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2010年11月25日 (木)

カナダの旅行地図-アドべンチャーマップ

見ごたえのあるカナダの旅行地図をもう2種類紹介しておきたい。どちらも、官製地形図データを使用せず、空中写真から自ら図化したオリジナルの地形図を用いているところに特色がある。なぜそのような手間をかけているのか。

いわく、全国画一的な縮尺で描かれた官製図に対して、ユーザーが必要としているエリアを自由な区画、自由な縮尺で表現できる。国土が広すぎるため更新作業が追いつかず、内容が古くなりがちな官製図の向こうを張って、随時こまめな改訂が施せる。コストを投じても、自社製地形図が持つアドバンテージを売り物にしているのだ。

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今回紹介するのはその一つ、オンタリオ州 Ontario などの主要なレクリエーションスポットを網羅した「アドべンチャーマップ The Adventure Map」というシリーズだ。同州トロント Tronto 近郊に本拠を置くクリスマー Chrismar 社が刊行している。オンタリオ州は、首都オタワ Ottawa や同国最大の都市トロントを擁し、地理的にも政治・経済上もカナダの中心的存在だ。いきおい州内旅行地図の需要も旺盛なのだろう。カタログによると、シリーズは現在44点あり、同州内の図が36点と大多数を占める。

トロントから約200km北上すると、アルゴンキン州立公園 Algonquin Provincial Park が広がる(下注)。日本ではカナダ東部の紅葉三大名所の一つと宣伝されているが、秋のみか四季を通じて、同州の代表的なリクリエーションエリアだ。森の中に無数の湖が点在しているので、カヌーやカヤックといったパドリング愛好家にとって人気スポットになっている。

注:旅行会社のサイトによれば、三大名所のあと二つは、ケベック州のローレンシャン高原 Laurentian mountains / Laurentides とイースタンタウンシップス Eastern Townships / Cantons de l'Est。

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「アルゴンキン州立公園3」 地図の凡例
 

アドべンチャーマップも、公園のほぼ全域を5面でカバーする縮尺1:80,000の全体図と、1:25,000~1:50,000の拡大図(周辺を含む)6点という手厚い布陣で応える。地図の地勢表現は等高線のみだが、官製図と並べても遜色のない精度であるばかりか、縮尺に合わせて描かれているので、無理な拡大や縮小がなく、読みやすい。

パドラーを顧客に想定しているのは、用紙が耐水の合成紙というだけでなく、設けられた地図記号からも明白だ。堰堤、滝、早瀬といった障害物の位置が記され、湖岸のキャンプサイトが、メンテナンスのあるなしで区別される。さらに、2つの湖の間や障害物を避けるために舟を担いで歩くポーテージ portage のルートと距離も、もれなく示されている。

ちなみにこの一帯では、かつて木材輸送を担った鉄道(下注)が湖岸を縫い、入江に多数のトレッスル(木組みの橋)を架けていた。鉄道ファンとしては、バイクトレール(自転車道)として一部が残る廃線跡を図上でたどれるのも嬉しい。また、地図の裏面には、地域の概要とともに、パドリングやハイキングの推奨ルート、キャンプ、魚釣りなどアクティビティの紹介、それに熊のような野生動物や初夏に発生するブユや蚊の対策など、文字情報が満載され、旅行ガイドとしても有益だ。

*注 オタワ・アーンプライア・パリーサウンド鉄道 Ottawa, Arnprior & Parry Sound Railway として、1896年に現在の公園中心部まで開業。最終的に首都と、五大湖の一部であるジョージア湾 Georgian Bay に通じる港パリーサウンドを結んだ。

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アドべンチャーマップのテリトリーとしては従の位置づけになるが、カナディアンロッキーを対象にしたものも4点ある。「グレイシャー国立公園ロジャーズパス Rogers Pass, Glacier National Park」(右写真)を例に挙げよう。

縮尺は1:50,000で官製図と差がないように見えるが、内容ははるかに上を行っている。

一つは地勢表現だ。どちらも等高線だけで表しているが、官製デジタル図が40m間隔のところを、こちらは25m間隔に詰めて精度を高めている。また、色も通常茶色のところを、岩場は灰色、氷河は青とヨーロッパの地形図のように変化させている。この見栄えの違いは大きい。

二つ目は情報の鮮度だ。峠を越える鉄道には1988年に2本目のマクドナルド山トンネル Mt. Macdonald Tunnel が完成していて、2008年刊のこの図には当然描かれているのだが、官製図ではなんとデジタル版でも無視されている。

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ロジャーズパス図の一部
Here is a small sample section of our Rogers Pass map. All text & graphics © 2015 Chrismar Mapping Services Inc.
 

最後に、表現のていねいさにも注目したい。峠付近には氷河を見に行くトレールがいくつも伸びているが、官製図では単なる破線記号で済ませるところを、赤色でなぞり、一つずつ名称を付している。標高1314mの峠の上には初期の線路跡が残っているのだが、そこにも Abandoned Rails(廃線跡の意)の注記が打たれているのには、思わず唸った。製作者の矜持が目に浮かぶようだ。裏面は、アルゴンキンと同じような旅行の文字情報とともに、美しい山岳写真が数点配されて旅心を誘っている。

アドべンチャーマップは、大判のITMBはもとより官製図と比べても、サイズがコンパクトなことに気づく。公式サイトによれば、寸法が45×61cmを越えるものはなく、その理由は面倒な折り畳みの手間を減らすことにあるそうだ。野外の風や雨の中で使うことを想像すれば、扱いやすさもまた大きなアドバンテージということだろう。

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カナディアンロッキーの索引図
 

刊行元のサイトにもオンラインショップがあるが、残念ながらカナダとアメリカ合衆国にしか送ってくれない。各国の主要地図商でも扱っているし、筆者はカナダ、カルガリーの地図商マップタウン Map Town から取り寄せた。

■参考サイト
クリスマー社 http://www.chrismar.com/
 左メニューの Map Locator Guideに索引図、Features & Samplesに見本図、Product Listに刊行物一覧表がある。

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