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2009年7月

2009年7月30日 (木)

ベルギーの地形図

ベルギーをよく知らなかった頃、筆者は漠然と、広々とした平野が続く国だと思い込んでいた。おそらく北隣のオランダと混同していたのだが、同じような印象を抱いている人も少なくないのではないか。実際訪れてみると、首都ブリュッセル Bruxelles の街中でさえけっこう起伏が感じられるし、国土の南半分は丘陵を経て、より高度差の大きなアルデンヌ高地へと遷移していく地形だ。

オランダに比べて変化があるので、地勢表現が省かれた道路地図では物足りず、官製地形図の助けを借りたくなる。地形図の作成元であるベルギーの測量局は、オランダ語で Nationaal Geografisch Instituut (NGI)、フランス語で Institut Géographique National (IGN) と称しているので、ここではIGNの略称を用いる(以下、原語表記は仏語)。

地形図のラインナップは、IGNの公式サイトに掲げられている。縮尺別では1:250,000、1:100,000、1:50,000、1:20,000、1:10,000の5種類があるが、デジタルデータから編集するいわゆる「基本縮尺 échelles pivot」は1:250,000、1:50,000、1:10,000の3種類としている。リストから漏れた1:100,000は1989年を最後に更新されていないし、1:20,000は1:10,000地形図を単純に50%縮小したものだ。

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1:250,000は1面で全土をカバーする。国の面積が30,528平方キロと、関東地方(32,424平方キロ)より少し小さい程度なので、大判用紙の片面に収まってしまうのだ。全土が眺め渡せるから、都市相互の位置関係や距離感覚がつかむのにいい。ただし、通常販売されているタイプは、地図を南北に分割して両面印刷したものを小さくたたみ、地名録とともに透明ケースに入れてある(写真は1993年版の折図表紙、現在は表紙が異なる)。

図上1cmで実寸2.5kmを表すこの縮尺は、徒歩や自転車移動で使うには小さすぎて、おのずと自動車道の表示に重点を置いた道路地図仕様になる。クルマなら少々の坂道はものともしないから、等高線は必須ではない。それでフランス、オランダ、イギリスなど、周辺諸国の編集方針はどれも似ている。ベルギーもそれを踏まえているが、律儀に50m間隔の等高線(+25m補助曲線)を入れ、表紙にも Topo250 と topo(地形)を強調しているところが、他と一味違う。

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1:50,000地形図表紙
(左)ブルッヘ 1982-89年版
(左)テュアン 1995年版
(右)ブリュッセル 2003年版
 

1:50,000はどうだろうか。こちらは57面で全土をカバーするが、図郭は隣接図と一切重複させない従来型だ。いまだに現地で「参謀本部地図 cartes d'état-major」という旧称が通用するのも分かる気がする。しかし、2001年に新図式によるデジタル編集図への置換えが完了して、内容は旧図から大きく変貌した(写真左は旧版、中は新版の第1版、右は第2版)。この地形図(アントヴェルペン Antwerpen 図葉)は、国際地図学協会ICAから2001年の「優秀地図賞 Award for Excellence in Cartography」を得ている。

新図式はカラフルで、かつ他国にも例が見当たらないほど描写の詳細さが際立っているが、旧図と比較して特徴的なところを三つ挙げておこう。一つは、集落と道路の表示が黒からグレーへと色が薄くなったことだ。点在する都市や集落とそれをつなぐ道路網は、読図の際にまず目が行くところなので、全体のイメージに与える影響も大きい。集落の上に地名などの注記文字が重なっても読むのに支障がない反面、下の集落の表示は読み取りにくくなった。一方、工場や建物類似の構築物は茶系の色を与えて、居住地区と明確に区別している。

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1:50,000索引図
 

二つには、植生を色の違いだけで表したことだ。旧版でも森林はライトグリーンで塗っていたが、広葉樹林と針葉樹林の区別は日本と同様、記号によっていた。新図は彩色で広葉、針葉、混合林の3種を分けている。強いて近似の色名でいえばアップルグリーン、ミントグリーン、フォレストグリーンだろうか。しかし、依然として耕地や牧草地、言い換えれば人が生産活動に利用している地表面には色が設定されていないので、無地の部分が多いのは旧版と共通している。

三つ目はあまり目立たないが、鉄道の表示だ。旧版は複線以上が黒の太線、単線が日本のJR線と同じ旗竿だった。電化区間は鉄道記号の上に白抜きの菱形を置くもので、駅と紛らわしかった。新版では、複線以上は黒の細線2本、単線は中線1本と直観的だ。旗竿は引退したわけではなく、なんとタリス Thalys が走る高速線に転用されるという破格の出世を果たした。また、電化の記号はなくなり、逆に非電化線をNEの文字で示している。

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(左)1:25,000地形図表紙
ブレーデネ、ハウタフェ
1957-1986年版
(右)1:20,000地形図表紙
アントヴェルペン、スホーテン
1996年版
 

1:10,000は格段に表現が詳しくなるが、市街地を除いて旅人には持て余す大縮尺なので、縮小版の1:20,000のほうに触れておこう。これに対応する旧図の縮尺は1:25,000だが、継続性を犠牲にしてまで縮尺を変更したのは、1:10,000から縮小する作成方法との関係だろうか。さすがに原図の40%縮小(1:10,000→1:25,000)では、線や文字が判読できないのかもしれない。ちなみに旧図体系では1:25,000がオリジナルの測量図で、1:10,000はそれを単純拡大したものであり、いまとは逆の生成関係だった(写真左は旧版1:25,000、右は新版1:20,000)。

新図式の地図記号は旧図と比較にならないほど膨大だ。道路、地物、水部、植生とあらゆるカテゴリーが細かく分類されていて、中でも植生は、色と幾何学模様の組合せが芸術的な域に近づいている。おそらく土地利用図としての役割も持たせてあるのだろう。1:20,000の新図置換えはまだ一部で完了していないので、旧版はセリ・クラシーク série classique(旧シリーズ)、新版はセリ・ニュメリーク série numérique(デジタルシリーズ)と呼んで区別している。

IGNのサイトでは地形図の広告が最前面に据えられていて、フランスのIGNのように自らの手で地形図を積極的に販売していこうという姿勢が汲み取れる。オールインワンのデジタル媒体や地形図地図帳 Atlas topographique のような製品のほかに、ハイキング、サイクリングなどのための旅行情報を付加した旅行地図が数多く刊行されていて、美しい表紙デザインを追うだけで心が躍る。これらはIGNのサイトで直販されている。

■参考サイト
IGN http://www.ngi.be/ または http://www.ign.be/
どちらも、最初にオランダ語版(Nederlands)かフランス語版(Français)を選ぶようになっている。
ICA優秀地図賞に関する記事 http://www.ngi.be/NL/NLmainawarden.htm
ベルギーの地図に関する情報は、「官製地図を求めて-各国地図事情 ベルギー」にまとめている。
http://homepage3.nifty.com/homipage/map/map_belgium.html

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 ベルギーの旅行地図
 オランダの地形図
 ルクセンブルクの地形図

2009年7月23日 (木)

オランダの鉄道地図 II-ウェブ版

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ウェブサイトで見られるオランダの鉄道地図にはどんなものがあるだろうか。

(以下の記述は、改稿した2021年8月時点の状況に基づいている。)

オランダの旅客輸送の大半を担っているオランダ鉄道 Nederlandse Spoorwegen (NS) のサイトでは、「Voorwaarden en folders(利用規約およびパンフレット)」のページに、2種の鉄道地図が挙がっている。

■参考サイト
オランダ鉄道-利用規約 https://www.ns.nl/voorwaarden.html
または、トップページ(オランダ語版)最下段のメニューから "Voorwaarden en folders" を選択

列挙されているカテゴリーを下へ見ていくと、
"Informatie(情報)" の段に「Spoorkaart van Nederland(オランダ鉄道地図)」
"Tariefkaarten(運賃地図)" の段に「Tariefeenhedenkaart van Nederland(オランダ運賃単位地図)」
のリンクが見つかる。

NS オランダ鉄道地図 Spoorkaart van Nederland

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NS オランダ鉄道地図 2021年版 凡例部分
© 2021 N.V. Nederlandse Spoorwegen
 

これは旅客列車の運行系統と頻度を図示した地図で、毎年更新されている。もとはプライベートな路線図として Treinreiziger.nl のサイトで紹介されていたものだが、NSが権利を購入して、2018年から公式地図に位置づけられた。

現行版では省かれているが、2009年版では「鉄道地図をどのように使うか Hoe werkt de Spoorkaart?」という説明文があった。それによると、

「この地図では、線の色を追うことによって、列車系統がどこを走るかを容易に確かめることができる。線が、ある駅で途切れていればその系統の起終点であり、駅を通り抜けていれば経由地である。線の太さで、その列車系統の運行頻度(月~金曜、およそ7~19時の間など)がわかる。

夜間や週末には列車数が削減されることがある。すなわち、ラントスタット Randstad(4大都市圏、下注)の頻発区間では30分、ラントスタット圏外のより本数の少ない区間では少なくとも1時間毎になる。この地図では発着時刻を示していないので、時刻表の代用にはならない。旅行計画にはNSなどのサイトを参照されたい」。

*注 ラントスタットは、アムステルダム Amsterdam、ロッテルダム Rotterdam、ハーグ(デン・ハーフ Den Haag)、ユトレヒト Utrecht の4大都市を結んだエリア。

色で運行系統を表すのは日本の鉄道地図でもおなじみだが、オランダの場合、かなり複雑だ。それでもなお、明確な色使いにより、それらの列車がどこから来てどこへ向かうのか、途中どの駅に停まるのか、さらには、どれくらいの頻度で来るのかが無理なく読み取れるようになっている。

NS オランダ運賃単位地図 Tariefeenhedenkaart van Nederland

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NS オランダ運賃単位地図 2021年版 凡例部分
© 2021 N.V. Nederlandse Spoorwegen
 

一方、こちらは路線ごとの運行事業者と運賃単位を表示した地図だ。

かつてはNSが独占運行していたオランダの近郊・長距離鉄道網だが、近隣諸国と同様、オープンアクセス(参入自由化)政策の遂行によって様相が流動化している。とりわけ地方路線では、国際交通企業の進出が著しい。北部や西部の運行はおおむねアリーヴァ Arriva に置き換わっていることが、この地図からわかる。

一方、運賃単位 Tariefeenheid というのは基本的には営業キロ数のことだ。ただし若干補正があるらしく、より正確に言うなら運賃計算キロになるだろう。地図上の各駅間に書かれた数字がそれを表している。

なお、ラントスタットの白枠で囲まれたエリアには「裏面を見よ Zie achterzijde」という注記があるが、公開されているPDFファイルには裏面(2ページ目のこと?)がない。同様に、南リンブルフの「拡大図 Uitvergroting」も見当たらない。

このほか、NSのサイトでは、テーブル形式の時刻表(PDFファイル)のダウンロードページに、時刻表番号を記載した索引地図がある。

■参考サイト
オランダ鉄道-時刻表ダウンロード
https://www.ns.nl/reisinformatie/download-dienstregeling
トップページ(オランダ語版)上部メニューの Reisinformatie > Meer > Spoorboekje downloaden

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NS 時刻表索引地図 2021年版
© 2021 N.V. Nederlandse Spoorwegen
 

このページで、「Trajecten A t/m G」はインターシティ(都市間特急)の時刻表、「Trajectnummers 1 t/m 129」は、その他の列車(国際列車を含む)の時刻表だ。それぞれクリックすると、次の画面に出てくるカテゴリーの末尾に「Spoorkaart trajecten(列車ルート地図)」のリンクが見つかる。

地図は基本的に、紙の時刻表の時代を踏襲したデザインだ。インターシティの図は低彩度のいたって地味な図柄だが、その他の列車のほうは、先ほどの「運賃単位地図」のように、運行事業者別に色を変えてカラフルに仕上げている(上図参照)。

さて、オランダの鉄道網は旅客輸送とともに、貨物輸送の面でも重要な役割を果たしている。多くが国際輸送で、とりわけドイツの有力な産業集積地ルール地方 Ruhrgebiet とヨーロッパ最大の貿易港ロッテルダム港とを結ぶルートは、ライン川の水運を補完する基幹鉄道軸だ。

しかし、旅客列車の運行頻度も高いため、輸送力のさらなる向上には限界がある。そこで、既存ルートをバイパスして港湾に直結する、新たな貨物専用路線が計画された。これが、2007年6月に開通した延長160kmのベーテュヴェルート Betuweroute(下注)だ。ドイツ国境のゼフェナール Zevenaar からロッテルダム近郊のケイフック操車場 Rangeerterrein Kijfhoek を経て北海沿岸まで、国土を東西に貫いている。

*注 ベーテュヴェ(ベートゥヴェ)Betuwe はバタヴィア Batavia のことで、ライン川 Rijn およびマース川 Maas の下流域を指す歴史的名称。

旅客列車が走らないため、上述の鉄道地図には描かれておらず、いわば幻の新線だ。しかし鉄道地図の中には、貨物輸送をテーマにしたものやインフラ管理の観点から作成されたものもある。そこでは、ベーテュヴェルートが物流の動脈として、主役のごとく遇されている。

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ベーテュヴェルートを走る貨物列車(2019年)
Photo by Rob Dammers at wikimedia. License: CC BY 2.0

鉄道による貨物輸送を促進するために設立されたオランダ・鉄道貨物情報財団 Rail Cargo Information Netherlands Foundation が以前、貨物輸送に関する鉄道地図をウェブサイトで公開していた。

オランダの新鉄道地図 Nieuwe spoorkaart van Nederland

この地図では、道路と水部で構成された単色のベースマップの上に、赤や緑の実線で鉄道路線を描いている。タイトルを見る限り何の変哲もなさそうだが、凡例に目を通せばユニークな地図であることは明らかだ。

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オランダの新鉄道地図
© 2009 railcargo.nl
 

赤い線は、オープンアクセス鉄道網 Open access rail network と説明されている(オランダ語の凡例では単に鉄道線 Spoorljin)。オープンアクセスとは、EC指令で示された目標に沿って、加盟各国が上下分離と併せて鉄道事業に適用した政策で、対価を払って線路使用権を得た事業者が列車を運行する。

それに対して緑の線は、貨物専用線 Dedicated freight railway line だ。ところが、ベーテュヴェルートはそのどちらでもなく、緑の二重線の記号が与えられ、かつ凡例の最上段に置かれている。地図上でも、ヴァール川 Waal に沿った独自のコースを走っていて目を引く。この地図は2006年ごろのものなので、ベーテュヴェルートの開通に絡めて発表されたのかもしれない。

残念ながらこの地図は、後年サイトがリニューアルされた際にリンクが失われてしまい、ネット上で見ることができなくなった。

■参考サイト
鉄道貨物情報財団 http://www.railcargo.nl/

鉄道事業の上下分離で、オランダの鉄道インフラの管理運営は、従来のNS(オランダ鉄道)から、2003年に設立されたプロレール社 ProRail の手に移された。そのウェブサイトでは、鉄道インフラの大要が概観できる鉄道地図が提供されている。

■参考サイト
プロレール社-鉄道地図 https://www.prorail.nl/reizen/spoorkaart
または、トップページ上部メニューの Reizen > Spoorkaart

プロレール オランダ鉄道地図 ProRail Spoorkaart Nederland

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プロレール オランダ鉄道地図
© 2021 ProRail
 

縮尺は1:300,000で、ベースマップには同国の官製1:250,000図を縮小使用している。道路、集落、水部、植生、行政界などが詳細に書き込まれており、地図の見栄えでも他と一線を画している。

どのような内容が盛り込まれているかは、凡例にある地図記号を見ていくのが手っ取り早いだろう。表記がすべてオランダ語なので、参考までに和訳を付した。

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同 凡例
 

地図記号では、赤色が旅客および貨物線、茶色が貨物専用線で、それぞれ太さで単線複線等を区別する。プロレールの所管かどうかは別として、保存鉄道やライトレールまで網羅しているのが興味深い。くだんのベーテュヴェルートは地図上で、複線・貨物輸送を意味する茶色の太線で描かれている。周囲が赤色の路線ばかりなので、異色の存在だ。

記号はほかにも、駅の種類や運行機能など、鉄道施設に関するさまざまなデータを包括的に表示していて、前回紹介したNSの列車系統図と併用すれば、オランダ鉄道網への理解がいっそう深まるに違いない。図の左上隅には、折図を想定して「オランダ鉄道地図 Spoorkaart Nederland」と記した表紙部分が配置されているが、印刷版の配布サービスがないのが惜しまれる。

(2021年8月13日改稿)

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 近隣諸国のウェブ版鉄道地図については、以下を参照。
 ドイツの鉄道地図 IV-ウェブ版
 ベルギーの鉄道地図
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2009年7月19日 (日)

オランダの鉄道地図 I

オランダの列車と聞けば、ドッグノーズ、ドッグヘッドなどと呼ばれた黄色の電車が思い浮かぶ。丸く膨らんだ前面の形状が犬の顔立ちを思わせるのでそのあだ名がついたのだが、一世を風靡したこの形式(下注)も、スマートな新車に押されてもはや現役を退いたようだ。

*注 Mat '54形と後継の Mat '64形がある。両者とも「犬の頭 Hondekop」と呼ばれるほか、後者は区別のために「猿の頭 Apekop」の愛称もあった。

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ドッグノーズなどと呼ばれたMat' 54形電車(2008年)
Photo by Rob Dammers at wikimedia. License: CC BY 2.0
 

しかし注目すべきは顔の形ではなく、これが動力分散型の電車だという点だ。日本では特急でも電車が用いられるが、ヨーロッパの郊外列車や急行列車は、電気機関車が動力を持たない客車を牽引するスタイル(動力集中型)をとることが多い。その役を敢えて電車に担わせているのは、日本のように短距離高頻度の列車ダイヤが組まれていることの証しだろう。

事実、オランダは、ヨーロッパで最も鉄道が利用されている国だ。単位面積当りの路線の密度はベルギーやドイツに及ばないものの、旅客輸送密度では鉄道王国スイスをも凌ぐ。発車時刻が等間隔のいわゆるパターンダイヤが採用され、国内のインターシティは特別料金が不要であるなど、気軽に使える交通機関の役回りが強く意識されている。

これから2回にわたり、そのオランダの鉄道路線を描いた鉄道地図(オランダ語でスポールカールト Spoorkaart)を見ていくことにしよう。

(以下の記述は、改稿した2021年8月時点の状況に基づいている。)

単独の印刷物では、「オランダ鉄道地図 Spoorwegkaart van Nederland」と題された1枚ものの大判地図が手元にある。縮尺は1:400,000。NS(オランダ国鉄)高等職業学校 Hogere Bedrijfsschool の編集とクレジットされており、製作時期はかなり古くて、1965年9月現在だ。

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オランダ鉄道地図 1965年版
 

地図は、河川や海域などの水系と国境だけを置いた基図の上に、全路線と駅を手描きした古風なスタイルだ。使われている記号も単純明快で、単線は実線、複線は二重線、貨物専用は破線で表される。電化区間は赤で塗られ、これが結果的に路線網の骨格を浮かび上がらせている。駅も機能で分類され、旅客・貨物、旅客のみ、貨物のみを扱うものがそれぞれ記号で示される。

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同 一部を拡大
ラントスタット周辺
 

昨今のようにデジタル化が進む前は、こうした特大判の印刷地図が公式の路線図として各国国鉄で作成されていた。しかしこれらはあくまで業務用で、専門家や愛好家はともかく、一般市民が旅行に携行するようなものではない。その用途なら、鉄道時刻表 Spoorboekje (下注)の添付地図が十分に役を果たしただろう。

*注 NSオリジナルの冊子時刻表は2010年を最後に廃刊となり、現在は民間組織により刊行されている。本ブログ「オランダの鉄道時刻表」参照。

オランダの公式時刻表の場合、表紙の直後に折りたたんだ鉄道地図がはさんであり、拡げると本のサイズの数倍の大きさになった(下写真は1988年版)。地図は、路線網が水平、垂直および斜め45度の直線に単純化された、いわゆるスキマティックマップ(位相図)だ。オランダ鉄道のシンボルカラーというべき濃い黄色の地の上に旅客用の全線全駅が表示され、路線ごとの時刻表番号が添えられている。

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公式時刻表 1988/89年版 添付地図
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同 一部を拡大
© 2021 N.V. Nederlandse Spoorwegen

上の1988/89年版ではまだ日本の時刻表地図と同じような「路線図」だが、下の2000/01年版になると運行系統ごとに線が引かれ、列車のルートがわかりやすくなった。

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公式時刻表 2000/01年版
添付地図の一部を拡大
© 2021 N.V. Nederlandse Spoorwegen

私的サイトに、過去の時刻表添付地図のフル画像ファイルがある。日付は2004年9月になっているので、上述のものより新しい。印刷物のスキャニングではなく、印刷用のデータファイルから直接PDF化したものらしく、拡大しても鮮明な画像が得られる。トップページからのリンクで紹介すべきだが、リンクが見つからないので、やむをえずPDF(131KB)の直接リンクを記すことにする(リンク切れご容赦)。

■参考サイト
http://www.astro.rug.nl/~islands/spoorkaart.pdf

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このほか、地図製作会社のカルト・スタジオ Carto Studio とべンヤミン出版社 Benjaminse Uitgeverij が2011年版として刊行した「オランダ鉄道地図 Spoorkaart Nederland」(右写真は刊行元サイトから)がある。オランダ全図のほか、アムステルダムおよびロッテルダム周辺のメトロ路線網を含む詳細図、近隣諸国を含む広域図が収載されている。下記サイトに紹介がある。

■参考サイト
Carto Studio - Bestellen
https://www.cartostudio.nl/bestellen/
なお、カルト・スタジオ社は2021年3月末に解散したため、このサイトも閉鎖される可能性がある。

Benjaminse Uitgeverij - Spoorkaart Nederland
https://www.cyclingeurope.nl/routes/spoorkaart/

次回はウェブサイトで見られる鉄道地図を紹介する。

(2021年8月11日改稿)

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 近隣諸国のウェブ版鉄道地図については、以下を参照。
 ドイツの鉄道地図 IV-ウェブ版
 ベルギーの鉄道地図
 ヨーロッパの鉄道地図 V-ウェブ版

2009年7月12日 (日)

ベルギーの鉄道地図

1980年代、初めてパリからベルギーの首都ブリュッセル Bruxelles/Brussel へ出かけたときは、EC(ユーロシティ)で2時間半、野を越え丘を越えて行く長旅だった。現在は、高速線を経由するタリス Thalys で1時間22分、ずいぶん速くなったものだ。

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ブリュッセル南 Bruxelles-Midi/Zuid 駅に停車中のタリス
(2008年)
Photo by Wouter Hagens at wikimedia.
 

そのころ参考にと買ったポスターサイズの「路線網図 Carte du réseau」が、手元にある唯一のベルギー鉄道地図だ。縮尺1:300,000で、1988年11月1日現在のベルギー国鉄SNCB全線全駅が表示されている。駅は等級別の管理駅、被管理駅に分類され、路線は電化・非電化、単線・複線の別が記号化されている。貨物線や休止線も描かれているので、地形図で鉄道の軌跡をたどるときにも役に立つ資料だった。残念だが、最近はこのような紙地図を目にしたことがない。

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鉄道ネットワーク地図 1988年版
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同 一部を拡大
 

同じ旅で、SNCBの時刻表 Indicateur/Spoorboekje も購入した。オランダの時刻表と同じく、表紙の次に折り畳んだ索引地図が挿入されている。これも鉄道地図の一種だが、タイトルにあるとおり、インターシティ Intercity (IC) とインターレギオ InterRegio (IR)(下注)、すなわち優等列車の運行系統図だ。ローカル列車だけの線区は省かれている。

*注 インターレギオの名称は2014年12月のダイヤ改正で廃止された。

全旅客路線が描かれた索引地図はないのかと探すと、北東部、南東部、南西部、北西部の4面に分割されて、時刻表の当該セクションの冒頭ページに配置されていた。時刻表番号を調べるだけならこれで十分だが、全国を一目で見渡せないのは残念だった。

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SNCB時刻表1987/88年版 IC/IR索引地図
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同 旅客線索引地図 北東部

ウェブサイトで公開されているものもいくつかある。
(以下の記述は、改稿した2021年8月時点の状況に基づいている。)

SNCB旅客ネットワーク図 Réseau voyageurs/Reizigersnet

まず、ベルギー国鉄SNCB公式サイトの、時刻表ダウンロードのページに、路線図のPDFファイルがある。公式サイトは英語 (en) と、ベルギーの公用語であるフランス語 (fr)、オランダ語 (nl)、ドイツ語 (de) の4か国語版が用意されており、メニューは同じ構成だ。

■参考サイト
SNCB(英語版)- Timetable leaflets
https://www.belgiantrain.be/en/travel-info/prepare-for-your-journey/leaflets
または、トップページ左肩のメニュー > timetable leaflets and network map

「旅客ネットワーク Réseau voyageurs/Reizigersnet」と題されたこの地図は、正縮尺(一つの図の中で縮尺が一定)の白地図上に、路線、駅、時刻表番号を描いたシンプルな仕様だ。赤線が電化区間、緑の線が非電化区間で、主要駅は円を大きく、駅名も大文字にして視認しやすくしている。ブリュッセル、シャルルロワ、アントウェルペン、リエージュの主要4都市については、拡大図がある。

しかし、けっこう複雑な路線網にもかかわらず、幹線、支線の違いはおろか、近年建設された高速線すら記号上なんら区別されていない。そのため、眺めていても路線網の骨格が頭に入ってこないのが難点だ。あくまで時刻表の索引図として使われることだけを想定したデザインといえるだろう。

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SNCB 旅客ネットワーク図
© 2021 SNCB

次に、ベルギーの鉄道インフラの管理運営を担うインフラベル Infrabel 社のサイトで公開されている3種の鉄道地図を見てみよう。

■参考サイト
Infrabel(英語版)- Network maps
https://infrabel.be/en/network-maps

インフラベル ネットワーク図 Carte du réseau/Netkaart

英語版ページの "Network maps" のリンクから取得したのがこの地図だ。おそらくインフラベルの管理下にある全路線が描かれていると思われる。

ベースマップはベルギーの行政区分図だ。それを5つの地方支局 Bureau terrains(日本でいうなら鉄道管理局か?)別に塗分け、さらに管理区 Arrondissement の境界を描いている。

使われている記号の意味は、下図の凡例(和訳を付記)のとおりだ。駅は、重要度に応じて記号の形状を変えている。路線は、主な線区 Ligne principales(といってもほとんどの路線が該当)のくくりで、赤の電化線と緑の非電化線に色分けされ、また線記号の幅によって単線と複線が表されている。線区に添えられた1~3桁の数字は時刻表番号だ。

これを見た後で先述のSNCB図を改めて眺めると、どうやらこの図から旅客線に関する部分を抽出したものであることがわかる。幹線・支線の別はもとの資料にないので、抽出先でも表現しようがなかったのだ。

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インフラベル ネットワーク図
© 2021 Infrabel
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同 凡例
 

地理的ネットワーク図 Carte géographique du réseau/Geografische netkaart

英語版ページで "Geographical network map" のリンクからはこの地図が得られる。Geographical(地理的)というタイトルは、位相図(スキマティックマップ)ではないという意味かと推測する。しかし、描かれているのは主要駅と単線/複線を区別した路線網だけだ。製作意図がはっきりしないが、単純な内容にもかかわらず、ファイルサイズが異様に大きい(高解像度画像?)から、壁張り用なのかもしれない。

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地理的ネットワーク図
© 2021 Infrabel
 

技術的ネットワーク図 Carte technique du réseau/Technische netkaart

最後の図 "Technical network map" は、ご覧のとおり線路配置図だ。線路配置図とは、線路および付帯設備がどのように構成されているかを図示したものだ。

色付きの線路は電化方式を区分しており、フランス方式の交流25kV 50Hz(橙色)で電化された高速線のルートが初めて明瞭になる。緑色は非電化区間だ。梃子のように見える水色のイラスト記号も目立つが、これは可動橋を表している。複線区間に多数挿入されている渡り線は、双単線方式で運用されていることを示すものだ。

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技術的ネットワーク図
© 2021 Infrabel

個人サイトでは、駅舎を写した古い写真や絵葉書の膨大なコレクションを公開している「昔のベルギーの駅 Les gares belges d'autrefois」に、ベルギーの鉄道地図が多数収録されている。

■参考サイト
昔のベルギーの駅-ベルギーのネットワーク図 Cartes du réseau belge
http://www.garesbelges.be/cartes_reseau.htm

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昔のベルギーの駅-ベルギーのネットワーク図 画面
 

中でも注目すべきは、最上段の図「最大拡張期のベルギー鉄道ネットワーク図 Carte de l'extension maximale du réseau ferroviaire belge」だ。最大拡張期の鉄道網とはすなわち、廃止済の路線も描き込まれた国内全路線図ということになる。

凡例を見ると、電化営業線、非電化の営業線、廃止線、観光鉄道線、軍用線が色で分けられ、駅も営業中と廃止済の区別がある。水色の線が廃止線で、山間部を中心に相当数の路線がすでに姿を消してしまったことがわかる。地図の表示対象は主としてヘビーレールであって、その路線網の間隙を埋めていた多数のメーターゲージ地方軌道 Vicinal tram はほとんど反映されていない。しかし、シュヴェーアス・ウント・ヴァル社の地図帳のような詳細資料が未刊行のベルギーでは、そのことを差し引いてもなお貴重な資料ということができる。

(2021年8月21日改稿)

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 近隣諸国のウェブ版鉄道地図については、以下を参照。
 オランダの鉄道地図 II-ウェブ版
 ドイツの鉄道地図 IV-ウェブ版
 フランスの鉄道地図 III-ウェブ版
 ヨーロッパの鉄道地図 V-ウェブ版

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