国土地理院の集成図「京都」
「”色づく秋”京都の街を歩いてみませんか」と、国土地理院から京都の1:25,000集成図(右写真)が刊行された。前回の刊行が1995(平成7)年だったので実に11年ぶりだ。
集成図というのは、等間隔の経緯度で区切った地図を複数つなげて1枚に仕立てた地図のことだ。同じ縮尺の地形図なら京都市街が4面に分割されてしまうところを、A全判の用紙を使ってすっぽり収めている。単に既存の地図を接ぎ合わせるだけではなく、通常版の地形図にはない陰影(ぼかし)や彩色を施して、地形を立体的に見せる工夫がされているのが特徴だ。昨今はデジタル標高データで3D画像を容易に描くことができるが、筆で手描きしていた時代には、この種の集成図は特別の刊行物だった。
1970年代には、槍穂高、立山、尾瀬など山岳地域を中心に何点もの集成図が作られていたのだが、その後ぱったり更新が途絶えてしまった。唯一の例外が「京都」で、1979(昭和54)年の初版から修正が重ねられてきた。国際観光都市らしく、英語版も並行して作成されている。
収載範囲は、京都駅の南西にある東寺を中央にして、北は岩倉、南は宇治、東は山科、西は嵐山まで、東西14.5km×南北22kmに及ぶ。北の山中にある鞍馬や大原を除けば、およそ名所といわれるスポットはすべてカバーしている。主要な寺や神社、御所・離宮、旧宅・茶室、皇陵などはオリジナルの記号が使われて、観光地図らしさを醸し出しているし、バス路線と主要バス停が書き加えられているので、名所へのアプローチを知る上で参考になる。さすがに目的地へ行くのに何番のバスに乗ればいいか、まではわからないが、実地に応用したい方は別途、京都市交通局の案内所で手に入る市バスの路線図で照合されるとよい。
裏面は、広域図、名所索引、年中行事、花だより(暦)など、いずれも旧版から引き継がれた項目だ。広域図は「地域概念図」のタイトルがいかにも硬いが、1:200,000地勢図を使っているので、大阪、神戸、関西国際空港を含む周辺地域を詳しく見ることができる。名所索引は、社寺その他の名所を五十音順に並べていて、おもての地図上の掲載位置が調べられる。正式名とともに、地元での通称(賀茂御祖神社は下鴨神社というように)や見どころ、国宝・重文指定などを添えてあるのも親切だ。
東山一帯 (上)1979年初版 (下)2006年版 |
図全体の印象は、1995年までの旧版と2006年新版でかなり異なる(上図参照)。旧版では、市街地の赤色に対して点在する神社仏閣の境内が鮮やかな緑色に塗られ、補色効果でとても目立った。その反面、少々落ち着きのない配色だったことは否めない。新版は一転して、市街地を卵色(明るい芥子色)に変え、緑地も若竹色へとトーンを落とした結果、色調の調和がとれて目になじむものになった。鉄道の表示がJRとその他の私鉄という分類ではなく、新幹線以外は旗竿記号をやめたのも、スッキリ感に影響しているのだろう。
京都を訪れる観光客はこのところ毎年増加しているそうで、この秋もカメラとガイドブックを手にした人々で紅葉の名所はごった返した。集成図のベース(基図)となっているのは、多用途を想定してできるだけ詳しく正確に描かれた官製地形図だ。この地図をてがかりに、みんなが行く有名どころばかりではなく、あなた自身が発見した古都を訪ね歩くのもいいのではないか。
■参考サイト
国土地理院のリリースニュース
http://www.gsi.go.jp/WNEW/PRESS-RELEASE/2006-1027.html
京都市交通局路線図 http://www.city.kyoto.lg.jp/kotsu/page/0000019770.html
京都市観光文化情報システム http://kaiwai.city.kyoto.jp/raku/sight.php
【追記 2009.12.8】
日本語版に遅れること4ヶ月、2007年3月に英語版が刊行された。表紙は「1:25,000 KYOTO」の文字が目立つが、Tourist Map ぐらいは書き添える配慮がほしいところだ。もちろん裏面には英語による内容説明がある。メインの地形図は、日本語版の文字注記をほぼ忠実に英語に変えたものだ。文字の書体、色、大きさを変えて、注記が集中する中心部でも読み取れるように工夫してある。
地名表現に関しては、現地呼称のフル表示に接尾辞の英訳を足す方式を採用している。大文字山は Mt. Daimonji でも Daimonji-yama でもなく Mt. Daimonji-yama だし、清水寺も Kiyomizu-dera Temple だ。ただし、鴨川は Kamo River で、川の名だけは方針が一貫していない。地図を見れば川だとすぐに分かるからだろうか。
広域図の一部 (上)日本語版 (下)英語版 |
裏面の広域図は、日本語版ではトーンが明るすぎて落ち着かなかったが、英語版では改善され、1:200,000の原図に近い色調になった(上図参照)。日本語の地名表記は残されているもののごく薄い色にされ、その代わり英字が濃く大きく表示されて、わかりやすい。名所索引は正式名などを省いて、例えば Shimogamo-jinja という見出しにしてあるが、検索機能は損なわれていない。
全体としてこの英語版は、もともとベースが官製図なので精度に問題がなく、注記もていねいに英訳されていて、及第点をもらえる水準に達していると思う。国外の地図商のカタログでは見たことがないが、もっとアピールに力を入れてもらいたいものだ。
掲載の地図は、国土地理院発行の2万5千分の1集成図京都(昭和54年編集、平成18年更新日本語版および英語版)を使用したものである。
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はじめまして。
集成図のクオリティは私も評価しています。
この調子で、各図幅が重なり合うように全国をカバーしてくれたら…と思うんですけど、京都1枚でも大変そうですね。
京都以外の集成図は作りっぱなしなんでしょうね。国土地理院は実験的に作った地図が多いですね。しっかり全国カバーするくらいの気概を見せてほしいところです。
投稿: ちしろ | 2006年12月 1日 (金) 20時19分