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2010年4月29日 (木)

スヴァールバル諸島の地形図

スヴァールバル諸島 Svalbard は北極海に浮かぶ世界最北の陸地の一つで、北端は北緯80度50分に達する。主な島は大きい順に、スピッツベルゲン島(ノルウェー語ではスピッツバルゲン Spitsbergen)、北東島(同 ノールアウストランネ Nordaustlandet)、エッジ島(同 エドゲオイヤ Edgeøya)などだ。

高緯度にあるため、メルカトル図法で描いた世界地図では巨大な姿をしているが、実際の総面積は、日本の四国地方と九州地方(沖縄を除く)を足したものに近い61,000平方kmだ。

■参考サイト
Wikimedia - スヴァールバル諸島全図
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Topographic_map_of_Svalbard.svg

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スヴァールバル諸島の概略位置
 

諸島はすでに17世紀には捕鯨基地として使われていたが、長らくどの国にも属していなかった。ノルウェーの主権が確定したのは、1920年に調印されたスヴァールバル条約による。同時に条約では、締結国の国民もノルウェー国民と等しく経済活動に従事する権利を持つことや、軍事利用の禁止など、主権の行使に一定の制約が課せられた。

おそらくそのことが影響しているのだろう。諸島の地形図、地質図の作成業務は、本土の官製地図の作成元であるノルウェー地図局 Statens Kartverk (Kartverket) ではなく、トロムソ Tromsø に本拠を置くノルウェー極地研究所 Norsk Polarinstitutt が担っている。

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ノルウェー極地研究所による
ロングイェールビーン Longyearbyen 周辺の3D俯瞰図
 

研究所は、気候変動、環境汚染、生物調査など同国における極地研究の中心的機関だ。スピッツベルゲン島のニーオーレスン Ny-Ålesund にも調査基地を置くとはいえ、なぜ国の測量業務まで代行しているのだろうか。

それは、研究所の起源に関わりがある。現在の名称となったのは、業務範囲に南極(同国が領有を主張していたドロンニング・モード・ラン Dronning Maud Land)が加えられた1948年だが、それ以前は、ノルウェー スヴァールバル・北極海研究調査所 Norges Svalbard- og Ishavsundersøkelser (NSIU) と称した。そもそも北極圏の地図・海図作成と地質調査を目的とする組織だったのだ。

研究所の公式サイトで、スヴァールバル諸島の地理的特徴を紹介している。それによると、諸島は地表の6割までが氷で覆われていて、植生のあるのは1割に満たない。永久凍土の深さは450mに達し、夏も表面から最大1mが融けるだけだ。

しかしこれでも、気候は同緯度にある他の地域より温和だという。その理由は、暖流の北大西洋海流が北上してきているからで、スピッツベルゲン島の西側のフィヨルドは、冬でもかなりの期間結氷しない。そのため、調査基地を別とすれば、集落はこの地域にのみ立地している。とはいっても、1年のうち白夜4か月、極夜4か月という、暮らすには極めて厳しい条件の土地だ。総人口は2600人程度にとどまる。

そのスヴァールバル諸島の地形測量は、19世紀末に着手されている。鉱物資源調査の目的もあって、1928年にNSIUが設立されるまでに、かなりの部分で地図作成が進んでいた。1936年には地上写真測量が導入され、1960年代以降は空中写真測量がそれに代わった。氷床・氷河や無人の小島も含めて全域で地形図が整備されており、図化のクオリティも高い。

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初期の1:100,000地形図
C9 Adventdalen 1950年版
 

では、極地研究所が刊行しているスヴァールバル諸島の地形図・旅行地図を紹介していこう。

諸島を1面に収める縮尺は、1:2,000,000(200万分の1)と、1:1,000,000(100万分の1、下注)だ。「概観図 Oversiktskart」と称し、後者でも、地図部分のサイズはおよそ横49cm×縦57cmで、広げて概観するのに適当な大きさだ。注記の大半が自然地名なので、凡例には、ノルウェー語の~山、~氷河などいわゆる総称詞の部分を英訳した用語解が付される。

*注 諸島と本土の中間にある離島ベアー島(ノルウェー語でビョルノイヤ Bjørnøya)は挿図。

また、同じ縮尺1:1,000,000で、余白に風景写真を多数配置した「旅行地図 Turistkart」も刊行されている。

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1:1,000,000
(左)地形図2009年版の表紙部分
(右)旅行地図2004年版 表紙
 

1:1,000,000では、200m間隔の等高線とぼかし(陰影)の併用で、地勢が表現される。緩傾斜地にはベージュ色、山地はコルク、氷河の等高線は青が充てられ、地味ながら、細部まで美しい。海域には等深線も描かれている。スピッツベルゲンの名は尖った山々を意味するが、この図からも、名付け親であるオランダの探検家が目撃したような、氷河の上に黒々とそそりたつ岩峰の群れを想像することができるだろう。

ここに掲げたのは2004年版だが、最新版が2019年に刊行されている。

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1:1,000,000地形図の一部
 

次に大きい縮尺は1:500,000だ。全4面のシリーズだったが、1979~87年の刊行後は増刷のみで、内容の改訂が行われないままとなった。これを事実上置き換えたのが1:250,000で、縮尺は2倍大ながら、大判用紙を使うことにより、わずか5面で全域をカバーした。地勢は100m間隔の等高線とぼかしで表現されている。最新刊は2010年。

この縮尺であれば、地勢を大掴みすることと、地形をある程度詳しく知ることの両方が叶う。たとえば、全体を眺めると、西から東に行くに従って氷河の占める面積が拡大しているので、両岸の気候の違いが推測できる。細部に目を凝らせば、モレーンが堆積するさまや、歌舞伎で投げられる蜘蛛の糸のように扇状地を流れ下る無数の水流など、自然のさまざまな造形が読み取れる。もちろん、集落、道路、鉱山、灯台など人工物も明瞭に描かれているが、図全体からすれば実にささやかなものだ(画像はないので、下掲の1:200,000旅行地図を参照されたい)。

先述のとおり、諸島のかなめに位置するスピッツベルゲン島だが、中でも人口が集中しているのは、ノルデンショルド・ラン Nordenskiöld Land と呼ばれる半島にある2つの町、行政の中心ロングイェールビーン Longyearbyen と、ロシア人の鉱山町バレンツブルグ Barentsburg だ。それで、地形図シリーズとは別に、この地域に焦点を絞った旅行地図 Turkart が2点刊行されている。

一つは、半島全域を範囲とする旅行地図「ノルデンショルド・ラン Nordenskiöld Land」だ。縮尺は1:200,000で、1:250,000の区分図に比べて、各種施設に関する地図記号が増補され、区分図には描かれないスノーモービルのルート(赤の細線)や立入危険地域なども示される。

もう1点は「ロングイェールビーンとその周辺 Longyearbyen og omegn」で、縮尺1:50,000。この縮尺レベルになると、町の周りを歩き回る際にも十分使える。

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1:200,000旅行地図「ノルデンショルド・ラン」
表紙と地図の一部
 

さて、諸島全域をカバーする最大縮尺は1:100,000だ。東西2度30分、南北20分の図郭(下注)で区切られ、計62面ある。このうち、オフセット印刷図で用意されているのは50面で、残りはプロッター(デジタルプリンタ)出力される。地勢表現は、標高25mの補助曲線と50m間隔で等高線が引かれ、そこにぼかし(陰影)が重ねられている。

*注 数値上は極端に横長の図郭に見えるが、極北の地のため、実際の経度間隔は非常に短い。

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1:100,000索引図
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1:100,000の凡例
 

参考として、ロングイェールビーン周辺を描いた1:100,000を時代順に見てみよう。最初期の地形図は、本稿の初めのほうに掲げた。第二次世界大戦前、1936および38年撮影の空中写真から製作され、1950年に複製刊行されたものだ。注記文字に手描きならではの温かみが感じられ、巧みなぼかしの効果で台地状の地形がくっきりと浮かび上がる。

下掲の図は、同じエリアの改訂版だ。1981年版は図化機による描画に置き換えられているが、クリアに描かれた等高線や地物に対して、ぼかしの筆さばきは意外に繊細だ。その下の2008年版は、すでに現行図と同じデジタル描画になっている。市街地が面的に表現されるほど拡大した一方で、氷河の面積が明らかに縮小しているのも読み取れる。

1:100,000は、2010年代にも改訂版が刊行されている。

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1:100,000
C9 Adventdalen 1981年版
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同 2008年版

スヴァールバル諸島の現行地形図(印刷図)は、ノルウェー極地研究所の販売サイト Nettbutikk、イギリスの地図商スタンフォーズ Stanfords などで扱っている。

また、デジタル地形図は、同 研究所が開設するウェブサイト「Toposvalbard」で見ることができる。

Toposvalbard
https://toposvalbard.npolar.no/

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Toposvalbard 初期画面
 

また、旧版地図および古地図のデジタルアーカイブも構築されており、次のウェブサイトから画像ファイルのダウンロードが可能だ。ファイルは、印刷にも耐えうる高解像度版と、画面表示に適した中解像度版の2種が用意されている。

Norwegian Polar Data Centre - Map archive
https://data.npolar.no/map/archive

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Map archive 初期画面
 

なお、これらのデータ(Toposvalbard の画面キャプチャー、Map archive のダウンロードファイル)は、利用制限が明示されている一部の資料を除いて、クリエイティブ・コモンズ属性4.0国際 Creative Commons Attribution 4.0 International が適用される。そのため、二次利用に制限はないが、利用する媒体の適切な場所に、ノルウェー語で「© Norsk Polarinstitutt」または英語で「© Norwegian Polar Institute」と、著作権表示をすることが必要だ。

使用した地形図の著作権表示  © 2020 Norsk Polarinstitutt

(2020年7月1日全面改稿)

■参考サイト
ノルウェー極地研究所 http://www.npolar.no/
スヴァールバル観光協会 https://en.visitsvalbard.com/

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