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2009年1月 1日 (木)

ヨーロッパの鉄道地図 I-ボール鉄道地図帳

鉄道利用の旅行者によく知られているトーマス・クックのヨーロッパ鉄道地図の紹介は後回しにして、今回はマイク・G・ボール Mike G. Ball 氏の編纂する「ヨーロッパ鉄道地図帳 European Railway Atlas」を取り上げたい。

というのも、ヨーロッパ全域をカバーする鉄道地図の中で鉄道愛好家向けのものとしては唯一であり、久しぶりに復刊されたからだ。氏の労作は1990年代にイアン・アラン出版社 Ian Allan Publishing から5分冊の詳細版(イギリス諸島 British Isles 編、フランス・オランダ・ベルギー・ルクセンブルク編、デンマーク・ドイツ・オーストリア・スイス編、スカンジナビア・東ヨーロッパ編、スペイン・ポルトガル・イタリア・ギリシャ編)、ついでポケットサイズの1冊にまとめた抄録版が刊行されたが、その後は長らく廃刊のままだった。

★本ブログ内の関連記事
 ボール氏の旧著は下記で紹介している。
 イギリスの鉄道地図 III-ボール鉄道地図帳

Blog_eu_railatlas1
ヨーロッパ鉄道地図帳
(左)フランス・オランダ・ベルギー・ルクセンブルク編 1994年改訂版
(右)デンマーク・ドイツ・オーストリア・スイス編 1998年第2版
Blog_eu_railatlas2
ヨーロッパ鉄道地図帳 抄録版 1997年
(左)表紙 (右)裏表紙
 

昨年あたりから国・地域別の分割版が提供され始め、全域の完成が待たれていたが、2008年12月、ついに完全版の出来が発表された。表紙とも180ページ、地図は122面ある。1ページ1面で割り付けられており、残りのページは索引と後述する資料集だ。先行してPDFファイルがCD収録の形で有償配布されており、印刷本は追って刊行される。公式の紹介ページ(下記参考サイト)に、各国版1ページずつのサンプル図が掲載されている。筆者はまだ完全版を実見していないが、手元にあるフランス編とハンガリー編を参考にして内容を見てみよう。

■参考サイト
ヨーロッパ鉄道地図帳 http://www.europeanrailwayatlas.com/

Blog_eu_railatlas3
ヨーロッパ鉄道地図帳 国・地域別
(左)フランス編 (右)ハンガリー編
 

地図の縮尺は国・地域ごとに異なっている。数値を明示していないのでスケールバーから測ると、フランス編は本土1:1,800,000(180万分の1)、ハンガリー編は1:1,200,000(120万分の1)程度だ。残念ながらこの縮尺では全駅表示は不可能で、路線網の表現にとどまる。

だし、フランス編では、パリ Paris、リール Lille、リヨン Lyon 周辺について拡大図が用意されているので、RERのような近郊路線も省かれてはいない。また、コルシカ島 Corse の図はサルデーニャ島 Sardegna を含んでおり、本来はイタリア編に属するものだ。国別とはいえ、隣国の路線も簡略化されつつ描かれているので、国際路線を追跡するのに不自由はない。

凡例はフランス編が英、仏、独語、ハンガリー編にはハンガリー語が加わり、全域版ではEUの公用語数に匹敵するほどの言語が並んでいるのだろう。地図記号も多彩だ。線の形状で区別するものでは、標準軌でICが走る幹線、支線、貨物線(いずれも複線、単線の別あり)、休止線、それに狭軌の複線、単線、休止線などがある。フルカラーを生かした色による区別は、主に電化方式の違いを示していて、結果的に国ごとに支配的な配色が変わるので効果的だ。建設予定線と保存鉄道も色で判別できる。

しかし、労作に水を差すようだが、記号の設定のしかたには少々疑問がある。直線が複線を表し、直線の上にドットを並べて(だんごの串刺しに似た形状)単線を表すというのは、必ずしもわかりやすいとはいえない(下の画像参照)。そのつど凡例を参照しなくて済むように、たとえば複線は二重線、単線は一重線というような簡明な表現にすべきだろう。ついでに国境の記号も、色は赤ながら同じような直線にドットの串刺しで表現されていて、まぎらわしい。

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同 凡例の一部
 

それはさておき、この地図帳のコンテンツは鉄道地図だけにとどまらない。「ヨーロッパの鉄道への総合案内 A Comprehensive Guide to Europe's Railways」を標榜するのも故なるかな、地図帳につきものの地名索引のほかに、保存鉄道の一覧、鉄道と列車予約の取扱サイト、愛好家向けサイトなどが紹介されていて、調べものには重宝する。

全域版が上梓された後も、国・地域別版は並行して提供されるようだ。オーストリア、ベネルクス三国、イギリスとアイルランド、東欧諸国、フランス、ドイツ、ハンガリー、イタリア、北欧諸国、ポーランド、スロバキアとチェコ、南東欧諸国とトルコ、スペインとポルトガル、スイスの14分冊があり、上記公式サイトで発注すると、オンデマンド印刷、簡易製本で送られてくる。国によってはこれより詳細な鉄道地図が存在する場合もあるが、ヨーロッパ全域を統一された基準で網羅した意義は大きく、調査研究の基礎資料として利用価値は高い。

Blog_eu_railatlas4
ヨーロッパ全域版 表紙
 

【追記 2009.4.3】

全域版の印刷本が提供され始めたので、表紙の画像を掲げる。国・地域別版と同じオンデマンド印刷で、スパイラル綴じにされている。

次回はトーマス・クック社の鉄道地図について。

★本ブログ内の関連記事
 ヨーロッパの鉄道地図 II-トーマス・クック社
 ヨーロッパの鉄道地図 III-折図いろいろ
 ヨーロッパの鉄道地図 IV-キュマリー・ウント・フライ社
 ヨーロッパの鉄道地図 V-ウェブ版
 ヨーロッパの鉄道地図 VI-シュヴェーアス+ヴァル社

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