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2009年12月

2009年12月31日 (木)

グリーンランドの地形図

グリーンランドは南北約2800km、東西約1000kmの広がりをもち、面積は日本全土の約6倍で、いうまでもなく世界最大の島だ。しかもその8割以上が雪と氷で覆われている。中央部の標高は優に3000mを越えるものの、岩盤は堆積した氷の重みで海面下300mより低いところまで圧縮されているという。人口は6万人に満たず、居住地のほとんどが島の南西部の、流氷が届かない沿岸に点在している。

行政上はこの島全体がデンマークの自治領になっており、グリーンランド Greenland という名称もデンマーク語のグレンレン(グロンレン)Grønland を英語読みしたものだ。イヌイットの言葉であるグリーンランド語では、人々(=グリーンランド人)の土地を意味するカラーリット・ヌナート Kalaallit Nunaat と呼ぶ。それにしてもなぜホワイトランドとかではなく、グリーンランドなのだろうか。

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ディスコ湾を進む帆船
Photo by Vaido Otsar at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

西暦980年代、赤毛のエリク(エイリーク)という男がアイスランドで殺人を犯し、3年の追放刑に処せられた。海に出た彼はかねて噂のあった西方の土地を見つけることに成功し、いい名前にしたら人々が植民したくなるだろうと言って、グリーンランドと名づけた。というのがアイスランドのサーガ(古代・中世の物語)が伝える地名の由来だ。もっとも、彼の命名は誇張ではなく、実際に気候が温暖だったので植生が見られたのだという説もある。

いずれにしても、新しい住宅開発地を「緑ヶ丘」などと銘打つ現代人と動機は変わらないのだが、当時も、氷の島(アイスランド)より緑の島の名に惹かれた人は多かったらしく、25隻の船が西をめざした。しかし、波濤を越えて目的地に辿り着けたのは14隻だけだったという。

それはさておき、グリーンランドの地図作成は、1910年代にようやく着手されている。地質学者ラウゲ・コッホ Lauge Koch が、北部のヨーク岬 Kap York からデンマーク・フィヨルドDanmark Fjord にかけて現地探査を行い、地質情報を収集した。これに基づき、1932年にデンマーク測地学研究所 Geodætisk Institut から、縮尺1:300,000の地図18面が刊行された。

グリーンランドの測量は、1928年に設立された測地学研究所の主要事業の一つとされ、1930年代にはディスコ島 Disko 周辺をはじめ、東西のグリーンランド沿岸部でも測量が実施されている。縮尺1:250,000の地図作成は、西側は北緯78度、東側は北緯76度以南の氷に覆われていないエリアで、1969年に完了した。

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1:250,000 ディスコ島周辺図
2 Christianhaab 1932年

2016年の組織改正に伴い、現在、地形図作成はデンマークの政府機関、データ供給・効率化局 Styrelsen for Dataforsyning og Effektivisering (SDFE) が担っている。全島を1面でカバーするのは、1:5,000,000(500万分の1)と1:2,500,000(250万分の1)だ。

下図が1:5,000,000(500万分の1)だが、全体は横57×縦69cmのサイズになる。地勢は段彩(標高300m未満は緑、300~1500mは薄茶、1500m超は茶色)で表され、氷床には500m間隔の等高線が引かれている。市街地や集落は、人口の規模に応じて正方形や円の大きさを変えて示され、ほかに空港、測候所、水力発電所の記号が置かれている。2段書きになっている地名は、上がグリーンランド語、下がデンマーク語の呼称だ。

1:2,500,000(250万分の1)は、72×120cmとかなり大判のサイズだ。縮尺に応じて描き直されており、1:5,000,000に比べて地名が増え、氷床の等高線も250m間隔になる。

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1:5,000,000図の一部
 

上記の概観図に対して、基本図というべきものが 1:250,000だ。作成対象は西部と南東部の沿岸地域で、索引図によれば78面が予定されているが、71面が完成したところで中断された。刊行は1928年から1974年まで約50年にわたり、経年変化を反映させる修正が1990年代まで行われた。とはいえこの縮尺では、市街地が多少拡張した程度の変化は表せないし、集落間の交通手段は船か飛行機のため、そもそも道路はそり道 sledging route しか描かれていない。見かけの大きな変化は図式改訂によるものだ。

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1:250,000旧図式
64 V.1 Godthaab 1959年

例として、グリーンランド最大の都市で、自治政府の所在地であるゴットホープ(Godthaab, Godthåb、現在のヌーク Nuuk, Nûk)の周辺を掲げる。

旧図式(上の画像)では、地勢が50m間隔の等高線で表されるとともに、低地は緑、山地には素朴な筆致による茶色のぼかし(陰影)がかけられている。氷床や氷河は白抜きにされ、ラフな等高線とクレバスの概略が藤色で描かれる。この藤色には、水涯線や注記の紺色や、水面の水色とは別の色版が使われ、全体としてカラフルでメリハリの利いた図面に仕上がっている。

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1:250,000旧図式の凡例
 

それに対して、1960年代以降の新図式(下の画像)では絵画的な要素が取り払われた。その代わり、等高線の精度が向上しており、100m間隔の主曲線と50mごとの補助曲線の組み合わせで詳細に描かれている。また標高200mまでは緑、それ以上はクリームイエローの段彩が施される。こざっぱりとした現代風の外観だが、注記はまだ手描きで温かみを感じさせる。

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1:250,000新図式
64 V.1 Godthåb 1986年
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1:250,000新図式の凡例
 

縮尺1:250,000は一般的には小縮尺図、つまり概観図の範疇に入るのだが、広大で人工物の少ないグリーンランドでは妥当な精度だろう。どの図葉も、フィヨルドが複雑に入り組み、険しい山地が無数の湖を抱く荒涼とした極北の光景が余すところなく描き出されていて、興味が尽きない。

なお、1979年以降、オルソフォト(正射空中写真)に等高線や地物の描写を施した縮尺1:100,000のオルソフォト地図が、人口の比較的多いエリアで作成されている。

残念ながらこれら官製図の印刷版は価格が高く、一般向きではない。データ供給・効率化局のポータルサイト「地図サービス Kortforsyningen」からスキャン画像が無料でダウンロードできるので、それを利用するのがいいだろう。

■参考サイト
地図サービス Kortforsyningen - download
https://download.kortforsyningen.dk/

大判用紙の印刷物が必要なら、サーガマップス Sagamaps の名で刊行されている市販品がある。これはオリジナルの地形図を写真複製したもので、全島が1面で収まるシリーズは、1:11,800,000(1180万分の1)、1:10,000,000(1000万分の1)、1:7,100,000(710万分の1)、1:5,000,000(500万分の1)、1:2,500,000(250万分の1)の5種類がある。

それより大縮尺は区分図となり、1:500,000(ブルーシリーズ Blå Serie)と1:250,000(レッドシリーズ Rød Serie)の2種のシリーズがある。このうち「1:500,000ブルーシリーズ」は全12面で、官製1:250 000を縮小して貼り合せたものが使われている。用紙は横70×縦59cmの用紙で、マージンなしで印刷される。下の画像は、その索引図と首都ヌーク Nuuk 付近のサンプル図だ。

地図の表紙に「このシリーズは、ヴァイキングたちが西暦982年から500年間に足跡を印したエリアをカバーする」と記され、シリーズにつけたタイトルも「ヴァイキング極地航海シリーズ Viking Polar Cruise Series」と気宇壮大だ。サーガという名称といい、帆船のマークといい、間違いなく赤毛のエリクの物語がイメージされている。1/2に縮小した図面は広範囲を一望できるメリットがあるが、さすがに文字も等高線も細かすぎて見づらい。とはいえ、解像度は高いので、拡大鏡を用意すれば実用に支障ないだろう。

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サーガマップス1:500,000ブルーシリーズ索引図
 

一方、「1:250,000レッドシリーズ」は官製地図を原寸で使用しており、同じように原図を集成して自由に図郭を設定している。全22面。島の西側は、南から北まで海岸線を完全にカバーするが、東側はごくわずかで、官製図が存在しても居住地のないエリアは刊行の対象になっていない。下の画像はその索引図とサンプル図だ。

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1:250,000レッドシリーズ索引図
 

なお、この1:250,000を地域別に4面ずつセットにしたものや、全点セット、さらに冊子体に仕立てた「サーガ地形図地図帳 Saga Topografisk Atlas」もカタログに挙げられている。サーガマップスの地図は、先述のノーディスク社のみならず欧米の主要地図商でも扱っているので、比較的入手し易い。

次回は、グリーンランドのハイキング地図を紹介する。

(2020年5月12日改稿)

使用した地形図の著作権表示
Contains data from Styrelsen for dataforsyning og effektivisering, "Disko bugt 1:250.000" "Grønland 1:5.000.000 og 1:250.000", May 2020

■参考サイト
データ供給・効率化局 https://sdfe.dk/
サーガマップス http://www.greenland-guide.gl/sagamaps/
ノーディスク・コートハネル社 http://www.scanmaps.com/

「官製地図を求めて-グリーンランド」
http://map.on.coocan.jp/map/map_greenland.html

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 デンマークの地形図
 地形図を見るサイト-デンマーク

 フェロー諸島の地形図
 スヴァールバル諸島の地形図

2009年12月24日 (木)

デンマークのサイクリング地図

ヨーロッパでオランダに次いで自転車が市民生活に溶け込んでいるのが、デンマークだ。今回はこの国のサイクリング地図について紹介しよう。

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DCF 1:100,000
サイクリング地図
ユラン半島東部編 表紙
 

「パンケーキのように平たい Flat as a pancake」。デンマークの国土はしばしばこう例えられる。ヨーロッパ全図のような小縮尺の地図では一面緑色に塗られているので、見渡す限り平坦な国土だと思っている人も多いに違いない。しかし、パンケーキの形容が真にふさわしい理由は、別のところにある。すなわち、少しだけ厚みを持っている点が共通なのだ。

事実、地形図を開くと、デンマークの多くの地域で50~100m前後の等高線が複雑に入り組んでいるのが読み取れる。特にユラン Jylland(ユトランド)半島の東半分は丘陵が海岸まで張り出し、丘を刻む谷もそれなりに深い。オランダ(南東部を除く)のように起伏があるのは川の堤だけというのとは事情が違い、サイクリングも少々アップダウンを覚悟しなければならない。

この国のサイクリング地図(サイクリングマップ)は、主にデンマークサイクリスト連盟 Dansk Cyklist Forbund(略称 DCF、英訳 Danish Cycling Federation)が作成している。オランダでは2つの団体・会社による競作が見られたが(「オランダのサイクリング地図」参照)、人口がオランダの1/3程度のデンマークではそれほどの市場はないようで、他には後述するノーディスク社製の1点しかない。

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DCFは、自転車がまだ馬の足跡だらけの凹凸道を走っていた1905年、「コペンハーゲン周辺の自転車交通にもっと良好で安全な条件を提供する」ために創立された。現在は22,000人の会員を擁する全国組織に成長している。サイクリング地図には、全国が1枚に収まる縮尺1:500,000と、8面に分割した1:100,000の2種類がある。

1:500,000の地図は、2005年まで「サイクリング余暇地図 Cykelferiekort」という名称で作成されていた。ロンドンの地図店スタンフォーズ Stanfords のウェブサイトによれば、「全国の自転車国道・地方道のネットワークを表す。道路の舗装状況や代替道路を表示、サイクリストとハイカー専用のキャンプ場、一般キャンプ場、ユースホステル、旅行案内所の位置を記号化している。(中略) コペンハーゲンは詳細拡大図があり、地名索引、道路標識例も付く。裏面は、列車、バス、フェリーへ輪行(自転車持込み)する際の規則、ユースホステルと旅行案内所の連絡先、自転車部品の解説など、デンマークのサイクリングに関する情報を満載する。」というものだった。しかしその後は更新されておらず、絶版になったようだ(右写真はスタンフォードのサイトから)。

その代わりにDCFのオンラインショップで扱うようになったのが、デンマーク政府観光局(visitdenmark.com)が作成する1:500,000デンマーク旅行地図 "Turen går til Danmark" だ。サイクリング専用ではないが、製作協力団体にDCFも名を連ねているし、ショップでは「デンマーク・サイクリングルート地図 Kort over cykelruter i danmark」と銘打って販売しているので、上記余暇地図を引継ぐ位置づけだろう(下写真はDCFのサイトから)。

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デンマーク政府観光局 1:500,000デンマーク旅行地図 表紙
 

大判用紙の片面いっぱいに配された地図は、交通網(道路、鉄道)、市街地、森林などを描いたベースマップの上に、サイクリングルートをはじめ、キャンプサイト、案内所、海水浴場、ゴルフ場などを記号で加えたものだ。サイクリングルートに関しては青の実線で、道路番号つきのいわば公認道だけを表示している。舗装・未舗装、車道への併設などを区別していた旧図に比べると、表示はかなり単純化されてしまっている。DCF以外にも余暇に関わる各種の組織が情報を提供している総合旅行地図なので、自転車道だけ細かく分類しても、デザイン上も読図上も効果的でないからだ。

とはいえ、これ1枚で国内の自転車道路網が一望できることに変わりはなく、ついでに宿泊やレジャーの情報もチェックできる。旅程のラフスケッチを作るときには、まず参考にすべき地図と言えるだろう。

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1:500,000デンマーク旅行地図の一部
© VisitDenmark, 2009

ただし、1:500,000は図上1cmが実地の5kmになる縮尺だから、自転車旅行に携行するには詳しさの点で十分とはいえない。そこに1:100,000(図上1cmが実地1km)の出番がある。こちらは単体では販売されておらず、地方別に8巻に分かれたサイクリングガイドブック Cykelguide の添付地図の形をとっている。ガイドブック本体はデンマーク語版、英語版、ドイツ語版の3種が別々に刊行されているが、添付地図は3か国語併記なので、どの版にも同じものが付いている。冒頭の写真は国内でも一番人気のユラン半島東部編 Østjylland だが、筆者が買おうとしたときには前2者はすでに売切れで、ドイツ語版だけが残っていた(下写真は同 索引図)。

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DCF 1:100,000サイクリング地図
索引図
 

地図は大判(111×70cm)の耐水紙に両面刷りしたものだ。ベースマップに官製1:100,000地形図をそっくり使用し、その上に自転車道を描き、テントサイトや案内所、自転車修理店など旅行に関連する施設や見どころをピクトグラム(絵文字)で示している。自転車道の表示のしかたは、配色が違うだけで1:500,000全国図を踏襲しているが、縮尺が大きいだけに細かい分岐点まで判別できるし、5m間隔の等高線によって、冒頭で述べた道のアップダウンも読めるのが強みだ。裏面まで使って官製1:100,000よりはるかに広い範囲を収めているので、官製図の高価なオンデマンド印刷(ディトコート DitKort)の代替品としても大きな価値がある。

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DCF 1:100,000サイクリング地図の一部
© KMS, DCF, 2009
 

ユラン東部はコペンハーゲン首都圏と並んで自転車道の密度が高い地域とあって、地図の至るところに自転車道が走っている。不規則に曲がる田舎道が多いなかで、なめらかな曲線を描いているのは鉄道の廃線跡を転用したものらしい。自転車道沿線には、キャンプ地や宿泊施設が一定の距離を置いて配置されているのが見て取れる。その充実ぶりを追えば、自転車旅行が気軽なレジャーとして定着しているのも当然のことに思えるだろう。

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サイクリングガイドブックの一部
 

ガイドブックは82ページの充実した冊子だ(上写真)。1:500,000の裏面に書かれているような情報のほかに、ナンバールート別に美しい写真付きで見どころの詳しい紹介があり、地図を傍らに置いて読むだけで、早くも行った気分にさせてくれる。巻末に主要都市の市街図がついているのも便利だ。これらの地図はDCF公式サイトのオンラインショップ(下記)で購入できる。

■参考サイト
デンマークサイクリスト連盟 http://www.dcf.dk/
 オンラインショップ http://shop.dcf.dk/ 英語版あり

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最後に、ノーディスク・コートハネル社 Nordisk Korthandel が刊行するサイクリング地図に触れておこう。同社は官製地形図の販売を代行している会社なので、「デンマーク・サイクリング地図 Cykelkort Danmark」も同社オリジナルの1:500,000に自転車道などの情報を加筆したものだ(右写真)。

内容はDCFの旧図とほぼ同じで、コペンハーゲンの拡大図があるところまで似ている。裏面にはデンマーク語、英語、ドイツ語で自転車旅行に関する簡単な説明があるが、紙面に書ききれない詳細は同社の特設サイトに誘導する形にしてある。DCFの方針転換を受けての企画とは推測するが、上記旅行地図の価格が25クローネ(1クローネ18円として450円)であるのに対して、こちらは75クローネ(1350円)もするのはいただけない。

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デンマーク・サイクリング地図の一部
© Nordisk Korthandel, Scanmaps ApS, 2009
 

■参考サイト
ノーディスク・コートハネル社のサイクリング地図
http://www.scanmaps.dk/cykelkort/index_en

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 ドイツのサイクリング地図-コンパス社とバイクライン
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2009年12月18日 (金)

フェロー諸島の地形図

まず、フェロー諸島がどのあたりにあるかを知るために、1:200,000地図の表紙にある地図を掲げておこう(下図参照)。国名が略号で記されているので、フルネーム(ただし通称)を赤字で添えておいた。図の中央に位置する "FÆRØERNE (Faroe Islands)" がフェロー諸島だ。デンマーク Denmark の自治領になっているが、地図で見てもデンマーク本国からはかなり遠く、イギリスでもノルウェーでもないのが不思議なくらいだ。なぜここがデンマーク領なのかという話をするには、14世紀まで時間を戻さなければならない。

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フェロー諸島の位置
 

当時、北大西洋に浮かぶ島々、東からシェトランド Shetland、オークニー Orkney、フェロー諸島、アイスランド Iceland、そしてグリーンランド Greenland はすべて海の王国ノルウェー Norway の支配下にあった。沖合いに飛び石のように点在するこれらの島々は、ヴァイキングとその末裔が活躍する舞台だったのだ。

しかし1380年、ノルウェー王の死去をきっかけに、デンマーク国王がノルウェー王を兼ねる同君連合が成立する(1397年からスウェーデンも加わってカルマル同盟に)。デンマークが三国の盟主となる一方でノルウェーは衰退し、1536年、ついにデンマークの属州とされるに至る。シェトランドはそれより早く、浪費家の国王によってオークニーとともにスコットランド王へ借金の形に差し出されてしまった(1468~69年)ため、現在までイギリス領だが、残る島々はデンマークに属することになった、というわけだ(アイスランドの独立は1944年)。

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Múlafossur Waterfall
Photo by Christer Gundersen at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0
 

大小18の島々で構成されるフェロー諸島は、周囲の島から300~400kmも離れた洋上にある。アイスランドと同様、海底の火山活動で生じた陸地は起伏が大きく、氷河による侵食を強く受けている。フィヨルドが北北西から南南東方向に伸びて島々を寸断し、平地は水没を免れたU字谷の底にわずかに残るだけだ。西側斜面は外洋の風波に容赦なく削られて、高さ数百mもの断崖が連続する。

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Panorama from Trælanípan
Photo by kallerna at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

地形図を手に取ると、そのような荒々しい地形が余すところなく観察できるのだが、それとともに注目したいのは、地形上の障壁を果敢に克服する道路網だ。玄武岩の山脈にあまたのトンネルが貫かれ、狭いフィヨルドには橋がかけられ、幅2kmもあるような海峡には海底トンネルが通る。

その結果、空港のあるヴォーアル島 Vágar や、中心都市トースハウン Tórshavn のあるストレイモイ島 Streymoy など、北部の主要6島間はすでに、フェリーを介さずにクルマで行き来できるようになっている。独立志向の強い諸島を繋ぎ止めるために、公共投資が精力的に注ぎ込まれていることを窺わせる。

■参考サイト
Wikimedia - フェロー諸島全図
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Map_of_the_Faroe_Islands_en.svg

そのフェロー諸島の地形図作成は、1895年に参謀本部地形図局 Generalstabens Topografiske Afdeling の手で開始されている。三角網に基づいて平板測量が実施され、1:20,000図75面が1901年、1:100,000図が1916年から刊行された。改測作業は1938年に行われ、その成果を使用した1:20,000図が1941~43年に刊行された。図郭の拡大により、総面数は減少して全53面だ。

第3回測量は1982~84年に撮影された航空写真に基づくもので、1988年から1997年にかけて新しい1:20,000図が37面刊行された。また2015年以降、衛星画像とデジタル地形モデルに基づくデジタル地形図 F20 topo の整備が進められている。

フェロー諸島の地形図も、デンマークの政府機関、データ供給・効率化局 Styrelsen for Dataforsyning og Effektivisering (SDFE) が作成元だ。地形図体系、図式とも本土と異なる点が多いので、縮尺別に紹介していこう。

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1:200,000表紙と裏表紙
 

エリア全体を1枚で見渡せるのは、1:200,000だ。右写真では表紙の表裏を並べたが、左のタイトル Føroyar はフェロー語、右のFærøerneはデンマーク語で、どちらもフェロー(諸島)を意味する(英語ではFaroes / Faroe Islands。Faeroesの綴りもある)。

地図(下図参照)は等高線を使わず、粗いぼかしで地勢を表現している。集落は黄色、主要道路は赤で塗り、区間距離が入っている。島同士を結ぶフェリーや旅行案内所、キャンプ場、ユースホステルの記号もあって、道路地図あるいは旅行地図といった趣きだ。余白には地名索引もある。地形図というには物足りないが、島の位置関係を把握するだけなら十分に用が果たせるので、前回紹介したデンマークの地図帳でもこの地図が採用されている。

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1:200,000図の一部
トースハウン Tórshavn 周辺
 
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1:100,000表紙
 

1:100,000には1枚もの(区分図)はなく、本土と同じように地形図地図帳 Topografiskt Atlas に編まれたものが唯一だ。とはいっても、表紙を含めて12ページ、中綴じしてから半分に折っただけの簡易な冊子に過ぎない。内容は、北大西洋全図、1:500,000諸島全図、1:20,000地形図の索引図、そして本編の1:100,000地形図が6ページ、最後に地名索引が付く。表記は表紙のタイトルでも察せられるようにフェロー語主体だが、デンマーク語、英語、独語を併記しているところが親切だ。

1:100,000の図面(下図参照)は、20m間隔の等高線にぼかし(陰影)も付加されて、フィヨルド、U字谷、カール(圏谷)、氷河湖と特徴的な氷河地形が手に取るようにわかる。また、先述した西海岸の切り立った崖は、等高線があまりに混みすぎて茶色の色面と化している。地図記号は1:200,000の設定を引き継ぎながらも、集落を黒抹家屋に置き換え、耕作地、造林など土地利用の表現を加えて、地形図としての体裁をしっかり整えている。

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1:100,000図の一部
トースハウン周辺
 
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1:20,000表紙
 

一般的な用途ならこれ以上を望む必要もないのだが、もっと微地形に迫ろうとする人には、37面で全域をカバーする1:20,000地形図がある。横12.5cm×縦30cmの細長い折り方は本土の地形図と同じだ。しかし、本土の1:25,000が、比較的平坦な国土を反映して等高線間隔は5mと小刻みで、ぼかし(陰影)もないのに対し、フェロー諸島はそれより縮尺は大きいのに等高線間隔10m(5mの補助曲線あり)で、控えめながらぼかしも付いて、山岳地図仕様だ。

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1:20,000図 市街地の描写
509 Tórshavn
 

凡例の表記がフェロー語とデンマーク語なので正確にはわからないが、山腹から頂にかけて、連なる崖、剥き出しの岩、風化した岩と岩場に関する記号で広く覆われていて、本土とはまったくの別世界を呈する。わずかな耕作地と造林地は緑系に塗られているので、それ以外は羊が放たれるような草原ということになるのだろう。デンマークのきめ細かな地図描写が応用されたことにより、フェロー諸島の地表の様子が生々しく映し出されて、興味が尽きない。

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1:20,000図 フィヨルドの描写
409 Norðradalur
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1:20,000索引図(地形図表紙を拡大)
 

上記の地形図は、トースハウンにある販売店、ソルバウ Solberg が扱っており、ネット通販も可能だ。このうち1:20,000は、スキャニングによりデジタル化されており、デジタル地形図 F20 topo とともに、データ供給・効率化局のサイト(下記参考サイト)から一括ダウンロードできる。閲覧用のウェブサイトは、今のところ存在しない。

(2020年5月13日改稿)

使用した地形図の著作権表示
Contains data from Kort- og Matrikelstyrelsen, Faroe Islands topographic maps, May 2020

■参考サイト
地図サービス-ダウンロード Kortforsyningen - download
https://download.kortforsyningen.dk/
フェロー諸島観光局 http://www.faroeislands.com/
ソルバウ社 http://www.solberg.fo/ 
 トップページ > Souvenirs > Prentlutir(印刷物)> Hiking maps, Road maps
「官製地図を求めて-フェロー諸島」
http://map.on.coocan.jp/map/map_faroeislands.html

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2009年12月10日 (木)

デンマークの地形図地図帳

これまで筆者が親しんできたデンマークの地形図 Topografisk Kort の縮尺は、1:100,000だ。最初に出会ったのが1:100,000(1cm図)の区分図だったし、その後購入した地図帳もこの縮尺だった。初めから意図していたわけではないが、土地鑑を得るためにとりあえずは国土全体をざっと眺め渡したいと思うので、地形や地物がそこそこ読み取れる1:100,000は、結果的にニーズに適っていた。これより縮尺が小さくなると(1:200,000など)等高線が省略されてしまうからだ。

*注 実長1kmを図上1cmで表す縮尺のため、1センチメートル図(1 cm-kort)と呼ばれる。

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1:100,000図の例
1513 København 1998年
 

1:100,000地形図は全土を33面でカバーするが、それとは別に、図郭をずらしてまとまりのある地域を一面に収めた特別版が4面(Djursland, Sundeved og Als, Sydfyn og Langeland, Sydsjælland og Møn)ある。下写真の右側は1998年修正のコペンハーゲン(デンマーク語でケベンハウン København)図葉だが、オフセット印刷による1枚ものの紙地図は2002年限りで刊行が中止されたため、残念なことにこの形式としては最終版になってしまった。

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1:100,000(1cm図)表紙
1113 Esbjerg 1978年
1513 København 1998年
 

今、最新の地形図が見たければウェブサイトかオンデマンド印刷になるが、1:100,000に関しては、地図帳という選択肢もまだ残されている。地図帳は全土が1冊に収められているので、初期投資は大きいものの、それに見合う価値はある。デンマークでは、早くからこの縮尺で地形図地図帳(地形図アトラス)が刊行されてきた。同国の測量局である地図・地籍局 Kort- og Matrikelstyrelsen(下注)が出版元だったが、現在は、紙地図の販売全般を代行するノーディスク・コートハネル社 Nordisk Korthandel の手に移っている。

*注 2013年にジオデータ局 Geodatastyrelsen に改称。

地図帳の序文によると、最初の地図帳は、1928~33年に現 測量局の前身、測地学研究所 Geodætisk Institut の設立(下注)を記念して製作された全3巻の書籍だった。「デンマーク1:100,000参謀本部地図 DANMARK 1:100,000 -GENERALSTABSKORT」と題されたこの地図帳は、その後30年以上も定期的に内容を更新して刊行され続けた。

*注 1928年に参謀本部地図局 Generalstabens Topografiske Afdeling とデンマーク測量局 Danske Gradmåling が統合され、測地学研究所が設立された。

「参謀本部地図 Generalstabskort」という呼び方は、軍用図の払い下げであることを意味している。しかし、ドイツがそうであったように、デンマークでもこれは1:100,000図の別称として定着しており、所管が民生機関に移ってからも、長い間タイトルに掲げられていた。

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1:100,000 旧図式
1113 Esbjerg 1978年
 

地図帳は1960年代半ばに、売り上げの減少を理由にして継続が断念されたが、再刊を望む声が多数寄せられたという。その後、作図方法の改良に伴い、デザインを一新した1:100,000地形図が作成されることになった。新図への置き換えは1975~81年に順次行われたが、それを用いて、1982年に地図帳も「デンマーク1:100,000地形図地図帳 Danmark 1:100 000 Topografisk Atlas」と名を改めて復活したのだった。

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1:100,000地形図地図帳 1989年版表紙
 

この地図帳は、珍しい横長の判型(横31×縦27.5cm)を採用している。もとの地形図の図郭を上下2分割したものを見開き2ページに収めるためだ。こうすると、1ページの掲載範囲がちょうど1:50,000の図郭と一致するので、大縮尺図の索引図としても使えるという利点があった。筆者の手元にあるのは、第3版に当たる1989年版(上写真)だ。表紙カバーは、ユラン Jylland(日本語ではユトランド)半島中部、オーフス Århus 対岸のドルメンと入江を見下ろす眺めだが、明るくのびやかな海辺風景は見る者の旅情を誘う。

*注 写真手前にある赤屋根の農家の右後ろに、ポスケア・ステンフース Poskær Stenhus と呼ばれるドルメンが小さく見える(ステンフース Stenhus は英語の stonehouse に当たる)。
ポスケア・ステンフース付近のGoogle地図
https://www.google.com/maps/@56.2198,10.5075,16z?hl=ja

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1:100,000地形図地図帳 1989年版より
København 市街地
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同 Mariager Fjord
 

中身の地図は1:100,000の区分図そのものだ。等高線が5m間隔とこの縮尺にしてはかなり精度が高いので、隆起台地に細かい谷筋やフィヨルドが入り組む複雑な地形も手に取るように分かり、眺めていて飽きることがない。原図の修正に間に合わなかった変化、特に新設道路は、紫で加刷するというアメリカの地形図のような小技も駆使している。

しかし、かつての参謀本部地図が朱色や黄色といった目立つ色を惜しげもなく使っていたのに比べて、黒、青、緑(アップルグリーン)、茶(ココアブラウン)の4色刷は、いかにも地味な色調で見映えがしない。印刷の色数を絞ろうとしたのだろうが、せっかくのスマートなデザインが生きてこないと思っていた。

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1:100,000地形図地図帳 2008年版表紙
 

ノーディスク・コートハネル社から出されている現行の第7版(2008年、上写真)は、判型が横25×縦34cmと縦長に戻り、まったく別の地図帳のようだ。総ページ数は224ページで、地図166ページ、地名索引38ページ、その他(行政区分図、道路網図・都市間距離、オンデマンド地図紹介、基礎データ集など)20ページから成る。デンマーク本土の1:100,000とともに、フェロー諸島の1:200,000、グリーンランドの1:5,000,000(500万分の1)図も添付されている。

判型が見直されたことで、1ページの掲載範囲が区分図の図郭と合わなくなったが、その代わり、隣接図とは2~3cmの重複を持たせてあるのが親切だ。

地図はもちろん測量局のデータベースから生成されたもので、プロセスカラー印刷を前提に配色が改善され、コート紙の使用によってすっきりした仕上がりになった。地図記号のデザインはほとんど変わらないが、道路や植生の分布に使われる色の置き替えが効果を上げている。

すなわち、道路の色がココアブラウンからサーモンピンクに、果樹園が緑のドットパターンからシャトルーズグリーンの塗りに、灌木林(ヒース)は紫のドットからラベンダーの塗りに変更された。さらに陸地全体に、薄いクリームイエローが掛けられている。全体の印象がはるかに明るくなったことは、第3版と比較すると一目瞭然だ。それでいて、以前紹介したオランダの地形図がもつ目覚しさとはまた違う、落ち着きのある美しさが好ましい。

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1:100,000 Hanstholm周辺
(上)1989年版
(下)2008年版
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1:100,000 Århus(Aarhus) 周辺
(左)1989年版 (右)2008年版
 

ところで、デンマークの地形図には、踏み台の立面形に似た鉤形の記号が一面にばら撒かれている(下図参照)。地形図の凡例によれば、これは農場(の建物)を表している。進入路を取り囲む形に建てられた一連の建物を上から見た形だそうだ。農場の記号も珍しいが、さらに大小の区別まであるとは驚いた。酪農王国デンマークでは常識と言われるのかもしれないが。

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1:100,000 1412 Korsør
おびただしい数の農場記号がある
 

(2020年5月5日改稿)

使用した地形図の著作権表示
Contains data from Styrelsen for dataforsyning og effektivisering, "1cm-kort", May 2020
© 2020 Nordisk Korthandel

■参考サイト
ノーディスク・コートハネル社 http://www.scanmaps.dk/

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 デンマークの地形図
 地形図を見るサイト-デンマーク
 デンマークのサイクリング地図

 オランダの地形図地図帳 I-現行図

2009年12月 3日 (木)

デンマークの地形図

2008年度をもって日本では1:50,000などの地形図の更新が停止されてしまったが、電子化時代の本格的到来を象徴するこのような決断は、デンマークのほうがかなり早かった。測量局による地形図の刊行廃止は2002年のことで、対象はフェロー諸島とグリーンランドを除く本土のすべての地形図に及んだ。

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1:50,000(2cm図)の例
1514 I Helsingør 1983年
 

もちろんこれは、オフセット印刷による紙地図を作らなくなっただけで、デジタル地図の更新は滞りなく続けられている。1:500,000、1:200,000、1:100,000、1:50,000、1:25,000、1:10,000の6種の地形図データベース(Danmarks Topografiske Kortværk (DTK) / Kort500~Kort10)が維持され、ウェブサイトで公開・提供されるとともに、これをもとにしたさまざまな製品が行政機関や民間会社の手で生みされている。

(以下の記述は、全面改稿した2020年5月現在の状況に基づく)

デンマークの近代測量は、デンマーク王立科学協会 Kongelige Dansk Videnskabernes Selskab が国土の地図作成に着手した1757年に始まる。縮尺1:20,000で実施された測量成果が1:120,000に編集され、銅版印刷に付された。

19世紀初頭のナポレオン戦争で、正確な地図が国土防衛に不可欠であることを痛感した軍は、詳細な地形測量に力を注いだ。1842年には参謀本部に地形局 Generalstabens Topografiske Afdeling が設置され、1845年から1:80,000、1866年から1:20,000「平板測量図 Målebordsblade」、1870年から1:40,000のいわゆる「アトラス図 Atlasblade」の地図体系が構築されていく。

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1:40,000(アトラス図)
A3030 Köbenhavn 1961年
 

平板測量図は当時の基本図で、1864~99年に刊行された前期平板測量図 Høje målebordsblade(約1200面)と、図郭の横幅を1.5倍に拡大し、黒、青、茶色の3色で刷られた1901年以降の後期平板測量図 Lave målebordsblade(全835面)に分類される(下注)。また1891年から1902年にかけてこれを基にした1:100,000図も刊行され、「参謀本部地図 Generalstabskort」と呼ばれて普及した。

*注 SDFEの地図サービス Kortforsyningen のサイトによれば、平板測量図は、当初横10×縦12インチ(31.4×37.7 cm)の縦長、1901年からは横15×縦12インチで横長になったため、前者を「背が高い høje(英語の high)」、後者を「低い lave(同 low)」と呼んで区別したとされる。加えて、時間的な前後関係の意味も含んでいたかもしれない。「高/低」は、命名の背景の知識がないと理解しづらいので、ここでは敢えて「前期/後期」と訳している。

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市街地拡大のようすを時代順に追う
ロスキレ Roskilde の例
(上)1:20,000 前期平板測量図 19世紀後半
(下)1:20,000 後期平板測量図 20世紀前半
 

この参謀本部地形局と、主要三角測量と水準測量を担っていたデンマーク測量局 Danske Gradmåling の統合により1928年に設立されたのが測地学研究所 Geodætisk Institut だ。研究所は、1920年にドイツから帰属替えされた南ユラン(南ユトランド)Sønderjylland の新規測量を手掛けるとともに、軍から引き継いだ地形図の更新を進めた。

1:20,000の縮尺は第二次世界大戦後、NATO標準の1:25,000に変更される。また、地形図体系には、イギリスの「インチ図」に倣って「センチメートル図 Centimeterkort」の呼称が導入された。これは実長の1kmが図上で何cmになるかを示すもので、1:25,000は「4センチメートル図 4cm-kort」になる。この新図は1957年に刊行が始まり、1978年に全国をカバーした。

4cm図からは、1:50,000(2cm図)や1:100,000(1cm図)が編集された。また、1966年からは大縮尺の1:10,000図の作成も開始された。

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1:25,000(4cm図)この図葉の最終版紙地図
1513 IV SØ Roskilde 1996年
 

戦後の測量行政を牽引した測地学研究所は1989年に地籍局 Matrikeldirektoratet、水路局 Søkortarkivet と統合され、地図・地籍局 Kort- og Matrikelstyrelsen(下注)になった。さらに2013年にはジオデータ局 Geodatastyrelsen に名称を変更、そして2016年に地図作成事業が分離されて、現在はデータ供給・効率化局 Styrelsen for Dataforsyning og Effektivisering (SDFE) が担っている。

冒頭に述べたとおり、デンマークではもはやオフセット印刷による紙地図は作成されていない。廃止当初は、ノーディスク・コートハネル社  Nordisk Korthandel(北欧地図販売の意)が在庫販売を行っていたが、それも2011年に終了し、以来、紙地図は古書店が扱う商品になってしまった。

しかし、最新の地図データは言うに及ばず、旧版図の一部についてもデータ供給・効率化局の専用サイト(下注)で閲覧やダウンロードが随時可能なので、実用的に支障はない。

*注 地形図の閲覧サイトについては、本ブログ「地形図を見るサイト-デンマーク」で詳述している。

掲示物などでどうしても大判用紙に印刷したいという場合は、ノーディスク・コートハネル社でオンデマンドのプリントサービス「ディトコート DitKort(英語で Your Map)」が利用できる。1枚あたり295クローネ(1クローネ16円として4,720円)もするので、個人が気軽に購入するようなものではないが。

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1:25,000現行図(DTK/Kort25)
2020年4月取得

紙地図時代のデンマークの地形図は、ドイツ並みのきめ細かさをよりモダンなスタイルで表現していた。ここでその内容を見ておきたい。

市販される地形図の縮尺体系は1:25,000、1:50,000、1:100,000の3種があった(下注)。先述のように1:25,000は4cm(センチメートル)図と呼ばれており、同様に1:50,000は2cm図、1:100,000は1cm図だ。地図の表紙にも「1:25,000(4 CM)」のように記されている。

*注 このほか1:10,000図が受注販売されていた。1:200,000以下の小縮尺図も市販されていたが、地形が描かれていないので「地形図」の範疇に入れていない。

 

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センチメートル図の索引図
 

上図は、2000年版の地図カタログに掲載されていた索引図だ。太枠が1cm図(1:100,000)の図郭になり、中央に記された4桁の数字(例:1318)が図番を表している。前2桁が東西方向、後2桁が南北方向の配列を示すマトリクスだが、おそらく国家間の関係が深かったフランスに倣ったものだろう。ドイツも同様の方式だが、前2桁が南北、後2桁が東西で、組み合わせが前後逆になっている。

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1:25,000(4cm図)
表紙
 

その図郭を縦2×横2=4等分したものが、1:50,000(2cm図)の図郭になる。図番は4桁の数字+ローマ数字(例:1318 II)で表される。これをさらに4分割したものが1:25,000(4cm図)の図郭になり、図番の構成は4桁の数字+ローマ数字+方位の略字(東=Ø、西=V、北=N、南=S)だ。これにより、例えばユラン半島北端の1:25,000フレズレクスハウン Frederikshavn 図葉の図番は、1318 II SØ となる。

3種のうち最も大縮尺の 1:25,000(4cm図)は、全土を405面でカバーする。黒、茶、青、緑の4色刷で、図郭はおよそ東西14km×南北11.25kmのエリアを収める。等高線は5m間隔だが、急傾斜地以外は2.5mの補助曲線が挿入されるため、この縮尺としては精度が高い部類に入る。最高地点でも標高170mという、起伏の小さな国土ならではの繊細さだろう。

地物の描写も明瞭さが際立つが、それはシャープな線描と面塗りの巧みさから来るもののようだ。

下図は首都コペンハーゲンの中心街だが、建て込んだ市街地は街区ごと黒の太線で囲み、中を濃いめのグレーで塗っている。一方、その下の図のような戸建ての住宅地は独立建物の記号を置き、区画を細線で描いて、薄めのグレーで塗る。印版は黒一色だが、塗りのトーンや図柄の違いで、市街地の性格が判別できるようにしているのだ。ただし注記が少なく、公共施設の記号もないので、残念ながらこれを実際の道案内に使うのは難しい。

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1:25,000(4cm図)市街地の描写例
1513 I SØ København Syd 1988年
 
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1:25,000(4cm図)
(上)水部の表現 (下)森林の表現
1513 I NØ København Nord 1987年
 

土地の景観はハッチや色版の掛け合わせで巧妙に表現されている。上図のように点在する水辺では水面と湿地の区別が、森林では広葉樹林と針葉樹林の区別が明確で、針葉樹林を表す緑色と青色の重ね塗りは特に美しい。また、風車小屋、発電用風車の大/小と、風がらみの記号が多いのは、土地の特徴を示すものだろう(下掲の凡例参照)。

なお、現行の地図データベースも、1:25,000(Kort25)だけは紙地図の図式を用いたクラシックスタイルで公開されている。

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1:25,000(4cm図)凡例の一部
 
Blog_denmark_50k
1:50,000(2cm図)
表紙
 

1:50,000(2cm図)は109面ある。図郭は4cm図の4面分、すなわち東西28km×南北22.5kmの範囲になる。色版は4cm図の4色に赤が加わり、5色だ。この色は道路や中心市街の塗りに使われ、本来なら目立つ存在だが、ここではオールドローズ(灰色がかったバラ色)のため、図全体が落ち着いた色調になっている。

等高線は、4cm図と同じ5m間隔で描かれており、傾斜地ではかなり稠密だ。日本の地形図を見慣れた目には、険しい崖の連なりを想像してしまう。

一方、地図記号は細部で4cm図と異なる点が多い。縮尺の制約もあり、市街地は総描家屋として描かれる。しかし、中心街に赤の面塗りを置くのはなかなか効果的だ。森林は針葉樹と広葉樹を区別しなくなり、湿地・沼地の分類も一様ではない。

個人的に2cm図は、4cm図にもまして、北欧の大地を想起させる涼やかで、かつ引き締まった図面が好ましいと思う。下の図で、それと現行のデジタル図(Kort50)を並べてみた。現行図は面塗り主体のために塗り絵のようで、配色も、紙地図のそれを参考にしているとはいえ、明らかに調和感に欠ける。惜しいことに、2cm図は公開サイトでの対象から外れているので、今や幻の地図になってしまった。

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(上)1:50,000(2cm図)1214 I Silkeborg 1993年
(下)1:50,000現行図(DTK/Kort50)
 
Blog_denmark_200k
1:200,000図表紙
 

1:100,000(1cm図)については次回紹介するとして、最後に、センチメートル図の体系に含まれない1:200,000以下の小縮尺図にも触れておこう。

1:200,000 はかつて、全国を4面でカバーする「道路地図 Færdselskort」として作られていた。紙地図廃止後もノーディスク・コートハネル社に引き継がれ、しばらくの間刊行が続けられた。

内容は下図のとおりで、等高線などの地勢表現は省かれており、その点で「地形図」ではない。案内所、キャンプサイトといったレジャー情報の記号が設けられ、有名な観光ルートであるマーゲリート・ルート Margueritruten にはミントグリーンの縁取りが施されている。表紙はそっけないが、旅行地図の要素を盛り込んだ地図だ。

このほか、1989年の地図カタログには、1:300,000のポスター地図、1:500,000と1:750,000の概観図 Oversigtskort が挙げられている。

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1:200,000
4 Sjælland og Bornholm 2006年
 

次回は、1:100,000(1cm図)とそれを基に作られた地図帳について。

(2020年5月1日全面改稿)

使用した地形図の著作権表示
Contains data from Styrelsen for dataforsyning og effektivisering, "Høje målebordsblade","Lave Målebordsblade", "4cm-kort", "DTK/Kort25", "2cm-kort" and "1:200,000" May 2020

■参考サイト
データ供給・効率化局 https://sdfe.dk/
同 地図サービス https://www.kortforsyningen.dk/
ノーディスク・コートハネル社 https://www.scanmaps.dk/
デンマーク大百科事典 Den Store Danske http://denstoredanske.dk/

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