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2009年10月22日 (木)

オランダのサイクリング地図

クラシックな街乗り用、それがオランダ製自転車の典型的なスタイルだ。王室ご用達のガゼル社 Royal Dutch Gazelle が有名だが、黒塗りで、チェーンガードやドレスガードがつき、バックペダルブレーキも健在で、いかにも実用本位という印象がある。国外ではダッチバイク Dutch Bike の名で知られるこのタイプを、現地ではオマフィツ omafiets(発音は「オ」にアクセント)と呼んでいる。訳すと、おばあちゃんの自転車(つまり、ババチャリ?)だそうだ。


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ドレスガードのついたオマフィツ
Source from https://www.flickr.com/photos/23672158@N04/. License: CC BY 2.0
 

オランダからドイツ北部、デンマークと、北海に面する一帯はヨーロッパの中でも自転車の利用率が高い地域なのだが、中でもこの国は自転車王国を自認する。自転車協議会 Fietsberaad の資料によると、2004年の1人あたり自転車保有台数はドイツ0.77台、デンマーク0.83台に対して1.11台と、人より自転車の数のほうが多い。1人でレジャー用と通勤通学用の2台を使い分けるのも珍しいことではない。

なぜそれほど自転車が普及しているのだろうか。地形が平坦なことはこの地域に共通する特徴だが、平坦ゆえの強い風が利点を相殺してしまう。そうではなく、最大の要因は国の政策にある。たとえば、車は市街地に入りにくくされ、駐車場は少なく、時間制限がある。車と自転車の衝突事故では法律上、車の側に厳しい責任が課せられる。一方で自転車通勤者には、所得税控除の制度があるという。


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自転車優先の街路
Photo by Maurits90 at wikimedia. License: CC0 1.0
 

このように、クルマよりも自転車が有利だと思わせる施策が徹底されている。その結果、外出の際の交通手段を聞いた調査でも、自転車で行くという回答が、距離が7.5kmまでなら34%に達し、自動車利用の36%と拮抗している。高速道路の無料化を検討しているどこかの国も、本来取るべき方向はこちらのほうではないだろうか。

自転車の普及には、専用道 fietspad(英語の cycle path)の整備も寄与している。LF-route という略称が定着している自転車国道 Landelijke Fietsroute の総延長は、4500kmに及ぶ。さらに、地方自治体や地域の民間団体が管理する地方道がある。LFルートを長距離旅行用とすれば、地方道の周遊ルート Rundfahrten や支線網は、所用や日帰り旅に利用されている。

各自転車道が交差する地点、すなわち接続ポイント Knotenpunkt には、高速道路のインターチェンジのように番号が振られているし、町に入れば観光案内所 VVV(フェーフェーフェーと読む)や自転車店で必要な情報が手に入る。自転車旅行が当たり前にできるシステムが見事に構築されているのだ。

■参考サイト
自転車協議会 Fietsberaad http://www.fietsberaad.nl/
LFルート http://www.fietsplatform.nl/routes/
ガゼル社 http://www.gazelle.nl/


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自転車道の標識
Photo by Steven Lek at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
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ポルダーを水路に沿って走る
Photo by J Doll at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0

さて、ドライバーのために道路地図があるように、サイクリストには自転車道地図(サイクリングマップ)が必要だ。全国をカバーするものとしては、ANWBとファルク社 Falk が出している。

ANWBの名称は、1883年の創立当時に名乗っていた全オランダサイクリスト連盟 Algemene Nederlandse Wielrijdersbond の頭文字をとったもので、現在の正式名称はANWB王立オランダツーリスト連盟 De Koninklijke Nederlandse Toeristenbond ANWB という。業務範囲は百数十年の間に、自転車から自動車、保険、旅行情報の分野へと拡大してきた。地図出版もその一環だ。

興味深いのが、1919年から継続しているという、路傍に道標を設置する事業だ。そのずんぐりした形状から、きのこを意味するパッデストゥール paddestoel と呼ばれる道標は、国じゅうのいたるところで黙々と道案内に携わっている。ANWBの中縮尺図を見れば、「きのこ」のある場所とその識別番号がわかる。


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ラーレン Laren にある最初の「きのこ」(レプリカ)
Photo by Atsje at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 
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ANWB地形図 ANWB Topografische kaart」はその名が示すように1:50,000官製地形図を独自の図郭で集成した、全国を25面でカバーするシリーズだ(右写真はその一つ、フェーリュウェ北部 Noord-Veluwe。下はシリーズの索引図)。耐水性のある合成紙を使い、両面印刷されている。

表紙に「自転車道とANWBきのこを追加 Met fietspaden en ANWB Paddenstoelen」とあるように、この2種の地図記号だけがオリジナルとの相違点だ。地形図がベースマップなので、一般的な情報量は申し分ないが、自転車地図として見ると、区間距離の記載がなく、市街地の自転車道が省略されているなど、物足りない部分もある。


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ANWB地形図シリーズ 索引図
 
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それに対して、「ANWBサイクリング地図 ANWB Fietskaart」(右写真)はANWBのオリジナル地図だ。縮尺は1:75,000、普通紙に両面刷りで、全国を17面でカバーする。ベースマップは交通網、市街地、水部、植生などを表した比較的シンプルなデザインに抑えられ、等高線のような地勢表現もない。

自転車道に関する情報(LFルート、区間距離、接続ポイント)が目立つように濃い色で置かれ、さらに道路勾配、修理工場、案内所、「きのこ」、それ以外の目標物(駐車場、発電所、灯台、テレビ塔など)、自然・文化施設といった記号が配されている。余白には、収録地域の見どころの紹介がある。

また、これを地図帳に仕立てた「ANWBサイクリング地図帳 ANWB Fietsatlas」も刊行されている。A5版のコンパクトサイズで、北部と南部の2分冊となっている。

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ANWBが黄色系の表紙をまとうのに対して、ファルク社のサイクリング地図は、緑の表紙だ。VVVのマークを大きく掲げて、地域の観光局とのタイアップを強調している。区分図の縮尺は1:50,000で、普通紙に両面刷り、全国を20面でカバーする(右写真。下はシリーズの索引図)。

ベースマップはオリジナルで、縮尺は違うもののANWB版と同じようなつくりだ。ただし、1:50,000という少し大きめの縮尺を生かして、道路網や目標物の表示はANWBより詳しく、市街地の自転車道もきちんと描き込まれている。LFルート、区間距離、接続ポイントといった必須情報に漏れはないが、ライバル(?)の「きのこ」には言及していない。

裏面には、全長40km前後の日帰り周遊推奨コースがいくつか紹介されているので、具体的な旅行のイメージが作れるだろう。町や村のVVVの連絡先やURL、ささやかながら地名索引までつけられて、丁寧に作られた地図だ。


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ファルク サイクリング地図シリーズ 索引図
 

これらの地図は、欧米の主要な地図商で扱っている。

■参考サイト
ANWB http://www.anwb.nl/
オランダ・ファルク社 http://www.falk.nl/

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