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2009年3月12日 (木)

ヨーロッパの鉄道地図 II-トーマス・クック社

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トーマス・クック
ヨーロッパ鉄道地図
第15版(2004年)表紙
 

ヨーロッパ全域をカバーする鉄道地図といえば、「トーマス・クックのヨーロッパ鉄道地図 The Thomas Cook Rail Map of Europe」がまず思い浮かぶ。同じ出版社が刊行している歴史ある鉄道時刻表 European Timetable とともに、ヨーロッパを鉄道で旅する人たちに愛用されてきた。1978年初版で、現在17版を重ねる(写真は第15版。最新版は表紙デザインが変わっている)。

簡単に内容を紹介しておこう。99×69cmの大判用紙を用いた地図のオモテ面は、縮尺およそ1:4,000,000(400万分の1)のヨーロッパ全図(スカンジナビア半島は挿図で1:6,000,000)だ。大西洋岸からモスクワやトルコのアンカラまでを収めている。クック鉄道時刻表の掲載範囲がモスクワ(シベリア鉄道を除く)、イスタンブールまでなので、合わせてあるのだろう。

ただし、この縮尺では、鉄道網が比較的稠密なヨーロッパ中央部(特にスイス)は表しきれないため、裏面にこれを補う1:1,500,000(150万分の1)の拡大図がある。東西はパリ~ワルシャワ、南北はベルリン~ボローニャの範囲については、こちらに詳細が載っている。

凡例は、英独仏西の4ヶ国語が併記されている。鉄道に関する地図記号で最も目立っている赤の実線は、フランスでいう LGV(Ligne à grande vitesse)、つまり高速路線だ。対して黒の実線は普通鉄道の幹線、それより細い線は支線を表す。建設中、休止中、ラック式鉄道の区分もある。観光鉄道のうち重要なものには T(= Tourist Railway)印が添えてある。

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同 第16版(2007年)
(左)表紙 (右)裏表紙
 

駅の表示は主要駅のみだが、起終点だけでなく、中間駅も結構目配りされているようだ。中でも国境駅は赤で塗ってある。シェンゲン協定で国境通過時のパスポートチェックはなくなったとはいえ、機関車の付替えなど国際列車特有のイベントが残っているからか。

バス路線はオレンジの細線を充てるが、鉄道網を補完するものや、旅行者がよく利用するものに限られている。一瞥すると、この記号の密度が高いのは、アイルランド、スイス南東部からチロルにかけて、そしてスカンジナビアの北部だ。旅のニーズがあるのに、鉄道網がほとんど消滅した、あるいは発達していない地域ということだろう。

ところで、クック鉄道地図の有名かつ最大の特徴は何だろうか。それは路線の上に緑のアミ(網点)で強調しているので目を引く。そう、景観路線 Scenic route の表示だ。地図カバーの解説を借りると、これは「鉄道で旅する人の参考になるように、山や川、海岸の風景が車窓から見えるという条件で、個人の知見や地図ユーザーの投書の中から編集部員の主観で選んだもの」。示された区間が絶景の連続かというとそうでもないのだが、車窓を楽しむ旅の目安にはなる。他に、主なスパイラル(ループ線)を誇張して描いているのもこの方針の延長線だろう。

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ヨーロッパ鉄道地図の一部
© 2009 Thomas Cook Publishing
 

しかし、地図を眺めるにつけ、筆者が残念に思うことが二つある。その一つが景観路線の推薦理由が明らかでないことだ。さいわい、アルプス、ピレネーなど山岳地帯はぼかしがかけられているし(かなり大雑把だが!)、主要河川や海岸線に沿う区間も見ればわかる。何が見どころか、ある程度まで推測は可能というものの、簡単な分類が記されていればさらに親切だろう。

二つ目は、時刻表とのリンクが考慮されていない点だ。時刻表のスタッフが編集、更新していると広告にうたうほど、クック鉄道時刻表の威光を背負っているのに、不思議なことだ。鉄道地図は、ディテールはともかく地理的位置に合わせて路線網を描いている。一方、時刻表の索引図は、主要駅間を直線で結んで位置関係だけを明らかにした、いわゆるスキマティックマップ(位相図)だ。

たとえば、鉄道地図で発見したシーニックルートを走る列車の時刻を調べたいと思ったとしよう。図法の異なる2つの地図を比較して路線を同定し、索引図のほうで時刻表番号を求めて、ようやく目的の時刻表に到達する。慣れない人にとっては億劫な作業だ。しかし、鉄道地図に時刻表番号が添えてあったら、ワンストップで解決するだろう。何か技術的な問題があるのかもしれないが、理想の道連れ Ideal companion を標榜するからには、改良を期待したいものだ。

クック鉄道地図は、アマゾンその他のショッピングサイトで扱っている。なお、ミュンヘンのゲーラモント出版社 GeraMond Verlag から刊行されている「ヨーロッパ鉄道地図帳 Eisenbahnatlas Europa」(2006年、下写真)は、各国の鉄道の現状をカラー写真つきで解説した本だが、巻末の鉄道地図はトーマス・クックをそのまま利用している。

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「ヨーロッパ鉄道地図帳」表紙
 

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ユーロピアン・レイル・
タイムテーブル社の
ヨーロッパ鉄道地図 第2版
 

【追記 2019.8.1】

2013年にトーマス・クック社は出版事業から撤退し、新たに設立されたユーロピアン・レイル・タイムテーブル社 European Rail Timetable Limited がこれを引き継いだ。出版物からトーマス・クックの名は外され、時刻表は「European Rail Timetable」、鉄道地図は「Rail Map Europe」(最新は2019年7月の第2版)の名称で刊行が継続されている。

■参考サイト
European Rail Timetable Limited https://www.europeanrailtimetable.eu/

次回は、これ以外のさまざまな1枚ものの鉄道地図について。

★本ブログ内の関連記事
 ヨーロッパの鉄道地図 I-ボール鉄道地図帳
 ヨーロッパの鉄道地図 III-折図いろいろ
 ヨーロッパの鉄道地図 IV-キュマリー・ウント・フライ社
 ヨーロッパの鉄道地図 V-ウェブ版
 ヨーロッパの鉄道地図 VI-シュヴェーアス+ヴァル社

 ヨーロッパ版の姉妹品であるイギリス・アイルランド鉄道地図 Rail Map Britain & Ireland を紹介している。
 イギリスの鉄道地図 I-トーマス・クック社

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