2026年6月10日 (水)

ナウムブルク市電-保存トラムが担う都市交通

ナウムブルク路面軌道 Straßenbahn Naumburg

ハウプトバーンホーフ(中央駅)Hauptbahnhof~ザルツトーア Salztor 間 2.9km
軌間1000mm、直流600V電化
1892年蒸気運転で開業、1907年電化、1991年運行休止
1994年保存運行開始

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中央駅停留所で客扱い中のレコワーゲン

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フランクフルト発のICEがお約束のごとく遅延したため、エアフルト Erfurt で乗継げるはずの RE(快速列車)に間に合わなかった。ナウムブルク Naumburg の中央駅に着いたのは予定より1時間後で、時計の針はもう正午をとうに回っている。

ナウムブルク(下注1)はエアフルトとライプツィヒ Leipzig の中間に位置する人口3万人強の地方都市だ。この町にも路面電車が走っている。ナウムブルク路面軌道 Straßenbahn Naumburg が運行する1本きりの路線で、延長2.9km。運営事業体単位では、ドイツ最小の路面軌道とされる(下注2)。

*注1 同名の町と区別するために、ナウムブルク・アン・デア・ザーレ Naumburg an der Saale と呼ばれる。ドイツ語の正式表記は Naumburg (Saale)。
*注2 路面蒸気機関車で運行されるキームゼー鉄道 Chiemseebahn が1.9kmとさらに短いが、分類は地方鉄道で、併用軌道区間もない。「キームゼー鉄道-現存最古の蒸気トラム」参照。

特色はそれだけではない。業界主流の連節低床車両が1台もなく、最も新しいもので1970年代生まれという古典単車だけで日常運行を賄っているのだ。ほかの都市なら週末の特別運転でにぎにぎしく登場するような旧車が、毎日入れ替わりで市内を行き来している。ライプツィヒに向かう途中、この町に寄り道したのは、この保存鉄道のような「市電」のようすを直接確かめたかったからだ。

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DBナウムブルク中央駅
(左)ローマ建築風の正面入口
(右)ボンバルディア製タレント Talent 2 のREで到着
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ナウムブルク市街と軌道路線図
赤の実線は現行路線、黒の破線は廃止線
© 2026 basemap.de / BKG

ナウムブルクに幹線鉄道が通ったのは1846年という早い時期だ。ハレ Halle (Saale) からエアフルト、アイゼナハ Eisenach、ベブラ Bebra に至るテューリンゲン鉄道 Thüringer Bahn の経由地の一つとされ、現在の中央駅も同時に開業した。しかし、駅はザーレ川 Saale が流れる低地に設置されたため、河岸段丘上に位置する市街地とは約1.5km離れ、高低差も30m近くあった。

両者の連絡で最初に構想されたのは馬車軌道だったが、段丘を上る坂道がネックとなり実現しなかった。ようやく1892年に蒸気運転による路面軌道が開業して、町は駅と結ばれた。当初は民間資本で運営されたが、赤字続きで1900年に倒産したため、市が買収に踏み切る。市営になったことで、1907年には念願の電化を果たした。

中心街のマルクト Markt を通って南のザルツトーア Salztor を終点としていた軌道は、まもなく市街の西側へ延伸される。1914年にはさらにその先端が中央駅まで届いて、全長5.4kmの環状線が完成した。単線ながらも、電車は時計回りと反時計回りでそれぞれ環状運転されるようになった。

東ドイツ時代も国有企業のもとで運行は続けられたが、1990年のドイツ再統一後は、自動車の増加と地域経済の不振により、利用者が激減してしまう。改修工事を理由に1991年8月に運行が中断されたまま、市は復活を断念した。

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環状線時代の路面電車(1990年)
(左)中央駅停留所
(右)マルクグラーフェンヴェーク Markgrafenweg 付近
Photo by Gustav Stehno, @ Tramwayforum.at
 

再建のきっかけは、1994年、残された軌道で保存トラムによる観光事業を企てた有志が「ナウムブルク路面軌道」を設立したことだった。最初は、車庫を起点に一部区間で散発的な運行が実施された。

会社は環状線の完全復興を目指していたが、市と意見が折り合わず、結局、東側の中央駅~フォーゲルヴィーゼ Vogelwiese 間で、2006年のイースターから毎週末の運行が始まった。事業は好評で、翌2007年から毎日運行となり、駅と旧市街の外縁を結ぶ交通手段として定着していく。

2010年にはついに、市バスのように州の補助対象となる ÖPNV(近距離公共交通機関 Öffentlicher Personennahverkehr)に認定され、事実上「市電」と呼べる存在になった。また2017年には、フォーゲルヴィーゼからザルツトーアまでの軌道延伸が実現し、現在のルートが完成している。

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停留所に掲げられた運賃表と路線図
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マリーエントーア Marientor 付近を行く電車

ナウムブルク中央駅 Naumburg Hbf は、列柱が支えるポルティコを正面に据えた古典的なデザインが印象的だ。そのファサードを出ると、目の前のささやかな駅前広場に、路面電車の乗り場「ハウプトバーンホーフ(中央駅の意)Hauptbahnhof」がある。

以前は、駅前通り Bahnhofstraße の東の角が起点だったのだが、2018年に、より駅に近い現位置まで50mほど延伸・移設された。時を遡れば、環状線時代の停留所はここにあったので、30年の歳月を経て旧に復したことになる。シンプルな棒線駅だが、すぐ先の駅前通りに行き違いループが残されている。

時刻表によれば、路面電車の運行は30分間隔だ。終点まで所要11分なので、通常1編成がシャトル運行している。土曜の日中のみ毎時1往復が増便され、途中で列車交換がある。運賃は片道2.40ユーロ(2025年現在、下注1)だが、ÖPNVなので、ドイチュラント・チケット  Deutschland-Ticket(下注2)も有効だ。

*注1 中部ドイツ運輸連合 Mitteldeutscher Verkehrsverbund GmbH (MDV) の1区運賃。
*注2 略称 D-Ticket。ドイツ全土のSPNV(地方公共交通機関)やÖPNVが月単位で乗り放題の格安切符。

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(左)中央駅手前の行き違いループ
(右)トラムのイラストが描かれた停留所標識
 

次の発車は13時ちょうど。しばらく目を離しているうちに、もう10人ほどがホームに集まってきている。5分前に電車が通りの角から姿を現し、定位置に停車した。

公式サイトによれば、本日の車両は、1973年にベルリンのシェーネヴァイデ鉄道修理工場 Raw Berlin-Schöneweide で製造された2軸、両運転台のTZ 70/1形51号車で、いわゆる「レコワーゲン Rekowagen」の仲間(下注)だ。長年、近隣イェーナ(イエナ)Jena の市内を走っていたが、2001年5月からナウムブルクで第二の人生を送っている。

*注 「レコ」は改造 Rekonstruktion の略だが、ほぼ新造車も含まれる。

系統幕に4とあるとおり、路面電車は4系統 Linie 4 を名乗る。これは、定期運行再開時に市内バスの1~3系統に準じて付番されたからだが、後にバスが101~103系統に改番されたため、1~3は現在、欠番になっている。

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(左)TZ 70/1形51号車
(右)車内はボックスシートが並ぶ
 

降車が終了すると、逆側の扉が開いて、待っていた客が乗込み始めた。その間に別の客も次々とやってきて、結局20人前後が乗車した。けっこう盛況だ。車内は、2人掛けと1人掛けの広めのボックスシートが並んでいる。バリアフリーに適合しない高床車とはいえ、乗ってしまえば快適だ。

客が多かったので、定刻より少し遅れて発車。最初は静かな駅前通りを行く。線路は右端に寄せられ、車道とも歩道とも明確に区切られているので、実態は道端軌道だ。段丘崖を覆う森の前で左に曲がると、道は上りになる。昔はもっと急坂だったのだろうが、今は切通しで勾配が緩和されていて、これなら馬が牽くトラムでも上がれそうだ。

児童公園の角で右折してすぐ、イェーガープラッツ Jägerplatz 停留所がある。ここは保存運行の初期に折返し点だったところで、道路の中央を通っていた当時の旧線の一部が、待避線とともに残っている。

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イェーガープラッツ停留所付近
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道路中央に残る旧軌道
(左)南望、待避線の一部も残る (右)北望、左は現在線
 

ポスト通り Poststraße に入り、市立公園 Stadtpark の豊かな木立を右に見ながら進んでいくと、左側にネオルネッサンス様式の煉瓦建築、マリーエンシューレ(聖マリア女子学校)Marienschule が目に入る。その隣がこの路面軌道の車庫 Depot だ。

きょうは水曜で公開日ではなかった(下注)が、扉が開いていたので、収容されている先頭の車両は外からも観察できた。右にいるのは1959年製のゴータカー Gothawagen T57形37号車だ。シュトラールズント Stralsund を皮切りに数都市を渡り歩いて、最後にイェーナからここへ引き取られた。その左は、今乗っているTZ 70/1とペアを組む付随車 BZ 70/1形19号車だが、朝夕の多客時に向けて出動待ちだろうか。

*注 3月から10月の毎週土曜午後に一般公開されている。

露天の留置線には、37号とともに定期運行に供されている38号や、1955年製でナウムブルクのゴータカーでは最古参の ET54形29号の姿もあった。塗色をそれぞれ出身都市のオリジナルカラーのままにしているところは、保存鉄道として創業した会社の矜持だろう。

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路面軌道車庫
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(左)左はナウムブルク色のゴータカー38号、
   その後ろに29号、右はゴータ色の202号
(右)イェーナ色のゴータカーT57形37号
 

車庫前を通過すると、ラウンドアバウトのハインリッヒ・フォン・シュテファン広場 Heinrich-von-Stephan-Platz を見ながら、電車の針路は南に向く。通っていくのは、旧市街を囲んでいた市壁の撤去跡に造られたリング Ring と呼ばれる環状道路だ。軌道は道路の右側のゆったりとした緑地帯に、歩道を伴って敷かれている。並木の蔭でレールは芝生に埋もれ、まるで緑のじゅうたんの上を行くようだ。

旧市街の最寄りとなるクルト・ベッカー・プラッツ(広場)Curt-Becker-Platz 停留所には、二つ目の行き違いループがあった。しばらく行くと、リングはまた右に90度曲がって、西に向かう。暫定終点だったフォーゲルヴィーゼ停留所を過ぎればもう最後の区間で、緩い右カーブの先に終点ザルツトーアのホームが見えてきた。車内の客は途中の停留所で少しずつ降りていったので、最後まで乗り通したのは数人だった。

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(左)タインブルク橋 Thainburgbrücke 付近
(右)終点ザルツトーア Salztor に到着
 

時刻表では折返しまでに3分の余裕があるが、遅れて到着した電車は、すぐに中央駅へと戻っていった。リング沿いのルートは緑が豊かで、車窓から眺めていても心が和んだが、旧市街の風景を拝まずに帰るのは口惜しい。次の電車を待つ間に、歩いて5分ほどのところにあるマルクト広場 Marktplatz へ向かおう。

マルクトは市の立つ広場で、町の中心を成し、美しい装いの建物が建ち並んでいる。路面軌道も1976年まではこの広場を経由していた。ところが、広場と周辺の街路からクルマを締め出して歩行者天国にすることになり、その際、電車の線路も道連れにされて、今のルートに付け替えられたのだ。

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旧市街のヤーコプス通り Jakobsstraße は軌道旧ルートの一部
 

旧軌道の一部は撤去を免れ、廃止から50年経ってもまだ残っている。広場の北側で、石畳に埋まる二股に分かれた線路がそれだ。ここにはマルクト停留所があった。広場の北東端まで行くと、軌道は右に急カーブして南を向く。そこでいったん途切れるが、続きはカフェのテラス席の下を通って、広場の南東端まで延びている。

もう一か所、痕跡があるのは旧市街北縁の、市立公園に沿うポストリング Postring と呼ばれる静かな通りだ。路面軌道の車庫の方から歩いていくと、木陰の石畳道に突如として線路が現れ、南へおよそ100m続いている。リングの中でも交通量の少ない区間なので、道路が再舗装されなかったのが幸いしたようだ。

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マルクトに残る旧軌道の停留所跡
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旧軌道の一部はカフェのテラス席の下に
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(左)ポストリングに残る旧軌道
(右)旧軌道は約100mで終わる
  次の交差点から先は自転車・歩行者道に転換された
 

このポストリングに続くリンデンリング Lindenring は、マルクトを中心とする市民の町と、市壁の外側にある大聖堂(下注)の門前町との境で、名前のとおり、うるわしい菩提樹の並木道だ。その中央にピンコロ石で区切られた自転車・歩行者道が走っている。これがおそらく軌道跡だ。

このあと電車は先刻歩いたマルクト広場へ向けて、商店がひしめくヘレン通り Herrenstraße をすり抜けていくのだが、かつての光景を伝えるものはもはやどこにも残っていない。

*注 ナウムブルク大聖堂 Naumburger Dom は13世紀に創建された由緒ある聖堂で、世界遺産に登録されている。

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世界遺産のナウムブルク大聖堂(2018年)
Photo by Krzysztof Golik at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
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ヘレン通り、かつてここにも電車が走っていた
 

■参考サイト
ナウムブルク路面軌道 https://naumburger-strassenbahn.de/
ナウムブルク=イェーナ近距離交通友の会(保存団体)Nahverkehrsfreunde Naumburg-Jena e.V.  https://ringbahn-naumburg.de/
ブルゲンラント郡旅客交通 PVG Burgenlandkreis https://www.pvg-burgenlandkreis.de/

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