イギリスの鉄道地図 III-ボール鉄道地図帳
引き続き、イアン・アラン出版社 Ian Allan Publishing の刊行する鉄道地図帳を紹介する。
筆者がかれこれ10年も前に買って、長い間本棚に眠らせていたのが、マイク・G・ボール Mike G. Ball 氏の「ヨーロッパ鉄道地図帳-英国諸島編 European Railway Atlas - British Isles」(写真は第2版、1996年)だ。A4判、72ページ、イギリスとアイルランド全域の鉄道路線を対象としていて、鉄道愛好家のみならず、普通の旅行者にとっても欠かせない案内書とうたっている。
地図は全部で55ページあり、黒と赤の2色で刷られている。イギリスは縮尺1:500,000、アイルランドは1:1,000,000(100万分の1)で統一されているが、ロンドン、マンチェスター、グラスゴーなど主要都市は拡大図がある。貨物線を含む全路線・全駅が記載され、旅客営業している路線には時刻表番号も振られている。凡例は、英、伊、独、仏、西の5ヶ国語を併記した国際版だ。巻末には駅名と保存鉄道の索引があるほか、機関車レビュー Traction Review と題して英国の機関車を紹介する写真ページが挿入されているのがおもしろい。
路線の記号は単線・複線の別、貨物線、狭軌線、電化線、計画線を区別している。休止中、電化工事中、休止予定線については略号による注記としている。保存鉄道や観光鉄道は、○の中にT字(Tourist Railway の頭文字)の記号を付して、鉄道名と軌間の数値を書いてある。そして記号が赤色なら、蒸気鉄道という意味だ。駅も、普通鉄道の場合は○の記号だが、観光用はその中に十字を入れている。2色刷りという制約の中で、できるだけ容易に判別できるようにという工夫が感じられる。さらに驚いたことに、(おそらく)すべてのトンネルと主な鉄橋の名称と長さ、そしてサミットの高度まで記載されている。この徹底ぶりは類書の及ばないところだ。
初版が1992年と比較的新しいのに地図自体は意外にも手描きだが、けっして読みにくくはない。前書きに英国陸地測量部 Ordnance Survey の1:250,000地形図をベースにしたとあるので、これがフルカラーで水部や地勢が加刷されていたら、さぞすばらしい鉄道旅行地図になっただろうに、と欲張りな筆者は思う。
本書の裏表紙に広告されているとおり、このヨーロッパ鉄道地図帳はシリーズもので、英国諸島編のほかに大陸編4冊(注参照)があった。しかし、残念なことに現在はすべて絶版で、古書店ではけっこうな値段がついている。
M. G. ボール著「ヨーロッパ鉄道地図帳」大陸編
European Railway Atlas: Denmark, Germany, Austria and Switzerland
European Railway Atlas: France, Netherlands, Belgium, Luxembourg
European Railway Atlas: Spain, Portugal, Italy, Greece
European Railway Atlas: Scandinavia and Eastern Europe
【追記 2009.1.1】
「ヨーロッパ鉄道地図帳」は2008年12月に新装版として復活した。国・地域別の分冊版も入手できる。次の記事参照。
★本ブログ内の関連記事
ヨーロッパの鉄道地図 I-ボール鉄道地図帳
◆
イアン・アラン社によるM. G. ボール氏の著作は、別の形で存続している。写真は「abc英国鉄道地図帳 abc British Railways Atlas」という名のポケットブック(判型12×18.5cm、新書版に近い)だ。1995年初版で、現在は2004年第3版が出ている。abcというタイトルは、アガサ・クリスティのミステリーでもおなじみのABC時刻表 ABC Railway Guide を思い起こさせるが、こちらはイアン・アラン社が1940年代から刊行していた入門書シリーズ(ABCシリーズ)に由来する伝統的名称だ。
内容は、上述したヨーロッパ鉄道地図帳を簡略化したものと考えればいい。区分図の切り方はまったく同じで、路線網や駅名も省略してはいない。ただ、構築物のデータなどマニアックな内容は排除されている。鉄道線は、旅客線、貨物線、計画線と保存鉄道線の区別があり、蒸機が走る保存鉄道にはイラスト風のSLマークを添えて目立たせている。判型といい、地図といい、いたってシンプルな体裁なので、旅などの持ち歩き用を意図しているのだろう。これはイアン・アラン社のオンラインショップその他で購入できる。
■参考サイト
イアン・アラン出版社 http://www.ianallanpublishing.com/
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