イギリスの難読地名
8月以来続けてきたイギリス特集はこれでひとまず区切りをつける。書き綴る間、気を使ったのは地名の日本語表記だった。英語は、フランス語などとともに綴りと発音の乖離が激しい言語だ。ou に7通りの発音があり(famous, journey, loud, should, you, flour, tour)、イーと読む綴りは11通りある(paean, me, seat, seem, ceiling, people, chimney, machine, siege, phoenix, lazy)のだそうで、その意味ではフランス語よりもっと難しいかもしれない。
加えて、イギリスの地名はしばしばそのルールからも外れた読み方をするので、日本語に写すときは要注意だ。ロンドン近郊で有名なのは標準時の Greenwich で、グリニッジまたはグリニッチと読む。Buckingham(バッキンガム)や Tottenham(トッテナム)のような h の無音化は、ラテン語系の言語でおなじみだから驚かないが、中心部の Holborn(ホーバン)、北の Hampstead(ハムステッド)、西の Chiswick(チジック)、南の Southwark(サザク、地元ではサヴァクとも)は、教えてもらわなければ読めない。Thames River も字面ではテイムズだが、正しくはテムズだ。
元来漢字に複数の読み方(音読み、訓読み)を当ててきた日本語では難読地名もむべなるかなだが、イギリスにもまだまだ普通には読めない地名があるのではないか。そう思って調べていたら、英語版ウィキペディアに「非直観的発音をもつ英語地名一覧 List of names in English with non-intuitive pronunciations」というたいそう奇特な項目を見つけた。世界各地の難読英語地名がアルファベット順に、発音記号つきでリストアップされている。
■参考サイト
Wikipedia - List of names in English with non-intuitive pronunciations
http://en.wikipedia.org/wiki/List_of_names_in_English_with_non-intuitive_pronunciations
それによると、イギリス諸島でよく見かける、特殊な読み方をする地名接尾辞が7例あがっている。(原文の発音記号を日本語音に直した。語尾は通常アクセントがないが、慣用に従って長音記号にした)
-burgh ブラ、バラ:
城を意味する接尾辞で Edinburgh(エディンバラ)、Middlesbrough(ミドルズブラ)、Scarborough(スカーバラ)など異なる綴りがある。Marlborough はアメリカ煙草のマールボロ Marlboro を連想するが、モールブラと読み、全体が難読だ。なお、カーライル西郊の Burgh by Sands はブルフ・バイ・サンズ、アメリカの Pitsburgh はもちろんピッツバーグ。
-bury ブリー、ベリー:
これも burgh の変形で、マンチェスター郊外の Bury(ベリー)をはじめ、Canterbury(カンタベリー)、Newbury(ニューベリー)など。なお、Salisbury はソルズベリーまたはソールズベリー、Shrewsbury はシュロウズベリーまたはシュルーズベリーと読む。
-cester スター:
ローマ帝国の砦、陣地に起源を持つ地名。Alcester(オルスターまたはオールスター)、Bicester(ビスター)、Gloucester(グロスター)、Leicester(レスター)、Towcester(トウスター)、Worcester(ウースター)。なお、Cirencester は今はサイレンセスターと読むことが多いが、正式にはシシター。
-ham アム:
集落、村を意味する。Birmingham(バーミンガム)、Cheltenham(チェルトナム)、Nottingham(ノッティンガム)、Wrexham(レクサム)など多数。
-shire シャー、シアー:
州を意味する接尾辞。Cheshire(チェシャー)、Hampshire(ハンプシャー)、Lancashire(ランカシャー)、Yorkshire(ヨークシャー)など多数。
-wick ィク:
集落、村を意味する。Berwick-upon-Tweed(ベリック・アポン・トゥウィード)、Chiswick(チジック)、Keswick(ケジック)、Warwick(ウォリック)など。-wichも同じ意味で、Greenwich(グリニッジ)、Dulwich(ダリッジ)、Norwich(ノリッジ)など。しかし Ipswich はイプスウィッチだ。
-mouth マス:
河口(の町)を意味する。イングランドの南海岸には Portsmouth(ポーツマス)、Bournemouth(ボーンマス)、Weymouth(ウェイマス)、Plymouth(プリマス)が並ぶ。
難読地名一覧にはこの後、個別地名がずらりと並んでいるが、多少なじみのあるものだけを挙げておこう。
Beaulieu ビューリー
Derby ダービー(日本語では区別できないが、Darbiと発音する)
Ely イーリー
Guildford ギルフォード(「フォード」にはアクセントがないので実際はフォド。以下も同じ)
Hereford ヘリフォード(ハリフォドがより近い)
Heysham ヒーシャム
Hertford ハーフォード
Keighley キースリー
Launceston ローンス(ト)ンまたはラーンス(ト)ン
Leominster レムスター
Nene ネン(ノーサンプトン、ピーターバラを流れる川の名)
Newquay ニューキー、Torquay トーキー
Reading レディング
Wycombe ウィカム
リストに含まれないものでも、たとえば保存鉄道として知られるミッドハンツ鉄道 Mid-Hants Railway の終点は、Alresford(オールズフォード)だし、まだ他にもあるのかもしれない。日本語で書かれた世界地図帳をいくつか見たが、よく知られたものを除けば表記はさまざまで、地名は本当に一筋縄ではいかない。
« マン島の鉄道を訪ねて-マン島鉄道 | トップページ | 我が官製地図事始め »
「西ヨーロッパの地図」カテゴリの記事
- 地形図を見るサイト-デンマーク(2020.04.26)
- 地形図を見るサイト-イギリス(2020.04.19)
- イギリスの1:100,000地形図ほか(2020.04.12)
- イギリスの1:50,000地形図(2020.04.05)
- イギリスの1:25,000地形図 II(2020.03.29)
若い頃出張でイギリスに行った頃、ABC RAIL GUIDE を持って駆けずり回っていました。
READINGの研究所に行く時でした。駅で切符を買うのに一苦労でした。
最後は手帳の切れ端にスペルを書いたら、「オ~レデイング」と言われて
「東洋人が一生懸命に言ってんだから、分かれよ。」と思った記憶があります。
地名はどの国も難しいですね。日本におられる外国の方もきっと苦労されているのでしょうね。
投稿: はーくん | 2020年6月27日 (土) 08時03分
気になっていたmouthの意味がよく分かりました。
ありがとうございます。
投稿: | 2018年3月12日 (月) 09時12分