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2006年2月18日 (土)

ロシアの地形図地図帳

1枚もののロシア官製図はまだ購入したことがないが、官製の地形図を使用した地図帳はおびただしい数が出版されていて、入手も比較的容易だ。手元にある地図帳で紹介しよう。

Blog_russia_topoatlas1
レニングラード州
南西部地図帳 表紙
 

一つ目は「レニングラード州南西部地図帳 Юго-запад Лениградская область атлас / Southwestern Leningrad Oblast Atlas」で、縮尺は1:100,000、判型18×30cm、72ページの中綴じ冊子だ。出版元は、サンクトペテルブルクの444番軍事地図製作所 444 Военно-картграфическая фабрика とある。レニングラード州は、連邦直轄市であるサンクトペテルブルク Санкт-Петербург の周辺をエリアとしていて、この地図帳シリーズは3冊で州全域をカバーする。ちなみに、市の名前も旧ソ連時代はレニングラードだったが、体制崩壊後、旧称に戻された。

地図帳はいたってシンプルな作りで、表紙の裏側にカラーの索引図があるほかは、71ページに分割された区分図が淡々と続いている。奥付にあるコピーライトの表示に「ベースマップ 軍参謀本部軍事測量局 Географическая основа ВТУ ГШ」とあるとおり、地図は、いわゆる参謀本部地図から軍事に関する情報を除いたものをそっくり使用している。もとの地形図と比べてみると(下図参照)、等高線と標高以外のさまざまな数値情報のほか、滑走路、工場地帯の線路、海の等深線などがきれいに抹消されている。旧東ドイツの「国民経済版」のように、非軍事用途として作成されていたものかもしれない。

それに対して、出版社が独自に加工したのは、行政区の境界をハッチで強調したことと、サンクトペテルブルク郊外の環状道路の予定線を記入したことだけだ。色使いも原図とは異なり、茶、ピンク、アップルグリーン、ミントグリーン、青、黒の6色刷りとしている。ただ、等高線のみならず集落、道路、鉄道など地物の多くを茶色で表現しているため、色数の割には全体として眠たげな印象を与える。

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サンクトペテルブルク市街地周辺の地図表現
(左)レニングラード州南西部地図帳
(右)1:100,000地形図の同地域
Map images courtesy of maps.vlasenko.net

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カリーニングラード州
地方別地図帳 表紙
 

二つ目は、バルト海に面したリトアニアとポーランドの間にある飛地、カリーニングラード州を対象とするもので、タイトルは、「カリーニングラード州地方別地図帳 Региональный атлас Калининградская область」、判型17×29cm、72ページの中綴じ冊子だ。体裁はよく似ているが、出版元は異なり、モスクワにある439番中央実験軍事地図製作所 439 Центральная экспериментальная военно-картографическая фабрика となっている。こちらは、1:100,000のメイン地図48ページの後に、1:20,000のカリーニングラード市街図と地名索引が付随して、地図帳らしい構成になっている。

ベースマップはもちろん参謀本部地図だが、配色は、地図に黒、山吹、アップルグリーン、肌色、水色、灰の6色を使い、索引にルビーレッドを用いる。地物は原図どおりの黒で引き締め、土地利用をアップルグリーンと肌色で明るく塗りわけ、道路を山吹の面塗りにしてアクセントとしている。なかなか美しい色合いだ。それに比べて、州都の市街図はオリジナルらしいが、拡大しすぎた略図のような稚拙な品質で、メイン地図との落差が激しい。

Blog_russia_topoatlas2_sample
同地図帳のカリーニングラード市街地周辺
 

裏表紙の広告を見ると、同 製作所から州別地図帳が45種も刊行されている。カリーニングラード州はたまたま1:100,000の縮尺だったが、他は1:200,000が多いようだ。地図帳の縮尺がこのような傾向を示すのは、1:100,000を超える大縮尺の地形図公開に制限がかけられていたからだが、前者の地図製作所のサイトによると、最近この禁制が解除されて、1:50,000の地図帳も刊行され始めたという。

秘密主義だった旧体制とは打って変わって、現在のロシアは、地形図が普通に公開される国の仲間入りをしている。広大な国土の紙地図を1枚ずつ売っていては在庫管理の手数ばかりになってしまうだろうから、関連会社で地図帳に仕立てて売るのは、ある意味で安直ながら、ユーザにとってもお徳で歓迎すべきことだ。

改めてバルト海沿岸の地域を描いた2冊の地図帳を眺めてみる。広々とした大地がページを繰れども繰れども現れ、そこでは等高線よりも水流が主役を演じている。小さな池から流れ出した無数の名もない川が、平野をくねくねと縫いながら次々と集まって、大きな流れに成長していく。1:100,000の縮尺なら見開き2ページで30km四方あるはずだが、これでもロシア全土から見れば2万分の1の面積だ。図上旅行が当分終わることはない。

(2008年5月1日改稿)

■参考サイト
「官製地図を求めて」ロシア
http://map.on.coocan.jp/map/map_russia.html
地図帳の入手先にも触れている

★本ブログ内の関連記事
 旧ソ連軍作成の地形図 I
 旧ソ連軍作成の地形図 II
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