スロベニアの1:50,000地図帳
スロベニア測地研究所 Geodetski Zavod Slovenije から大部な地図帳を入手した。その名も「スロベニア地図帳 Atlas Slovenije」、Mladinska knjiga社発行、2005年版。A4判型で488ページもある。内容は、全土の官製1:50,000地形図218ページのほかに、主要都市図61ページ、主題図(地勢、地域区分、気候、人口、エネルギー、自然公園など)20ページ、各地域の紹介60ページなど。表記はスロベニア語のみだが、地図や写真は言語を知らなくても読めるのがありがたい。
地図帳はアメリカの地図通販店 Omnimap.com のカタログにも掲載されているが、版が改まり、表紙のデザインも変更されている。1:50,000地形図そのものも改版されているようだ。手もとにある1996年版の区分図と比較すると、旧版は道路が自動車専用道、主要道、地方道から小径まで7種に分かれていたが、2005年版では彩色との組み合わせで11種類まで細分化されている。鉄道の記号も、日本のJR式(旗ざお型)から私鉄式(実線に短線をクロス)に変更された。しかし、盛り土や切通しの記号はもとから付されていないので、地形図というよりは平面的な位置関係を示す略図に近い。
その印象を強調するのが地表の表現。新旧とも実におおざっぱで、植生は森林とそれ以外の区別しかない。旧版にはアドリア海沿いに広く分布するカルスト地形(特にカレンフェルトやドリーネのように小規模の凹凸が広がる地形)を表す、砂を撒いたような記号が使われていたが、新図ではそれも省略されてしまった。
以前にも書いたが、カルストという名称はこの地域の地名、クラス Kras に由来しており、小さなくぼ地を表すドリーネ Doline、盆地状のくぼ地を表すポリエ Poljeなどの地形用語もスロヴェニア語起源だ。この国の代表的地形の特徴が全く表現されない図式というのも不可解だが、測地研究所の名誉のために付け加えれば、1:25,000地形図(区分図で入手可能)では小地形や植生も詳しく表現されている。おそらく地形図の用途に合わせて意図的に変えてあるのであろう。
ともあれ、このくらいの縮尺になると、地図を見るだけで現地を歩いたような気分になる。南部ドレンスカ Dolenjska 地方を貫流するクルカ川 Krka 流域も、なにやらよさそうだ。カルスト地形によくあるように、クルカの源流もまた地中から豊富な水量で湧き出てくる。30kmほど地表を流れ下ると、地方の中心都市ノヴォ・メスト Novo Mesto。さらに7kmほど下流にある小さな川中島に、オトチェッツ城 Grad Otočec が建っている。現在はグレードの高い古城ホテルで、訪れてみたい気持ちにさせる。
近郊のエクスカーションには、さらに15km下流、川が大きく蛇行してみごとな袋状になったところに築かれた村がいい。袋のしぼり口をショートカットする水路が作られているので、四方に川をめぐらす要害の立地だ。村の名はコスタニェヴィカ・ ナ・クルキ Kostanjevica na Krki。地図帳には美しい空中写真が載っている。緑の草原を流れる青きクルカ川に浮かぶように、赤茶色の屋根をもつ家並みが続く。キャプションによれば、この国で最も小さく同時に最も古い村のひとつなのだそうだ。
■参考サイト
スロベニア測地研究所 http://www.gzs-dd.si/
オトチェッツ城案内(英語版) http://www.novomesto.si/en/turizem/znamenitosti/kzgod/gradovi/otocec/
ホテル オトチェッツ http://www.terme-krka.si/si/otocec/
オトチェッツ城(パノラマ写真) http://www.burger.si/Otocec/seznam.htm
コスタニェヴィカ・ ナ・クルキ(パノラマ写真) http://www.burger.si/Kostanjevica/seznam.htm
« スイス・エンゲルベルク線(LSE)のバイパストンネル | トップページ | クロアチアの1:100,000地図帳 »
「東ヨーロッパの地図」カテゴリの記事
- スロベニア 消える湖、消える川(2017.09.10)
- バルト三国の地図-エストニアの旅行地図(2008.07.10)
- バルト三国の地図-リトアニアの旅行地図(2008.07.03)
- バルト三国の地図-リトアニアの地形図(2008.06.26)
- バルト三国の地図-ラトビアの地方図・市街図(2008.06.19)
« スイス・エンゲルベルク線(LSE)のバイパストンネル | トップページ | クロアチアの1:100,000地図帳 »
コメント