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2009年11月19日 (木)

ドイツの鉄道地図 V-キュマリー+フライ社

長年、スイスの公式交通地図を刊行し続けているキュマリー・ウント・フライ社 Kümmerly+Frey(K+F と略する)のカタログに、今年(2009年)新たにドイツの鉄道地図が加わった。タイトルは「ドイツ鉄道旅行地図 Rail Travel Map Deutschland / Rail Travel Map Germany」で、大判用紙の片面に、縮尺1:800,000でドイツ全土の鉄道路線を描いたものだ。編集はバイルシュタイン社 Beilstein の手による。地図に添付された68ページの小冊子には、主要駅の構内図と地名索引を収めている。

Blog_germany_railmap7
ドイツ鉄道旅行地図 (左)表紙 (右)裏表紙
 

本ブログの「ドイツの鉄道地図 II」でドイツ交通クラブVCDの、ほとんど完璧に近い全線全駅地図を紹介したが、同じジャンルに新商品を投入するからにはそれなりの勝算があるに違いない。事実、VCDの地図とは内容がかなり異なり、タイトルどおりトラベルマップを志向していることは明白だ。

鉄道は、高速線を青で、在来線を赤で、貨物線(旅客列車が廃止された路線を含む)を灰色で描き、さらに電化/非電化、狭軌などの区別がある。列車種別や運行頻度を線の色や太さで細かく表現しようとしたVCDに比べると、ごくオーソドックスな分類といっていい。バス路線の記号も設けられているが、表示区間は極めて限られている。駅は、全て表示されているわけではない。縮尺上の限界で描ききれない都市近郊だけでなく、地方でもVCDに比べて間引かれている。それに対して、地名は鉄道路線に関係なく豊富に記載され、添付の索引ですべて検索できるようになっている。また、時刻表番号が、バスや航路を含めて路線にもれなく付されている。

Blog_germany_railmap7_detail1
サンプル図
(上はケルン~ボン付近、
下は駅構内図)
裏表紙の一部を拡大
 

鉄道旅行用の地図なのだから、時刻表とのリンクは当然といえば当然だが、それ以外にも旅心を誘うしかけが用意されている。たとえば、蒸気機関車が走る保存鉄道は、運行区間をオレンジの線で重ね書きしたうえ、蒸機のマークをつけ、さらに欄外の余白に運営団体のURLまで列記している。また、シーニック・ルート(景勝区間)には緑の線が引かれ、訪れる価値がある町にも緑のアンダーラインが添えてある。森林にやや濃い緑の網掛けを施しているのも、類図にはあまり見られないことだが、地勢を示す細かいぼかし(陰影)と重ねたために、錯雑感が出てしまったのは惜しい。

シーニック・ルートといえば、トーマス・クックのヨーロッパ鉄道地図 The Thomas Cook Rail Map of Europe に偉大な先例がある。試しに、両者で同じルートが選ばれているのか比べてみた。結果は、両者重なってはいるものの、K+Fのほうが明らかに区間を限定する傾向があることがわかった。言い換えれば、基準が厳しいということだ。

極端な例では、南部のバイエルンアルプス Bayerische Alpen 北麓のミュンヘン München からリンダウ Lindau へ行く路線(時刻表番号970)など、クックではブーフロー Buchloe 以西約150kmを全線推薦するのに対して、K+Fはケンプテン Kempten 南郊のわずか5km余りだけが対象だ。西側の車窓で湖が見える点が評価されたらしい。逆にクックが無視している北部や中部の路線の景色でも、K+Fはこまめに拾っている。その審美眼は地形図で確かめると納得がいく。

Blog_germany_railmap7_detail2
サンプル図(ベルリン)
画像は http://beilstein.biz/ から取得
 

K+F図で特に斬新なのは、凡例、すなわち地図記号の意味を説明する個所だ。通常なら公用語のドイツ語のほかに英語やフランス語など主要言語が併記されるところだが、右写真のとおり、文章が一切なく、ピクトグラム(絵文字)が組合せてあるだけだ。EUの公用語は23もあるそうだし、まして非ヨーロッパ圏からの旅行者にも理解してもらうには、ヨーロッパの駅で普及しているこの方式が最適ということだろう。

写真の地図記号を解釈すると、左列の1行目のピクトグラムは左から高速線、標準軌(1435mm)、電化の意味だ。2行目の最初の記号は、先頭車マークの横顔が平板なので在来線、3行目の最初の記号は、パンタグラフがないから非電化を表している。4行目の2番目の記号は上と紛らわしいが、よく見ると1435mmの前に「小なり」記号があり、線路幅も狭めなので狭軌線と判断がつく。右列2行目の4番目の記号は貨車なので貨物専用線だ。4行目はバス路線、5行目は航路(外洋と内陸河川)だとわかるが、6行目の船と列車の組合せが、車両を航送するフェリーだとすぐに気づくだろうか。駅で見かける切符売り場やコインロッカーの記号と違ってオリジナルマークなので、ものによっては判じ物に近い。できるなら自然言語を書き添えてほしいところだ。

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説明文のない凡例
 

表紙にある四角の中の蜂の巣のようなマークはビータグ BeeTagg といって、携帯電話でおなじみのQRコードより新しい二次元コードだそうだ。ピクトグラムといい、このコードといい、紙の地図でもまだまだ人を驚かせることができるぞと言いだけな編集姿勢が小気味よい。K+F社とバイルシュタイン社の共同作業は「レールマップ・ユーロップ(ヨーロッパ鉄道地図)」に次いで2作目だが、まだ作業中の企画があるという。次はどの国の鉄道が描かれるのか、同社のサイトから当分目を離せない。

■参考サイト
バイルシュタイン社 http://www.beilstein.biz/
キュマリー・ウント・フライ社ショッピングサイト http://www.swisstravelcenter.ch/
 上記だけでなく、アマゾンや紀伊國屋BookWebでも扱っている。

★本ブログ内の関連記事
 ドイツの鉄道地図 I-DB公式地図
 ドイツの鉄道地図 II-ドイツ交通クラブ(VCD)
 ドイツの鉄道地図 III-シュヴェーアス+ヴァル社
 ドイツの鉄道地図 IV-ウェブ版

 ドイツの鉄道時刻表

 K+F社、バイルシュタイン社の鉄道地図は、下記でも紹介している。 
 スイスの鉄道地図 I-キュマリー+フライ社 
 ヨーロッパの鉄道地図 IV-キュマリー+フライ社
 イタリアの鉄道地図 I-バイルシュタイン社

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