新線試乗記-富山ライトレール
もう昨年の話になるが、10月に「地図展2007 in 富山」に出かけた折に、富山ライトレールに乗ってきた。2006年4月29日に開業して1年以上経っているのに、未乗のまま残っていたのだ。
富山ライトレール富山港線は、富山駅北~岩瀬浜7.6km、軌間1067mm、直流600Vの電化線で、日本初の新設LRT路線として登場した。厳密には1.1kmが新設の道路併用区間、残り6.5kmはJR富山港線から転換したものだ。ローカル線存廃問題を、スプロール化回避のための都市政策と結合させたモデルケースとして、その成否が全国から注目を集めている。
![]() 路線図 |
富山港線の転換は、北陸新幹線の延伸計画に伴って浮上した。新幹線とJR在来線の高架化事業にあたっては、仮線用地を確保する必要があった。富山港線の敷地が転用できれば民地を買収しなくて済み、地上を走る現在線からの取付け部分の工事費も節約できる。もしJRのまま存続させたとしても、新幹線開通時には並行在来線の運営がJRから分離されるため、JRに残る枝線は営業成績不振で廃止される懸念があった。
一方、富山市は市街地の拡散が急ピッチで進んだため、中心市街地が空洞化し、自動車交通への依存度が高く、都市管理の行政コストも割高となるという悩みを抱えていた。過度のスプロール化を食い止めるために、市は既成の公共交通路線を軸に、その沿線への居住を推進するまちづくり政策を打ち出した。その旗手として富山港線のLRT化構想が具体化していったのだった。
![]() 富山駅周辺の1:25,000地形図 (左)国鉄富山港線時代 1976(昭和51)年 (右)富山ライトレール転換後 2006(平成18)年 旧 富山港線の奥田中学校前以南は廃止され、路面軌道化された |
■参考サイト
富山駅北付近の現行1:25,000地形図
http://maps.gsi.go.jp/#15/36.702500/137.213700
ライトレールの線路は富山駅北口に突き当たる形で止まっている。JR線が高架に上がれば、このまま高架下を直進して正面口に抜ける計画があるのだ。駅の部分は線路が2線あり、マストをモチーフにしたという屋根つきのホームが整備されている。普通鉄道の駅に比べれば実に簡素な造りだが、それが低コストで造れるという利点でもある。
まもなく駅前の交差点を渡って2車体連接の電車、愛称ポートラムが入線した。塗装は白地に対して、窓回りに黒、扉回りに車両ごとに異なるシンボルカラーで、アクセントを効かせている。施設も車両も新しい交通機関の存在感を十分にアピールしている。
JRに向かって左側のホームに乗客が吐き出されると、島式の右側ホームで待っていた人たちが乗り込む。杖を突いた老人がいたが、乗降口には段差がないので苦もなく中へ入れる。もちろん車内も完全フラットで、同じ低床でもバスのような無理な始末がない。観察するうちに発車時刻が迫ってきたが、北口仮駅に入居しているショップでグッズを物色しようと、1本見送った。日中は15分間隔で発車しているので、時間を気にする必要もないのだ。
![]() (左)起点 富山駅北 (右)クロスシートが並ぶ明るい車内 |
次の電車でいよいよ試乗に出る。現在は全区間が単線で、駅前の大通では道路脇を遠慮気味に通過していくが、最初の交差点で右に曲がると、道路の中央に移る。もともと4車線の道幅に軌道敷地を割り込ませた関係上、クルマの右折レーンを避けて線路はS字カーブを描く。まだ慣れていないのか、右折しようとする車が線路にはみ出した状態で停まっている。電車の走行音が小さいのでドライバーが接近に気づかず、接触事故が起こっているのだそうだ。
富山港線の踏切跡の手前で道路併用区間が終わり、左に90度曲がって対向列車が待つ奥田小学校前に停まる。JR時代にはなかった新設駅だ。この先は旧JR線を再整備した専用軌道になり、速度も上がって速度計は最高60km/hまで振れた。昼間の電車にしては客もけっこう乗っていて、地元の足として定着しているようだ。
![]() (左)インテック本社前の併用軌道 (右)路面から旧線転換区間へは急曲線で接続 |
![]() 新設の奥田中学校前で列車交換 |
家並みのとぎれない中をほぼ直線で進み、国道8号富山高岡バイパスが上空をまたぐと間もなく城川原で、再び対向列車の姿がある。富山方にはポートラムの車両基地もあるし、拠点駅の雰囲気が感じられる。
城川原を出たところで右手に、富山操車場から来た貨物線がぴたりと寄り添う。旧 大広田駅の手前まで並行して、富山港へ引込まれていたが、今はレールが剥がされて線路敷だけが残る。大広田はJR時代、長い直線から久しぶりの右カーブを曲がるところに駅があったはずだが、ライトレールはカーブの手前(南側)に、貨物線の敷地を利用して、交換駅を作った。国土地理院の地形図ではまだJR時代と同じ位置に駅舎の記号があり、資料だけで改訂したのだと知れる。
東岩瀬駅のホームは踏切を挟んで南北に分かれているが、上り側のホームの向かいには、沿線で唯一古い木造駅舎と一部、高床のホームが保存されていて、新旧の違いが明解だ。次の競輪場前で中年男性がたくさん降りた。JR時代、ここは臨時駅だったが、現在は通年営業になった。ライトレール開通を機に、競輪場は富山駅との間の送迎バスを廃止し、代わりに開催日限定で電車に無料乗車できるICカードを発行しているそうだ。
![]() 東岩瀬は旧駅舎を保存 (左)新ホームの向いに旧ホームが残る (右)旧駅舎 |
左に緩くカーブしながら、レジャーボートがもやる岩瀬運河の鉄橋を渡ると、まもなく岩瀬浜に到着する。ホームの裏側はフィーダーバスへの乗降場所だ。電車が6分後に折り返していくと、あたりが急にがらんとしてここが終着駅だということを忘れてしまいそうになる。ここから東岩瀬駅の間は、北前船の回船問屋が建ち並ぶ岩瀬の町や、港や立山連峰の眺望が得られる小さな展望台があって、ライトレールが観光客を呼び寄せている。私もまたそれに倣うことにした。
![]() 岩瀬運河を渡る |
![]() (左)終点 岩瀬浜 (右)案内板もスマート |
掲載の地図は、国土地理院発行の2万5千分の1地形図富山(昭和51年修正測量および平成18年更新)を使用したものである。
■参考サイト
富山ライトレール http://www.t-lr.co.jp/
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