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2010年9月16日 (木)

フィンランドの旅行地図

整然とした体系の地形図や道路地図とは対照的に、フィンランドの旅行地図分野は図式にしろ体裁にしろ、とてもバラエティに富んでいる。その全体像は筆者にもわからないが、カルッタ・ケスクス Karttakeskus を通して入手したいくつかの地図で、垣間見ることにしたい。

Blog_finland_touristmap1

右写真は、カルッタ・ケスクスが"Genimap"と名乗っていた時期に出されていた、首都ヘルシンキの市街図 Kaupunkikartta(2003年版)だ(右写真)。両面刷りだが、扱いやすい蛇腹折りの体裁としている。

メインは縮尺1:15,000の市街図で、すべての街路名が大きめの文字で記され、メトロやトラムのルート・停留所位置、主要施設なども入って、実用的だ。街路名索引があるので、住所から図上の位置も特定できる。さらに、中心街は、建物を斜め上空から見た形に描いた1:6,700相当の鳥瞰図が参考になる。他に、1:100,000の近郊図、トラムやメトロ、近郊列車線 lähijunalinjat の路線図も添えた念入りな構成で、市内のガイドマップとしてはなかなかの優れものと言えるだろう。説明も国際仕様で、フィンランド語、スウェーデン語、英語、独語、仏語、エストニア語、露語と、実に7か国語に対応している。残念ながら、カルッタ・ケスクスのサイトでは現在、この形式のものは扱っていないようだが、ロンドンの地図店スタンフォーズ Stanfords にはまだ残っている。

Blog_finland_touristmap2

タンペレ Tampere は首都の北北西170kmに位置する。ヘルシンキ首都圏以外では最も人口が多く、湖の水位差を利用した発電によって「フィンランドのマンチェスター」と呼ばれた工業都市だ。しかし一歩町を出れば、湖水地方の明媚な風景がどこまでも広がっている。それが地図「タンペレ周辺 Tampere ympäristöineen 1:40 000」(右写真は表紙)の主題で、より正確に言うと、タンペレ市街とその北にあるナシヤルヴィ湖 Näsijärvi 沿岸が対象だ。

地図は横82cm×縦80cm、マージンなしの両面刷りで、大胆に凡例も説明も省かれている。それだけでなく、デザインはかなり異色だ。たとえば、アップルグリーンに塗られた森の中に青の線が入り込んでいるのが見える(右写真を参照)。水路と言われても違和感はないが、実は等高線だ。さらにグレーの太い線は道路ではなく川を示し、読者の混乱に輪をかける。図郭の中央を占めるナシヤルヴィ湖にはていねいに段彩をつけた等深線が書き込まれ、モノトーン風の陸地に対して、絵画的な効果をあげている。個性的で何かしら心に残る地図だ。

Blog_finland_touristmap3

サンタクロースに会える町として日本でも知られるロヴァニエミ Rovaniemi は、フィンランド最北部、ラッピ州 Lapin lääni の中心地だ(ラッピ Lappi は英語でラップランド Lapland)。市域を北極線が横断する。この地図は、ラッピ州測量局 Lapin maanmittaustoimisto が製作したロヴァニエミのレクリエーション地図 Virkistyskarttaで、片面印刷された横112cm×縦88cmの用紙を折ってある。

地図は、縮尺1:50,000の地形図をベースに、赤色でハイキングルートや旅行情報を加刷している。旅行情報は升の中に絵をはめ込んだピクトグラムだが、中でも目につくのは、スポーツ施設でも宿泊地でもなく、クラウドベリーが採れる湿地 hillasuo の記号だ。クラウドベリー(フィンランド語でラッカ lakka あるいはヒッラ hilla。日本語でホロムイイチゴ)は野生のイチゴの一種で、同国ではユーロ硬貨に描かれるほど代表的な野草だという。また、スノーモービルのルートが、川も湖面もおかまいなしに走っているのに驚く。冬は凍結して、氷上が立派な陸の交通路になるのだ。地図自体はとりたてて特徴がないが、載せられた情報から彼の地の生活事情が伝わってくるのが興味深い。

Blog_finland_touristmap4

最後は、フィンランド東部の北カレリア県 Pohjois-Karjalan maakunta にあるコリ国立公園 Kolin kansallispuisto の旅行地図だ。美しい湖水地方の中でも、コリは眺望の素晴らしさで人気が高い。中心をなすウッコ・コリ Ukko-Koli(ウッコは翁の意。叙事詩カレワラでは「至高の神」とされる)は、頂きにある風化に耐えた石英岩の露頭から、眼下のピエリネン湖 Pielinen を見晴らす標高347m(湖面からの高さ約250m)の展望台で、国立公園の紹介写真に必ず登場する名所になっている(右の表紙写真)。作曲家シベリウスら国民主義の芸術家たちも、この地で作品のインスピレーションを得たという。

地図は「コリ、夏の旅行地図 Koli Kesämatkailukartta / Map for summer tourists」と題され、公園全域をカバーする縮尺1:50,000と、ウッコ・コリ周辺の1:20,000を両面に配している。いずれも地形図データベースをもとに、ハイキングルートや旅行情報を加えたものだ。湖岸の船着き場からウッコ・コリ、マクラ Mäkrä などいくつかのピークを結ぶ縦走路には、地点間距離と分岐点番号が細かに記され、2日間コースとなる全長40kmのヘラヤルヴィ湖周遊路 Herajärven kierros は、特に太線で強調されている。旅行情報は大きめのピクトグラムを用いて、駐車場や土産物屋から各種の宿泊場所、見どころに至るまで詳しく図示している。コンパクトに折り畳まれたこの地図は野外でも使いやすく、コリを歩く人には必携品と言えるだろう。

■参考サイト
カルッタ・ケスクス http://www.karttakeskus.fi/
同 オンラインショップ http://www.karttakauppa.fi/
  旅行地図は英語版左メニューの Maps of Finland > Outdoor maps 
コリ国立公園(outdoors.fiのサイトより)
http://www.luontoon.fi/page.asp?Section=6834

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