バルト三国の鉄道地図
バルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)の鉄道は、ソ連時代、カリーニングラード州とともにバルチック鉄道 Балтийская железная дорога / Baltic Railway の管轄下にあったが、1991年の再独立によって、各国に移管された。三国を合わせた面積は175,000平方キロで、そこに約700万人が住む。1平方キロ当たりの人口密度は40.4人と、北海道(66.8人。面積には北方四島を含む)の6割ほどにしかならず、旅客鉄道が生き残る環境としてはかなり厳しいと想像される。ガイドブックなどには、各都市間の移動はバスが中心で、鉄道は本数が少なく使いにくいと書かれていることが多い。
いったいどの路線が、どれぐらいの頻度で運行されているのだろうか。各鉄道会社の2008年夏ダイヤを参考に、地図上に落とし込んでみたのが、右の図だ。すべての系統を網羅できたか心許ないが、およその傾向は読み取れるだろう。
どの国の路線網も太字で記した首都を中心にしており、タリン Tallinn とリーガ Rīga の近郊では比較的頻度の高いダイヤ(通勤電車)が組まれていることがわかる。しかし、距離が100kmを越える区間になると、1日数本の中・長距離列車が運行されているだけだ。早朝に地方を出て首都へ、夜に首都から地方へ戻るというような設定では、首都を足場にする旅行者のニーズに合わない。
図では国際列車を省略しているが、三国の首都間を行き交う「首都特急」などは夢の話で、列車の目的地はロシア方面に限られているのが実態だ。モスクワとサンクトペテルブルク行きはどの首都からも出ているし、ロシア本土とカリーニングラード州を連絡する列車はリトアニア国内に停車していく。
首都間は無理でも、せめて三国間の国境を越える列車がないかと探したが、見つかったのは、ヴィリニュスからラトビア東部の都市に停車してサンクトペテルブルクへ行く1往復と、リーガからエストニア国境にある双子町ヴァルカ Valka へ足を伸ばす3往復だけだった。ヴァルカから先、タルトゥ、タリン方面へ行く定期列車は設定されていないので、今のところ鉄路でラトビアからエストニアへ回遊することは不可能のようだ。
このように、バルト三国相互間の旅客往来に鉄道が関与する割合は極めて小さい。それが影響しているのか、鉄道地図も、三国の全体像が見えるものは刊行されておらず、トーマス・クックのヨーロッパ鉄道地図 The Thomas Cook Rail Map of Europe のレベルか、そうでなければ、鉄道会社が作成したものを個別に当たるほかないようだ。
エストニア
国有のエストニア鉄道 Eesti Raudtee / Estonian Railways の輸送部門は貨物に特化されており、旅客輸送には別途数社が関わっている。南西鉄道 Edelaraudtee / South-West Railway は、タリン Tallinn ~パルヌ Pärnu およびヴィリヤンディ Viljandi 間を経営(施設保有、旅客・貨物輸送)しているほか、エストニア鉄道の管理下にある東のナルヴァ Narva、東南のタルトゥ Tartu へも旅客列車を走らせている。
また、首都タリン近郊では、電気鉄道 Elektriraudtee / Electric Railway による通勤電車があり、首都とサンクトペテルブルク、モスクワを結ぶ各1往復の夜行列車は、ゴーレール社 GoRail が運行している。
エストニア鉄道の公式サイトには、古い鉄道地図があたかも現行のものであるかのように掲載されていて、誤解を招きそうだ。南西鉄道と電気鉄道のサイトにも、自社運行区間の簡単な路線図がある。なお、イギリスのクエールマップ社 Quail Map のシリーズに、エストニア鉄道地図(1枚ものの印刷図、1997年版)がある。
■参考サイト
エストニア鉄道 http://www.evr.ee/
トップページ > EVR Kaartで、旧路線図が見られる。かつての路線網を知るのには役立つが、現況との乖離が大きい。
南西鉄道 http://www.edel.ee/
路線図: トップページ > Raudteekaart(鉄道地図) 非運行区間を含んでいる。
路線別時刻表PDF: トップページ > Sõidugraafikud または Sõiduplaanid ja hinnad(時刻表と運賃)
電気鉄道 http://www.elektriraudtee.ee/
路線図: トップページ > REISIJALE(旅客)> Piletihinnad(運賃)のページ末尾にある。
時刻表:トップページ > REISIJALE(旅客)> Sõiduplaan(時刻表)
時刻表検索とは別に、エクセル形式の全駅時刻表 Sõiduplaan がダウンロードできる。
ダイレクトリンク http://www.elektriraudtee.ee/file.php?2694
クエールマップ社 http://www.quailmapcompany.free-online.co.uk/
ラトビア
国有のラトビア鉄道 Latvijas dzelzceļš = LDz / Latvian Railways の子会社、旅客列車会社 Pasažieru Vilciens / Passenger Train が運行する。リーガから4方向に40~80km圏内までは近郊路線として、通勤電車が走るが、以遠はディーゼル機関車が牽引する中長距離列車で、一部を除いて本数が少ない。特に西の沿岸都市が不便で、リェパーヤ Liepāja へは辛うじて1本が残るが、ヴェンツピルス Ventspils へは全く走っていない。
バルト三国の鉄道の軌間はロシアと共通の1520mm(エストニアは1524mm)だが、かつては狭軌鉄道網も発達していた。東部のグルベネ Gulbene には、定期運行する最後の750mm狭軌鉄道がある(「ラトビア最後の狭軌鉄道」参照)。
■参考サイト
ラトビア鉄道 http://www.ldz.lv/
英語版でも路線図、時刻表が見られる。
路線図: トップページ> Passenger traffic > Route Scheme
本来は区分ごとの拡大図が表示されるところ、現在は全体図(425KB)が現れる。
時刻表は検索方式のみ。
旅客列車 http://www.pv.lv/
このサイトでも同じ路線図が見られるが、上記に比べて解像度が低い。
リトアニア
国有のリトアニア鉄道 Lietuvos geležinkeliai = LG / Lithuanian Railways が国内の旅客列車を運行しているが、他の二国に比べると上下分離や子会社化が進んでいない。近郊電車区間も存在しないが、これは人口分布が首都への一極集中型でないことが一因としてあげられよう。
旅客列車の本数では、ヴィリニュスと第二の都市カウナス Kaunas の間の17往復が最も多く、次がヴィリニュス近郊の観光地トラカイ Trakai 行きの10往復、他は毎日1桁台の列車しか走っていない。貨物輸送は盛んだが、旅客輸送全体に占める鉄道の割合は、ラトビア5.1%、エストニア1.7%に対してリトアニアは1.0%しかなく、EU諸国で最低だ(EU energy and transport in figures - Statistical pocketbook 2007/2008 p.121による2006年のデータ)。
リトアニアにも狭軌鉄道が存在したが、現在は保存鉄道として、アウクシュタイティヤ狭軌鉄道 Aukštaitijos Siaurasis Geležinkelis = ASG / Aukštaitija Narrow Gauge Railway、68.4kmが残るのみとなっている。
■参考サイト
リトアニア鉄道 http://www.litrail.lt/ 英語版あり
路線図:Passenger transportation > Train stations > Train stations map
時刻表は検索方式のみ。
アウクシュタイティヤ狭軌鉄道 http://www.siaurukas.eu/
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ヨーロッパの鉄道地図 V-ウェブ版
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