ジョージタウン・ループ鉄道
観光鉄道リーフレット |
直線で上れば急な坂道になるところを、輪を描くように線路を引き回して勾配を緩くしたものをループ線と呼ぶ。ぐるりと一周するいわゆるスパイラルでは、半径300m、25‰勾配で50m近い高度がかせげる。主に山岳地帯の鉄道で用いられるルート設定の工夫の一つだ。
尾根の出っ張りなどにトンネルを介在させて設けることが多いが、まれにトンネルのないオープンループが造られる。回っている様子が途切れることなく眺められるので、例外なく車窓名所になっている。コロラド州のジョージタウン・ループ鉄道 Georgetown Loop Railroad もそれを売り物にした観光鉄道だ。
ハイ・ブリッジを渡る蒸機列車 * |
現在の路線は4.5マイル(7.2km)にすぎないが、かつてはクリア・クリーク(渓流) Clear Creek に沿ってデンヴァーに通じていた。この界隈では1859年に金鉱が発見され、その後も銀鉱で栄えた。そこで鉱石輸送を目的に、コロラド・セントラル鉄道 Colorado Central Railroad の手で軌間3フィート(914mm)の鉄道が建設されたのだ。デンヴァー側から順に開通して、現在の終点シルヴァー・プルーム Silver Plume まで達したのは1884年だった。
谷はジョージタウン Georgetown のすぐ西でにわかに険しくなり、隣町シルヴァープルームまで3km足らずの間に195mも上る。鉄道は、高さ29mの鉄橋によるオープンループに続いて、馬蹄形カーブのS字ルートで最急勾配を40‰に抑えながら、この高度差を克服した。この先さらに、大陸分水嶺をトンネルで貫いて鉱山町レッドヴィル Leadville へ延長する計画があったが、デンヴァー・リオグランデ鉄道に先を越されて頓挫した。
往時の風景(1882~1890年の間に撮影) image from wikimedia |
一時は観光客を集めたループ鉄道だが、20世紀に入ると自動車交通の普及で客足が去り、貨物運搬も先細りとなる。ついに1938年、この区間を含むアイダホ・スプリングズ Idaho Springs ~シルヴァー・プルーム間が廃止された。それに伴い、「ハイ・ブリッジ High Bridge(デヴィルズ・ゲート高架橋)」と呼ばれた名物の鉄橋も撤去された。
オリジナルのハイ・ブリッジ © Denver Public Library 2017, Digital Collections MCC-273 |
しかし、金鉱発見100周年となる1959年、コロラド歴史協会 Colorado Historical Society が中心となり、観光資源として再建が図られる。1977年に「上の駅」シルヴァー・プルームから鉄橋の手前まで部分開通し、1984年には鉄橋が復元されて現在の形になった。
この地域の1:24,000地形図は1957年版だが、もう鉄道は描かれていない。OLD RAILROAD GRADEの注記のある小道が廃線跡を示していて、鉄橋のあった位置に Georgetown Loop の注記と、Historical Marker(史跡標識)の記号があるのみだ。路線を加筆した地形図を下に掲げる。
ジョージタウン・ループ鉄道周辺の地形図 USGS 1:24,000 Georgetown 1957年版 |
初期のルートが描かれている旧版図(2倍拡大) USGS 1:62,500 Georgetown 1903年版 Map images courtesy of the U.S. Geological Survey |
現在の「下の駅」デヴィルズ・ゲート Devil's Gate はループの途中に設けられているが、レールは橋をくぐって東側まで敷かれている。鉄道模型を地で行くような往復1時間15分の旅はあっという間に過ぎるだろう。オプションとして、途中で当時の銀鉱の内部を見せるレバノン鉱山 Lebanon mine の徒歩ツアーも用意されている。
ジョージタウンの入口 * |
名物のハイ・ブリッジ * (右)上流側。ハイ・ブリッジをくぐってきた線路が右に見える (左)下流側 |
高架橋を蒸機列車が渡っていく * |
ところでシルヴァー・プルーム付近の地形図で、南側の山腹を這い上がる廃線跡があるのが気にかかっていた。調べてみると、その正体は標高4000m付近まで観光客を運んでいた狭軌の登山鉄道だった。しかもラックレールを使わずに延々とジグザグを繰り返して上っていたという。その話を次回書こう。
キャプションに*印のある写真は、2013年8月に現地を訪れたT.T氏から提供を受けたものだ。ご好意に心から感謝したい。
■参考サイト
ジョージタウン・ループ鉄道 http://www.georgetownlooprr.com/
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