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2009年5月10日 (日)

新線試乗記-門司港レトロ観光線+関門海峡の旅

JR門司港駅の改札を出て右のほうへ歩いていくと、レトロ観光列車の始発駅はすぐに見つかった。ゴールデンウィークのさなかで、まだ朝一番の列車が出る前というのに、けっこうな人数が集まってきている。小さな駅舎に1本きりの線路と片側ホームがあるだけの簡素な施設だが、その傍らに列車待ちの人たちのためにテントが並んで、開業間もない鉄道に対する人気の高さが想像できた。

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重文指定のJR門司港駅舎
 

私たちはローソンチケットで午後の列車を予約してある。乗車まで4時間以上もあるが、界隈には見るものがいろいろ用意されていて、時間を持て余すことはない。

まずは、隣接する九州鉄道記念館だ。規模はそれほど大きくないが、この地と縁が深いC59の1号機やEF10といった機関車、気動車、電車が整列する車両展示場があり、レンガの旧九州鉄道本社を活用した本館には模型レイアウトや展示資料も揃っていて、一見に値する。こどもたちからは、JR九州の多彩な車両を模した3人乗りのミニ鉄道にリクエストが集まった。

駅西側の通りを渡ってウォーターフロントに出てみると、開放的なプロムナードをリゾートよろしく人々がそぞろ歩いている。テラスのテーブルについて名物の焼きカレーを賞味した後、跳ね橋が上がるのを見学し、大道芸を取り囲む輪に加わり、建ち並ぶレトロな洋館を眺めてから、駅に戻ってきた。自由席の順番が回ってきた客がすでに狭いホームを埋めている。私たちも指定券のチェックを受けて、ホーム前方へ移動した。

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(左)門司港駅に到着
(右)九州鉄道記念館の入館ゲート
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(左)大道芸人の妙技に歓声
(右)名物焼きカレー
 

門司港レトロ観光線(やまぎんレトロライン)は2009年4月26日に開業したばかりの鉄道だ。この周辺は「門司港レトロ地区」と称し、観光拠点として整備が進められてきたが、北の和布刈(めかり)地区の入れ込みはまだ少ない。鉄道は、自然の残るこの地区への回遊性を高める役割を担ってスタートした。路線は、門司港駅から延びていたJR貨物支線と臨港鉄道を転用したもので、施設は北九州市が所有し、運行を第三セクターの平成筑豊鉄道が行う上下分離方式をとっている。

列車が走る区間は、門司港駅横の九州鉄道記念館駅から、古城山の裏側にある関門海峡めかり駅までの2.1kmで、途中2駅に停まっても所要時間はわずか10分だ。朝9時45分のめかり行きを始発に日中30~60分間隔(臨時便を除く)で13往復して、最終は17時10分に記念館へ戻ってくる。特定目的鉄道事業、すなわち観光に特化した鉄道とあって、今年の営業は11月29日までの土日、祝日とGW、夏休み期間に限定されている。

■参考サイト
JR門司港駅付近の1:25,000地形図
http://maps.gsi.go.jp/#15/33.945100/130.961300

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貨物線時代の1:25,000地形図
1990(平成2)年修正測量
 

出発5分前、小型DLを前後に立て、海辺の風景に溶け込む鮮やかな青色をまとったトロッコ列車が入ってきた。客車は2両で、めかり側が指定席車、記念館側が自由席車だ。車内には小さな簡易テーブルを挟んで向い合せの座席が全部で42席ある。

めかりに向って左が海側になり、当然景色もいいのだが、出入口がある分、座席数は少ない。しかもローソンチケットでは座席の希望を聞いてくれず、機械にお任せだ。指定席車は座席定員しか乗せないはずだが、この日は立席承知の客を詰め込んで、自由席の長い待ち行列をさばいていた。

13時45分、定刻の発車だ。門司港駅前に通じる桟橋通の踏切をそろそろと渡り、両側を道路に囲まれた専用線を歩み始める。緩く左にカーブしていくと船溜りが見え、出光美術館前駅に停車する。左手には、門司港で唯一の高層ビルがそびえ立つ。展望塔を兼ねているらしいが、あまりに突出した高さのために手前の洋館が押しつぶされそうだ。

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「潮風号」入線
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(左)混み合う車内
(右)港に沿って走る
 

ビルや倉庫や駐車場が雑多に並ぶ車窓もつかの間、次の左カーブではいよいよ開いた水辺が現れる。現在の門司港が築かれる前から存在していた、その名も旧門司の港だ。漁船がずらりと岸に舫い、海峡を行く貨物船と大吊橋の関門橋が背景を引き締める。少しの間その眺めを鑑賞しながら行くと、反転するカーブの途中に2つ目の中間駅、ノーフォーク広場がある。

行く手は、海峡に突き出した尾根を抜けるトンネルだ。たかだか200m強の短いものだが、車中の客には思いがけないお楽しみがある。客車の天井が魚の形に光り出すのだ。暗闇を抜け出すと、風景が先ほどとはがらりと変わっているのに気づく。人家が去り、広い海原が現れ、列車が海峡の外側、周防灘沿いへ出たことを教えてくれる。

街中、港、トンネルと車窓の変化を追ってきて、今またこの新たな展開を楽しみたいと思うのだが、残念ながらすぐに終点、関門海峡めかり駅に到着だ。線路はまだ車庫まで続いているものの営業列車の延長予定はなく、体験運転や手漕ぎトロッコなどを配したレールパークの構想が持たれているという。

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(左)トンネル内のアトラクション
(右)めかり駅付近

さて、観光鉄道のレポートはこれで幕となるところだが、復路についても言及しておきたい。というのも、よほど急ぎの旅程ならともかく、この晴れ晴れとした海景を前にして単純往復という選択肢はないからだ。

駅前に、めかり絶景バスが客待ちしている。これに乗れば、背後の古城山中腹にある標高100m程度の展望台まで運んでくれるのだが、関門橋の橋脚(141m)より視点が低いため、インパクトに欠ける。お薦めは、対岸の本州に渡って火の山(標高268m)に上ることだ。間近に仰ぐと圧倒的な関門橋も、山上からでは、海峡を一望する大パノラマのアクセントに収まってしまうだろう。

利用者減で一時運休になっていたためか、九州側の観光案内ではたいてい黙殺されているが、めかり駅から火の山ロープウェイの乗り場(壇の浦駅)までせいぜい1.5kmと歩ける距離だ。しかも、海底を自分の足で横断するまたとない体験ができる。

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ルート概略図
 

その行き方だが、めかり駅から波打ち際に遊歩道(観潮遊歩道)が整備されている。海峡を行き交う船を眺めながら潮風に吹かれて10分程度で、海峡最狭部、早鞆の瀬戸に面する和布刈神社にたどり着く。

山側の道路の向かいにある人道トンネル入口からエレベーターで地下へ降りる。関門海峡の下を行く長さ780mの歩行者専用路を歩いて約15分、下関側の人道出口からは長府方向へ交差点を渡る。山手への少々きつい小道と階段を5分も登れば、火の山ロープウェイの乗り場に達する。

ロープウェイは季節運行なので、事前に下関市の観光HPで日程を確認しておいたほうがいいだろう。最下段の写真が山頂からのパノラマだ。正面が関門橋、その奥に門司港、左の対岸に並ぶ石油タンクの右、青緑の屋根がレトロ観光線の終点になる。

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観潮遊歩道
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関門トンネルで海底横断
(左)門司側人道入口
(右)トンネル内の県境
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火の山ロープウェイ
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火の山山頂からの眺望
 

帰りは、山上を毎時20分に出るロープウェイに乗ると、山麓駅の前で国民宿舎から来る1時間に1本のサンデン交通バス(9~18時まで毎時26分発。停留所名は「火の山ロープウエイ」)をちょうど捕まえられる。海岸の御裳川(みもすそがわ)まで歩かずに、門司港行き渡船がある唐戸やJR下関駅へ直接出ることができて便利だ。

■参考サイト
門司港レトロ観光列車 潮風号 http://www.retro-line.net/
Wikipedia日本語版「外浜駅」(貨物線時代の終点駅)
http://ja.wikipedia.org/wiki/外浜駅 
九州鉄道記念館 http://www.k-rhm.jp/

掲載の地図は、国土地理院発行の2万5千分の1地形図下関(平成2年修正測量)を使用したものである。

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