アージェンティン・セントラル鉄道
「星への階段 Stairway to the Stars」。山麓から仰ぐと山をジグザグに上る線路が7層にも見えるというところから、鉄道にそんなニックネームがついた。
マクレラン山頂のアージェンティン・セントラル © Denver Public Library 2017, Digital Collections MCC-681 |
現在ジョージタウン・ループ鉄道の終点になっているシルヴァー・プルーム Silver Plume は名のとおり銀の町として栄えたが、採掘は主に南隣の支谷沿いにあるアージェンティン鉱区で行われていた。アージェンティン・セントラル鉄道 Argentine Central Railway は、それまでラバの足が頼りだった鉱石運搬を代替するために計画された軌間3フィート(914mm)の鉄道で、1906年に完成した。
*注 ジョージタウン・ループ鉄道については、本ブログ「ジョージタウン・ループ鉄道」参照。
シルヴァー・プルームでコロラド・セントラル鉄道の本線(現在のループ鉄道)に接続し、最急勾配60‰、急曲線、数多くのスイッチバックと厳しい条件が揃った山岳路線だった。シェイ型機関車の活躍の場であったのはいうまでもない。
鉄道にはもう一つの役割が期待されていた。それは、大陸分水嶺の一部を成すフロントレンジ(前面山脈)に観光客を呼び込むことだ。標高14000フィート(4267m)を超える山々を、現地ではコロラド・フォーティナーズ Colorado 14ers と呼んでいる。その一つでフロントレンジの最高峰でもあるグレイズ・ピーク Grays Peak、標高4350mが、鉄道建設の最終目標だった。
マクレラン山頂(右手前)、 グレイズ・ピーク(左奥の二つのピークのうち左側)、 トレイズ・ピーク Torreys Peak(同 右側) Postcard image from wikimedia |
地形図上でもそのルートをたどることができる(下図参照)。ループ鉄道の跡を引き継いでシルヴァー・プルームの町はずれまで進むと、反転してやおら町の南側の山腹をぐいぐい上り始める。2kmほど進んだところにもスイッチバックが2回あり、ここがループ鉄道の軌跡を含めて7層に見えるといわれた場所だ。尾根の先をぐるりと回って、レヴンワース山 Leavenworth Mountain の東斜面に出ると、谷の奥で鉱区の中心だったウォルドーフ Waldorf まで、淡々とした上り区間が続く。
ウォルドーフでまた進行方向を変える。後はマクレラン山 Mt. McClellan をめざし、スイッチバックを4回も繰り返しながらひたすら上り詰めていく。そして、西斜面が険しい断崖になった尾根の高まりに突っ込むように線路は途切れる。地形図によればこの付近の標高は13117フィート(3998m)。合衆国でラックレールを使わない粘着式鉄道が到達した最高地点だった。
アージェンティン・セントラル鉄道周辺の地形図 USGS 1:24,000 Grays Peak 1958年版、Georgetown 1957年版 Map image courtesy of the U.S. Geological Survey |
鉄道が開通すると、デンヴァーから片道5時間足らずで行けるツアーは評判を呼び、夏の書き入れ時には山頂まで1日12本以上もの列車が設定された。しかし最初の経営者は敬虔なクリスチャンで、日曜日は頑として運行させなかったという。だがその後、恐慌による破産で売却されたり、資金難で一時運行できなくなるなど、経営は決して順風満帆とは言えなかった。
1913年から景気回復に伴って旅行ブームが起きたが、貨物輸送が途切れたことで路線の維持コストが収入を上回る状態となった。蒸気機関車を気動車に取り替えるなどの経費節減策もむなしく、1918年に運行廃止となり、設備も1920年までに撤去された。
デンヴァー公共図書館 Denver Public Library が公開している当時の写真を見れば、なぜこんなところに列車が、と誰しも不思議に思うだろう。もしかしたら銀河鉄道のように、このまま本当に星への階段を駆け上っていったのかもしれない。わずか12年で幕を閉じた薄幸の鉄道だけに、そんな空想をかきたてられる。
マクレラン山駅 © Denver Public Library 2017, Digital Collections MCC-682 |
■参考サイト
コロラド・フォーティナーズ(The Colorado 14ers) http://www.14ers.com/
コロラド州にある14,000フィート超の54山を紹介するサイト。登山ルートごとの現地写真と地形図、空中写真が豊富に収められている。
「“星への階段”へ接続していたSilver Plume駅」
http://www5.plala.or.jp/stmlo9600/sl/sl108.html
アージェンティン・セントラル鉄道に関する詳しい日本語レポート。
★本ブログ内の関連記事
ジョージタウン・ループ鉄道
マニトゥー・アンド・パイクスピーク・コグ鉄道
ワシントン山コグ鉄道 I-ルート案内
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