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2009年12月31日 (木)

グリーンランドの地形図

グリーンランドは南北約2800km、東西約1000kmの広がりをもち、面積は日本全土の約6倍で、いうまでもなく世界最大の島だ。しかもその8割以上が雪と氷で覆われている。中央部の標高は優に3000mを越えるものの、岩盤は堆積した氷の重みで海面下300mより低いところまで圧縮されているという。人口は6万人に満たず、居住地のほとんどが島の南西部の、流氷が届かない沿岸に点在している。

行政上はこの島全体がデンマークの自治領になっており、グリーンランド Greenland という名称もデンマーク語のグレンレン(グロンレン)Grønland を英語読みしたものだ。イヌイットの言葉であるグリーンランド語では、人々(=グリーンランド人)の土地を意味するカラーリット・ヌナート Kalaallit Nunaat と呼ぶ。それにしてもなぜホワイトランドとかではなく、グリーンランドなのだろうか。

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ディスコ湾を進む帆船
Photo by Vaido Otsar at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

西暦980年代、赤毛のエリク(エイリーク)という男がアイスランドで殺人を犯し、3年の追放刑に処せられた。海に出た彼はかねて噂のあった西方の土地を見つけることに成功し、いい名前にしたら人々が植民したくなるだろうと言って、グリーンランドと名づけた。というのがアイスランドのサーガ(古代・中世の物語)が伝える地名の由来だ。もっとも、彼の命名は誇張ではなく、実際に気候が温暖だったので植生が見られたのだという説もある。

いずれにしても、新しい住宅開発地を「緑ヶ丘」などと銘打つ現代人と動機は変わらないのだが、当時も、氷の島(アイスランド)より緑の島の名に惹かれた人は多かったらしく、25隻の船が西をめざした。しかし目的地に辿り着けたのは14隻だけだったという。

それはさておき、グリーンランドの地図作成は、1910年代にようやく着手されている。地質学者ラウゲ・コッホ Lauge Koch が、北部のヨーク岬 Kap York からデンマーク・フィヨルドDanmark Fjord にかけて現地探査を行い、地質情報を収集した。これに基づき、1932年にデンマーク測地学研究所 Geodætisk Institut から、縮尺1:300,000の地図18面が刊行された。

グリーンランドの測量は、1928年に設立された測地学研究所の主要事業の一つとされ、1930年代にはディスコ島 Disko 周辺をはじめ、東西のグリーンランド沿岸部でも測量が実施されている。縮尺1:250,000の地図作成は、西側は北緯78度、東側は北緯76度以南の氷に覆われていないエリアで、1969年に完了した。

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1:250,000 ディスコ島周辺図
2 Christianhaab 1932年

2016年の組織改正に伴い、現在、地形図作成はデンマークの政府機関、データ供給・効率化局 Styrelsen for Dataforsyning og Effektivisering (SDFE) が担っている。全島を1面でカバーするのは、1:5,000,000(500万分の1)と1:2,500,000(250万分の1)だ。

下図が1:5,000,000(500万分の1)だが、全体は横57×縦69cmのサイズになる。地勢は段彩(標高300m未満は緑、300~1500mは薄茶、1500m超は茶色)で表され、氷床には500m間隔の等高線が引かれている。市街地や集落は、人口の規模に応じて正方形や円の大きさを変えて示され、ほかに空港、測候所、水力発電所の記号が置かれている。2段書きになっている地名は、上がグリーンランド語、下がデンマーク語の呼称だ。

1:2,500,000(250万分の1)は、72×120cmとかなり大判のサイズだ。縮尺に応じて描き直されており、1:5,000,000に比べて地名が増え、氷床の等高線も250m間隔になる。

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1:5,000,000図の一部
 

上記の概観図に対して、基本図というべきものが 1:250,000だ。作成対象は西部と南東部の沿岸地域で、索引図によれば78面が予定されているが、71面が完成したところで中断された。刊行は1928年から1974年まで約50年にわたり、経年変化を反映させる修正が1990年代まで行われた。とはいえこの縮尺では、市街地が多少拡張した程度の変化は表せないし、集落間の交通手段は船か飛行機のため、そもそも道路はそり道 sledging route しか描かれていない。見かけの大きな変化は図式改訂によるものだ。

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1:250,000旧図式
64 V.1 Godthaab 1959年

例として、グリーンランド最大の都市で、自治政府の所在地であるゴットホープ(Godthaab, Godthåb、現在のヌーク Nuuk, Nûk)の周辺を掲げる。

旧図式(上の画像)では、地勢が50m間隔の等高線で表されるとともに、低地は緑、山地には素朴な筆致による茶色のぼかし(陰影)がかけられている。氷床や氷河は白抜きにされ、ラフな等高線とクレバスの概略が藤色で描かれる。この藤色には、水涯線や注記の紺色や、水面の水色とは別の色版が使われ、全体としてカラフルでメリハリの利いた図面に仕上がっている。

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1:250,000旧図式の凡例
 

それに対して、1960年代以降の新図式(下の画像)では絵画的な要素が取り払われた。その代わり、等高線の精度が向上しており、100m間隔の主曲線と50mごとの補助曲線の組み合わせで詳細に描かれている。また標高200mまでは緑、それ以上はクリームイエローの段彩が施される。こざっぱりとした現代風の外観だが、注記はまだ手描きで温かみを感じさせる。

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1:250,000新図式
64 V.1 Godthåb 1986年
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1:250,000新図式の凡例
 

縮尺1:250,000は一般的には小縮尺図、つまり概観図の範疇に入るのだが、広大で人工物の少ないグリーンランドでは妥当な精度だろう。どの図葉も、フィヨルドが複雑に入り組み、険しい山地が無数の湖を抱く荒涼とした極北の光景が余すところなく描き出されていて、興味が尽きない。

なお、1979年以降、オルソフォト(正射空中写真)に等高線や地物の描写を施した縮尺1:100,000のオルソフォト地図が、人口の比較的多いエリアで作成されている。

残念ながらこれら官製図の印刷版は価格が高く、一般向きではない。データ供給・効率化局のポータルサイト「地図サービス Kortforsyningen」からスキャン画像が無料でダウンロードできるので、それを利用するのがいいだろう。

■参考サイト
地図サービス Kortforsyningen - download
https://download.kortforsyningen.dk/

大判用紙の印刷物が必要なら、サーガマップス Sagamaps の名で刊行されている市販品がある。これはオリジナルの地形図を写真複製したもので、全島が1面で収まるシリーズは、1:11,800,000(1180万分の1)、1:10,000,000(1000万分の1)、1:7,100,000(710万分の1)、1:5,000,000(500万分の1)、1:2,500,000(250万分の1)の5種類がある。

それより大縮尺は区分図となり、1:500,000(ブルーシリーズ Blå Serie)と1:250,000(レッドシリーズ Rød Serie)の2種のシリーズがある。このうち「1:500,000ブルーシリーズ」は全12面で、官製1:250 000を縮小して貼り合せたものが使われている。用紙は横70×縦59cmの用紙で、マージンなしで印刷される。下の画像は、その索引図と首都ヌーク Nuuk 付近のサンプル図だ。

地図の表紙に「このシリーズは、ヴァイキングたちが西暦982年から500年間に足跡を印したエリアをカバーする」と記され、シリーズにつけたタイトルも「ヴァイキング極地航海シリーズ Viking Polar Cruise Series」と気宇壮大だ。サーガという名称といい、帆船のマークといい、間違いなく赤毛のエリクの物語がイメージされている。1/2に縮小した図面は広範囲を一望できるメリットがあるが、さすがに文字も等高線も細かすぎて見づらい。とはいえ、解像度は高いので、拡大鏡を用意すれば実用に支障ないだろう。

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サーガマップス1:500,000ブルーシリーズ索引図
 

一方、「1:250,000レッドシリーズ」は官製地図を原寸で使用しており、同じように原図を集成して自由に図郭を設定している。全22面。島の西側は、南から北まで海岸線を完全にカバーするが、東側はごくわずかで、官製図が存在しても居住地のないエリアは刊行の対象になっていない。下の画像はその索引図とサンプル図だ。

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1:250,000レッドシリーズ索引図
 

なお、この1:250,000を地域別に4面ずつセットにしたものや、全点セット、さらに冊子体に仕立てた「サーガ地形図地図帳 Saga Topografisk Atlas」もカタログに挙げられている。サーガマップスの地図は、先述のノーディスク社のみならず欧米の主要地図商でも扱っているので、比較的入手し易い。

次回は、グリーンランドのハイキング地図を紹介する。

(2020年5月12日改稿)

使用した地形図の著作権表示
Contains data from Styrelsen for dataforsyning og effektivisering, "Disko bugt 1:250.000" "Grønland 1:5.000.000 og 1:250.000", May 2020

■参考サイト
データ供給・効率化局 https://sdfe.dk/
サーガマップス http://www.greenland-guide.gl/sagamaps/
ノーディスク・コートハネル社 http://www.scanmaps.com/

「官製地図を求めて-グリーンランド」
http://map.on.coocan.jp/map/map_greenland.html

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