オランダ時代のインドネシア地形図
オランダのアムステルダムにある王立熱帯研究所 Koninklijk Instituut voor de Tropen(略称 KIT、英訳 Royal Tropical Institute)は、長年にわたって熱帯地域の文化資料の収集と研究を行ってきた。その中核に位置づけられるのが、旧オランダ領東インド諸島 Nederlands-Indië、すなわち現在のインドネシアに関する資料だ。世界史の教科書にも登場する1602年の東インド会社 Verenigde Oostindische Compagnie 設立以来、オランダによる支配は1949年の主権移譲まで350年近くも続いた。その間に作られた膨大な歴史資料がここに集積されていた。
近年、この中から地図コレクションがKITのサイトで公開され始め、オランダ本国の旧版地図と同じように精密で美しい地形図や都市図が、人々に知られるようになった。そのことは本ブログ(旧稿)でも紹介したとおりだ。
![]() 1:50,000バタヴィアとその周辺 要塞地図 Garnizoenskaart Batavia (Jakarta) en Omstreken 1940年 |
![]() 同 凡例の一部 |
ところが、2011年に転機が起こる。オランダ政府が支出抑制策を打ち出し、そのあおりを喰らって、KITに交付されていた年間2000万ユーロの補助金が廃止されることになったのだ。これにより事業予算が半減してしまうことから、KITは活動縮小の一環として、貴重なコレクションを手放さざるを得なくなった。2013年にライブラリーが閉鎖された後、書籍や資料約25,000冊、刊行物3,300冊、地図11,500枚、地図帳150冊から成るコレクションは、まとめてライデン大学図書館 Universitaire Bibliotheken Leiden(英訳 Leiden University Libraries)に移管された。
嬉しいことに現在(2015年)、地図コレクションのウェブサイトは、ライデン大学の手によって再開されている。そこで改めて、地図の検索方法を記しておこう。例として、首都ジャカルタ Jakarta の地形図を照会するとしよう。ジャカルタはオランダ植民地時代、バタヴィア Batavia と称されたが、このサイトではジャカルタの名で登録されている。
■参考サイト
ライデン大学図書館(KIT 地図収集)http://maps.library.leiden.edu/apps/s7
・By Locationに "Jakarta" と入力、右のボックスから "Indonesia" を選択して、[SEARCH]をクリック。
![]() |
・検索結果が表示されるので、ここでは一番上の"1. Jakarta" を選択(クリック)する。
![]() |
・Jakartaに関する全ての図面が表示されるので、左のチェックボックスの Type of map(地図の種類)で "topographic(地形図)" 以外のチェックをはずす(画面は自動更新される)。
・これで、ジャカルタをテーマとする地形図のサムネールが一覧表示される。
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・各項目にある "View the Map" をクリックすると、専用画面が起動して、地図が実寸で表示される。
この専用画面には、同じシリーズの図葉が存在するときに、ワンクリックで表示する機能がある。
・隣接図の選択:画面右上の Overview ウィンドウに現れる矢印をクリックする。
・索引図から選択:画面右下の Series ウィンドウ("Click here to enlarge" で拡大可能)で見たい場所をクリックする。
地形図の解像度はそれほど高くはないものの、最大限に拡大すれば細部も問題なく読み取れるレベルだ。インドネシアの幹線鉄道は多くがオランダ時代に建設されているので、地形図上でその軌跡を追えばひととき楽しめる。
最後に、かつてKITのホームページに紹介されていた古地図公開の背景を引用しておこう。
「KITはその著名な古地図コレクションをデジタル化して、オンラインで利用可能にした。オランダのみならず海外の科学者、地図製作者、その他関係者がインターネット経由で、旧オランダ植民地の最大規模の地図コレクションにアクセスできるようになった。地図コレクションのデジタル化は、数年にわたるプロジェクト『KIT特別遺産 Erfgoed Extra』の成果の一部である。外務省の支援によるこのプロジェクトで、KITは、未完だった植民地史料や遺物の整理保存を終えることができた。
KITは(亜)熱帯地方の地図・海図の広範なコレクションを所有している。地形概観図、区分図シリーズ、市街図、主題図、国別国勢地図帳を含め、コレクションは全体で約27,000枚の地図と1000冊以上の地図帳から成っている。このコレクションは、科学調査の用途や開発計画、緊急援助、平和維持活動の策定で参考に供されたほか、陸地・海洋の境界を決定する際の国際裁定の資料としても活用された。古地図部門はコレクションの基礎を成すもので、主としてKITが『植民地社会研究所 Vereeniging Koloniaal Institute』として運営された時期に遡るオランダ領東インド諸島、同アンティル諸島およびスリナムの地図で構成される。この部門には、1850~1950年の地図約15,000枚と地図帳150冊がある。
古地図コレクションの原本を直接精読すれば、常に大きな成果が得られるが、保存という点で見れば、古資料の劣化が進むために好ましくない。あい反する利益を両立させるために、KITは、1850~1950年代の地図・海図のコレクション全体をデジタル化し、それをインターネットでアクセス可能とすることにした。このような取り組みはオランダでは当研究所が最初である。」
![]() 1:50,000 チアンジュール Tjiandjoer (Cianjur) 1941年 |
◆
なお、これらの地形図の一部は、戦時中、日本の陸地測量部が作成した「外邦図」の原図にも使われた。東北大学附属図書館/理学部地理学教室が公開する地図画像の中にそれらが見つかる。下図はその一例で、左が旧KIT所蔵の1:50,000原図(ただし1941年版)、右が同縮尺、同図郭の外邦図(ただし1925年版を4色に複製したと注記あり)。減色化により、見た目の印象は異なるが、地図表現はほぼそのまま利用されているのがわかるだろう。
■参考サイト
東北大学外邦図デジタルアーカイブ http://chiri.es.tohoku.ac.jp/~gaihozu/
![]() 同じ範囲の原図と外邦図 (本文中の説明参照) |
(2015年3月1日改稿)
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