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2009年11月14日 (土)

ドイツの鉄道地図 III-シュヴェーアス+ヴァル社

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ドイツ鉄道地図帳
1994年版表紙
 

以前、ドイツの保存鉄道について調べる機会があった。蒸機の本線走行から軌間600mmの森林鉄道まで、多様な形態の動態保存が至るところで行われている。それは筆者の想像を超えるボリュームだった。リスト編集の際に参考にしたのは、10年以上も前に買ったシュヴェーアス・ウント・ヴァル社 Schweers+Wall の「ドイツ鉄道地図帳 Eisenbahnatlas Deutschland」(1994年版、右写真)だ。

これは、今や定評を得ている同社の鉄道地図帳シリーズの中でも、記念すべき最初の作品だ。その後、2004年にスイス編、2005年にオーストリア編と、カバーするエリアは徐々に広がってきた。しかし、ケルン Köln に本拠を置く同社にとって、地元読者の層は特に厚いと見え、ドイツ編は唯一、定期的に改訂されている。公式サイトによると、最新は2009/2010年版だ。筆者はさすがに毎回購入するほどの情熱は持ち合わせていないので、手元にある2005/2006年版を用いての説明になることをお許し願いたい。

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ドイツ鉄道地図帳 2005/2006年版
(左)表紙 (右)裏表紙
 

かつての1994年版の仕様は、今から思えばイギリスのベーカー鉄道地図帳に似ていた。水部だけを描いた背景に現存線中心の路線図が載っているという飾り気のない図面で、索引を含めても138ページしかない。それに対して、2005/2006年版はフルカラーになり、休止線や廃止線のルートも細かに記載されて、充実度は格段に向上している。ページ数も208ページと大幅に増えた。そのうち、鉄道地図が151ページを占め、残りは駅名索引や鉄道会社一覧などの資料に充てられている(上写真)。

地図の縮尺は1:300,000だ。スイス編やオーストリア編の1:150,000に比べると小縮尺だが、スイスの8.6倍の面積を有する国なので、1冊に収めるならこのあたりが妥当な縮尺なのだろう。精度を補うために、主要都市とその近郊については、縮尺1:50,000~1:100,000の拡大図が多数用意されている。

使われている記号は基本的にシリーズ共通で、線路に関しては幹線/地方線、単線/複線、電化方式、狭軌線、貨物線、休止・廃止線、予定線、そして運行者と線路所有者名(日本でいう第二種、第三種)、DBの線区番号と時刻表番号と、実に豊富だ。これに旅客駅、貨物駅、操車場といった施設記号が添えられ、都市部の拡大図ではトラムや地下鉄が青色で加わって、ますます賑やかになる。

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ケルン付近の拡大図(裏表紙の一部を拡大)
 

地図記号に注目すると、ドイツ編独自のものも見受けられる。たとえば近郊列車Sバーン S-Bahn、地下鉄U-Bahnの停車駅の記号だ。スイスやオーストリアでもドイツに倣ってSバーンと呼ぶのだが、地図には表示せず別表にまとめているのだ。可動式橋梁という記号も独特だろう。低地が続く北海やバルト海の沿岸に見られる、船舶を通すために橋桁が動く橋のことだ。橋桁が回転する旋回式、上に引き上げる昇開式、両側に跳ね上げる跳開式と、記号で方式まで分かる。

凡例に上がっていないものでは、急勾配の表示がある。南部バイエルンアルプスを除けば土地の起伏は比較的緩やかだが、ライン川の側壁やテューリンゲン森、黒森(シュヴァルツヴァルト)などには、局所的に普通鉄道で60‰前後という相当急な坂道が存在する。そういう区間には、道路地図で見かけるような、V字を縦に重ねた記号に最急勾配の数値が添えられている。凡例にはないが、アルプス山中ではいくつかチェアリフトの記号も見つかった。

休止線、廃止線の活用法がわかるというのもユニークだ。休止線を保線用の軌道自転車で走行できる場合はそれ(ドイツ語でドライジーネ Draisine)を模した記号、廃線跡を転換した自転車道には自転車の記号が付されている。現役の路線だけでなく、役目を終えた路線の行く末にも注意が払われているのはファンにとってうれしい。

ところで、ドイツ鉄道地図帳にはDVDに格納されたデジタル版もある(現時点では2008年版が最新)。価格が冊子の40ユーロに対して58ユーロと割高なだけに、広告ではそれに見合う高機能性を盛んにアピールしている。たとえば、概観図から詳細図へ、ワンクリックで拡大や並列表示ができる。現役線だけを表示したり、廃止線を加えたり、あるいは植生や施設の説明などの表示をオンオフしたりと、レイヤーの選択によって情報を自由に組合せられる。各種データをテキスト形式で利用することもできる。

カーナビを使い慣れた人なら、冊子よりも親近感が湧くかもしれない。地形図のデジタル提供が進んでいるが、鉄道地図を同じように進化させた例は、おそらくこれが最初だ。

この地図帳は、アマゾン、紀伊國屋といった日本のオンライン書店でも取り扱っているので、容易に入手できる。

(2006年11月3日付「ドイツの鉄道地図 II」を改稿)

■参考サイト
シュヴェーアス・ウント・ヴァル社 http://www.schweers-wall.de/

★本ブログ内の関連記事
 ドイツの鉄道地図 I-DB公式地図
 ドイツの鉄道地図 II-ドイツ交通クラブ
 ドイツの鉄道地図 IV-ウェブ版
 ドイツの鉄道地図 V-キュマリー+フライ社

 ドイツの鉄道時刻表

 シュヴェーアス・ウント・ヴァル社の鉄道地図帳については、以下も参照。
 スイスの鉄道地図 III-シュヴェーアス+ヴァル社
 オーストリアの鉄道地図 I
 ヨーロッパの鉄道地図 VI-シュヴェーアス+ヴァル社
 イタリアの鉄道地図 II-シュヴェーアス+ヴァル社
 フランスの鉄道地図 VI-シュヴェーアス+ヴァル社

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