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2009年12月18日 (金)

フェロー諸島の地形図

まず、フェロー諸島がどのあたりにあるかを知るために、1:200,000地図の表紙にある地図を掲げておこう(下図参照)。国名が略号で記されているので、フルネーム(ただし通称)を赤字で添えておいた。図の中央に位置する "FÆRØERNE (Faroe Islands)" がフェロー諸島だ。デンマーク Denmark の自治領になっているが、地図で見てもデンマーク本国からはかなり遠く、イギリスでもノルウェーでもないのが不思議なくらいだ。なぜここがデンマーク領なのかという話をするには、14世紀まで時間を戻さなければならない。

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フェロー諸島の位置
 

当時、北大西洋に浮かぶ島々、東からシェトランド Shetland、オークニー Orkney、フェロー諸島、アイスランド Iceland、そしてグリーンランド Greenland はすべて海の王国ノルウェー Norway の支配下にあった。沖合いに飛び石のように点在するこれらの島々は、ヴァイキングとその末裔が活躍する舞台だったのだ。

しかし1380年、ノルウェー王の死去をきっかけに、デンマーク国王がノルウェー王を兼ねる同君連合が成立する(1397年からスウェーデンも加わってカルマル同盟に)。デンマークが三国の盟主となる一方でノルウェーは衰退し、1536年、ついにデンマークの属州とされるに至る。シェトランドはそれより早く、浪費家の国王によってオークニーとともにスコットランド王へ借金の形に差し出されてしまった(1468~69年)ため、現在までイギリス領だが、残る島々はデンマークに属することになった、というわけだ(アイスランドの独立は1944年)。

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Múlafossur Waterfall
Photo by Christer Gundersen at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0
 

大小18の島々で構成されるフェロー諸島は、周囲の島から300~400kmも離れた洋上にある。アイスランドと同様、海底の火山活動で生じた陸地は起伏が大きく、氷河による侵食を強く受けている。フィヨルドが北北西から南南東方向に伸びて島々を寸断し、平地は水没を免れたU字谷の底にわずかに残るだけだ。西側斜面は外洋の風波に容赦なく削られて、高さ数百mもの断崖が連続する。

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Panorama from Trælanípan
Photo by kallerna at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

地形図を手に取ると、そのような荒々しい地形が余すところなく観察できるのだが、それとともに注目したいのは、地形上の障壁を果敢に克服する道路網だ。玄武岩の山脈にあまたのトンネルが貫かれ、狭いフィヨルドには橋がかけられ、幅2kmもあるような海峡には海底トンネルが通る。

その結果、空港のあるヴォーアル島 Vágar や、中心都市トースハウン Tórshavn のあるストレイモイ島 Streymoy など、北部の主要6島間はすでに、フェリーを介さずにクルマで行き来できるようになっている。独立志向の強い諸島を繋ぎ止めるために、公共投資が精力的に注ぎ込まれていることを窺わせる。

■参考サイト
Wikimedia - フェロー諸島全図
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Map_of_the_Faroe_Islands_en.svg

そのフェロー諸島の地形図作成は、1895年に参謀本部地形図局 Generalstabens Topografiske Afdeling の手で開始されている。三角網に基づいて平板測量が実施され、1:20,000図75面が1901年、1:100,000図が1916年から刊行された。改測作業は1938年に行われ、その成果を使用した1:20,000図が1941~43年に刊行された。図郭の拡大により、総面数は減少して全53面だ。

第3回測量は1982~84年に撮影された航空写真に基づくもので、1988年から1997年にかけて新しい1:20,000図が37面刊行された。また2015年以降、衛星画像とデジタル地形モデルに基づくデジタル地形図 F20 topo の整備が進められている。

フェロー諸島の地形図も、デンマークの政府機関、データ供給・効率化局 Styrelsen for Dataforsyning og Effektivisering (SDFE) が作成元だ。地形図体系、図式とも本土と異なる点が多いので、縮尺別に紹介していこう。

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1:200,000表紙と裏表紙
 

エリア全体を1枚で見渡せるのは、1:200,000だ。右写真では表紙の表裏を並べたが、左のタイトル Føroyar はフェロー語、右のFærøerneはデンマーク語で、どちらもフェロー(諸島)を意味する(英語ではFaroes / Faroe Islands。Faeroesの綴りもある)。

地図(下図参照)は等高線を使わず、粗いぼかしで地勢を表現している。集落は黄色、主要道路は赤で塗り、区間距離が入っている。島同士を結ぶフェリーや旅行案内所、キャンプ場、ユースホステルの記号もあって、道路地図あるいは旅行地図といった趣きだ。余白には地名索引もある。地形図というには物足りないが、島の位置関係を把握するだけなら十分に用が果たせるので、前回紹介したデンマークの地図帳でもこの地図が採用されている。

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1:200,000図の一部
トースハウン Tórshavn 周辺
 
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1:100,000表紙
 

1:100,000には1枚もの(区分図)はなく、本土と同じように地形図地図帳 Topografiskt Atlas に編まれたものが唯一だ。とはいっても、表紙を含めて12ページ、中綴じしてから半分に折っただけの簡易な冊子に過ぎない。内容は、北大西洋全図、1:500,000諸島全図、1:20,000地形図の索引図、そして本編の1:100,000地形図が6ページ、最後に地名索引が付く。表記は表紙のタイトルでも察せられるようにフェロー語主体だが、デンマーク語、英語、独語を併記しているところが親切だ。

1:100,000の図面(下図参照)は、20m間隔の等高線にぼかし(陰影)も付加されて、フィヨルド、U字谷、カール(圏谷)、氷河湖と特徴的な氷河地形が手に取るようにわかる。また、先述した西海岸の切り立った崖は、等高線があまりに混みすぎて茶色の色面と化している。地図記号は1:200,000の設定を引き継ぎながらも、集落を黒抹家屋に置き換え、耕作地、造林など土地利用の表現を加えて、地形図としての体裁をしっかり整えている。

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1:100,000図の一部
トースハウン周辺
 
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1:20,000表紙
 

一般的な用途ならこれ以上を望む必要もないのだが、もっと微地形に迫ろうとする人には、37面で全域をカバーする1:20,000地形図がある。横12.5cm×縦30cmの細長い折り方は本土の地形図と同じだ。しかし、本土の1:25,000が、比較的平坦な国土を反映して等高線間隔は5mと小刻みで、ぼかし(陰影)もないのに対し、フェロー諸島はそれより縮尺は大きいのに等高線間隔10m(5mの補助曲線あり)で、控えめながらぼかしも付いて、山岳地図仕様だ。

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1:20,000図 市街地の描写
509 Tórshavn
 

凡例の表記がフェロー語とデンマーク語なので正確にはわからないが、山腹から頂にかけて、連なる崖、剥き出しの岩、風化した岩と岩場に関する記号で広く覆われていて、本土とはまったくの別世界を呈する。わずかな耕作地と造林地は緑系に塗られているので、それ以外は羊が放たれるような草原ということになるのだろう。デンマークのきめ細かな地図描写が応用されたことにより、フェロー諸島の地表の様子が生々しく映し出されて、興味が尽きない。

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1:20,000図 フィヨルドの描写
409 Norðradalur
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1:20,000索引図(地形図表紙を拡大)
 

上記の地形図は、トースハウンにある販売店、ソルバウ Solberg が扱っており、ネット通販も可能だ。このうち1:20,000は、スキャニングによりデジタル化されており、デジタル地形図 F20 topo とともに、データ供給・効率化局のサイト(下記参考サイト)から一括ダウンロードできる。閲覧用のウェブサイトは、今のところ存在しない。

(2020年5月13日改稿)

使用した地形図の著作権表示
Contains data from Kort- og Matrikelstyrelsen, Faroe Islands topographic maps, May 2020

■参考サイト
地図サービス-ダウンロード Kortforsyningen - download
https://download.kortforsyningen.dk/
フェロー諸島観光局 http://www.faroeislands.com/
ソルバウ社 http://www.solberg.fo/ 
 トップページ > Souvenirs > Prentlutir(印刷物)> Hiking maps, Road maps
「官製地図を求めて-フェロー諸島」
http://map.on.coocan.jp/map/map_faroeislands.html

★本ブログ内の関連記事
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