韓国の地形図地図帳
韓国は、無断で地形図を国外へ持出すことができない国の一つだ。地形図にもそのことが明記され、無断複製などと同列で、国土地理情報院長の事前承認を得ずに国外へ搬出することを禁止し、違反者に対する刑罰にまで言及している。測量法の定めとあらば仕方がないのだが、グーグルの衛星画像で世界中の地表のディテールが見られるような時代では、このような規制はあまり意味を成さない。防衛上の問題点があるのかというと、韓国で市販されている地形図には、軍事施設や空港などは初めから描かれていないのだ。
現実には(許可を得てのことだろうが)、韓国の地形図はかなり日本に持ち込まれており、誰でもアクセスできる。たとえば、国立国会図書館では「新版1:50,000基本圖地圖帖」全4巻が、開架図書として閲覧に供されている。大学図書館などでも備えているようだ。これは、地形図の元捌きの1社である中央地図文化社が数年に一度出していたもので、縦長の1:50,000地形図を2つ折りの上、裏面を貼り合わせて製本してある。4巻で韓国全土をカバーするが、北朝鮮との間に設けられたDMZ(非武装地帯)を含む図葉はカットされている。
それに対して、1:50,000の測量成果を編集してオリジナルの地図帳に仕立てたものも刊行されている。ランダムハウスコリア Random House Korea の「大韓民国5万地図 대한민국 5만지도」だ。横25cm×縦35cmの判形(ほぼB4判)で752ページあり、現地定価は59,000ウォン(5,900円)。
先の基本図地図帳は表装からして専門書的で、一辺50cm以上もあり、気軽に扱いにくい図書だった。こちらは重量と厚みはともかく、普通の机に広げられる大きさで、韓国内の書店に道路地図と並べて置いてあるような普及版だ。韓国の一般的な道路地図帳でも等高線のような地形図的要素が盛り込まれているが、まして官製地図と同じ精度で表示された全国地図帳が刊行されているというのは、かの国の地図文化の浸透度を示すものだと思う。
収載された地図(以下、RHK版)は、国土地理情報院の地形図(以下、官製版)といくつかの点で違いがある。官製版の本来の図郭は経度15分×緯度15分だが、RHK版は見開き15分×9分の横長サイズで、巻末に両者の図郭の照合図がある。
色の使い方では、官製版は等高線が赤茶で、他に赤、青、緑、黒の計5色刷りだが、RHK版では等高線を緑に変えて山林のハッチをなくしたほか、道路を藍、赤、緑、クリームイエローの4色で区別して、格段に読取りやすくしている。官製版(上記地図帳収載の図)と比較すると市街地の道路網も詳しくなり、道路番号もこまめに書き入れられているので、道路地図としての利用も想定しているのだろう。それから、集落の表示がかなり詳細で、より大縮尺の基本図からデータを借りているように見える。
さらに大きな相違点は地名表記だ。韓国語は現在、ハングルのみで表記するが、大多数の地名は漢字音に由来している。官製版がこのような漢字語地名をもとの漢字で表記しているのに対して、RHK版はハングルに統一していて、かろうじて市郡名だけ漢字、英字を併記してある。目次、索引、凡例集に至るまでハングル以外の表記はない。識字がおぼつかない筆者は、手元に中央地図文化社の漢文・英文版「韓國道路地圖」を広げ、それを辞書代わりに地図探索をしているところだ。
読図のハードルは少々高くても、718ページもの膨大な地形図の集積はたいへん貴重だ。その気になれば、DMZが横断する北辺から南海(東シナ海)の済州島まで、韓国を自由に図上旅行することができる。新空港をはじめ大規模な干拓が進行する西海岸、高速鉄道や高規格道路が次々オープンする中央部、その一方で村里の古刹が昔と変わらぬ姿で残る山岳地帯...。時空を超えたダイナミックな風景をこの地図帳から想像してみたい。
なお、地図帳の購入に際して、筆者は現地のオンラインショッピングサイトを利用したが、日本国内の韓国書籍専門店(たとえば水道橋の高麗書林など)でも扱っている。
■参考サイト
ランダムハウスコリア http://www.randomhousekorea.co.kr/
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