ベルリン東郊の小路線-ヴールハイデ公園鉄道
ヴールハイデ公園鉄道 Parkeisenbahn Wuhlheide
(別名:ベルリン公園鉄道 Berliner Parkeisenbahn (BPE))
周回軌道 延長7.5km
軌間600mm、非電化
1956年開業
1993年バーデゼー Badesee~ヴールハイデ公園鉄道駅 Parkeisenbahn Wuhlheide 間延伸
![]() ディーゼル機関車が牽く公園鉄道の列車 |
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ヴールハイデ Wuhlheide(下注)にある小鉄道のことは、昔、東ベルリンの市街図を初めて目にしたときから気づいていた。郊外の森林公園のなかに、複数のルートをもつ直径1km強の環状線が描かれている。だが、これがいわゆる子供鉄道であることを知ったのは最近で、ドイツの保存・観光鉄道のリストを編んでいたときだ。
*注 ヴールハイデはヴーレ川 Wuhle の原野 Heide を意味する。実態は主に樫(オーク)の森。
![]() ベルリン東郊の鉄道路線図(市内路面軌道、Uバーンを除く) |
![]() 日本でいう「私鉄記号」で描かれるヴールハイデ公園鉄道 1:25 000市街地形図 3547 Berlin-Köpenick 1998年版、青線が1kmグリッド © 2026 Landesvermessung und Geobasisinformation Brandenburg |
子供鉄道というのは、かつてソ連を中心とした旧社会主義諸国で社会教育組織として運営されていた鉄道のことだ。大人の鉄道員の指導のもとで、子どもや若者が運行業務に携わる。ピオネール(少年団)活動の一翼を担っていたことから、当時はピオネール鉄道 Pioniereisenbahn と呼ばれていた。
1989年の社会主義体制崩壊後は政治色が取り払われ、多くがボーイ/ガールスカウトのような青少年活動として存続した。鉄道の名称も子供鉄道 Kindereisenbahn や、公園内を走るものは公園鉄道 Parkeisenbahn などと改められた。
![]() (左)車掌役の少年 (右)機回し作業で所定位置につく |
その最大のものはハンガリーの首都ブダペストにある子供鉄道 Budapesti Gyermekvasút(下注)で、全長11.2kmあり、ギネス世界記録に認定されている。ドイツでもドレスデン Dresden、コットブス Cottbus、ケムニッツ Chemnitz など東部諸州に十数か所残っているが、なかでもベルリン Berlin のそれは、路線延長7.5kmで国内最大だ。
*注 詳細は「ブダペスト子供鉄道 I-概要」「同 II-ルート案内」参照。
ヴールハイデ公園鉄道 Parkeisenbahn Wuhlheide は、市内東部のオーバーシェーネヴァイデ Oberschöneweide 地区にある同名の公園のなかを巡っている。600mm軌間の簡易軌道 Feldbahn が敷かれ、蒸気機関車またはディーゼル機関車がオープン型の小型客車を牽いて走るスタイルだ。
![]() 本日の列車構成は機関車と客車4両 |
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ヴールハイデの歴史は、1911年にベルリン市が飲料水の保全のために、525haといわれる未開発の広大な森林地帯を買収したことに始まる。このうち西側は第二次世界大戦以降、軍用地に転用されたが、再統一後は植生の回復が図られて、いくつかの公共施設があるほかは現在、森に戻っている。
一方、東側では東ドイツ時代に、戦前の共産主義指導者エルンスト・テールマン Ernst Thälmann を記念するピオネール公園が開園し、野外ステージや水浴池、子ども向けの自然環境体験館などとともに、1956年にピオネール鉄道が配置された。
東ドイツのピオネール鉄道は、1950年にドレスデンで開設されたのが最初で(下注)、ベルリンのそれは国内で6番目だった。スタートは遅かったが規模は大きく、他都市のそれが自治体の運営だったのに対し、1970年代以降はDR(東ドイツ国鉄)が直接運営に当たっていた。
*注 ドレスデン市内のグローサー・ガルテン(大庭園)Großer Garten に今もある381mm軌間の公園鉄道。
そしてドイツ再統一後は、ベルリン公園鉄道 Berliner Parkeisenbahn (BPE) と改称され、運営は非営利会社に移された。
![]() 緑うるわしいヴールハイデの並木道 |
また、市内から公園へのアクセスを改善するため、1993年に路線の延伸も行われている。環状線の北端バーデゼー Badesee 駅から分岐してSバーンのヴールハイデ駅裏に至る支線がそれだ。以前の公園鉄道はエンドレスの環状線で、その南端にある「ハウプトバーンホーフ(中央駅)Hauptbahnhof」が文字どおりのエントランスだった(下注)。支線の開業で、北側を通っているSバーンからも容易に乗り継げるようになった。
*注 中央駅は、ベルリン市電27、60、67系統の休暇休養センター停留所 Haltestelle Freizeit- und Erholungszentrum の至近にある。
現在、公園鉄道が巡っているエリアは、休暇休養センター Freizeit und Erholungszentrum、通称フェーツ FEZ に含まれ、森の中に文化施設や子どもや家族向けのレジャー施設が点在する。鉄道はそれ自体がアトラクションであるとともに、各施設へのアクセス手段としても機能している。
![]() 1993年に延伸開業したヴールハイデ駅 |
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鉄道が運行されるのは、3月から10月の土日祝日と、夏休み、アドベント(待降節)といった子どもたちが動ける期間だ。また、園内のパルクビューネ(野外音楽堂)Parkbühne で催し物がある日は来場者向けのピストン運転がある。列車を率いるのは基本的にディーゼル機関車だが、特定の週末には蒸気機関車が登場して人気を博する。
![]() (左)公園鉄道の蒸機ルイーゼ・ラース Luise Las(2001年) (右)同 メラピ Merapi(2002年) Photos by Andreas Prang at German Wikipedia. License: public domain |
ヴールハイデ駅に通じる支線はもとより、環状線自体も枝分かれしているので、ルート設定の自由度は高い。公式サイトには実に9通りもの経路が記載されているが、現在はそのうち「5系統 Linie 5」で運行されることが多い。
これは、中央駅を出発して環状線を東へ進み、バーデゼーBadesee駅まで半周した後、支線に入り、ヴールハイデ駅まで行く。そこで折り返し、復路は環状線の中線を通って、中央駅に帰着するというルートで、所要時間は31分だ。
また、ヴールハイデ駅支線の往復を省略する代わりに、自然環境体験館 Haus Natur und Umwelt 駅経由の環状ルートを走行する「2系統」の日もある。この場合、所要時間は20分になる。
なお、環状線の西半分は、実質的に車両基地 Betriebswerk 発着列車の回送線になっていて、客を乗せて走るのは車庫見学のような特別行事のときに限られている。
![]() ヴールハイデ公園鉄道路線図 緑:2系統、紫:5系統 ヴールハイデは図上端、中央駅は下端 image from https://www.parkeisenbahn.de/ |
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ヴールハイデ公園鉄道も、ヴォルタースドルフ路面軌道などと同じくSバーンS3系統の沿線に位置している。実は路面軌道に先立って、午前中に訪ねたのがこの鉄道だった。
Sバーンのヴールハイデは、人里離れた森の中でぽつんと取り残されたような駅だ。ホームの東端にある跨線橋が公園鉄道への連絡通路だが、私は駅舎のある西端の出入口へ回った。線路をまたぐ道路橋の上から、公園鉄道の折返し駅のようすを眺めようと思ったのだ。
まっすぐ延びる4本のDB線から植込みと通路を隔てて、公園鉄道ヴールハイデ Wuhlheide Parkeisenbahn 駅のささやかな片面ホームが見える。ホームの前には本線と機回し用、2本のか細い線路が並んでいる。
この日はディーゼル機関車の牽引で、5系統のルートを10時台から17時台まで35分間隔で運行していた。1行程の所要時間は31分。なお、12時30分からの1時間はスタッフの休憩時間で、列車は走らない。
![]() (左)Sバーン ヴールハイデ駅 (右)S3系統の電車が出発 |
![]() DB駅に並行して公園鉄道の片面ホームがある |
道路橋から降りて、ホームで数人の客とともに待っていると、10時59分着の列車が入ってきた。先頭に立つのは、青い車体のV10C形ディーゼル機関車だ。1969年にポツダム Potsdam のLKM社(下注1)で製造された産業用機関車で、名前はゲルノート Gernot。この鉄道の生え抜きで、もう50年以上働いてきた。後ろにオープン客車(下注2)を4両引き連れている。いずれも枕木方向にベンチが並ぶコンパートメント式で、最前と最後の車両は屋根付きだ。
*注1 正式名称はカール・マルクス・バーベルスベルク機関車製造所 Lokomotivbau Karl Marx Babelsberg。旧 オーレンシュタイン・ウント・コッペル Orenstein & Koppel 社が1948年に改称したもの。
*注2 雨天時や気温が低い時期は密閉式客車に置換えられる。
![]() (左)本日の機関車V10C形「ゲルノート」 (右)オープン客車 |
駅に到着すると、さっそく機回しが始まった。安全ベストを着用した若い鉄道員たちが側線の両端にあるポイントの前へ移動し、機関車の動きに合わせて進路を切り換えていく。機関車の運転や整備は大人の仕事だが、こうした転轍手をはじめ、車掌、踏切警手、運行指令など運行の現場を支えるさまざまな業務を、彼らがチームで担っている。
機関車の連結作業が終わり、乗客が客車内に収まると、車掌役の少年がホームを歩いて、切符を切ってくれる。一周乗車券 Rundfahrt が5ユーロ(下注)。これでヴールハイデ駅まで戻ってこられるが、途中下車はできず、前途無効だ。
*注 2026年現在、一周乗車券は6ユーロ。支払いは現金のみ。なお、蒸機列車は割増料金となる。
![]() ヴールハイデ駅の機回し作業 |
![]() 列車の前に機関車を再連結 |
定刻の11時05分、少年車掌が柄の先に円のついた標識を高く上げる。機関士が鋭い警笛でそれに応えて、列車はおもむろに動き出した。油煙の臭いが鼻をつく。
ホームを後にすると、道路橋とDBベルリン外環状線 Berliner Außenring の下をくぐり、左に急カーブして公園の森に入っていった。遊歩道と合流して、もう一本の鉄道支線の下を通り抜ける。分岐駅バーデゼー(水浴池)Badesee は通過(下注)、次のパルクビューネ(野外音楽堂)Parkbühne では停車し、数人の客を乗せた。
*注 往路はリクエストストップの扱い。
![]() (左)急カーブして公園の森へ (右)鉄道支線の下を通り抜ける |
![]() (左)バーデゼー南方で環状線を分岐 (右)シュタディオーン駅は通過 |
リクエストストップのシュタディオーン(陸上競技場)Stadion 駅は通過。駅名になっている競技場をかすめた後、列車は再び左に大きくカーブして、ハウプトバーンホーフ(中央駅)Hauptbahnhof に滑り込んだ。
一方通行の環状線なので、ここもシンプルな棒線駅だが、鉄道にとっては運行の拠点だ。すぐ外側の街路をベルリン市電が走っていて、市内鉄道網との接続駅にもなっている。それで平屋の大きな駅舎があり、出札窓口も開いていた。
ダイヤ上は列車の起終点で、列車番号が変わり、乗務員の交替もある。しかし、実際は5分前後の停車の後、同じ編成で出発するから、通しで乗る客は着席したままだ。
![]() 運行拠点のハウプトバーンホーフ(中央駅) |
再び少年車掌の合図で、11時20分に中央駅を発車した。後半は、前半にもまして森に包まれた軌道を延々と行く。園内を東西に貫く小道の名を冠したアイヒゲシュテル(樫森の道)Eichgestell は、休暇休養センター(FEZ)本館の最寄り駅だ。公園利用者の駐車場も近接しているからか、乗り込む客がけっこう多く、ベンチシートがほぼ塞がった。この近くで、公園鉄道よりさらに小型の、500mm軌間のミニ列車が走っているのだが、実見する時間がないのが惜しい。
DBベルリン外環状線に沿って数分走ると、左から軌道が近づいてきて、バーデゼーに停車。あとは、先刻通ったルートを通って、ヴールハイデ駅に戻ってきた。11時34分到着。少年車掌に「ありがとう」とあいさつして、ホームに降りた。列車の先頭では、早くも折返しのための機回し作業が始まっている。側線を回ってきた機関車が再び連結されるのを見届けて、Sバーン駅への跨線橋を上った。
![]() ヴールハイデ駅に戻ってきた |
■参考サイト
ヴールハイデ公園鉄道 https://www.parkeisenbahn.de/
ヴールハイデ公園鉄道協会Parkeisenbahn Wuhlheide e.V.(支援団体)
https://www.vereinparkeisenbahn.de/
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