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2008年3月13日 (木)

ハンガリーの道路地図帳-国防省地図会社

ハンガリーの近代史を遡ると、4年以上に及んだ第1次世界大戦に敗れて、1920年に結ばれたトリアノン条約で領土の7割以上を失っている。それまでは、現在のオーストリアのブルゲンラント州、スロバキア、ルーマニア北西部(トランシルヴァニア)、ダルマチア地方を除くクロアチアその他を包含した中欧の大国だったのだ。当時、北と東の周縁部には、標高2500mを超えるようなカルパティア山脈が長々と横たわり、ダイナミックで変化に富んだ風景を有していた。

今日では、ハンガリーといえば、プスタに代表される平原のイメージがある。ドラーヴァ Dráva、ドゥナ(ドナウ)Duna、ティサ Tisza の三大河川に囲まれたのびのびとした穏やかな地形が、そう思わせるのだろう。しかし、国土の北半は、東西にかけて低いなりに山地が連なっているし、スロバキアから続く石灰岩地帯もあって、地形的には決して単調ではない。

国防省地図会社 Ministry of Defense Mapping Company が刊行している道路地図帳を開くと、そのような国土の概観が見えてくる。筆者の手元にあるのは2004年版だが、次の改訂に際して、表紙のデザインが一新され、判型も変わってしまった。以下は、旧版をもとにした紹介だ。

Blog_hungary_atlas3
国防省地図会社の道路地図帳 2004年版
(左)表紙 (右)裏表紙
 

メインの地図は縮尺1:200,000で、見開き32面、64ページに分割されている。道路がランク付けに応じて色分けされ、地点間距離が記入されているところは、道路地図の基本的条件を満たしている。しかし、前回見たような、旅行情報までふんだんに取り入れた様式を期待してはいけない。国立公園などの区域表示はあっても、城跡だの展望台だのキャンプ地だのといった個別記号はまったく用意されていないし、逆に、ドライブにはあまり関係のない送電線やテレビ塔の記号があったりするのだ。

一方、地勢表現については申し分ない。等高線が標高200mまでは20m間隔、それを超えると40m間隔(一部20mの補助曲線も使用)で入り、ぼかし(陰影)も伴っていて、地形の特徴が手に取るように分かる。地勢表現だけ見ればわが国の1:200,000地勢図に似ていなくもないが、こちらは等高線間隔は100mだから、ハンガリーのほうが表現はより詳細だ。

小縮尺図では平坦そうに見えるドナウ以西の地域も、これで見ると細かい起伏があり、道路や鉄道はそれを縫いながら延びているのだと納得する。経緯度が明示され、UTMグリッド(10km)によるレファレンスも可能で、道路地図と名乗っているものの、地形図といったほうが実態に近い。

Blog_hungary_atlas3_detail
地図サンプル(地図帳裏表紙を拡大)
(左上)1:200,000道路地図
(中)ブダペスト市街図
(右下)ヨーロッパ全図
 

そこで、同国の官製1:200,000地形図と比較してみた。等高線の表現はほぼ同一だった。官製図の等高線間隔は一律40mだが、補助曲線が多用されているため、地図帳では低地を20m間隔で表現できるのだ。起伏を実感させるぼかしは、地図帳だけの特別仕様だ。道路も地形図を踏襲しているが、主要道については太めに強調されている。市街地の表現はラベンダー色を面塗りした、いわゆる総描表示に変更されていて、確かにこのほうが他の情報の読み取りを妨げない。

このように、地図帳は官製図の精度を保ちながら、識別性の点で著しい改良が加えられている。もはや同じ縮尺の官製図を1枚ずつ購入する必然性はないに等しい。

国防省地図会社のカタログには、4種類の地図帳があがっている。

・ヨーロッパ、ハンガリー、ブダペスト道路地図帳 価格15ユーロ
・ハンガリー及びブダペスト道路地図帳 13ユーロ
・ハンガリー道路地図帳 11ユーロ
・ブダペスト道路地図帳 7ユーロ

2ユーロの違いなので、筆者はオールインワンの最前者を選んだ。しかし、収載されているヨーロッパ全図は(カルトグラフィア社の提供と推測するが)、国別に着色して道路網と都市名だけを詰め込んだ、いささか味気ないものだった。一方、ブダペスト市街の区分図は全市域をカバーし、すべての通り名と系統番号つきのバス・トラムルートを記載するなど丁寧に作られているが、街歩きの目的だけなら、中心部の拡大図で間に合う。そのような理由で、筆者にもし今度改訂版を買う機会があれば、リスト3番目の「ハンガリー道路地図帳 Hungary Road Atlas, Magyarország autóatlasz」のほかには手を出さないつもりだ。

■参考サイト
国防省地図会社 http://www.topomap.hu/

「官製地図を求めて」ハンガリー
http://map.on.coocan.jp/map/map_hungary.html
 入手先、入手方法を記載している。

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