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2009年3月19日 (木)

ヨーロッパの鉄道地図 III-折図いろいろ

トーマス・クック以外にも、個性豊かなヨーロッパ鉄道地図が刊行されている。手元にあるものを紹介しよう。

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カナダ、バンクーバー近郊のITMB出版社 ITMB Publishing は、さまざまな縮尺で世界の国・地域図、市街図を多数発表しているが、その中に「ヨーロッパの鉄道 Europe Railways」(右写真)がある。109×69cmの耐水紙を使用して、オモテにヨーロッパの西半分、裏面に東半分を掲載している。縮尺は1:3,350,000(335万分の1)で、スカンジナビア北中部と、列車は走っていないがアイスランドは1:8,000,000(800万分の1)の挿図に収まる。

「列車でヨーロッパを旅する人はたいへん多いのに、大多数のヨーロッパ地図で鉄道路線の情報が省かれていることはほとんど知られていない。そう、AA、ADAC、ブレー、フライターク、ヘーマ、ミシュランその他、多くの地図に線路は表示されておらず、道路だけだ。その点、この地図ではアイルランドからウラル山脈、ノルウェーから地中海まで、旅客鉄道の大部分をしっかりと表示している」。

自社サイトの地図紹介の一部だ。例に挙げられた各社はもともと道路地図として作っているので、鉄道の記載がないことを責めるわけにはいかない(そして実際はけっこう表示されている)が、それに比べてこれは道路と鉄道を同格に扱っている、と言いたいのだろう。

確かにこの地図では、鉄道を旗竿記号で明確に示しているので、ネットワークが概観できる。しかし、幹線支線のような区別は考慮されておらず、この場所を通っている、この都市間を結んでいるということが、知り得る情報のすべてだ。また、小縮尺の辛いところで、スイスのようにほんとうに鉄道で回れる地域の路線を表しきれていない。一方、道路のほうは、幹線自動車道(E-road)の路線番号が入り、道路種別も記号化されて、こちらが主役と言われても不自然でないほどだ。鉄道地図というより、むしろヨーロッパ広域交通地図という表現が当を得ていよう。

■参考サイト
ITMB出版社 http://www.itmb.com/
 右メニュー "Map Sample"にサンプル画像が、"Shop Onlines"オンラインショップで、自社地図のみならず世界各地の地図が購入できる。
「ヨーロッパの鉄道 Europe Railway」のサンプル画像
http://www.itmb.com/map_samples/ITM/Europe-Railways_SMdet.jpg

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アメリカ、フロリダ州にあるストリートワイズ・マップス社 Streetwise Maps は、ラミネート加工を施した蛇腹折りのミニマップを専門とする出版社だ。このシリーズの一つに「ヨーロッパと主要鉄道路線 Europe & Major Rail Routes」(右写真)がある。

48.8cm×21.6cm、縮尺1:11,500,000(1150万分の1)、鉄道は高速線と幹線、それに旅客フェリーを図示するだけの簡単なものだが、地方都市をまめに記載しているのと、主要都市間の所要時間が別表になっていて、実用にも配慮されている。とかく1枚ものの地図は扱いにくいときがあるから、ハンディで丈夫な地図なら根強い需要があるのだろう。

■参考サイト
ストリートワイズ・マップス社 http://www.streetwisemaps.com/

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アメリカ、カリフォルニア州のマップリンク社 Map Link は、世界の地図を取り扱うリテーラーとして有名だが、自社ブランドを冠したユニークな主題図のことは、知る人ぞ知る領域だ。例えば、世界の天文台と天文館地図、旅行者のための世界リスク地図、国際テロリズム参考地図、などとタイトルが並ぶと、「ヨーロッパ鉄道地図 Rail Map of Europe」(右写真)がいかにも平凡な作品に見えてくる。しかし、表札だけで内容を判断するのはまだ早い。これは同社ならではの発想が貫かれた地図だからだ。

98×69cmの大判用紙の片面刷りで、縮尺は1:4,125,000(412万5千分の1)、大西洋岸から東はルーマニアまでが掲載範囲だが、スカンジナビアを右上に挿図したため、ポーランドやバルト三国は割愛されてしまった。凡例は5ヶ国語対応で、英・独・仏、それにスウェーデン語と日本語という珍しい組合せだ。鉄道ファンが使用する主要言語として選ばれたのかと勝手に想像した。

鉄道記号は国鉄か私鉄かで分け、さらに運行頻度で5段階に分ける。民営化や上下分離で国鉄という分類が難しくなってはきたが、ここまでなら常識的な設定だ。

次の旅行情報という記号が独創的で、A地点におけるおよその出発時間(厳密な時刻ではない)とA地点からB地点までの所要時間を逐一図示している。所要時間は赤数字で、出発時刻は時計をイメージした目盛り入りの円で表していて、これによってパリ~ベルリン間は所要10~11時間、パリ発午前9時ごろ、午後1時と9時ごろの1日3便あることがわかる。航路は所要時間とともに、夏季と冬季に分けて運行頻度を数字で示している。

ところが、この表が地方線を含め、ぎっしりと地図に埋め込まれて、路線のルート表示がかなり隠れてしまうし、時計の目盛りが細かすぎて、列車頻度が高いと判別に苦労する。それに1時間単位の表示では目安程度にしか使えない、もっと頻発になると表現できないなど弱点も多々見つかる。果たして商品として成立しているのか、という疑問はあるものの、アイデア賞はぜひ授けたい気がする。

■参考サイト
マップリンク社 http://www.maplink.com/
"Maps & Atlases" > "Map Link Code - Locate a specific map" > 入力欄に"ML EUR RAIL"
これで上記地図のサンプル画像が表示される。ちなみに、世界の天文台と天文館地図は"ML WOR ASTRO"、旅行者のための世界リスク地図は"ML WOR RISK"、国際テロリズム参考地図は"ML WOR TER"

イギリスのロジャー・ラッセルズ社 Roger Lascelles は、赤いカバーをまとった国・地方別地図が看板商品だが、中に
ヨーロッパ鉄道電化方式地図 Europe Railway Electrification Map
世界鉄道ゲージ地図 World Railway Gauge Map
というユニークな地図(下写真)が含まれている。

前者は、ヨーロッパ地図を国ごとに支配的な電化方式で塗り分けたものだ。交流の国は緑系、直流は赤系と補色で対比しているので、ベルギーとオランダが交流連合に囲まれながら直流の孤島を維持しているといったパッチワークの分布状況が、一目瞭然だ。地図には主な鉄道路線も記入されている。一国で複数の電化方式を採用していることもしばしばあるが、これは別冊に掲載された方式別延長キロの表が参考になる。冊子のメイン記事は、電化方式を主としたヨーロッパの鉄道事情についての詳しい解説(英語)で、興味深く読める。

後者は、全世界の主要鉄道路線を軌間(線路幅)別に色分け表示したもので、こちらはさらにボリュームのある地域別の説明資料が付録になっている。

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(右)ヨーロッパ鉄道電化方式地図 表紙
(右)世界鉄道ゲージ地図 表紙
 

■参考サイト
ロジャー・ラッセルズ社 http://www.rogerlascellesmaps.co.uk/

いずれも、自社ショッピングサイトのほか、日本のアマゾンなどでも扱っている。

次回は、スイス、キュマリー+フライ社の新しいヨーロッパ鉄道地図について。

★本ブログ内の関連記事
 ヨーロッパの鉄道地図 I-ボール鉄道地図帳
 ヨーロッパの鉄道地図 II-トーマス・クック社
 ヨーロッパの鉄道地図 IV-キュマリー・ウント・フライ社
 ヨーロッパの鉄道地図 V-ウェブ版
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