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2009年2月 5日 (木)

イタリアの旅行地図-イタリア旅行協会

悠久の歴史と文化に彩られたイタリアは、ヨーロッパそして世界中の人々を引きつけてやまない。中世の面影を保つ街巡りはいつも魅惑的だが、明るい陽光を浴びながら、緑なす田園風景を愛でる旅にも期待が膨らむ。そこではおそらくTCIの地図とガイドブックが水先案内人となってくれるはずだ。

日本語でイタリア旅行協会と訳されるTCI、すなわちツーリング・クラブ・イタリアーノ Touring Club Italiano は、同国の旅行事業を専門とする独立非営利法人だ。イタリア旅行書・地図の分野では、フランスにおけるミシュラン社 Michelin のような代表的存在になっている。

協会の日本語版HPの紹介によれば、TCIは1894年、自転車旅行の愛好家たちによってミラノで設立された。現在45万人以上の会員を擁しており、旅行文化の普及と振興を図ることを目的に、出版、旅行代理、施設運営、調査研究などの事業を展開している。

TCIの地図帳としては、縮尺1:200,000でイタリア全土を北部、中部、南部の3分冊にした「イタリア道路地図帳 Atlante stradale d'Italia」が知られていた(下写真は北部編1991年版。その後、表紙デザインは変わっている)。A4判より一回り大きい24.5cm×32cm。収載範囲は、北部編が北の国境からフィレンツェまで、中部編はボローニャからナポリの北まで(ナポリは含まず)とサルデーニャ島、南部編はローマから南、シチリア島までだ。周辺部は互いに若干の重複を持たせてある。

Blog_tci_atlas

カタログで見ると、2009年版は全土を1冊にまとめたため、575ページものボリュームになっているようだ。先にあげたミシュランにも同じ縮尺のイタリア地図帳があるが、他社には真似のできないご当地色に満ちている点で、筆者は断然TCI版を支持する。

最たる特徴は、道路地図 Cartografia stradale の地勢表現に、古典的なケバ式を採用していることだろう。ケバとは「斜面の最大傾斜の方向に向けて並べられた単線群」(「図説地図事典」武揚堂1984, p.298)、つまりブラシのような線をびっしりと描いて傾斜や立体感を示す方法だ。19世紀中期以降に等高線が普及するまでは、「地形図」の主たる表現手段だった。TCIのケバは線の足が長く、まるで指紋のようだ。それだけでも十分美しいが、よく見ると灰色のケバの下にベージュのぼかし(陰影)を重ねて、立体感をより強調している(下図参照)。

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1:200,000道路地図の例
(TCI道路地図カタログ 2009年版より)
© 2009 Touring Club Italiano
 

地図全体のトーンがイタリアの家並みを連想させるのは、この下地とともに、主要道がキャロットオレンジ、その他の道路がクロームイエローに塗られているためだ。いまどき手描きの注記というのも温かみを醸し出す源だろう。もちろん、区間距離や道路番号の表示など、道路地図としての機能は整っているし、鉄道記号もていねいに単・複線、軌道の区別がある。

もとより、1:200,000という縮尺で道路網が稠密な都市近郊を描くのは無理がある。地図帳には、別に中心都市図 Pianti di attraversamento がついている。筆者の手元にある版は古いため、各巻4~5都市が紹介されているだけだが、現行版は119都市を収載しているという。

縮尺はまちまちだが、郊外には等高線も入っている。旧市街はしばしば丘の上に築かれているので、これも必要な情報だ。主要街路は太い線でくくり、目印となる文化財級の建造物は俯瞰形で描き起こされている。いずれ劣らぬ個性を放つ町ばかりだから、旧市街の狭い街路や教会、遺跡を追っての図上旅行を始めると、時の経つのを忘れる。

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市街図の例
(TCI道路地図カタログ 2009年版より)
© 2009 Touring Club Italiano
 

なお、これらの図版は1枚ものの折図にも使われており、1:200,000地方図シリーズ Carte regionali や、都市図シリーズ Carte e Piante di città として多数刊行されている。かつては都市図だけを収録した「イタリア都市図集 La piante delle cittá d'Italia」という地図帳もあったのだが、すでにカタログから消えた。この道路地図帳に集約されてしまったのかもしれない。

姿を消したということでは、1枚ものの旅行地図もそうだ。TCIには、戦前からイタリア各地の集成図「イタリア旅行地図 Carta di zone turistiche d'Italia」の看板シリーズがあった。内容は、特に旅行情報を付加したわけでもないただの地形図なのだが、ぼかしが入り、露岩や崖地の表現も精巧で、入手しにくい官製図に対して身近な存在だった。

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1990年代でもまだ北部の山岳地帯やナポリ湾などの図葉が残っていたが、いつしか上記の1:200,000の図版を使用したものに置き換えられてしまった。改訂の手間を考えて整理されたのだろうが、惜しいことだ。(上の写真左側はイタリア旅行地図シリーズの一つ「オルトレス・チェヴェダーレ山群 Gruppo Ortles Cevedale」1981年版、右はそれを引き継ぐ1:200,000図版を使ったシリーズ「ガルダ湖 Il lago di Garda」1996年版だが、これも今は廃版)

■参考サイト
イタリア旅行協会 http://www.touringclub.it/
同 出版物(ウェブストア)https://www.touringclubstore.com/

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