ベルギーの旅行地図
この国に旅行するとしたら、人気の高いのは、おとぎの国のように美しい古都ブルージュ(オランダ語ではブルッヘ Brugge)だろうか。それとも、首都ブリュッセル Bruxelles のグランプラスか、アントヴェルペン Antwerpen の大聖堂か。いずれにしても街巡りが中心だから、市販のガイドブックを参考にするか、観光案内所に立ち寄って市街図をもらうといい。
ベルギー国土地理院IGNが刊行している旅行地図はそれとは違って、主として野山歩きのための地図だ。都市名を図名にしたものも多いけれども、内容は市街案内よりも、郊外の散歩道と見どころの紹介に割かれている。それで対象となるエリアも、丘陵から山地へ地勢が展開するベルギー南半(ワロン地域)が中心だ。2008年のカタログではタイトル数180点以上とかなりの数に上るが、手元にあるものだけの紹介になるのをお許し願いたい。
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ナミュール Namur は、ワロン地域を貫くムーズ川 Meuse に西からサンブル川 Sambre が合流する場所に栄えた「ムーズ川の真珠」と称される街だ。合流地点を見下ろす丘の上で、築城の名人ヴォーバン Vauban が再建した要塞が睨みをきかせている。この旅行地図「ナミュール」(右写真、現行第3版は表紙が異なる)は、大判用紙全面を使ってナミュールとその周辺を縮尺1:25,000で表現している(現行第3版は1:30,000)。
ベースマップは1:50 000地形図を単純拡大したものだが、原図の描写がかなり細かいので、かえって細部まで見やすい。市街と要塞付近はカラフルな1:10,000の拡大図も付されている。この上に、ハイキングルート pédestre、マウンテンバイクルート V.T.T.、サイクリングルート Promenade Vélo がカラーで加刷されていて、丘陵のアップダウンが多い道はマウンテンバイク用、川沿いや平原の道は自転車用に設定されていることがわかる。ハイキングルートについては難易度表示がつき、裏面に拡大図と見どころ紹介がある。
説明文は仏語と蘭語だけだが、英・独語による要点記述がある。紹介されているものの中で、要塞の丘を巡る5kmコースやムーズ川渓谷を眺める6.5kmコースなどは、遠来の旅行者にとっても興味深いものだろう。
■参考サイト
ナミュール観光局 http://www.namurtourisme.be/
1:25,000の旅行地図「エルブモン、サン・メダール、ストレモン Herbeumont St-Médard Straimont」(右写真)は、ベルギー最南部、ムーズ川の支流スモワ川 Semois の中流域に位置する。観光地というわけでもないが、これらの河川はアルデンヌ高地の谷底で極端な蛇行を繰り返していて、そこに鉄道が谷を横切るために絡んでくる。筆者としては、その面白さを買ったのだ。
これもナミュール図と同様、ベースは1:50,000の拡大版で南北2面に分けて用紙両面に印刷されている。地図表紙の左上に配された写真は、鉄道がスモワ川を渡るコンク鉄橋 viaduc de Conques(エルブモン鉄橋 viaduc d'Herbeumont と紹介されることもある)で、長さ160m(150mとする文献も)、高さ38mの見事なアーチ橋だ。路線番号163 Aのこの鉄道は、ベルトリクス Bertrix からミュノー Muno、フランスのカリニャン Carignan へ延びていたもので、1914年に開通し、1969年に廃止された。この橋は村の名物で、かなり傷んでいるものの歩いて渡ることができ、ハイキングルートの一部を構成している。
■参考サイト
ベルギー鉄道路線番号163 A http://www.belrail.be/F/infrastructure/lignes/163A.html
「橋ウェブ」コンク鉄橋
http://www.brueckenweb.de/2content/datenbank/bruecken/2brueckenblatt.php?bas=4795
最後は、メルヘンチックな表紙絵をもつ東部地方(東部ドイツ語圏)Ostkantone / Cantons de l'Estのハイキング地図シリーズだ。冒頭の写真がそれで(写真はカタログから転写)、全部で6面あり、1919年にドイツからベルギーに編入された東部地方の全域をカバーしている。右はその中の1点、「ザンクト・フィット地方と上アーメル谷 St.Vither Land & Oberes Ameltal」だ。
ここでもアーチを連ねた鉄道橋がモチーフになっているが、ドイツのアーヘン Aachen とルクセンブルク方面を結んでいたフェン鉄道 Vennbahn の遺構だ。ベースマップは旧版1:25,000地形図で、その上にはろばろとした高原を行くハイキング・トレッキングルート Wanderweg が緑の太線で明示されている。探せば廃線跡をたどるルートも見つかる。また、山小屋、休憩所、宿泊施設、名所旧跡、スポーツ施設などの旅行情報がオリジナルの記号で多数配されているのも特徴だ。優れた統一デザインで、旅心をくすぐる地図群といえるだろう。ちなみに、東部地方観光局 Verkehrsamt der Ostkantone のサイト(下記)には、同地方の地形図や旅行地図を販売するオンラインショップがある。
■参考サイト
東部地方観光局オンラインショップ http://www.eastbelgium.com/2typo3cms/index.php?id=875
発注のみで決済はできないので、別途送金手続きを要する。
なお、本ブログ「ベルギー アン鍾乳洞トラム II」の末尾で紹介したアン・シュル・レッス Han-sur-Lesse の旅行地図も、IGNの手によるものだ。これらの旅行地図はIGNで直販している(下記「官製地図を求めて」参照)。
■参考サイト
「官製地図を求めて-各国地図事情 ベルギー」
http://map.on.coocan.jp/map/map_belgium.html
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