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2008年1月13日 (日)

或る地図店の閉店

京都の地図専門店が今月末(2008年1月)で地図の販売をやめる。東本願寺にほど近い下京区鳥丸通上珠数屋町東入ルの小林地図専門店、京都ばかりか関西一円の地図ユーザーに知られていた老舗だった。地形図ファンの筆者にとっても、一時代が終わるという感慨がある。

国土地理院の地形図を扱う店はほかにもあるが、全国を揃えているところはごく少ない。現在の地図店事情はよく知らないが、かつて関西で全国の1:25,000が確実に入手できたのはここだけだったと思う。

小林のような専門店では、たいてい地図棚はカウンターの奥にあり、店員にこちらの具体的な要望を言って、商品を出してもらわなければならない。一見不便なようだが、最適の地図にめぐり合うには実はこのほうが手っ取り早い。地図にはさまざまな種類があるからだ。それに、大して売れない国土地理院の地図は、セルフサービスの店だと、繰った人の手垢で汚れたり、端が皺々になることがままあるし、出し入れで順序も入れ替わっている。専門店との差は大きい。

それまで梅田の旭屋書店本店に通っていた筆者が、小林を知ったのは、大学に入学する年だった。京都駅の本屋で、地形図はありませんかと聞いたところ、店番の人が「ここには置いてないけど、烏丸六条に地図屋さんがあるよ」と教えてくれたのだ。

当時、地図店は烏丸通に面していた(現在の代々木ゼミナールの北側)。広い間口をもった木造の古い店構えで、正面に店の名を毛筆風の文字で書いた大きな看板がかかっていた。カウンターの向こう側では何人もの人が働いていて、そのうちの一人(後に店の主人の奥さんと知った)に、一度出してもらった地図をこれは要りません、と返すと、買わないんですか、と睨みつけるように言われたのを、なつかしく思い出す。

愛想の悪さにもめげず、筆者はその後足繁く通って、節約したバス代でそのつど1枚2枚大事に持って帰った。小売店の地形図を新刊と交換する在庫更新制度が始まる以前、回転の悪い店の地図棚には旧版地図が長く残っていたが、ここならひと月も待てば新刊が入った。在庫管理の手腕もさることながら、それだけよく出ていたということなのだろう。

烏丸通は南北のメインストリートだが、1970年代、五条、六条あたりはまだ2階家が軒を並べていたように思う。しかしバブル期の地上げのあおりだったのだろう、表通りから1本東の不明門通に移転し、しばらくして再度動いて現在地に店を構えた。地下鉄の五条駅からはだんだん遠ざかったが、それでも交通至便の地で、通うのに支障はなかった。せっせと買い集めたことで、1980年には1:50,000地形図が、1991年には1:25,000地形図が全図葉、書棚に揃うまでになった。その後は関心が海外の地形図へ移行して、小林に通う頻度もおのずと減っていった。

店の人によると、かつては学校の需要が盛んで、クラス全員分の地形図の受注が毎年必ずあったが、今は教室で地形図を教えないし、使い方を知らない先生もいるのだそうだ。民間地図なら駅前の大型書店やインターネットショップで手に入り、カーナビや携帯型GPSの普及で地図販売の先行き自体が明るいとはいえない。個人商店にはことさら厳しい時代になっているようだ。

膨大な在庫はどうするのか聞いたら、元売に引き取ってもらうのだという。ずらりと並んだ平たい地図棚を見渡して、筆者も一抹の寂しさを覚えた。京都にはもう一つ、左京区の京大近くに、関西地図センターがある。もともと六条の小林から独立した店だが、こちらは盛業中だ。

■参考サイト
関西地図センター http://www.kanchizu.sakura.ne.jp/

なお、小林地図専門店のサイトはすでに閉じられている。

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コメント

初めまして。
久しぶりに関東圏の地形図を購入しようとしたら思わぬ苦戦中です。
頼りの小林が見当たらないので調べたら貴記事で閉店詳細を知りました。
助かりました、ありがとうございます。

調べたら今、京都で全国の地形図を買えるのは「関西地図センター」「(株)ジュンク堂書店 京都BAL店」の2軒くらいの様ですね…。

取り急ぎ御礼まで。

コメントありがとうございます。
大型書店にはまだ地形図コーナーが残っていますが、最近は客が張り付いているのをほとんど見たことがありません。
1:25 000地形図を除いて更新が停止されたこともあって、書店が地形図販売をやめるのも時間の問題のような予感がします。

いつも地図の詳細な説明に感じいっています
20年くらい前の記憶で先日この地図屋さんを探しましたが、見つからずにホテルグランヴィアのコンシェルジュに探してもらいました、いってみると看板は小林地図~~となっていますが、しまっていて、地図屋は閉店~~の張り紙がありました。土曜日でしたので休業なのでしょう。
ホテルグランヴィアのコンシェルジュには「有名な地図屋ですから覚えておいてください」と意見してきたばかりでしたので、複雑な気持ちでした。
私も時代の流れを知らされました。

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