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2010年7月 8日 (木)

スウェーデンの鉄道地図 I

スウェーデンの列車時刻表 Tågtider には、実にさまざまな運行事業者の名が上がっている。旧 国鉄の SJ(下注)は、幹線の優等列車でこそまだ幅を利かせているものの、多くの地方路線や、幹線でも各停列車ではもはや影が薄い。SJの公式サイトによれば、同国の旅客鉄道輸送に占めるSJの比率は4割(2005年)まで低下しているそうだ。

*注 SJの名は、もと Statens Järnvägar(スウェーデン国鉄)の略称だったが、現在の会社はSJ ABが正式名称(ABは Aktiebolag の略で株式会社の意)。SJ はスウェーデン語でエスイーと発音する。

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ストックホルムの南鉄橋を行く列車
Photo by Tim Adams at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0
 

スウェーデンの鉄道網は1988年に上下分離が実施されて、それまで公共企業体であった国鉄は、インフラを管理する鉄道庁 Banverket と、列車を運行する政府出資の国鉄株式会社の二元体制となった。後者はさらに2001年に事業別に6社に分割されたため、現在のSJ ABの事業は、旅客列車の運行に特化されている。また、鉄道庁は、今年(2010年)4月1日に道路庁と統合されて、交通庁 Trafikverket(英語名 Swedish Transport Administration)に衣替えした。

■参考サイト
SJ http://www.sj.se/
交通庁 http://www.trafikverket.se/

今回はスウェーデンの鉄道地図のうち、印刷物で流通しているものを紹介しよう(ウェブ版は次回)。

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ヨーロッパ鉄道地図帳
北欧編表紙
 

1つ目は、ノルウェーの項でも紹介した M. G. Ball 氏の「ヨーロッパ鉄道地図帳 European Railway Atlas」だ。北欧諸国 Nordic Region 編(右写真)には、市内交通を除くスウェーデンの鉄道全線と主要駅が図示されている。各地の保存鉄道や、ボトニア鉄道 Botniabanan(下注)のような建設中の新線も記載されている。同国の鉄道路線は西部本線 Västra stambanan、ダーラナ鉄道 Dalabanan といった路線名称を持っているが、それもすべて明示してあるので、重宝な参考資料だ。

*注 ボトニア Botnia は英語でいうボスニア Bothnia。内陸経由の現行幹線に対してボスニア湾岸を走る高速新線で、ニーランド Nyland ~ウーメオ Umeå 間185km。今年(2010年)8月全通予定。さらに北へルーレオ Luleå まで延伸する北ボトニア鉄道 Norrbotniabanan の構想もある。なお、本稿では...banan を「~鉄道」と直訳したが、現地では日本でいう「~線」の意味で使われている。

■参考サイト
M. G. Ballのヨーロッパ鉄道地図帳 http://www.europeanrailwayatlas.com/

★本ブログ内の関連記事
 ヨーロッパの鉄道地図 I-M.G.Ball地図帳

2つ目は、表紙に(旧)鉄道庁のロゴが入った「鉄道地図 Järnvägskarta」だ(右写真は折図の表紙部分。右下写真は全体)。横55.5×縦98cmの大判用紙を使い、縮尺は1:1,700,000(170万分の1)。水部(川、湖)と行政界、それに薄く主要道路網を描いたベースマップの上に、スウェーデン国内の鉄道路線網を表示している。表記はスウェーデン語のみ。

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「鉄道地図」表紙
 

インフラ管理の視点から作成されたものなので、路線の分類基準は、管理者と重要度(幹線、支線)だ。まず、管理者は色で区別する。鉄道庁所管の路線は赤、鉱石鉄道 Malmbanan(キルナ Kiruna を通る産業路線)は緑、内陸鉄道 Inlandsbanan は青紫、その他の私鉄は藤色だ。

また、重要度については、幹線網 Stomnät を線路数(単線、複線、それ以上)で分け、支線は県の鉄道 Länsjärnväg と、その他の鉄道 Övrig järnväg に分ける。時刻表と照合すると、旅客列車が走っているのはおおむね県の鉄道までで、その他とされた路線は貨物のみか休止中のようだ。

駅はおおむね全駅掲載で、その点で M.G.Ball地図帳と一線を画している。ただし、密度が高い首都ストックホルム近郊などはもはや描写の限界に近く、たとえば、北郊へ行く狭軌私鉄ロースラーゲン鉄道 Roslagsbanan などは、幹線優先のあおりを受けて主要駅のみの記載にとどまる。また、電化 elektrifierade と自動閉塞化 fjärrblockerade の範囲については、余白に略図が用意されている。

この地図は1999年の刊行だが、その後改訂版は出ておらず、鉄道書を手広く扱うストックホルムのステンヴァルス書店 Stenvalls などから今でも入手できる。

■参考サイト
ステンヴァルス(ショッピングサイト) http://www.stenvalls.com/shop/
 鉄道地図は Järnvägar > kartor。サイトの表記はスウェーデン語だが、外国へも発送してくれる。上記サイトは発注画面のみ。発注するとeメールで見積が来る。

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同 全体
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同 一部を拡大
© 2010 LIBER AB, Stockholm
 

3つ目は、「スウェーデンの鉄道 Sveriges Järnvägar」と題した壁掛け地図 väggkarta だ(右写真はタイトル部分)。地形図や旅行地図などを販売するカートブティケン Kartbutiken のサイトにあり、似た体裁の行政区分図などと同列の企画商品らしい。サイズは横50×縦82.5cm、縮尺は1:2,000,000(200万分の1)だ。

鉄道庁地図の後継図かと少し期待して購入したが、現存路線と計画線(=ボトニア鉄道)、主要駅、主要道路を淡々と描いてあるだけで、路線の形態分類もなく、資料価値は低かった。保存鉄道と鉄道博物館の記号が図示され、余白に所在地と電話番号のリストが載っているのが唯一の特色だ。2007年の刊行だが、カートファラーゲット Kartförlaget の組織もすでになく、在庫限りで消えてしまいそうだ。

■参考サイト
カートブティーケン http://www.kartbutiken.se/

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「スウェーデンの鉄道」表題部分
Blog_sweden_railmap2_detail
同 地図の一部
© 2010 Kartförlaget

最後に、時刻表 Tågtider の添付地図について触れておきたい。

先述のように、スウェーデンではオープンアクセス政策の徹底によって、さまざまな事業者が列車を運行するようになった。これで効率性やサービスの向上が図られればいいが、会社ごとに発券や予約のシステムが異なると、かえって利用者離れを招きかねない。

そこで考え出されたのが、SJをはじめ運行事業者や地方自治体が出資したスウェーデン共同輸送株式会社 Samtrafiken i Sverige AB によって運営される、「通し」乗車券、一括予約のシステム"Resplus"だ(Res は「旅の」を意味する。plus は英語からの借用)。Resplus のチケットは、運行事業者が複数あっても目的地まで1枚で発行され、たとえば乗っていた列車が遅れて接続便に間に合わなかったときは、次の便への乗車を保証している。

時刻表の編集も同社のミッションの一環だ。路線別時刻表の最上段には、イギリスのように、運行事業者の略号が付されている。これはウェブ上で提供されるとともに、冊子が年2回(夏版、冬版)刊行される。スウェーデンの鉄道時刻表といえば、もっぱらこれを指す。

添付の索引地図は、水部と山岳、行政区分を描いた縮尺1:4,500,000(450万分の1)程度のベースマップに、旅客営業している路線と主要駅、時刻表番号を記載したものだ。鉄道庁の地図と併せて見れば、同国の鉄道網への理解がさらに進むだろう。この地図もウェブで閲覧できる。

■参考サイト
Resrobot 時刻表地図、路線別時刻表
https://tagtidtabeller.resrobot.se/
 SJの路線図、時刻表がPDFファイルでダウンロードできる。

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時刻表索引地図の一部
© 2010 Samtrafiken i Sverige
 

★本ブログ内の関連記事
 スウェーデンの鉄道地図 II-ウェブ版

近隣諸国の鉄道地図については、以下を参照。
 デンマークの鉄道地図
 ノルウェーの鉄道地図
 フィンランドの鉄道地図

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コメント

ブログをご訪問くださりありがとうございます。
お尋ねの、Stenvalls書店への支払方法の件ですが、なにぶん最後に購入したのが10年も前ですが、当時は以下のとおりでした。

サイトで発注すると、メールで見積書が送られてきます。そこにはこう書かれていました。
「あなたのクレジットカード番号と有効期限をFAXしてください。もしくは2本のメールに分けて送ってください(クレジット番号をメールした後、有効期限を別のメールで送るの意)」

私は前者の方法を使い、見積書を印刷し空欄に上記事項を手書きしてFAXしました。セキュリティに不安はありますが、無事に購入できています。

古い記事へのコメント申し訳ありません。
スウェーデンの鉄道の本を入手する方法を探しており、この記事でステンヴァルス書店を知りました。
目的の本はあったのですが、Stenvallsのサイトを翻訳しても決済方法が分かりませんでした。
どのような方法で支払いをされたのかお教えいただけませんでしょうか。
よろしくお願いいたします。

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