもあるので、ぜひ復活させてもらいたいものだ。
*注 ただし、2004年に、連邦政府の選挙区 Federal Electoral Districts 別にカナダの鉄道を表示した特別版が製作された(情報は、地図商オムニマップ Omnimap のサイトによる)。
なお、カナダ鉄道協会とカナダ地方自治体連合 Federation of Canadian Municipalities (FCM) が共同で立ち上げた鉄道・自治体近接問題情報ベース Railway/Municipality Proximity Issues Information Base のサイトに、州別概観図と都市圏拡大図のPDFファイルがある。2004年版のようだが、基本的に地図帳の掲載図と内容は変わらない。
■参考サイト
カナダ鉄道協会 http://www.railcan.ca/
同 地図帳紹介ページ http://atlas.railcan.ca/
「鉄道・自治体近接問題情報ベース」の鉄道地図のページ
http://www.proximityissues.ca/english/maps1.cfm
![]() |
そのほかに、以下の地図帳がある。
イギリスのSPV社による「北米鉄道総合地図帳 Comprehensive Railroad Atlas of North America」は、北米の鉄道を網羅したシリーズで、16巻中5巻がカナダに関するものだ(カナダ西部 Western Canada、カナダ中部 Central Canada、オンタリオ Ontario、ケベックおよびラブラドル Quebec & Labrador、ニューイングランドおよびカナダ沿海州 New England & Maritime Canada)。
また、デスクマップシステムズ社 DeskMapSystems の「北米鉄道専門地図帳 Professional Railroad Atlas of North America」は、合衆国をメインとしながらも、カナダ、メキシコの鉄道網にもページを割いている。これらについては、いつかアメリカの鉄道地図を紹介する機会に詳述したい。
★本ブログ内の関連記事
カナダの鉄道地図 I
カナダの鉄道地図 III-ウェブ版
カナディアンロッキーを越えた鉄道-序章
« カナダの鉄道地図 I | トップページ | カナダの鉄道地図 III-ウェブ版 »
「鉄道地図」カテゴリの記事
- ギリシャの鉄道地図-シュヴェーアス+ヴァル社(2021.07.29)
- イタリアの鉄道地図 III-ウェブ版(2016.08.25)
- イタリアの鉄道地図 II-シュヴェーアス+ヴァル社(2016.08.13)
- イタリアの鉄道地図 I-バイルシュタイン社(2016.08.07)
- インドの鉄道地図 VI-ロイチャウドリー地図帳第3版(2016.04.19)
「アメリカの鉄道」カテゴリの記事
- ロッキー山脈を越えた鉄道 VIII-モファットの見果てぬ夢 後編(2017.11.04)
- ロッキー山脈を越えた鉄道 VII-モファットの見果てぬ夢 前編(2017.10.29)
- ロッキー山脈を越えた鉄道 VI-リオグランデの2つの本線(2017.10.22)
- ロッキー山脈を越えた鉄道 V-標準軌の挑戦者ミッドランド(2017.10.15)
- ロッキー山脈を越えた鉄道 IV-サウスパークの直結ルート(2017.10.10)
コメント