フランスの巨大橋と人力鉄道
いまや南仏の新名所となっているミヨー橋 Viaduc de Millau。2004年12月16日に開通した全長2460mの道路橋で、最も高い主塔は343mとエッフェル塔を20mしのぐ。世界の橋の情報を集めたドイツのサイト「橋ウェブ Brueckenweb.de」では登場以来、閲覧回数の首位をキープしている。日曜朝の番組「題名のない音楽会」(テレビ朝日系列)で流れる出光興産のCMにも出てくるから、ご記憶の方も多いだろう。雲海に浮かぶ吊り橋(斜長橋)があまりに現実離れしているので、あれはCGで作ったのだろうと思った人もいたとか。
ミヨー橋 Photo by Richard Leeming at wikimedia. License: CC BY 2.0 |
橋は中央高地の中心都市クレルモン=フェラン Clermont-Ferrand から南仏ベジエ Béziers に通じる高速道路A75号線上にある。総工費4億ユーロ(約600億円)という巨費を投じた壮大な橋がなぜ必要だったのか。ウィキペディアに紹介されているので、引用させていただこう。
「タルン川渓谷一帯はフランス中央山塊南東部にある「グラン・コース(Grands Causses)」と呼ばれる石灰岩の高原地帯であり、パリからフランス南西部、更にスペインへ向かう道路がその上を走っている。ミヨー橋の完成前、国道N9号線を通る自動車は高原の上からタルン川に向かって高低差300m以上の非常に長い坂道を下り、ミヨーの街の近くを通って再び300mの高さへ坂道を上がっていたため交通の難所となっており、特に7月後半から8月にかけてのバカンスシーズンは激しい渋滞が発生していた。このため、タルン川渓谷をいちばん低い地点で渡り、コース・デュ・ラルザック高原(causse du Larzac)とコース・ルージュ高原(causse rouge)を直結する長大な橋が構想された。」
フランス国土地理院(IGN)の1:100,000地形図で当該地域が載っているのは58番。南に接合する65番を併せ見れば、地形の概要がわかる。タルン川 Tarn というのはボルドー Bordeaux を通って大西洋に注ぐガロンヌ川 Garonne の支流で、ミヨー Millau の町の周辺では高原の平坦面を刻んで、比高400~500mにもなる深い谷を作っている。
既存の国道(N9号線)がこの谷を底まで降りて再びつづら折りで上るのに対して、谷の上空を一気に渡ろうとしたらこの規模になったというわけだ。架橋位置がこれより西では南側の高原が途切れてしまうし、東に寄ればミヨーの町に近づくため景観上の問題が生じる。町を越えると谷が二手に分かれるので、こんな橋を2つも作るわけにはいかない。無鉄砲にさえ思える構造物だが、できるべくしてできたものなのだ。
ミヨー橋付近のIGN地形図 © 2020 IGN |
タルン川に沿って鉄道が走っていて、その車窓からもこの橋を見上げることができる。この路線は高速道路と同じ都市間を結んでいるが、筆者の手元にある1991年の時刻表でさえ直通の特急は1本だけ(ほかに季節便1本)。あとは2~3時間ごとに普通列車が通るだけの閑散路線だ。少し南にトゥルヌミール=ロクフォール Tournemire-Roquefort という鄙びた駅があるが、かつてここから東方へ支線が延びていた(1954年廃止)。その一部が「ラルザックのヴェロ・ライユ Vélo Rail du Larzac」という名の保存鉄道となっている。
フランス語でヴェロは自転車、ライユは英語由来のレール(転じて鉄道)のことだが、その正体は保線用の手漕ぎまたは足漕ぎの台車。映画「小さな恋のメロディ」のラストシーンでダニエルとメロディが乗っていったのもその一種だ。ドライジーネ Draisine(フランス語読みはドレジーヌ)、日本語では軌道自転車といい、廃止路線を観光に活用する方法として各所で用いられている。
現代土木技術の粋を集めた巨大橋をドライブしたあと、2つめのインターチェンジで降りて5~6kmほど走ると、この素朴な人力鉄道が迎えてくれる。高原の風通る広々とした大地に、いったいどちらの存在が似合うのだろう。
ラルザックのヴェロ・ライユ 紹介冊子表紙 from www.surlesrailsdularzac.com |
■参考サイト
ラルザックのヴェロ・ライユ https://www.surlesrailsdularzac.com/
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