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2008年8月28日 (木)

Atlas of Korea (英語版コリア地図帳)

昨年(2007年)12月、韓国の国土地理情報院が英語版ナショナルアトラス(大韓民国国家地図集)を発表した。280ページ以上もある堂々たる官製地図集で、ウェブ上でも閲覧できるようになっている。それに比べればこちらは一般市民向けの普及書だが、出来栄えの見事さでは勝るとも劣らない。そのようなアトラスが一民間会社の手で刊行されている。「Atlas of Korea」、ソウルの成地文化社(韓国語読みではソンジムンファサ)が2000年に刊行した英語版総合地図帳だ(写真は2005年改訂版)。

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A4判、地図128ページ、統計・索引32ページ、計160ページ(見返しを含まず)、現地価格30,000ウォン(3000円)で、内容は以下のとおり。なお、原著の"Korea"は韓国と北朝鮮を包括した概念で使われているため、ここではコリアと訳しておく。

・1:2,700,000(270万分の1)コリア全図
・コリアの地理的位置
・コリアの歴史地図、1920~40年代の人口と産業
・1:1,000,000(100万分の1)中央コリア、南部コリア

・主題図77図(地質・地形、気候、土壌・植生、産業構造の変化、農業、林業・漁業・鉱業、貿易、製造業、人口、運輸・通商、観光・地域開発・環境、都市、土地利用、医療・教育・文化・福祉)

・1:250,000一般図(索引図に続いて韓国の区分図、見開き21面)
・主要都市の市街図(25都市。縮尺は1:100,000ソウル広域図以外、1:25,000~1:65,000)
・仁川国際空港案内図
・行政区分図
・1:1,000,000一般図(索引図に続いて北朝鮮の区分図3面)、同地域の市街図(3都市)

・名山地図(白頭山、七寶山、金剛山、雪岳山)
・ソウル地下鉄路線図
・古地図15面(15~20世紀初頭)

あたかも社会科地図帳のようにぎっしりと並ぶ主題図は、事象をくまなく取り上げているだけでなく、一つ一つの図が丁寧に描かれている。1970~80年ごろと直近の2000年を比較した図もいくつかあって、この間に韓国が経験した産業構造の急激な変化と、それに伴う人口の都市集中や農山村部の高齢化が進む状況が読み取れる。

1:250,000一般図は、日本の1:200,000のような「地勢図」だが、よりカラフルでかつ上品な、鑑賞に耐える佳品だ。地勢表現は、100m間隔の等高線に段彩とぼかし(陰影)を重ねている。等高線に使われたミントグリーンと段彩の精妙なグラデーションとがうまく調和しているし、ぼかしはおそらく手描きだろうが、うるさくなくピンボケでもない適度な濃さと細かさを備える。その結果、特に山岳地帯は手に取るように立体的に見え、かつ美しい。

道路の記号は、高速道路が青の二重線、国道と道道はオレンジの塗りに赤で縁取りしてある。どちらも落ち着いたトーンなので、背景とは争わず、しかし弁別性も失っていない。韓国の官製図にも同じ縮尺のシリーズがあるが、そちらは線のみで表された無骨な印象の地図なので、比較の対象にもならないくらいだ。

北部コリアすなわち北朝鮮区域は縮尺が1:1,000,000で、等高線は省略されているものの、地勢表現は上記1:250,000と同等だ。

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1:2,700,000コリア全図の一部
(c)2005 Sung Ji Mun Hwa Co., Ltd
 

一般図の地名や注記はすべて英字で書かれ、ハングルや漢字は一切添えられていない。その代わり、デザインのバリエーションが豊富な英字フォントの特色を生かして、大地名から小地名まで視覚的に判別できるようにしている。なお、現在適用されているローマ字表記法では、プサン(釜山)が Busan、テグ(大邱)が Daegu、クァンジュ(光州)が Gwangju となり、特定の字母に現れる無声音と有声音の違いを区別しない。日本語転写で清音と濁音を区別するのに慣れた私たちにとって、少し読みにくいのも確かだが、ハングルをたどたどしく追うよりは遥かに楽だろう。

一方、市街図は、地図ページの残り半分を占めるほどのボリュームがある。ソウル広域図を除いて地勢表現がないので、一般図から入ってくるとのっぺりした印象をもつが、こちらの特徴は、注記が非常に充実していることだ。

主要街路名はもとより、各種施設の名称がおびただしく書き込まれている。地図の常套手段である記号化はほとんどされていない。現地名称を機械的にローマ字化するのではなく、一般名詞の部分(たとえば役所、学校、病院、公園、工場など)を英語に翻訳してあるので、記号がなくても何の施設かがすぐわかるからだ。巻末の索引では、都市ごとに施設の名称も調べられるので、目的の施設を地図から探し出すのは難しくない。

このように「Atlas of Korea」が到達したレベルはかなり高いが、それが自国語ではなく英語表記であるところにより大きな意義がある。どの国のナショナルアトラスでも、英語版は国勢を広く世界に紹介する公式資料と位置づけられているが、韓国の場合は、官庁が実行するより先に、民間大使がその使命を果たしてしまったように見える。

■参考サイト
成地文化社 Sung Ji Mun Hwa Co.,Ltd.  http://www.sjmap.co.kr/
 トップページにある一覧から個別地図のページに飛ぶと、地図のサンプル画像が提供されている。

英語版 韓国ナショナルアトラス http://atlas.ngii.go.kr/english/
 トップページの"e-book search"で内容を閲覧できる。

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