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2009年9月

2009年9月24日 (木)

オランダの地形図地図帳 IIー19世紀の旧版図

話題を呼んだオランダの地形図地図帳の刊行ブームは、扱う対象を、過去に作られた、いわゆる旧版地形図へと拡大させていった。今回は、近代測量の初期段階である19世紀の地形図を復刻した地図帳をいくつか見ていきたい。

なお、旧版地形図の地図帳のことを、英語では Historical topographic atlas のように言うが、これを「歴史的…」と訳すと、歴史を図解した「歴史地図帳 History atlas (Atlas of history)」と紛らわしい。そのため以下では、いささかこなれない言い方ながら「旧版地形図地図帳」と表現している。

「オランダ旧版大地図帳 Grote Historische Atlas van Nederland」全4巻
1:50,000彩色測量原図(1839~59年) 1990年初版
ヴォルテルス・ノールトホフ Wolters-Noordhoff 社刊

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オランダ旧版大地図帳第1巻
 

旧版地形図地図帳の最初の例は、おそらく1990年に刊行されたこの地図帳(以下、旧版地図帳と記す)だ。出版元はヴォルテルス・ノールトホフ社 Wolters-Noordhoff、縮尺は1:50,000、オランダ全土を4巻に分冊し、第1巻が西部編で…、と書けば、前回を読まれた方はお気づきだろう。これは「オランダ地形図大地図帳 Grote Topografische Alas van Nederland」(以下、現行地図帳)と対になる刊行物だ。

現在のオランダ(ネーデルラント連合王国)の成立は、ナポレオン後の政治体制を取り決めた1815年のウィーン議定書に遡る。隣国との国境を画定するために始まった測量事業は、1820年から縮尺1:10,000~1:40,000で国内へも広げられ、東部各州などではかなりの進捗を見せていた。

当時の領土は今のベルギーとルクセンブルクを含むものだったが、1830年のベルギー独立に伴う混乱で図稿が失われ、調査局もヘント Gent からの移転を余儀なくされて、中断する。新体制による国土測量事業は1834年に南部のティルブルフ Tilburg 周辺で再開された。当初は1:25,000の縮尺が採用されたが、その後1:50,000で着々と作成が進められ、1845年には全土に及ぶ規模となった。

旧版地図帳に収録されているのは、この測量成果から調製された手彩色の測量原図(1839~59年作成)だ。この縮尺の原図がない北ブラバント州の一部については、1834~39年に作られた1:25,000原図を代わりに使用している。

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測量原図の例
's‑Gravenhage (Den Haag) 1850~51年
 

この旧版地図帳の特徴は、現行地図帳と内容をリンクさせてあることだ。両者の同じページに同じエリアが掲載されている。そのため、並べれば約150年間の時空を超えて、今と昔をたやすく照合することができる。

たとえば、アムステルダム市街の南西にあるスヒポール Schipol 空港は、オランダの空の玄関口だが、その周辺はかつてハールレマーメール(ハールレム湖)Haarlemmermeer と呼ばれる大きな内陸湖だった。旧版図には、丸い湖面が広がるあっけらかんとした情景が残されている(下注)。市街地や耕地が整然と並ぶ現行図と見比べれば、「世界は神が創造し、オランダはオランダ人が造った God created the world but the Dutch created the Netherlands」という古言が誇張でないことがよくわかる。

*注 この図は1849年製作と記されているが、当時すでに干拓工事が進行中で、1852年に湖の水が抜かれている。

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新旧地図帳の同一ページを比較
(上)旧版図 1849年
(下)現行図 1982年
 

「州別旧版大地図帳 Grote Historische Provincie Atlas」全11巻
1:50,000彩色原図(1839~59年)を2倍拡大 1992年初版
ヴォルテルス・ノールトホフ Wolters-Noordhoff 社刊

ヴォルテルス・ノールトホフ社からは、上記1:50,000彩色測量原図を1:25,000に拡大して(北ブラバント、リンブルフ、東ヘルダーラントなど1:25,000の原図があるエリアは原寸で)、州別に分冊した地図帳も刊行された。これは1:25,000現行地形図を収録した同社の「州別大地図帳  Grote Provincie Atlas」と同じ図郭、同じ図番になるよう編集され、1:50,000と同じように新旧の対比が可能だった。

「1864年オランダ王国軍用地形図地図帳 Topografische en Militaire Kaart van het Koningrijk der Nederlanden 1864」全1巻
1:50,000石版印刷図(1850~64年) 2008年初版
12州出版社 Uitgeverij 12 Provinciën 刊

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1864年オランダ王国軍用地形図地図帳
 

上述した手彩色の測量原図から、後に石版印刷図が調製された。これが「オランダ王国軍用地形図 Topografische en Militaire Kaart van het Koninkrijk der Nederlanden」、頭文字をとってTMKと呼ばれるもので、62面で全土をカバーする。1850年から順次刊行、1864年に完成し、最初の1:50,000地形図シリーズとなった。

12州出版社 Uitgeverij 12 Provinciën が、2008年にこれを1冊の地図帳にまとめて出版している。体裁は上記 旧版地図帳とほぼ同じ(判型23×32cm)で、TMK 1面を4分割(縦横それぞれ2分割)したものを見開き(2ページ分)に収める。序文と地名索引がついて、448ページの大部な冊子になった。

TMKはさまざまな地図記号とルーペが必要なほど緻密な線描を駆使した地形図で、19世紀の航空写真に例えられる。しかし、墨1色刷のため、現代のカラフルな地形図と対比させると訴求力の点でやや劣る。復刻が遅れたのは、同じ内容をもつ彩色原図の旧版地図帳が先に刊行されてしまったのも一因だろう。

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上記測量原図の例と同一のエリア
 

「州別旧版地形図大地図帳 Grote Historische Topografische Provincie Atlas」全11巻
1:25,000ボンヌ図(1865~1933年) 2008年
ニーウラント出版社 Uitgeverij Nieuwland 刊

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ニーウラント出版社版
南ホラント州旧版地形図大地図帳
 

陸軍省地形局 Topographisch Bureau が次に手掛けたのは、2倍の精度をもち、かつ多色刷りの1:25,000地形図「オランダ王国彩色地形図  Chromo-Topografische Kaart van het Koningrijk der Nederlanden」だ。ボンヌ図法を用いていることから、ボンヌ図 Bonnebladen / Bonnekaarten の通称がある。ひときわ鮮やかな色遣いで目を引くオランダ官製地形図の歩みは、ここからスタートした。

人気の高いシリーズだけに、何度か企画に取り上げられており、まず1989~90年に、ロバス出版社 Robas Produkties から「州別旧版地図帳 Historische Provincie Atlas」シリーズとして刊行されている。

これを第1世代とすると、手元にある「州別旧版地形図大地図帳 Grote Historische Topografische Provincie Atlas」は第2世代に相当する。全11巻で、2006年にニーウラント出版社 Uitgeverij Nieuwland から刊行された。実際の書名には州名がついて、「南ホラント州旧版地形図大地図帳 Grote Historische Topografische Atlas Zuid-Holland」のようになる。

地図帳は、見開き(2ページ)にボンヌ図1面をまるごと掲載するスタイルで、余白に図番・図名、図歴、縮尺を記載している。画像は高い解像度を誇り、起伏を表すケバや、水面を覆ういわゆる波状水線、整然と列を成す干拓地の地籍界など、細線を使う記号がシャープに表現されている。ピンクの市街地、緑の濃淡で区別する森林、アップルグリーンの耕地といった色の対比も美しい。

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ボンヌ図の例
's‑Gravenhage (Den Haag) 1903~11年
 

ボンヌ図は足掛け70年近くにわたり刊行されたので、図葉によっては部分改訂も実施されている。地図帳に収録されているのは、おおむね1890~1910年代のものだ。TMK彩色原図の時代から半世紀が経過し、主要都市では市街地の拡張が進行し、幹線鉄道網の間を縫って地方の町を結ぶ軽便路線が各所に出現している。

なお、ボンヌ図の図郭や図番は、現行1:25,000地形図のそれとは異なる。kmグリッドはもとより経緯線の加筆もない。そのため、ヴォルテルス・ノールドホフ社の地図帳同士のように、新旧を対比させようとすると、索引図での同定というひと手間が必要になる。

なお、後に12州出版社から、第3世代というべき「州別旧版地形図地図帳 Provincie Atlas van Historische Topografische Kaarten」が刊行されている。内容は第2世代とほとんど変わらないが、図葉によって異なる改訂年のものを用いている場合がある。

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12州出版社版
ユトレヒト州旧版地形図地図帳
 

次回は、20世紀の旧版地図を扱った地図帳について。

使用した地形図の著作権表示 © Kadaster, 2021

(2021年7月22日改稿)

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 オランダの地形図地図帳 I-現行図
 オランダの地形図地図帳 III-20世紀の旧版図ほか

2009年9月17日 (木)

オランダの地形図地図帳 I-現行図

地形図 Topographic map を集めて冊子に綴った地図帳のことを、英語でトポグラフィック・アトラス Topographic atlas と呼ぶ。日本語には適切な訳語がないので「地形図地図帳」としておくが、オランダではこの種の出版企画が盛んに行われてきた。

「オランダ地形図大地図帳 Grote Topografische Atlas van Nederland」全4巻
縮尺1:50,000 1987年初版
ヴォルテルス・ノールトホフ Wolters-Noordhoff 社刊

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オランダ地形図大地図帳第1巻初版
 

地形図地図帳のブームの扉を開いたのが、全4巻のこの地図帳だ。第1巻は西部編、第2巻は北部編、第3巻は東部編、第4巻は南部編で、一部のエリアを重複掲載させながら、当時110面あった1:50,000地形図をすべて収録している。各巻は序論10ページ、地図の部102~126ページ(巻によって異なる)、地名索引31~48ページ(同)から成る。

序論は、地図測量の歴史に始まり、地形図の製作過程や、縮尺・投影法・座標などを解説する。記述はオランダ語のみだが、参考図版に、フェルメールゆかりのデルフト Delft の町を描く年代別の地図4点(1750年、1821年、1857年、1981年)が掲げられていて、眺めるだけでも楽しい。

地図の部は、見開き(2ページ分)それぞれに東西20km×南北13kmの範囲が収められている。これは1:50,000地形図の図郭(東西20km×南北25km)を南北に2分割したものに相当するが、中央の南北1km分は重複して掲載される。

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同 索引図の一部
太字の1~103は地図帳のページ、
赤字の4W~52Wは1:50,000地形図の図番を表す
 

オリジナルの図版が使用されており、描線はシャープで鮮明だ。ただ、地図の編集年次は1972年から1986年と、場所によって最大14年もの開きがある。その間に図式改訂が実施されているので、新旧図式が混在するのはやむをえない。

編集者の記した序文に、企画のねらいがうたわれている。「ふつうの地図帳は、地平線のかなたに何があるのかという私たちの好奇心を満たしてくれるが、オランダ地形図大地図帳は、身近にあるものに対する関心を呼び覚ます。ほとんどの地図帳はオランダがいかに小さいかを示すが、この地図帳はどれほど大きいかを明らかにする。」

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1:50,000旧図式の例
Gorinchem 1982年
 

このような地図帳の刊行はすでに1970年代から計画されていたそうだ。ハンディなサイズを志向して地図を最大で50%まで縮小(1:100,000相当)する案もあったが、最終的に実現したのは、原寸のままの忠実なコピーだった。しかし、判型をA4サイズにし、分冊化することで、扱いやすさに最大限の配慮がなされた。

出版元はフローニンゲン Groningen にあるヴォルテルス・ノールトホフ Wolters-Noordhoff 社だが、これは当時、測量機関の「地形測量サービス Topografische Dienst」が財政難で、自ら出版のリスクを負う余裕がなく、複数の出版社に企画の引き受けを打診した結果だという。

「州別大地図帳 Grote Provincie Atlas」全11巻
縮尺1:25,000 1988~91年初版
ヴォルテルス・ノールトホフ Wolters-Noordhoff 社刊

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南ホラント州大地図帳
 

幸いにも1:50,000地形図地図帳の売れ行きは好調で、その後、内容を更新して重版(1989年~)するに至った。気をよくした測量機関と出版社は、すぐに次のアイデアを実行に移した。それが、描写がより詳細な1:25,000地形図を用いた「州別大地図帳 Grote Provincie Atlas」だ。判型は同じA4判で、地図は各見開きに、1:25,000地形図の図郭(東西10km×南北12.5km)を南北に2分割した東西10km×南北6.5kmの範囲を収める(中央の南北0.5km分は重複掲載)。

1:50,000と比較して図の面積が4倍になるので、刊行は州ごとの分冊とされた。正式な書名は Grote Provincie Atlas の後ろに州名がつくので、例えば「南ホラント州大地図帳 Grote Provincie Atlas Zuid-Holland」となる。全国に州は12あるのに地図帳が11巻しかないのは、最も新しい干拓地で1986年に独立した州になったばかりのフレヴォラント Flevoland が、ユトレヒト Utrecht 州の巻に含められたからだ。

上記1:50,000地図帳初版で見られたような図式の混在を回避するために、刊行は、新図式による地形図製作が完了した州から順に進められた。そのため、全巻が出揃うまでに1988年から1991年まで3年を費やした。

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1:25,000図式の例
Gorinchem 1989年

「ANWBオランダ地形図地図帳 ANWB Topografische Atlas Nederland」全1巻
縮尺1:50,000 2002年初版
ANWBメディアブック社 ANWB Media Boeken 刊

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ANWBオランダ地形図地図帳第2版
(左)表紙 (右)裏表紙
 

21世紀に入って、地形図地図帳は第2世代に交替した。出版元も、ANWB(正式名称:王立オランダツーリスト連盟 ANWB、De Koninklijke Nederlandse Toeristenbond ANWB)に代わった。ANWBは日本で言うとJAFのような役割を担う組織だが、地図出版の分野でも大手の地位を築いている。

1:50,000版の書名は「ANWBオランダ地形図地図帳 ANWB Topografische Atlas Nederland」だ(写真は2005年第2版、下注)。判型が25cm×35cmと一回り大きくなり、各見開きに横22km×縦16kmの範囲を収める。オリジナルの図郭とは合わなくなったが、その代わり、オランダ全土を1冊にまとめることが可能になった。中表紙を含めて336ページと分厚くなった分、扱いやすさの点では少し後退したかもしれない。

*注 ちなみに2002年初版の表紙は紺色だった。

新しい地図帳の特徴は、地図のページに先立つ序論の部分だ。まず、地形図の製作過程などの解説が7ページあるが、これは第1世代と変わらない。真髄はその後で、地図記号の紹介が18ページも続いている。もちろん通り一遍の対照表ではなく、記号が使われている地図の断片とそれに対応する現地の写真を体裁よくレイアウトしたものだ。

さらに次の16ページは、大河、砂丘、ポルダー(干拓地)、沼地、港、城郭などオランダの典型的景観を地図、空中写真、俯瞰写真の三者で比較する。見開きページ一面に展開するフルカラーの実景写真はたいへん美しく、オランダ語のテキストが読めなくてもそれなりの理解が可能だ。

一方、地形図の本編は274ページあり、デジタル図化に対応した新図式で揃っている。ちなみにこの図式では、市街地の表現が変わった。以前は、道路に囲まれた街区(総描家屋)には、左上からの光源を想定した立体的な影がつけられていたのだが、新図式では街路を黒で描き、家屋の部分は平面的な網掛けになった。道路を際立たせるためか、色も薄めに設定されている。

他にも、高速道路がベルギーやフランスの地形図と同じ紫色になり、独立建物が柿色になり、砂丘のレリーフ表現が省かれるなど、各所に手が入れられている。

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1:50,000新図式の例
Gorinchem 2001年

「ANWB州別地形図地図帳 ANWB Topografische Provincie Atlas」全11巻
縮尺1:25,000 2004~05年初版
ANWBメディアブック社 ANWB Media Boeken 刊

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北ホラント州地形図地図帳
(左)表紙 (右)裏表紙
 

同じように1:25,000州別地図帳の刊行もANWBに引き継がれた。判型は25cm×35cmと1:50,000と同じだ。書名は ANWB Topografische Atlas の後ろに各州名がついて、例えば「北ホラント州地形図地図帳 ANWB Topografische Atlas Noord-Holland」のようになる。

第1世代と同じく、ユトレヒト州とフレヴォラント州は1巻にまとめられているので、全11巻となる。解説ページは1:25,000向けに再編集されているが、地図記号の紹介は、写真が1:50,000地図帳とほとんど同一で、地図の部分だけを1:25,000の図版に置き換えている。その結果、1:50,000地図帳と並べて比較すると、両者の図式の相違点が一目瞭然だ。

地図の部は、各見開きに横11km×縦8kmの範囲を収める。画面が拡大された分、ページ数が減って、本は第1世代よりもスリムになった。

それにしても、さほど安いとも言えないこうした地図帳をどんな層が購入しているのだろうか。手元の資料によると、最大のグループは、自分自身の身近な環境を認識し見極めようとしている人々、平たく言えば地元の(州の)地図帳なら買っておこうという一般市民らしい。第二のグループはレクリエーションや調査・研究など実用に供し、最小のグループが鑑賞用または職業上の理由で買っている。普及の余地があるのは学校教育用だそうだ。

第2世代の表紙を改めて見ると、ずいぶん地味な意匠に感じる。実際、派手なカバーもつけずにこのまま店頭に置かれているのだが、それでも版を重ねる需要が存在するというのは驚きだ。わかりやすい地図表現や扱いやすい形式といったさまざまな工夫が人々の関心を掘り起こすということを、オランダの地形図地図帳は証明しているようだ。

その後、地形図地図帳の刊行は、第3世代というべき12州出版社 Uitgeverij 12 Provinciën に引き継がれた。同社版の1:50,000は当初、全土を1冊にまとめていたが、2016年の新版からは東西南北4分冊となった。1:25,000は州別で刊行された。2021年7月現在、中古品が海外の古書サイトに出回っているほか、地元のネット書店にまだ何種か新本の在庫が残っている。

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12州出版社版地形図地図帳
(左)1:50,000全国版初版
(右)1:25,000北ホラント州版
画像は公式販売サイトより
 

昔のアトラスには、綴った冊子ではなく、ばらの地図をオーダーメイドで箱詰めする方式も存在した。最近、ANWBは「112面地形図セット 112 Topgrafische kaartbladen」と称して、1:50.000地形図全112面を平図のままケースに入れてセット販売しているが、これも本来ならアトラスの範疇と言えるだろう。

ケースの寸法は横44.8×縦55.9×厚さ4.4cm、総重量は4.6kgある。195ユーロ(1ユーロ130円として25,350円)と値が張るが、単価5.90ユーロ(同 767円)の地形図をばらで揃えるくらいなら、ずっと経済的だ。

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ANWB「112面地形図セット」
画像は公式販売サイトより
 

さて、こうした地形図地図帳のブームは、現行(最新)地形図の紹介にとどまらず、さらなるバリエーションを生んでいく。次回は19世紀の旧版地形図を扱った地図帳を紹介する。

使用した地形図の著作権表示 © Kadaster, 2021

(2021年7月18日改稿)

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2009年9月10日 (木)

オランダの地形図

色鮮やかな塗り絵、というのがオランダの地形図を見たときの第一印象だ。市街地や森林はもとより、耕地も牧場も草木のない砂丘でさえも彩度の高い色が配されて、日本のような線描主体の地形図を見慣れた者には、とりわけ新鮮に感じる。この国の画家ピエト・モンドリアン Piet Mondrian は、縦横に走る枠の中に三原色を塗り込めた抽象絵画を生み出したが、あの明快な美の精神が地図製作者にも脈々と受け継がれているようだ。

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1:50,000 31O Utrecht 1981年
 

オランダの地形図 Topografische kaart は、軍用地図の伝統から、陸軍省に属する「地形測量サービス Topografische Dienst」によって作成されてきた。2004年の組織改革で、地形測量サービスは「カダステル Kadaster」に統合された。Kadaster は普通名詞で土地台帳(登記簿)を意味し、19世紀から地籍管理を担ってきた独立行政機関 Zelfstandig bestuursorgaan(英訳では非省庁公共団体 Non-departmental public body)だ。それ以来、地形図の作成と公開は「カダステル」により行われている。

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(左)全国三角測量 Rijksdriehoeksmeting のゼロポイント(基準点)がある
  アメルスフォールトの聖母の塔 Onze-Lieve-Vrouwetoren in Amersfoort
  Photo by Pepijntje at wikimedia. License: Public domain
(右)床に埋め込まれたゼロポイント(基準点)
  Photo by John Boers at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0

最初に、オランダにおける地図の歴史を見ておこう。

現在のオランダを含むネーデルラント Nederlanden(下注)は、16世紀半ばから約1世紀の間、地図分野の先進地域だった。メルカトル Mercator やオルテリウス Ortelius、ブラウ Blaeu といった名だたる地図学者・製作者を輩出し、大航海時代の進展に多大な影響を及ぼした。しかし、当時作られていたのは、まだ世界図や地方図のレベルだ。土地測量に基づいた詳細な地図の出現を見るには、さらに時を下らなければならない。

*注 ネーデルラント(原語は複数形でネーデルランデン)で、低地の国々を意味し、現在のベネルクス三国(オランダ、ベルギー、ルクセンブルク)を含む地域を指す歴史的名称。

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オルテリウス「世界の舞台 Theatrum Orbis Terrarum」1571~84年 から
オランダ図 
東を上にして描かれている
Image at wikimedia. License: Public domain
 

海洋国家として17世紀に黄金期を迎えたオランダだが、18世紀に入ると、競合するイギリスとの覇権争いに敗れて、次第に失速していく。そして1793年、攻勢を強めたフランス革命軍の前に降伏を余儀なくされる。

すぐに、フランスの傀儡国家としてバタヴィア共和国 Bataafse Republiek/ République batave が樹立されるが、それまでのオランダはまだ7つの地域(州)からなる連合体であり、統一基準で作られた地図が存在しなかった。そこで共和国政府は1798年に新たな三角測量事業に着手する。

その成果が、作業指揮者の名にちなんで「クライエンホフ図 Kraijenhoffkaart(下注1)」と呼ばれるものだ。縮尺は1:115,200(下注2)、9面で構成され、全土をカバーした最初の地形図シリーズとなった。1809年から順次刊行されたが、すべて揃ったのはフランス軍が撤退し、南部諸州を含むネーデルラント連合王国 Verenigd Koninkrijk der Nederlanden が成立した後の1823年のことだ。

*注1 旧綴りは Krayenhoffkaart 。
*注2 縮尺1:115,200は、図上1ラインラント・ドイム Rijnlandse duim(2.61cm)が実地800ラインラント・ローデ Rijnlandse roede(3013.6m)を表す縮尺。なお、メートル法への換算値はウィキペディア蘭語版に拠る。

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クライエンホフ図の例
アムステルダム周辺 Blad V 1829年
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クライエンホフ図の例
ライデン周辺 Blad V 1829年
 

連合王国では、隣国との国境を画定するためにさらなる詳細測量も開始されている。1820年からは作業範囲が国内にも拡大された。これは1830年のベルギー離脱(下注)に伴う混乱で一時中断するものの、後に再開され、1845年には全土をカバーするまでになった。

*注 南部諸州が連合王国からの独立を宣言した、いわゆるベルギー独立革命。

この成果から調製された彩色原図を石版に写したのが、縮尺1:50,000の「オランダ王国軍用地形図 Topographische en Militaire kaart van het Koningrijk der Nederlanden (TMK) 」だ。1面に東西40km×南北25kmの範囲を収めるため、用紙は横92cm×縦64cm。計62面から成り、1850~64年の間に順次刊行されている。

軍用図で機密扱いだったが、後に公開され、「スタフカールト(参謀本部地図)Stafkaart」の名で親しまれた。起伏がケバで表現され、地籍界や土地利用景も詳細に描かれている。19世紀工業化以前の国土の景観を記録した貴重な図化資料だ。

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軍用地形図 TMK(印刷図)の例
ライデン周辺 30 's-Gravenhage 1854年
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上掲の印刷図のもとになった彩色原図
ライデン周辺 30-II 1850/51年
 

続いて1865年から、より詳しい縮尺の1:25,000で、「オランダ王国彩色地形図 Chromo-Topografische Kaart van het Koningrijk der Nederlanden」、通称「ボンヌ図 Bonnebladen / Bonnekaarten(下注)」の刊行が開始された。

*注 原語の bladen は図葉(複数形、ドイツ語の Blätter、英語の sheets に相当)、kaarten は地図(独 Karten、英 maps)を意味する。

刊行図としては初めての多色刷で、全776面をもって、1884年ごろに全土をカバーしている。1面で東西10km×南北6.25kmの範囲を収めるが、1:50,000 TMKの図郭とは南北でずれがある。また図番も西から東、北から南への連番で、TMKの図番と関連づけられていない。

通称は、地図がボンヌ図法で投影されていることから来ている。ボンヌ図法はハート形の世界図で知られるが、面積が正しく描かれ(正積図法)、特徴的な形の歪みも中心経緯線の交点周辺の狭い領域では最小限に抑えることができる。そのため、オランダのようなコンパクトな国土を描くのには適した投影法だ。実はTMKも同じ図法を用いているが、「ボンヌ図」と呼ぶのは1:25,000シリーズだけだ。

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ボンヌ図の例
ライデン周辺 422 Leiden 1903年
 

当初これら軍用図の作成を担っていたのは、陸軍省に属する地形局 Topographisch Bureau だった。1932年に「地形測量サービス Topografische Dienst」が創設され、業務はこの新部局の所管になる。

それと前後して、新たな地形図シリーズへの切り替えも順次実施された。新シリーズは、各縮尺図にTMK図郭を基準にした体系的な図番を採用した点が重要だ。1:50,000が最も早く1903年に最初の図葉が刊行された。といっても、TMKの図版にkmグリッドを重ね刷りし、道路網、行政界、市街地、水部、森林等に着色したもので、1940年ごろには全土をカバーしている。1:25,000は少し遅れて1935年に刊行を開始し、1950年代の終わりごろに「ボンヌ図」をすべて置き換えた。

下図に、1:50,000図式の変遷を示した。上段は初期の図式で、TMK由来の細密な線画がベースになっていることがわかる。中段は1959年の図式改訂によるもので、地籍界を表していた墨線が消え、代わりに排水路の青線が登場している。市街地の総描家屋は赤で影を付ける独特の描き方だ。下段は最近の図式で、注記のサンセリフ字体が現代感の醸成に一役買っている。プロセスカラー化で色数の制限がなくなり、道路種別に紫や橙色が加わった。総描家屋の描き方も一般的な面塗り方式に落ち着いた。

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1:50,000図式の変遷 ナールデン Naarden 付近
(上)初期の図式 1961年版
(中)中期の図式 1982年版
(下)最近の図式 1998年版
 

これ以外の縮尺では、1:100,000図が1955年に初めて登場したものの、後が続かず、刊行が再開されたのはごく最近、2016年のことだ。1:200,000も1865年から1955年まで刊行されていたが、その後、全土を1面に収めることができる1:250,000図に置き換えられた。さらに1961年、新たに1:10,000地形図のシリーズが加わったことで、オランダの現行地形図体系は整った。

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1:100,000地形図
ライデン周辺 16 Rotterdam 1958年版の一部
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1:250,000道路地図
1996年版の一部

では、現行の地形図シリーズは、それぞれどんな特徴を有しているのだろうか。

最大縮尺図は1:10,000だが、あくまで都市計画や土地利用計画など技術的な目的での使用が想定されており、一般向けとはいえない。頒布方法もオンデマンド印刷またはデジタルデータに限られ、オフセット印刷図は作られていない。

1:25,000

店頭で入手できる最大縮尺が1:25,000で、全国を389面でカバーする。1990年以降、管理コスト削減のために、国境付近や島嶼部で図郭が統合拡大され、総面数が302面まで減少していたが、2016年にすべて定形図郭に戻されたことで、この面数となった。

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1:25,000表紙
 

図郭は東西10km×南北12.5kmの範囲を収めており、印刷実寸は横40cm×縦50cmの縦長になる。この図郭は、19世紀の軍用地形図TMKの図郭(東西40km×南北25km)を横4×縦2=8等分したものだ。そのため、図番は、伝統的なTMKの番号(北西から南東へ1から62までの連番)の後にA~Hの枝番を加える(例:25 G)。

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1:25,000索引図の一部(2016年現在)
 

地図記号を下図に示した。2010年ごろの図式であり、最新の状況を反映していないが、オランダの地形図のポイントは十分読み取れるだろう。

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1:25,000凡例(2010年ごろ)
 

まず、市街地はグレー(黒色の網掛け)で、独立建物は実影を黒塗りする。後述する1:50,000に比べてはるかに地味な印象だ。その分、赤、橙、黄に塗り分けられた道路網が強調される。その結果、市街地以外の配色は1:50,000とほとんど同じだというのに、面より線が強調されて、全く別の図式のように錯覚する。

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現行1:25,000
ズヴォレ Zwolle 市街
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道路記号では、オランダの交通を特徴づける自転車の専用道が、一目でわかるアイコン(最新図式では削除)とともに表示される。ただし、これは車道に付随する自転車道には適用されないので、サイクリング地図のように使えるわけではない。

鉄道記号は主として旗竿形だが、線路の本数を黒塗りの数で表しているのが興味深い。水路が道路と同じように幅員別の記号になっているのも珍しく、干拓地の占める割合が大きい国土ならではだ。

建物記号では、教会、モスク、給水塔、灯台などランドマークになる記号の中心に黒点を入れて、基準点が置かれていることを表現する。また、市役所、郵便局その他施設の記号が、引き出し線つきなのも独特だ。引き出し線の足の先が施設の位置を示すので、建物の周囲に記号を配置する一般的な方式に比べてあいまいさがない。

建物記号には、風車、水車、風力ポンプのようなオランダの代表的景観を示すものも含まれる。もちろん動力機械としては過去の遺物だが、たとえ観光用であっても地形図上では区別なく記録されている。

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引き出し線つき建物記号の例(赤の円内)
ハールレム Haarlem 市街
1:25,000 25A IJmuiden 2003年
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風車小屋が並ぶキンデルダイク Kinderdijk
1:25,000 38C Alblasserdam
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もう一つユニークなのは行政界の記号だ。国境はともかく、州界、市町村界は網目(ドット)の帯で表現している(最新図式では黄と黒の断続的な色帯で表現)。そして、境界が道路上にある場合でも、図上で記号を転移させたり省いたりせずに道路の上に帯を重ねる。道路記号が網で覆われてしまうが、境界の表示を優先した形だ。

等高線は5m間隔で、2.5mの補助曲線で補われる。この縮尺としては精度が高いが、おおむね平坦な国土ゆえに、等高線が幅を利かせる図葉は少ない。

1:50,000

1:50,000は、全国を112面でカバーする。こちらも2016年に図郭見直しが行われており、以前は101面だった。

用紙サイズは1:25,000と同じで、1:25,000の4面分に相当する東西20km×南北25kmの範囲を収める。この図郭は、軍用地形図TMKのそれを東西に2分割したものだ。図番はTMKの番号に、東を意味する Oost (O) または、西を意味する West (W) を加える(例:25 Oost または 25 O)。

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1:50,000表紙
 

先述のとおり、オランダの地形図は塗り絵のようだが、その特徴が顕著に現れるのが1:50,000だ。とりわけ、ピンク(赤の網掛け)の市街地と、周囲に広がるライトグリーンの牧草地の対比は、色相差が大きいために、見る者に強い印象を残す。低地の町は周囲を干拓地に囲まれ、そこはたいてい牧草地に利用されている。それでかなりの確率で赤と緑が隣り合うことになり、地形図のイメージを規定する。

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現行1:50,000
ズヴォレ市街
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海岸線のほうに目を向けると、連なる砂丘は濃い目のクリームイエローで塗られる。内陸部に残された林の緑や、ヒースの野を表す薄紫が、それとの快いパッチワークを見せている。一方、フレヴォラント Flevoland のような新しいポルダー(干拓地)は、また別の印象だ。見渡す限りの耕地は無色のように見えるが、実は薄いレモン色が被せてある。結果として、地図上で色が掛けられていないのは、居住区の空地だけだ。

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砂丘の例
1:50,000 19W Alkmaar 2003年
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新しいポルダーの例
1:50,000 20O Lelystad 2003年
 

ちなみに、この1:50,000図を使用して、ANWB社が独自の区分図シリーズを刊行していたことがある。タイトルも「ANWB 地形図 Topografische kaart」で、事情を知らない人には官製と区別がつかなかっただろう。唯一の相違点は自転車道 fietspad が強調されていることで、実はその利用者のための地図だ。価格は官製オリジナルの2倍近くしたが、ANWB版は1面(用紙の両面)で官製4面分の面積をカバーしているので、明らかに経済的だった。

1:100,000

1:100,000は、全国を35面でカバーする。1:50,000の4面分に相当する東西40km×南北50kmの範囲を収める。図式は1:50,000に準じているが、道路網が主要なものにとどめられるなど、描写はかなり概略化されている。

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現行1:100,000
ズヴォレ周辺
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1:250,000

1:250,000は2種類出ている。一つは、図郭を上下2分割して両面刷りにしたうえ、コンパクトに折った「道路地図 Wegenkaart」(用紙サイズは横112cm×縦72cm)、もう一つは、横112cm×縦130 cmの大判用紙の片面に印刷された「壁掛け地図 Wandkaart」だ。名称は違うが、折図か平図かの違いだけで、等高線などの地勢表現がないことを含めて、地図自体は同じ仕様だ。

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1:250,000道路地図 表紙
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現行1:250,000
ズヴォレ周辺
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オランダの地形図は、「カダステル」の販売サイトで扱っている。紙地図(折図、ラミネート加工、平図)のほか、PDFファイルの形でも購入できる。

また、閲覧サイトも充実しており、現行地形図はもとより、本稿で紹介したさまざまな旧版図も詳細画像で余すところなく観察できる。閲覧サイトについては、「官製地図を求めて-オランダ」にリストを掲げた。その操作方法等については、本ブログ「地形図を見るサイト-オランダ」で詳述している。

アトラス(地図帳)発祥の地域にふさわしく、オランダでは、こうした地形図を冊子に綴った地形図地図帳 Topografische Atlas の刊行も盛んだ。次回からそのいくつかを紹介していこう。

使用した地形図の著作権表示 © Kadaster, 2021

(2021年7月15日全面改稿)

■参考サイト
カダステル https://www.kadaster.nl/

★本ブログ内の関連記事
 オランダの地形図地図帳 I-現行図
 オランダの地形図地図帳 II-19世紀の旧版図
 オランダの地形図地図帳 III-20世紀の旧版図ほか
 地形図を見るサイト-オランダ
 オランダのサイクリング地図
 オランダ時代のインドネシア地形図

 ベルギーの地形図
 ルクセンブルクの地形図

2009年9月 3日 (木)

ベルギーの旅行地図

Blog_belgium_ostkantone

この国に旅行するとしたら、人気の高いのは、おとぎの国のように美しい古都ブルージュ(オランダ語ではブルッヘ Brugge)だろうか。それとも、首都ブリュッセル Bruxelles のグランプラスか、アントヴェルペン Antwerpen の大聖堂か。いずれにしても街巡りが中心だから、市販のガイドブックを参考にするか、観光案内所に立ち寄って市街図をもらうといい。

ベルギー国土地理院IGNが刊行している旅行地図はそれとは違って、主として野山歩きのための地図だ。都市名を図名にしたものも多いけれども、内容は市街案内よりも、郊外の散歩道と見どころの紹介に割かれている。それで対象となるエリアも、丘陵から山地へ地勢が展開するベルギー南半(ワロン地域)が中心だ。2008年のカタログではタイトル数180点以上とかなりの数に上るが、手元にあるものだけの紹介になるのをお許し願いたい。

Blog_belgium_namur

ナミュール Namur は、ワロン地域を貫くムーズ川 Meuse に西からサンブル川 Sambre が合流する場所に栄えた「ムーズ川の真珠」と称される街だ。合流地点を見下ろす丘の上で、築城の名人ヴォーバン Vauban が再建した要塞が睨みをきかせている。この旅行地図「ナミュール」(右写真、現行第3版は表紙が異なる)は、大判用紙全面を使ってナミュールとその周辺を縮尺1:25,000で表現している(現行第3版は1:30,000)。

ベースマップは1:50 000地形図を単純拡大したものだが、原図の描写がかなり細かいので、かえって細部まで見やすい。市街と要塞付近はカラフルな1:10,000の拡大図も付されている。この上に、ハイキングルート pédestre、マウンテンバイクルート V.T.T.、サイクリングルート Promenade Vélo がカラーで加刷されていて、丘陵のアップダウンが多い道はマウンテンバイク用、川沿いや平原の道は自転車用に設定されていることがわかる。ハイキングルートについては難易度表示がつき、裏面に拡大図と見どころ紹介がある。

説明文は仏語と蘭語だけだが、英・独語による要点記述がある。紹介されているものの中で、要塞の丘を巡る5kmコースやムーズ川渓谷を眺める6.5kmコースなどは、遠来の旅行者にとっても興味深いものだろう。

■参考サイト
ナミュール観光局 http://www.namurtourisme.be/

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1:25,000の旅行地図「エルブモン、サン・メダール、ストレモン Herbeumont St-Médard Straimont」(右写真)は、ベルギー最南部、ムーズ川の支流スモワ川 Semois の中流域に位置する。観光地というわけでもないが、これらの河川はアルデンヌ高地の谷底で極端な蛇行を繰り返していて、そこに鉄道が谷を横切るために絡んでくる。筆者としては、その面白さを買ったのだ。

これもナミュール図と同様、ベースは1:50,000の拡大版で南北2面に分けて用紙両面に印刷されている。地図表紙の左上に配された写真は、鉄道がスモワ川を渡るコンク鉄橋 viaduc de Conques(エルブモン鉄橋 viaduc d'Herbeumont と紹介されることもある)で、長さ160m(150mとする文献も)、高さ38mの見事なアーチ橋だ。路線番号163 Aのこの鉄道は、ベルトリクス Bertrix からミュノー Muno、フランスのカリニャン Carignan へ延びていたもので、1914年に開通し、1969年に廃止された。この橋は村の名物で、かなり傷んでいるものの歩いて渡ることができ、ハイキングルートの一部を構成している。

■参考サイト
ベルギー鉄道路線番号163 A  http://www.belrail.be/F/infrastructure/lignes/163A.html
「橋ウェブ」コンク鉄橋
http://www.brueckenweb.de/2content/datenbank/bruecken/2brueckenblatt.php?bas=4795

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最後は、メルヘンチックな表紙絵をもつ東部地方(東部ドイツ語圏)Ostkantone / Cantons de l'Estのハイキング地図シリーズだ。冒頭の写真がそれで(写真はカタログから転写)、全部で6面あり、1919年にドイツからベルギーに編入された東部地方の全域をカバーしている。右はその中の1点、「ザンクト・フィット地方と上アーメル谷 St.Vither Land & Oberes Ameltal」だ。

ここでもアーチを連ねた鉄道橋がモチーフになっているが、ドイツのアーヘン Aachen とルクセンブルク方面を結んでいたフェン鉄道 Vennbahn の遺構だ。ベースマップは旧版1:25,000地形図で、その上にはろばろとした高原を行くハイキング・トレッキングルート Wanderweg が緑の太線で明示されている。探せば廃線跡をたどるルートも見つかる。また、山小屋、休憩所、宿泊施設、名所旧跡、スポーツ施設などの旅行情報がオリジナルの記号で多数配されているのも特徴だ。優れた統一デザインで、旅心をくすぐる地図群といえるだろう。ちなみに、東部地方観光局 Verkehrsamt der Ostkantone のサイト(下記)には、同地方の地形図や旅行地図を販売するオンラインショップがある。

■参考サイト
東部地方観光局オンラインショップ http://www.eastbelgium.com/2typo3cms/index.php?id=875
 発注のみで決済はできないので、別途送金手続きを要する。

なお、本ブログ「ベルギー アン鍾乳洞トラム II」の末尾で紹介したアン・シュル・レッス Han-sur-Lesse の旅行地図も、IGNの手によるものだ。これらの旅行地図はIGNで直販している(下記「官製地図を求めて」参照)。

■参考サイト
「官製地図を求めて-各国地図事情 ベルギー」
http://map.on.coocan.jp/map/map_belgium.html

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 ベルギーの地形図

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