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2009年10月 1日 (木)

オランダの地形図地図帳 III-20世紀の旧版図ほか

オランダの地形図を収録した地図帳について、前々回は現行地形図、前回は19世紀の旧版地形図を、それぞれテーマにしたものを紹介した。最終回は、20世紀の旧版地形図その他の企画ものをいくつか挙げよう。

「オランダ地形図地図帳1955~1965 Atlas van Topografische Kaarten Nederland 1955-1965」全1巻
1:50,000地形図(1955~65年) 2006/2007年
12州出版社 Uitgeverij 12 Provinciën 刊

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オランダ地形図地図帳1955~1965
 

1:50,000地形図は、1903年から現在の図郭で刊行され始めた。19世紀の軍用地形図TMKを基図に使いながら、1kmグリッドを重ね、道路網、市街地など主要な地物に着色するという仕様だ。初期は、単色の地図の骨格を色で強調するものだったので、耕地や砂礫地のような広い面積を占めるものはまだ着色の対象でなかった。

しかし1930年代になると、それらにも色が配されて、「塗り残し」が少なくなる。全体がカラフルになっていく一方で、TMK図に由来する繊細な線描も残されており、過渡期特有の混然とした、しかし見ごたえのある図面が特徴だ。

地図帳に収録されているのは、この図式が全土をカバーしていた1960年前後、約10年間の刊行図だ。1:50,000は1959年の図式改訂でTMK様式を脱し、同時に総描化の傾向が強まるのだが、この地図帳ではまだ大部分が旧図式で、貴重な地図資料になっている。

地図帳の判型は35×25cm、全314ページのうち地図は276ページを占める。現行図の地図帳と図郭の切り方を揃え、かつ1kmグリッドの座標値を図枠に記載してあるので、新旧の対比がすぐにできる。ANWB刊行の地図帳(下注)とはヴリーラント島 Vlieland 以降2ページ分ずれるが、自社版の最新地図帳ではおそらくページ数も合致させているはずだ。なお、判読には支障がないが、地図画像は現行図ほどシャープではない。

*注 タイトルは「ANWBオランダ地形図地図帳 ANWB Topografische Atlas Nederland」。本ブログ「オランダの地形図地図帳 I-現行図」で紹介。ヴリーラント島については、4ページを要するところ、図郭の移動で2ページに収めている。

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ぼかし(陰影)を用いた砂礫地の表現
Zandvoort 1960年
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細密画のような地籍界の表現
Oosterhout 1959年
 

発売時の広告には、「若かりし頃の地図帳 Atlas van mijn jeugd」とキャッチコピーが打ってあった。この時代、オランダでもまだ多くのローカル鉄道路線が残り、幹線と小さな町とを結んでいる。アムステルダムの海への出口、北海運河 Noordzeekanaal は拡幅される前で、フレヴォラント Flevoland の大規模干拓も南半分は未達成だ。それに市街地の輪郭がどこも小ぢんまりしていて、隣町との距離が遠く感じられる。

確かに、19世紀図との比較では、あまりの変貌ぶりに目を見張るしかなかったが、この地図帳の舞台は、第二次世界大戦後の経済成長期だ。すでに構築されている近代交通網を手掛かりにすれば、「若かりし頃」と現在との差分を見つけ出す作業はたやすく、それだけにやりがいもあるだろう。

「地形図対比地図帳 Topografische Dubbelatlas」全1巻
1:200,000軍用地形図および2001年旅行地図を対比 2001年初版
バイテン・エン・スヒッペルハイン Buijten en Schipperheijn 社

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地形図対比地図帳
 

地図の新旧対照を1冊で完結できる地図帳も作られている。オランダ語でデュッベルアトラス Dubbelatlas(英語の Double Atlas、以下「対比地図帳」と記す)と言われるもので、見開きページの左右に、同じ図郭の旧と新の地図がレイアウトされて、比較作業を容易にしている。

2001年に刊行されたバイテン・エン・スヒッペルハイン社の「地形図対比地図帳 Topografische Dubbelatlas」が、おそらくその最初だ。赤と紺に塗り分けた表紙が目を引くこの地図帳は、縮尺1:200,000の新旧地図を対比させている。

旧のほうは、1868年に陸軍省地形局が作成した「オランダ王国地形図集成 Topografische atlas van het Koninkrijk der Nederlanden」の単色石版印刷図で、オリジナルは区分図19面と索引図1面から成る。新のほうは、2001年スミュルデルスコンパス社 SmuldersKompas-cartografie 製で、基本仕様はANWB社の旅行地図に使われているものだという。

装丁もユニークで、旧の綴りと新の綴りを表紙の内側でつなげた形にしてあり、左右とも開くと4ページ分を一気に見ることができる。1:200,000は小縮尺図のため、内湖や湾の干拓地の拡大や、交通網の変遷といった広範囲の経年変化を概観するのに適している。

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左右を開いた状態(測量局のカタログより)
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1:200,000旧図の例 アムステルダム周辺(第9図の一部)

「州別地形図対比地図帳 Topografische Provincie Dubbel Atlas」
1:50,000地形図1955~65年および2000年代を対比 2007~2009年初版
12州出版社 Uitgeverij 12 Provinciën 刊

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南ホラント州地形図対比地図帳
 

これは1:50,000地形図の州別ダブルアトラスで、実際の書名では、州名が入り、たとえば「南ホラント州地形図対比地図帳 Topografische Dubbelatlas Zuid-Holland 1:50.000」(右写真)となる。内容は、冒頭で紹介した「若かりし頃の地図」すなわち1:50,000の1955~65年版と、おおむね2000年以降の地形図で、前者を見開きの左側、後者を右側に配置している。

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表紙の地図対比部分を拡大
 

縮尺も1:50,000(図上1cmが実長500mを表す)になると、街路や小水路のレベルまで読み取れるので、より詳細な新旧比較が可能になる。ただ、印刷用紙が自然色のしっとりした材質のため、インクが沈んで、やや暗い仕上がりになったのが残念だ。墨1色の地図ならともかく、鮮やかな色塗りが持ち味のオランダの地形図にこの用紙は向いていない。

地図帳は、北ホラント州 Noord-Holland、南ホラント州 Zuid-Holland、ユトレヒト州 Utrecht、ゼーラント州 Zeeland の4点まで出たが、その後続刊はないようだ。収録された地形図はすでに他の地図帳で取り上げられたもので、それを合体し、州ごとに分冊したに過ぎない。さすがに柳の下のどじょうは何匹もいなかったのだろう。

ほかにも、都市図により主要都市の成り立ちをビジュアル化した「歴史地図帳 Historische Atlas」や、地図の代わりに衛星写真で国土を眺める「衛星写真帳 Satellietbeeld Atlas」など、さまざまな派生品が次々と刊行され、オランダの地図出版は傍目に羨ましいほどの隆盛ぶりを見せた。

2010年代に入ると、新旧を問わず地図資料の多くがウェブサイトでも提供されるようになり、刊行ラッシュは下火になりつつある。とはいえ、こうしたジャンルの書籍の集積は他国ではあまり見られないもので、出版界の得がたい収穫であったことは間違いない。

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デン・ハーフ歴史地図帳
 

使用した地形図の著作権表示 © Kadaster, 2021

(2021年8月3日改稿)

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