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2009年9月17日 (木)

オランダの地形図地図帳 I-現行図

地形図 Topographic map を集めて冊子に綴った地図帳のことを、英語でトポグラフィック・アトラス Topographic atlas と呼ぶ。日本語には適切な訳語がないので「地形図地図帳」としておくが、オランダではこの種の出版企画が盛んに行われてきた。

「オランダ地形図大地図帳 Grote Topografische Atlas van Nederland」全4巻
縮尺1:50,000 1987年初版
ヴォルテルス・ノールトホフ Wolters-Noordhoff 社刊

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オランダ地形図大地図帳第1巻初版
 

地形図地図帳のブームの扉を開いたのが、全4巻のこの地図帳だ。第1巻は西部編、第2巻は北部編、第3巻は東部編、第4巻は南部編で、一部のエリアを重複掲載させながら、当時110面あった1:50,000地形図をすべて収録している。各巻は序論10ページ、地図の部102~126ページ(巻によって異なる)、地名索引31~48ページ(同)から成る。

序論は、地図測量の歴史に始まり、地形図の製作過程や、縮尺・投影法・座標などを解説する。記述はオランダ語のみだが、参考図版に、フェルメールゆかりのデルフト Delft の町を描く年代別の地図4点(1750年、1821年、1857年、1981年)が掲げられていて、眺めるだけでも楽しい。

地図の部は、見開き(2ページ分)それぞれに東西20km×南北13kmの範囲が収められている。これは1:50,000地形図の図郭(東西20km×南北25km)を南北に2分割したものに相当するが、中央の南北1km分は重複して掲載される。

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同 索引図の一部
太字の1~103は地図帳のページ、
赤字の4W~52Wは1:50,000地形図の図番を表す
 

オリジナルの図版が使用されており、描線はシャープで鮮明だ。ただ、地図の編集年次は1972年から1986年と、場所によって最大14年もの開きがある。その間に図式改訂が実施されているので、新旧図式が混在するのはやむをえない。

編集者の記した序文に、企画のねらいがうたわれている。「ふつうの地図帳は、地平線のかなたに何があるのかという私たちの好奇心を満たしてくれますが、オランダ地形図大地図帳は、身近にあるものに対する関心を呼び覚まします。ほとんどの地図帳はオランダがいかに小さいかを示しますが、この地図帳はどれほど大きいかを明らかにします。」

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1:50,000旧図式の例
Gorinchem 1982年
 

このような地図帳の刊行はすでに1970年代から計画されていたそうだ。ハンディなサイズを志向して地図を最大で50%まで縮小(1:100,000相当)する案もあったが、最終的に実現したのは、原寸のままの忠実なコピーだった。しかし、判型をA4サイズにし、分冊化することで、扱いやすさに最大限の配慮がなされた。

出版元はフローニンゲン Groningen にあるヴォルテルス・ノールトホフ Wolters-Noordhoff 社だが、これは当時、測量機関の「地形測量サービス Topografische Dienst」が財政難で、自ら出版のリスクを負う余裕がなく、複数の出版社に企画の引き受けを打診した結果だという。

「州別大地図帳 Grote Provincie Atlas」全11巻
縮尺1:25,000 1988~91年初版
ヴォルテルス・ノールトホフ Wolters-Noordhoff 社刊

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南ホラント州大地図帳
 

幸いにも1:50,000地形図地図帳の売れ行きは好調で、その後、内容を更新して重版(1989年~)するに至った。気をよくした測量機関と出版社は、すぐに次のアイデアを実行に移した。それが、描写がより詳細な1:25,000地形図を用いた「州別大地図帳 Grote Provincie Atlas」だ。判型は同じA4判で、地図は各見開きに、1:25,000地形図の図郭(東西10km×南北12.5km)を南北に2分割した東西10km×南北6.5kmの範囲を収める(中央の南北0.5km分は重複掲載)。

1:50,000と比較して図の面積が4倍になるので、刊行は州ごとの分冊とされた。正式な書名は Grote Provincie Atlas の後ろに州名がつくので、例えば「南ホラント州大地図帳 Grote Provincie Atlas Zuid-Holland」となる。全国に州は12あるのに地図帳が11巻しかないのは、最も新しい干拓地で1986年に独立した州になったばかりのフレヴォラント Flevoland が、ユトレヒト Utrecht 州の巻に含められたからだ。

上記1:50,000地図帳初版で見られたような図式の混在を回避するために、刊行は、新図式による地形図製作が完了した州から順に進められた。そのため、全巻が出揃うまでに1988年から1991年まで3年を費やした。

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1:25,000図式の例
Gorinchem 1989年

「ANWBオランダ地形図地図帳 ANWB Topografische Atlas Nederland」全1巻
縮尺1:50,000 2002年初版
ANWBメディアブック社 ANWB Media Boeken 刊

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ANWBオランダ地形図地図帳第2版
(左)表紙 (右)裏表紙
 

21世紀に入って、地形図地図帳は第2世代に交替した。出版元も、ANWB(正式名称:王立オランダツーリスト連盟 ANWB、De Koninklijke Nederlandse Toeristenbond ANWB)に代わった。ANWBは日本で言うとJAFのような役割を担う組織だが、地図出版の分野でも大手の地位を築いている。

1:50,000版の書名は「ANWBオランダ地形図地図帳 ANWB Topografische Atlas Nederland」だ(写真は2005年第2版、下注)。判型が25cm×35cmと一回り大きくなり、各見開きに横22km×縦16kmの範囲を収める。オリジナルの図郭とは合わなくなったが、その代わり、オランダ全土を1冊にまとめることが可能になった。中表紙を含めて336ページと分厚くなった分、扱いやすさの点では少し後退したかもしれない。

*注 ちなみに2002年初版の表紙は紺色だった。

新しい地図帳の特徴は、地図のページに先立つ序論の部分だ。まず、地形図の製作過程などの解説が7ページあるが、これは第1世代と変わらない。真髄はその後で、地図記号の紹介が18ページも続いている。もちろん通り一遍の対照表ではなく、記号が使われている地図の断片とそれに対応する現地の写真を体裁よくレイアウトしたものだ。

さらに次の16ページは、大河、砂丘、ポルダー(干拓地)、沼地、港、城郭などオランダの典型的景観を地図、空中写真、俯瞰写真の三者で比較する。見開きページ一面に展開するフルカラーの実景写真はたいへん美しく、オランダ語のテキストが読めなくてもそれなりの理解が可能だ。

一方、地形図の本編は274ページあり、デジタル図化に対応した新図式で揃っている。ちなみにこの図式では、市街地の表現が変わった。以前は、道路に囲まれた街区(総描家屋)には、左上からの光源を想定した立体的な影がつけられていたのだが、新図式では街路を黒で描き、家屋の部分は平面的な網掛けになった。道路を際立たせるためか、色も薄めに設定されている。

他にも、高速道路がベルギーやフランスの地形図と同じ紫色になり、独立建物が柿色になり、砂丘のレリーフ表現が省かれるなど、各所に手が入れられている。

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1:50,000新図式の例
Gorinchem 2001年

「ANWB州別地形図地図帳 ANWB Topografische Provincie Atlas」全11巻
縮尺1:25,000 2004~05年初版
ANWBメディアブック社 ANWB Media Boeken 刊

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北ホラント州地形図地図帳
(左)表紙 (右)裏表紙
 

同じように1:25,000州別地図帳の刊行もANWBに引き継がれた。判型は25cm×35cmと1:50,000と同じだ。書名は ANWB Topografische Atlas の後ろに各州名がついて、例えば「北ホラント州地形図地図帳 ANWB Topografische Atlas Noord-Holland」のようになる。

第1世代と同じく、ユトレヒト州とフレヴォラント州は1巻にまとめられているので、全11巻となる。解説ページは1:25,000向けに再編集されているが、地図記号の紹介は、写真が1:50,000地図帳とほとんど同一で、地図の部分だけを1:25,000の図版に置き換えている。その結果、1:50,000地図帳と並べて比較すると、両者の図式の相違点が一目瞭然だ。

地図の部は、各見開きに横11km×縦8kmの範囲を収める。画面が拡大された分、ページ数が減って、本は第1世代よりもスリムになった。

それにしても、さほど安いとも言えないこうした地図帳をどんな層が購入しているのだろうか。手元の資料によると、最大のグループは、自分自身の身近な環境を認識し見極めようとしている人々、平たく言えば地元の(州の)地図帳なら買っておこうという一般市民らしい。第二のグループはレクリエーションや調査・研究など実用に供し、最小のグループが鑑賞用または職業上の理由で買っている。普及の余地があるのは学校教育用だそうだ。

第2世代の表紙を改めて見ると、ずいぶん地味な意匠に感じる。実際、派手なカバーもつけずにこのまま店頭に置かれているのだが、それでも版を重ねる需要が存在するというのは驚きだ。わかりやすい地図表現や扱いやすい形式といったさまざまな工夫が人々の関心を掘り起こすということを、オランダの地形図地図帳は証明しているようだ。

その後、地形図地図帳の刊行は、第3世代というべき12州出版社 Uitgeverij 12 Provinciën に引き継がれた。同社版の1:50,000は当初、全土を1冊にまとめていたが、2016年の新版からは東西南北4分冊となった。1:25,000は州別で刊行された。2021年7月現在、中古品が海外の古書サイトに出回っているほか、地元のネット書店にまだ何種か新本の在庫が残っている。

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12州出版社版地形図地図帳
(左)1:50,000全国版初版
(右)1:25,000北ホラント州版
画像は公式販売サイトより
 

昔のアトラスには、綴った冊子ではなく、ばらの地図をオーダーメイドで箱詰めする方式も存在した。最近、ANWBは「112面地形図セット 112 Topgrafische kaartbladen」と称して、1:50.000地形図全112面を平図のままケースに入れてセット販売しているが、これも本来ならアトラスの範疇と言えるだろう。

ケースの寸法は横44.8×縦55.9×厚さ4.4cm、総重量は4.6kgある。195ユーロ(1ユーロ130円として25,350円)と値が張るが、単価5.90ユーロ(同 767円)の地形図をばらで揃えるくらいなら、ずっと経済的だ。

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ANWB「112面地形図セット」
画像は公式販売サイトより
 

さて、こうした地形図地図帳のブームは、現行(最新)地形図の紹介にとどまらず、さらなるバリエーションを生んでいく。次回は19世紀の旧版地形図を扱った地図帳を紹介する。

使用した地形図の著作権表示 © Kadaster, 2021

(2021年7月18日改稿)

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