台湾の1:50,000地図帳
台湾にはたいへん良質の地図帳がある。上河文化股份有限公司が刊行している「台灣地理人文全覽圖(台湾地理人文全覧図)」だ。北島(濁水渓以北)と南島(同 以南)の2分冊になっていて、サイズはB4判に近い26×38cmの大判で各120ページ以上ある。ボリュームもさることながら、コンテンツは全覽圖の名に恥じない充実度を誇っている。
最初に縮尺1:350,000の索引図があるが、これからして鑑賞に堪える広域地勢図だ。全体から部分へスムーズに導くという編集上の配慮が感じられる。続いて地図帳のメインである1:50,000の「全覧圖」。全土140面の区分図で、GPS対応の1kmメッシュが入り、隣接図との重複部分を淡色で描くなど芸が細かい。内容も道路地図、観光地図としての性格はもとより、地形図として見ても秀逸だ。
道路情報では郷道(市町村道)にまで番号が添えられ、省道(事実上の国道)や県道には区間距離が併記される。市街地は街路名が細かく記載され、ガソリンスタンドやコンビニ(ロゴマークに基づく記号)のような情報も念入りに拾っている。観光情報としては果樹園、牧場、遊園地、海水浴場から、登山口、キャンプ場、山小屋まで幅広く記号化されている。台湾で使われる漢字は繁体字すなわち日本で言う旧字体なので、注記も大陸中国よりは読めるのがありがたい。
凡例 カラフルな観光情報の記号に注目 |
地勢表現のほうは、日本の1:50,000地形図と同じ20m間隔の等高線で、感覚的に違和感がない。標高点が比較的多く打たれているのも実用的だ。台湾島は九州程度の広さだが、中央に標高3952mの玉山(旧 新高山)をはじめ雲を突く3000m級の山脈がそびえている。等高線に加えられた段彩とぼかし(陰影)で、ダイナミックな地形が目にも美しくかつ手にとるようにわかる。
もう一つ興味深いのは断層線の表示があることだ。921地震(1999年9月21日の台湾大地震)で発生した地表破裂帯も、山脈西側の平野との境に断続的に描かれている。日本の地図帳で、いや世界中探してもここまで盛り込んだ地図帳はないだろう。「全覧圖」のあとには「1:20,000街道圖」すなわち主要都市の市街図、「行政區全圖」いわば分県地図、そして地形を強調した「地理圖」と、丁寧に描かれた地図が続く。巻末に索引と資料集がついているが、百年老樹一覧表だの星空図(星座図)だの、どこまでも特徴を出そうとする姿勢には脱帽する。
表紙の一部を拡大 右上から1:50,000 山地の表現(宜蘭縣南澳郷)、 同 市街地の表現(台中市)、 同 観光地の表現(台中縣和平郷)、 1:20,000市街図(台北市大安区) |
台湾の官製地形図は輸出に許可が必要で、外国から自由に買い付けることはできない。「基本地形圖資料庫網站」という官製地形図を閲覧するウェブサイトができたが、ID認証がかけられ、外国人には開放されていない。そういう飢餓感を一気に解消してくれるのがこの地図帳だ。上河文化社に発注するときに、「これは台湾における画期的な出版物ですね」と賛辞を送ったら、「そのとおりです。貴国の国会図書館のコレクションにも入っています」と誇らしげな答えが返ってきた。
ちなみに日本から直接購入する方法について書いておこう。上河文化社のウェブサイトに発注書へのリンクがある(詳閱及下載《上河文化特惠訂購單》と記載)。これを印刷し、送付先、決済用のクレジットカードの内容など必要事項を記入して、同社に直接FAXする。メールアドレスを書き添えておけば、追って発送方法(航空便か船便か)の問合せメールが来るはずだ。
■参考サイト
上河文化 全覧圖解讀與研究
http://www.sunriver.com.tw/map_recommend.htm
【追記 2016.3.21】
2001年に初めて刊行された「台灣地理人文全覽圖」はその後改訂を重ね、2016年3月現在、すでに第4版(北島2011年、南島2012年)を数えている。版を追うごとに内容が充実度を深めていく状況は、同社の下記サイトで確かめることができる。配色や注記の密度など地図編集上の改良点に加えて、この10数年間の各地の発展のさまも垣間見られて興味深いものがある。
■参考サイト
台灣地理人文全覽圖,各版本圖資比較
http://www.sunriver.com.tw/taiwanmap/map_01_compare.htm
北島篇各版本圖資比較
http://www.sunriver.com.tw/taiwanmap/map_01_north.htm
南島篇各版本圖資比較
http://www.sunriver.com.tw/taiwanmap/map_01_south.htm
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サイトでも確認してみましたが、素晴らしい地図帳ですね。
韓国と台湾は、それぞれ隣国との戦争状態にあるから地図の輸出が制限されているのでしょうけど、美しい地図をどこの国からも取り寄せられるようになるといいですね。
投稿: konatu | 2007年6月12日 (火) 09時05分