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2010年6月17日 (木)

スウェーデンの地形図

スカンジナビア半島の東側を占めるスウェーデンは、面積、人口とも北欧諸国では最大だ。穀倉地帯である最南部のスコーネ県 Skåne län を別にすれば、森の中に大小無数の湖が点在する氷河期由来の地形がどこまでも続いている。日本の1.2倍ほどあるこの国土を、多様な地形図群がカバーしている。

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1:50,000「地形図」の例
3F NO/SO Karlskrona 2003年
 

国の測量機関は、ラントメーテリエト Lantmäteriet(以下「国土測量庁」と訳す)と呼ばれる。デンマークの後を追うようにして、ここも2018年6月限りで紙地図(印刷図)の製作を廃止した。以来、地形図データの提供は、閲覧およびダウンロードが可能なウェブサイトに集約されている。

ただし、デンマークと異なるのは、紙地図が市場から姿を消したのではないことだ。以前から販売を代行していたノーシュテッツ Norstedts 社が、国土測量庁の地形図データを使用して自社企画としての刊行を拡大しており、品揃えは若干変化しているものの、従来式の紙地図もまだ入手できる。

スウェーデンの近代測量は、1805年に陸軍が設置した測量隊 Fältmätningskåren、後の地形隊 Topografiska kåren の手で進められた。この成果をもとに「地形隊地図 Topografiska kårens karta」が編集され、1827年に最初の図葉が完成している。軍用図のため、当初は機密扱いで、公刊されるのは1859年以降だ。

1873年の組織改革で参謀本部地形局 Generalstabens topografiska avdelning の所管となったことから、地図にはその後「参謀本部地図 Generalstabskartan(下注)」の名が定着していく。縮尺は南部および北部沿岸で1:100,000、人口の希薄な北部内陸では1:200,000で、精緻なケバを駆使して地勢が表現されている。水部に青色にした2色刷だが、後に、道路網と行政界を強調するために赤色を加刷した3色刷も作られている。このシリーズは1923年に全国をカバーし、改訂を重ねながら1979年まで流通した。

*注 正式名は「スウェーデンの参謀本部地図 Generalstabens karta över Sverige」(単数形の場合)。

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1:100,000参謀本部地図の例
98 Gävle 1937年
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1:200,000参謀本部地図の例
山地は高度が読み取れる等高線で描写
65 Dufed 1902年
 

一方、中~大縮尺図として利用できるものに、「郡経済地図 Häradsekonomiska kartan」があった。縮尺は南部で1:20,000、北部では1:50,000で(下注)、1859年に作成が開始された。これは軍用図ではなく、徴税に必要な地籍管理を目的とするものだった。そのため、作成していたのは経済地図製作所 Ekonomiska kartverket という文民機関で、作成範囲も比較的土地利用が進んだ地域に限られている。

*注 初期は南部も1:50,000で作られたが、1911年から1:20,000に変更された。

1935年からは、縮尺を南部1:10,000、北部1:20,000に拡大し、名称も「経済地図 Ekonomiska kartan(下注)」とされた。ベースに航空写真を用いたいわゆる写真図で、緑に着色した写真の上に、農地を黄色で塗るという、当時としては斬新なスタイルの地図だ。

*注 正式名称は「スウェーデンの経済地図 Ekonomisk karta över Sverige」(単数形)。

このようにかつて地形図は2系統あったのだが、1894年に参謀本部地形局と経済地図製作所が統合され、総合地図製作所 Rikets allmänna kartverk (RAK) が設置されたことで、所管の一本化が図られた(下注)。

*注 総合地図製作所は設立時、軍の指揮下にあったが、1937年に文民機関に変更。

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1:10,000経済地図の例
10H 1a Malmköping 1957年
 

現在の国土測量庁は、これに地籍管理部門を統合した新組織として、1974年にイェヴレ Gävle で設立されている。原語のラントメーテリエトは長らく通称だったが(下注)、2008年9月1日に21の地方測量局と統合されたときに、機関の正式名称となった。

*注 正式名称はラントメーテリヴァイケト Lantmäteriverket と言った。verket は英語の (the) work に当たる。

冒頭に述べたように、国土測量庁はすでに紙地図の刊行から撤退しているが、ここではそれまでの間提供されていた地形図体系を概観しておこう。

地形図は、縮尺別のシリーズごとにブランド名がつけられていた。当初はフランスのように表紙の色名が使われたが、1999年から用途に即した名称になった。以下、矢印の左側が旧称(ただし和訳は英語名称を転写)、右側が1999年以降の新称だ。

1:12,500 イエローマップ Gula kartan および 経済地図 Ekonomiska kartan → 土地区画図 Fastighetskartan
1:50 000 グリーンマップ Gröna kartan → 地形図 Terrängkartan
1:100,000および1:50,000山岳地図 Fjällkartan(愛称の変更なし、次回詳述)
1:100,000 ブルーマップ Blå kartan → 道路地図 Vägkartan
1:250,000 レッドマップ Röda kartan → 概観図 Översiktskartan

1:12,500 土地区画図 Fastighetskartan

最も大縮尺の1:12,500「土地区画図 Fastighetskartan」は、地籍図 Registerkartan の機能を備えた地図だ。1:10,000の旧「経済地図」や、それを1/2に縮小した1:20,000「イエローマップ Gula kartan」(1983~95年)を置き換える形で、2000年に導入された。全土を9,807面でカバーし、印刷図は完全受注生産だった。現行のデジタルラスタ地図では、1:5,000~1:20,000のレベルで表示される地図が、この名で呼ばれている。

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1:20,000イエローマップ
(1993年地図カタログより)
 

1:50,000 地形図 Terrängkartan

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1:50,000「スウェーデンの地形図」表紙
 

1:50,000「地形図 Terrängkartan」(下注)は、1:25,000図が存在しないスウェーデンで、店頭に常備される最大縮尺だ。Terrängkartan(テレングカータン)は英語の Terrain maps に当たるので、本稿では直訳で「地形図」としている(下注)。

*注 学術用語としての地形図は、Topografiska kartan(英語の Topographic maps)。

このシリーズのルーツは、旧式の参謀本部地図を置き換えるために、1954年から刊行が開始された「スウェーデンの地形図 Topografiska karta över Sverige」(下注)だ。2色刷の地味な参謀本部地図に対して、等高線に茶色、森林に緑を使った4色刷で、「四色地図 Fyrfärgskartan」の愛称もあった。刊行は1979年に完了している。

*注 基本縮尺は1:50,000だが、ノールランド内陸部では1:100,000の「山野地図 Fältkarta」バージョン(後の「山岳地図 Fjällkartan」シリーズ)として作られた。

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1:50,000「スウェーデンの地形図」の例
10H SO Strängnäs 1970年
 

1985年に、各シリーズにブランド名が付されたとき、1:50,000は緑色の表紙で「グリーンマップ Gröna kartan」とされた。

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1:50,000地形図表紙
(左)「グリーンマップ」シリーズ(1985年~)
(中)「地形図」シリーズ(1999年~)
(右)「地形図」図郭拡大版(2008年~)
 

地勢表現は等高線のみだが、間隔は低地5m、高地10mと、この縮尺としては高い精度をもつ。日本の20m間隔の等高線を見慣れた目には、相当な急傾斜地のように映るだろう。

図式は、少なくとも2回の大きな改訂を経験している。3代の図式を同じイェーテボリ Göteborg 旧市街周辺のエリアで比べてみた(下図参照)。左の図が最初の図式によるもので、スクライブ製図の時代にふさわしく、市街地をハッチ(並行斜線)で総描し、道路は二条線の線幅で描き分けている。

中央は、1980年代初めの T4改訂版で採用された図式だ。機械描画に適応させるべく、市街地は均一なアミ掛けにされ、道路は真位置に細い実線を描き、茶色の線で縁取りする独特のデザインになった。

右は、1988年の T5改訂版(図右)だ。色版が4色から6色に増えたことに伴い、特に土地利用景に係る表現が細分化された。市街地は中心街、高層、低層住宅地と3段階の色の濃淡で区分され、湿原には冠水するか否かの区別がある。また、先の図式で太線+短線交差式に置き換えられた鉄道の記号が、再び旗竿式に戻されているのも注目される。

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図式の変遷
7BSV Göteborg
(左)1967年(中)1992年(右)2003年
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1:50,000「地形図」凡例の一部
 

2008年に、すべてのシリーズで、図郭の拡張とそれに伴う印刷形式の見直しが行われた。1:50,000では、図郭が旧来の横25km×縦25kmから、37.5km×40kmに広げられた。その上で、これを上下2分割して、両面刷りとしている。地図のマージンには隣接図の一部が薄く刷られ、接続する内容がわかるように配慮された。

1面当たりの収録範囲は拡大したが、用紙は逆にコンパクト化されたため、広げたときに場所を取らない。また、Pretex という耐水合成紙が採用され、印刷方式も、オフセットから少量生産に適したデジタル式(レーザープリンター)に変更された。

1:50,000の場合、新版は全244面で、旧図郭の619面(下注)に比べて6割も減少した。付番方式も変わり、数字と英字に方位を組み合わせた複雑な旧図番(例:2D SV)から、501を初期値とするシンプルな通し番号に置換えられた。なお、「地形図」シリーズは全国シリーズではあるものの、最後まで全土をカバーすることはなく、内陸の最北部では作成されなかった。

*注 イェムトランド Jämtland の山間部(「山岳バージョン Fjällversion」として作成)とゴットランド島 Gotland では、上記とは別に図郭変更(横37.5km×縦25kmに拡大)が先行しており、それを加味した面数。「山岳バージョン」は、2005~08年に1:50,000「山岳地図 Fjällkartan」に置き換えられたため、新版の面数から除外されている。

1:100,000 道路地図 Vägkartan

1:100,000「道路地図 Vägkartan」は青色の表紙で、旧名「ブルーマップ Blå kartan」だ。刊行は1985年に始まり、全土を156面でカバーした。基本的な図郭サイズは、刊行が先行した北部で、1:50,000の4面分に当たる横50km×縦50kmだが、中・南部では横に1.5倍拡張して75km×50kmとされた。

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1:100,000地形図表紙
(左)「道路地図」シリーズ
(右)「道路地図」図郭拡大版
 

原語の Vägkartan は英訳すれば Road Map(道路地図)だが、この名称はいささか誤解を招くかもしれない。というのも、一般ユーザーが道路地図に期待する地点間距離、ガソリンスタンド、駐車場などの情報は見当たらず、道路番号も幹線道路にしか付されていないからだ。

一方、等高線間隔は低地10m、高地20mで、地形図の要素は万全だ。その上、他のシリーズ以上に主要道路網や、それと市街地との関係はしっかり読み取れる。要するにこれは、道路地図の要素をもった地形図というべきものだ。

特徴の一つは道路区分だ。国道 Riksväg は青、それ以外は赤茶色と、明確に分けられている。加えて、自転車道が緑の実線で、車道に並行する区間でも道路記号の横に律儀に沿わせてある。

もう一つの特徴は、土地利用の配色だ。市街地のオレンジ、オープンランド(野原や畑)のクリームイエローはともかく、森林に、緑ではなくごく薄いクリームイエローが使われている(下図参照)。そのため国土を覆う広大な森林地帯も、図上では不毛の原野と見間違えるのだが、これが道路網を浮かび上がらせる効果を上げている。

1:100,000も、1:50,000と同じタイミングで2008年に図郭拡大と両面印刷化が実施された。その結果、図郭は横75km×縦80kmとなった。新図郭のシリーズは79面で、山岳地図の刊行エリア(北中部の山岳地帯)を除く全国をカバーした。

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1:100,000「道路地図」の例
102 Karlstad 2001年
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同 ノールランド内陸部
赤紫は湿原、青は冠水しがちな湿原を表す
173 Gällivare 2009年
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1:100,000「道路地図」凡例の一部
 

1:250,000 概観図 Översiktskartan

1:250,000「概観図 Översiktskartan」は赤表紙で、旧名「レッドマップ Röda kartan」だ。全土を21~23面(下注)でカバーするが、図番10のストックホルム Stockholm は、首都とその周辺を集成した特別図葉で、他の図葉と100%重複している。図郭は中・南部で横200km×縦150kmだが、北部では横270km×縦200kmの拡大版だ。

*注 「レッドマップ」時代は23面だが、「概観図」への切り替えの際に図郭が再設定され、21面になった。

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1:250,000地形図表紙
(左)「概観図」シリーズ
(右)「概観図」図郭拡大版
 

地勢表現は等高線とともに、ぼかし(陰影)を併用している。等高線間隔は、標高600m以下で25m、それ以上の高度では50mだ。高度モデルから生成されたぼかしは、微地形がよく捉えられており、等高線の精度を補っている。基本的な地形図の要素を保持しながらも、1面に広範囲が収まり、文字通り地域を概観するのに手ごろな地形図だ。

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1:250,000「概観図」の例
262 Sundsvall 2009年
 

このほか、1980~90年代には、全土を5面でカバーする1:500,000、全土1面で、ポスター形式の1:1,000,000(100万分の1)「スウェーデンSverige」、さらに北欧諸国(フィンランド、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、アイスランド、バルト三国)を1面に収めた1:2,000,000(200万分の1)「北欧 Norden」なども刊行されていた。

紙地図廃止に先立ち、2015年から1:50,000とそれより小縮尺の地形図は、オープンデータとして公開されるようになった。専用サイトが構築され、参謀本部地図などの旧版図を含めて、閲覧やダウンロードが可能になっている(下注)。これに対して、オルソフォトと土地区画図のような大縮尺の地理データは、閲覧できるものの、再利用については有償だ。

*注 閲覧サイトについては、「地形図を見るサイト-スウェーデン」で詳述している。

なお、2020年5月現在、廃止図の在庫品がまだ販売されており、ノーシュテッツ Norstedts 社が刊行する地形図(実質的な後継品である印刷図)とともに、かつて国土測量庁の販売部門だったカートブティーケン Kartbutiken で取扱っている。

次回は、ノルウェーとの国境沿いの山岳地帯をカバーしている「山岳地図」シリーズについて紹介する。

(2020年5月21日全面改稿)

■参考サイト
国土測量庁 http://www.lantmateriet.se/
カートブティーケン http://www.kartbutiken.se/

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