アイスランドの地図-M&M社のテーマ別地図
アイスランドの地図の最終回は、マゥル・オク・メンニング(言語と文化)社 Mál og menning(以下、M&M社と記す)から刊行されている各種の主題図、すなわちテーマ別地図についてぜひ記しておきたい。これらはアイスランドの自然を楽しむ旅に貴重な参考データを提供してくれるだけでなく、グラフィックの点でもすこぶる魅力的な作品群だからだ。
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(左)探鳥地図 (右)植物地図 |
まずは、自然観察のための地図として、「アイスランド探鳥地図 Fuglakort Íslands / Birdwatcher's Map of Iceland」(写真左側)、「アイスランド植物地図 Plöntukort Íslands / Botanical Map of Iceland」(同 右側)の2種がある。いずれも両面刷りで、野鳥や草花の美しい水彩画が紙面いっぱいに配され、見かけは図鑑のような構成だ。地図はというと、それぞれの種の分布域を示すために、小さな全島図が使われている。また、探鳥地図には、別に主な探鳥地(バードウォッチングサイト)をプロットした地図がある。参考までに探鳥地図の一部を右下に掲げた。内容については、裏表紙の英文による紹介を一部引用させてもらおう(以下、迷訳ご容赦)。
探鳥地図は「アイスランドの野鳥に関するわかりやすいガイド。78種の夏鳥 breeding birds、27の旅鳥 migrants、冬鳥 winter visitors および漂鳥 vagrants をカバーする。夏鳥については図版とともに、分布図、卵の大きさ・外観のイラストがある。」。また、植物地図は「78種の顕花植物 flowering plants を表示し、分布図や草丈、生育地および開花期のデータを付す。また、同国で見られる主な隠花植物 cryptogams(胞子植物 spore-bearing plants)、草類 grasses、藻類 algae、地衣類 lichens および真菌 fungi の図版を含む。」
図版の見出しはアイスランド語だが、ラテン語の学名と英・独語での呼び名も併記されている。生息地・生育地による分類(探鳥図なら海鳥、陸鳥、水鳥など、植物図なら草原、砂地、山地など)もピクトグラムにするなど、ユニバーサルデザインへの配慮がある。上記の英文コピーは、こう続いている。「(この地図は)アイスランドの自然を愛し、旅行中、アイスランドの野鳥(あるいは植物相)について知りたいと思っているすべての人にとって必携品だ」。実物を手に取ってみれば、これがあながち宣伝文句だけではないことがわかるだろう。
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(左)地質図 (右)テクトニクス地図 |
次は、地質図だ。こちらも「地質図 Jarðfræðikort / Geological map」(写真左側)と「テクトニクス地図 Höggunarkort / Tectonic map」(同 右側)の2種がある。いずれも、1998年にアイスランド自然史研究所 Náttúrufræðistofnun Íslands / Icelandic Institute of Natural History が刊行した地図の改訂版だ。
地質図とは、「ある地域内における地層や岩石の分布、地質構造や地質状態を示した地図」(広辞苑第6版)で、多くの国で製作されているが、一般的なニーズがあるものではない。ところが、アイスランドは事情が違う。大西洋中央海嶺が活発な火山列を伴って海面上に現れた島は、素人でもプレートテクトニクスを実感できる地球上でも貴重な場所だ。地質図が旅行地図と並べて販売されても、不思議ではない。
しかも、この図をデザインしたのは、例の大地図帳の作者、ハンス・H・ハンセン Hans H. Hansen 氏だ(「アイスランドの地図-M&M社の大地図帳」参照)。ベースマップのシャープさといい、パステル調で穏やかながら識別性を損なわない選色といい、ポスターにしたくなるほどの出来栄えは、彼の作と聞けば納得だろう(右写真はその一部)。この「地質図」は、片面全面に1:600,000の地質図を掲載し、裏面では地学的な注目スポットを写真つきで紹介している。地図の凡例を含めて、アイスランド語と英、独、仏語が併記されているのも親切だ。
一方の「テクトニクス地図」とは何なのか。「地質図」とどう違うのか。和訳タイトルは英語の Tectonic map を筆者が苦し紛れに直訳しただけで、内容を正確に説明してはいない。それに地図の印象や紙面の構成は、一見「地質図」と瓜二つだ。しかし、よく見ると地質の分類基準が違うようだ。「テクトニクス地図」は岩石の種類ではなく、14,000~10,000年前以降の後氷期 postglacial の溶岩流から、1,500万年以上前の中新世後期基盤岩まで、年代別7段階の区分になっている。
例を挙げれば、「地質図」では、U字谷のような氷河地形が見られる北西岸や東岸は、330万年以前の基盤岩として一まとめにされ、一面の青色だ。しかし、「テクトニクス地図」ではそのエリアがさらに形成年代によって4段階に塗り分けられる。また、活発な地殻変動を表現するために、活火山と死火山を分けてカルデラや中央火山域、亀裂、断層などの位置を示し、褶曲の背斜・向斜軸や傾斜方向を独特の記号や矢印で描いている。2種の地図はそれぞれ単独の商品だが、興味がおありなら、ぜひ一揃いと思ってお買いになるといい。
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最後は「子どものためのアイスランド地図 Íslandskort barnanna / Children's Map of Iceland」だ(右写真は表紙、右下写真はその一部)。要はイラストマップなのだが、「一番若い旅行者のニーズを念頭に置いてデザインされたもので、アイスランドで美しい自然が見られる主な場所、動物たち、そして9世紀の入植から今日までの史跡を表示している」(地図の紹介文より)。島の輪郭や地勢表現は鳥瞰図風だが、その中に人、動物、乗り物、建物その他が所狭しと描き込んである。これは眺めるだけでも楽しい。さらに、絵に添えられた番号に対応する説明書きがあり、裏面に英訳もついているので、子どもたちといっしょに、私たちもアイスランドの地理と歴史の勉強に参加できる。
おまけに、イラストも説明もユーモアたっぷりだ。たとえば、絵の中で大噴火を起こしているヘックラ山 Hekla の説明には、「アイスランドで一番 famous(有名な)あるいは infamous(悪名高い)な山」とある。スナイフェルスヨークトル氷河 Snæfellsjökull の絵には「ようこそ」と看板が立っていて、「謎めいたこの氷河こそUFOの着陸地だと、多くの人は信じている」と解説されている。読めば大人も時を忘れてしまいそうな地図は、アイスランド土産にお薦めだ。
■参考サイト
マゥル・オク・メンニング(M&M)社 http://www.forlagid.is/
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