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2010年7月 1日 (木)

スウェーデンの道路・旅行地図と地形図地図帳

今回は、カートファラーゲット Kartförlaget というブランドをもつ地図について取り上げよう。Kartförlaget は英語なら The map publisher(地図の出版者)だ。スウェーデンの旅行地図や道路地図の主要な刊行元として知られていた。ロゴマークの下部に書き添えられているとおり、実体は「国土測量庁(ラントメーテリエット)の一部門 ingår I Lantmäteriet」だった。基本的な地形図は国土測量庁の名義で出し、実用的な地図はカートファラーゲットと、看板を使い分けていたのだ。

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スウェーデン/ノルウェー国境のフィヨルドをまたぐ
新旧のスヴィーネスンド橋 Svinesundsbron
Photo by Tommy Gildseth at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

過去形で紹介したのには訳がある。民営化の一環で、販売部門のカートブティーケン Kartbutiken とともに、2008年9月をもって大手出版グループのノーシュテッツ Norstedts Förlagsgrupps に譲渡されてしまったからだ。

いったんはブランド名も、イェヴレ Gävle にある拠点の建物や従業員も引き継がれた。しかし、出版不況の影響を受けて、今年(2010年)1月、故地を完全撤収し、事業はノーシュテッツの本社があるストックホルムに集約されたと伝えられる。その証拠に、かつて地図表紙の下部にあったカートファラーゲットのマークは、新刊からノーシュテッツのオリジナルロゴに置き換えられている。

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「道路・旅行地図」表紙
(左)2005年版
(右)2020年版(カートブティーケンの販売サイトから)
 

今のところ、国営時代に築かれた地図のラインナップに変化はない。代表的なシリーズである「道路・旅行地図 Bil- och turistkartan」も健在だ。これはスウェーデン全土を6面でカバーする区分図で、日本のJAF(日本自動車連盟)に相当するスウェーデンの全国運転者協会 Motormännens Riksförbund とのタイアップで刊行されてきた。表紙の上部にある3個の王冠と大文字のMは協会のマークにほかならない。

【追記 2020.5.29】
全国運転者協会は、2019年5月にM・スウェーデン協会 Riksförbundet M Sverige に改称した。通常、エム・スヴェーリエ(スウェーデン)M Sverige と呼ばれる。区分図の「道路・旅行地図 Bil- och turistkartan」もノーシュテッツ社で刊行が継続されている。

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「道路・旅行地図」索引図
 

縮尺は南部の図葉が1:250,000、人口密度の低い北部は1:400,000だ。1:250,000は官製地形図のシリーズと競合するように見えるが、官製は同じ南半分を揃えるのに10面必要で、1面当り103.50クローナ(カートブティーケンの表示価格。1クローナ12円として1,242円)、片や道路・旅行地図は南半分なら4面で済み、かつ1面75.50クローナ(同906円)で、後者のほうがかなりお徳だ。面数が少ないのはそれだけ図郭が大きいからで、横100×縦138cmの大判用紙を折畳み、厚紙の表紙をつけている。

図式の点で官製図と大きく異なるのは、等高線やぼかし(陰影)といった地勢表現が省かれていることだ。土地利用景は市街地、森林、裸地(耕地・空地)、湿地、氷河と塗り分けられているが、森林と裸地は類似色のため判別しにくく、全体として、面的表現は平板だ。

一方、道路記号は主要道を除き、くくり(縁取り)のないシンプルな赤の実線にして、線幅で重要度を示している。鉄道は官製図に採用されている旗竿式ではなく、実線に短線を交差させた日本でいう私鉄記号にしている。

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「道路・旅行地図」の一部
© 2010 Norstedts
 

明らかに官製のデータベースを使いながら、図式をこのように変更しているのは、道路地図という特性に合うデザインを追求した結果だろう。確かに、この目的では地勢表現は雰囲気づくりの小道具に過ぎず、それよりも道路網や居住地が明瞭に識別できることを優先しているのだ。区間距離の表示が円の中に数字という無骨なものだったり、旅行情報の色を水部と同じ青にしたため目立たなかったりと、もう一工夫ほしいところはあるが、わかりやすさ、手ごろな価格といった大衆性の点でお薦めできるシリーズといえる。

このほかに、地域を小範囲に特定した旅行地図が各種ある。ストックホルム県 Stockholms län をはじめ、スコーネ地方と東シェラン(デンマーク)Skåne med Östra Sjælland、ゴットランド島 Gotland、エーランド島 Ölandなどだ。縮尺1:100,000~1:150,000と拡大されるが、図式に大きな違いはない。いずれも両面刷りで、裏面に中心市街図や見どころなど旅行情報が掲載されている。

「運転者のスウェーデン道路地図帳 Motormännens Sverige Vägatlas」(現 エム・スウェーデン道路地図帳 M Sverige Vägatlas」)も、カートファラーゲット時代からある刊行物で、「運転者の(モートルメンネンス)Motormännens」という旧タイトルは例の協会のことを指している。

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「エム・スウェーデン道路地図帳」表紙
 

メインの地図は、「道路・旅行地図 Bil- och turiskarta」と同じ内容だが、そのほかに地勢を段彩で表現した北欧全図と、国内50都市の市街図、それに地名索引もついて、全290ページほどある。これで225クローナ(同2,700円)なので、もしスウェーデン全土の道路網を見たいのなら、区分図をこつこつ揃えるよりもさらにお徳だ。

ちなみに筆者が愛用しているのはこれのワイド版で、2003年に刊行された「国土測量庁スウェーデン大地図帳 Lantmäteriets Stora Sverigeatlas」と称する地図帳だ(下写真)。「運転者」が横20×縦29cmでほぼA4判なのに対して、こちらは横29.5×縦38.5cmとA3判に近い。大型本は確かにかさばるのだが、その反面、広範囲を一望できるという紙地図の長所が生きてくる。

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「国土測量庁スウェーデン大地図帳」表紙
 

メイン図の縮尺は同じ、市街図の収録数も同じ50都市だ。しかし、ワイド版限定の特色がある。一つは、メイン図に25m間隔(1:400,000図は50m間隔)の等高線が入っていることだ。これは、区分図の「概観図 Översiktskartan」(旧 レッドマップ)シリーズと同じもので、道路網はやや識別しにくくなるものの、周氷河地形の複雑な地勢がよくわかる。

二つ目は国内50の都市について、市街図とは別に近郊図がつけられていることだ。内容は1:50,000「地形図 Terrängkartan」(一部は1:100,000)そのもので、実質的な地形図集だ。これが各都市1ページ、大都市は見開き2ページに展開されており、大判ならではの豊富な情報量を提供してくれる。

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「国土測量庁スウェーデン大地図帳」のサンプル図
(裏表紙の一部)
 

このようにワイド版は、「運転者」に比べて地形図の要素がふんだんに盛り込まれ、地形図ファンを歓喜させる地図帳だったのだが、その後更新はなく、惜しくも一時の企画に終わったようだ。刊行元のカートファラーゲットが消滅した今となっては、復刊に期待するのも虚しい。

【追記 2020.5.29】
その後、同じフォーマットで、近郊図(1:50,000)を省いた「私たちのスウェーデン大地図帳 Vår stora Sverigeatlas」がノーシュテッツ社から刊行され、数次の改訂もされている。

■参考サイト
カートブティーケン http://www.kartbutiken.se/
ノーシュテッツ社 http://www.norstedts.se/

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