キャス観光鉄道
シェイ型蒸気機関車がいまなお運転されているキャス観光鉄道 Cass Scenic Railroad は、アパラチアの深い森を上っていく保存鉄道だ。場所は首都ワシントンの西250km、ウェストヴァージニア州の山中にある。
![]() キャス観光鉄道のシェイ型機関車 Photo by Richard A. Weaver at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0 |
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歴史を紐解くと、始点のキャスは1901年に製紙会社が拓き、製材で栄えた町だった。この一帯はアパラチアの中でもアレゲーニー山脈 Allegheny Mountains と呼ばれ、木材の需要が高まった19世紀末から20世紀のはじめに、エゾマツやアメリカツガ(米栂)などの針葉樹を求めて開発が進められた場所だ。町の背後にそびえるチート山 Cheat Mountain で伐採する木材を運び出すには、鉄道の敷設が急務だった。
開通したのは1901年12月で、坂道に強いシェイ型が導入された。1904年にはスプルース Spruce まで延長されて別の路線と接続し、輸送網が確立した。
その後20年ほどが町の最も賑わった時代で、1,700人が暮らし、山にも1,000人が野営しながら林業に従事していたという。しかし、30年代に入って地場林業の衰退が始まると、製材所はたびたび人員整理を行い、職を失った人々が町を離れていった。1960年、ついに操業が停止され、町そのものも放棄される事態になったことで、鉄道は廃止、機関車もスクラップ化の瀬戸際に立たされた。
そのとき、鉄道愛好家が立ち上がってキャス鉄道の州立公園化を訴えた。1962年7月にウェストヴァージニア州が線路や機関車、貨車、機関庫を一括して買い取ることになり、翌年から、材木のかわりに旅客を乗せた観光列車の運行が始まった。現在では、復元した家屋を含めて、キャス観光鉄道州立公園 Cass Scenic Railroad State Park として保存されている。
![]() キャス駅構内 Photo by Jarek Tuszyński at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0 |
鉄道のホームページによれば、ツアーは3種類あって、1つ目が途中のホイッタカー駅 Whittaker までの4マイル(6.4km)を往復する2時間の旅、2つ目がその先の分岐で分かれて、かつてロッキー山脈の東で最も寒いといわれたスプルース廃村を往復する5時間の旅、最後が山上のボールド・ノブ Bald Knob を往復する5時間の旅だ。とれいん6月号増刊『Rails Americana 2』(2006年6月、プレス・アイゼンバーン発行)に、松本謙一氏が臨場感あふれる訪問記を書いておられる。豊富な写真が掲載されているので、USGSの地形図と見比べながら、ルートをたどってみた。
キャスを出るとすぐに、接続していたチェサピーク・オハイオ鉄道(C&O)の線路(廃線)から左に分かれて、谷の中を上り始める。機関庫の傍らを過ぎ、訪問記にある踏切(地形図のBM2534=2,534フィート水準点)を越えて、なおもしばらく穏やかな森の中を進んでいき、左カーブの途中で停車。ここが1段目のスイッチバックだ。
逆方向に発車して右に180度向きを変えると、緩い傾斜の草原に出て、また停車。この2段目スイッチバックを出れば、右に大きく回りこんでまもなくホイッタカー駅に到着する。起点との標高差はすでに約250mあるが、この先、さらに50‰の勾配で山腹をひたすら上り詰める。
やがて、シェイヴァーズ支流 Shavers Fork の谷に乗り越す鞍部、すなわちかつてオールド・スプルース Old Spruce と呼ばれた地点に達する。現在の地形図では、ここから右手の斜面にとりつくボールド・ノブ線だけが描かれているが、初期のルートは支流に沿って北へ1.25マイル(2km)のスプルースに通じていた。2つ目のツアーの目的地だ。1922年の旧版地形図ではこちらだけが描かれている。
さて、ボールド・ノブ山頂へ向かう線は、スプルース線と分かれて三角線が残る尾根に達したあと、さらに森の中を上り続けて、展望台のある終点に着く。キャスからここまで11マイル(17.7km)、標高差は2,200フィート(670m)以上ある。木組みの展望台からは、林業の興隆を支えた山また山の風景が広がるはずだ。州で2番目に高いという4,842フィート(1,476 m)の山頂は南西方向に少し登ったところにある。
![]() 路線周辺の地形図(北半) USGS 1:24,000 Cass 1977年版 |
![]() 路線周辺の地形図(南半) 図中央左寄りに2か所のスイッチバックがある USGS 1:24,000 Cass 1977年版 |
![]() 初期のルートが描かれている旧版図 USGS 1:62,500 Cass 1922年版 |
Map images courtesy of the U.S. Geological Survey.
■参考サイト
キャス観光鉄道州立公園(公式サイト) http://www.cassrailroad.com/
キャス観光鉄道 http://gottrains.com/cassrailroad/
歴史、蒸機の紹介、写真も多数
ウェストヴァージニア州観光情報(日本語版)にも「キャース州立公園保存鉄道」として紹介がある。http://www.westvirginia.or.jp/tourism/sig/
キャス付近のGoogle地図
http://maps.google.com/maps?f=q&hl=ja&ie=UTF8&ll=38.3965,-79.9144&z=16
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