2016年4月24日 (日)

フィリピンの地形図

西太平洋に面するフィリピン共和国 Republic of the Philippines は、ルソン島、ミンダナオ島を筆頭に7,100とも7,600とも言われる多数の島から成る。環太平洋火山帯に位置し、赤道にも近いことが、この国にしばしば台風、地震、噴火といった自然災害をもたらす一方で、豊かな天然資源や、世界でも有数の生物多様性をはぐくんできた。

そのフィリピンの公式測量機関「国土地図・資源情報局 National Mapping and Resource Information Authority (NAMRIA) 」のサイトでは、国土をカバーする地形図体系の紹介とともに、地形図画像が多数公開されている。断片的な情報で恐縮だが、サイトの記述をもとに同国の地形図事情を追ってみたい。

■参考サイト
NAMRIA - Topographic map(紹介ページ)
http://www.namria.gov.ph/products.aspx
NAMRIA - Topographic map Download(画像ダウンロード)
http://www.namria.gov.ph/download.php

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1991年に大噴火を起こしたルソン島のピナトゥボ山、噴火口にはカルデラ湖が生じている
1:50,000地形図(PNTMS、JICA協力図) Mount Pinatubo 2007年版の一部

NAMRIAは、環境・天然資源省 Department of Environment and Natural Resources に属する行政機関だ。戦後フィリピンが改めてアメリカから独立を果たしたとき、米軍が担っていた測量・地図作成業務は、フィリピン沿岸測地測量局 Philippine Coast and Geodetic Survey (PC&GS) が引継いだ。組織は当初海軍に属していたが、後に国防省の内局となって、Bureau of Coast and Geodetic Survey (BCGS) と改称される。大統領令に基づき、国民に提供する地図の製作を目的としてNAMRIAが設立されたのは、ようやく1988年のことだ。

同国の地形図体系は、縮尺の小さい順に1:250,000、1:50,000、1:10,000、1:5,000とあるが、全土をカバーしているのは前2者にとどまり、改訂の進捗も十分とは言いがたい。

では、縮尺別に見てみよう。

まず1:250,000は全55面で、東西1度30分、南北1度の横長図郭だ。地勢表現は100m間隔の等高線とぼかしによる。サイトが提供している画像は解像度が低すぎて、注記文字を含めて詳細が全く判読できない。紹介文には「フィリピン沿岸測地測量局 Philippine Coast and Geodetic Survey、(米国)陸軍地図局 Army Map Service (AMS)、(米国)工兵隊 Corps of Engineer、米国沿岸測地測量局 US Coast and Geodetic Survey、公共道路局 Bureau of Public Highwaysその他の機関からの情報をもとに製作された」とあるので、1950年代のAMSによるS501シリーズを転用したものと推測できる。

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1:250,000地形図 Manila

AMS製作の原図は、テキサス大学ペリー・カスタネダ図書館地図コレクションで精細画像が提供されている(下記参考サイト)。上のマニラ図葉の一部に相当するAMS図を下に掲げた。両者を見比べると、未舗装道や市街地の色が違うようだが、注記文字の位置・書体、ぼかしの掛け方などはそのままだ。NAMRIA画像の低解像度に対する欲求不満は、これで十分解消できるだろう。

■参考サイト
University of Texas at Austin, Perry-Castañeda Library
Philippines 1:250,000 Series S501
http://www.lib.utexas.edu/maps/ams/philippines/

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AMS 1:250,000地形図 ND51-5 Manilaの一部

1:50,000については、数種のシリーズが混在している。最初に製作されたのが、711シリーズ(S711)だ。JICAの資料(下注)によれば、全842面。もともとAMSによって1947~53年撮影の航空写真から作られたもので、1970年代初めに全土をカバーしたとされる。AMS標準の5色刷で、日本の1:50,000と同じく、東西15分×南北10分の横長図郭だ。地勢表現は20m間隔の等高線による。

*注 JICA「フィリピン国国土総合開発計画促進に関する地図政策支援行政整備調査 第1編」2008年3月

サンプルとして、サトウキビ畑に製糖鉄道が張り巡らされていたネグロス島バコロド Bacolod, Negros 付近と、ルソン富士の異名をもつ円錐形のマヨン火山 Mayon Volcano の図葉を掲げておこう(下図)。とりわけ前者は、記号や書体にAMS様式が色濃く感じられる。

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ネグロス島バコロド付近
1:50,000地形図(S711)3652-III Bacolod、3651-IV Murciaの一部
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マヨン火山 1:50,000地形図(S711)3759-IV Ligaoの一部

次の701シリーズ(S701)は、1979年撮影の航空写真によるS711の修正版だ。ただし現物を見ていくと、新たに描かれた(改測)図葉もあるようだ。製作されたのはルソン島のみで、上記JICA資料によれば151面ある。図郭が東西15分×南北15分の単位に切り直されたため、S711の図郭とは一致しない。

サンプル(下図)に挙げたのは、旧市街が世界遺産に登録されているルソン島北西岸のビガン Vigan 付近と、同じく世界遺産のコルディリェーラの棚田群のあるルソン島北部のバナウエ Banaue。それに、小火山や火口湖が点在するルソン島中部のサン・パブロ San Pablo を加えた。前2者はAMS様式だが、後者はむしろオーストラリア官製図の雰囲気を持っている。画像では図歴が欠落しているため、正確なところはわからないのだが。

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ビガン付近 1:50,000地形図(S701)7078-II Viganの一部
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コルディリェーラの棚田群のある一帯
1:50,000地形図(S701)7276-IV Lagaweの一部
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サンパブロ付近 1:50,000地形図(S701)7271-II San Pabloの一部

ここまではシリーズ名からも明らかなように基本は軍用地図なのだが、1988年からは、NAMRIAによる民生用地形図の計画がスタートする。その成果が、フィリピン全国地形図シリーズ Philippine National Topographic Map Series の頭字をとったPNTMSと呼ばれるシリーズだ。地形図は、空中写真や衛星写真はもとより、マニラ周辺では作成済みの1:10,000地形図なども資料にして編集されている。図郭はS701を踏襲したが、図番体系が変更されている。地勢表現は20m間隔の等高線で、適宜5~10m補助曲線が用いられた。

このシリーズは全部で672面の予定だそうだが、索引図を見る限り、まだ126面しか完成していない。そしてこの中には、日本のJICA(国際協力機構)が実施した国土総合開発計画促進のためのパイロット・プロジェクトで作成された中部ルソン地方 Central Luzon の地形図24面も含まれている。

サンプル(下図)には、首都マニラの南で、日本人にはモンテンルパとして知られるムンティンルパ・シティ Muntinlupa City と、マニラの北に接するマロロス・シティ Malolos City 付近を取り上げた。前者が計画的な道路パターンに市街地のアミを掛けただけの無愛想な図面であるのに対して、後者は独立家屋や施設の記号を多用して丁寧かつ鮮明に描かれている。前者はNAMRIAのオリジナル、後者はJICAが協力した(日本が提供した)24面の一つで、技術力の差は覆い隠せない。冒頭に掲げたピナトゥボ山の図も、JICAの協力図だ。

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ムンティンルパ・シティ
1:50,000地形図(PNTMS)3229-IV Muntinlupa Cityの一部
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マロロス・シティ
1:50,000地形図(PNTMS)3130-I Malolos Cityの一部
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1:50,000地形図(PNTMS) 3130-I Malolos City (全体)

1:50,000はこのように、一応全土をカバーしているものの、製作年代も図化精度もまちまちで、とりわけルソン島以外ではまだ、50年も前に作られた米軍由来のS711が大半を占めるという状況だ。

1:250,000と同様、これらもNAMRIAのサイトで画像公開されている(下注)。用意された索引図の画像があまりに小さいため、或る程度土地鑑がないと、目的の図葉にたどり着くのに苦労する。しかし、画像自体は、細かい注記文字も読み取れる解像度で、実用に耐えうるものだ。もちろん、交通網や市街地などの人工景観については、現況とかなり差異が出ていることを覚悟しておく必要があるが。

*注 S711、S701の旧シリーズにもNAMRIAのクレジットが挿入されているから、単純に旧図をスキャンしたものではないようだ。

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1:50,000地形図(PNTMS、JICA協力図)の凡例

1:10,0001:5,000は一部の都市域で作成されているにとどまる。NAMRIAによれば、1:10,000はマニラ首都圏(メトロ・マニラ Metro Manila)と隣接地域、イロコス・ノルテ Ilocos Norte、ラ・ユニオン La Union、バギオ・シティ Baguio City、スービック Subic、レガスピ Legaspi City、サンボアンガ・シティ Zamboanga City の各都市、また、1:5,000はバコロド・シティ Bacolod City、イリガン・シティ Iligan City、イロイロ都市圏 Metro Iloilo、セブ都市圏 Metro Cebu、カガヤン・デ・オーロ Cagayan de Oro の都市域だ。地形図そのものの画像は公開されていないが、下記サイトにデータが使われている。

■参考サイト
フィリピン・ジオポータル http://www.geoportal.gov.ph/
 上部メニューのModule > Map Viewer

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1:10,000地形図 3229-IV-6 Alabang

使用した地形図の著作権表示 (c) 2016 NAMRIA.

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2016年4月10日 (日)

台湾の地形図-經建版

現行の台湾の官製地形図は、1985年に刊行が始まった。正式名称は中華民國臺灣地區地形圖だそうだが、通常は「經建版」地形図と称している。經建(経建)というのは経済建設の略称で、それまで軍事用の位置づけだった地形図を再編集して、民間による利用を可能にしたものだ。所管しているのは内政部地政司だが、製作は内政部の直轄機関である國土測繪中心 National Land Surveying and Mapping Center (下注)が行っている。

*注 國土測繪中心は、直訳すれば国土測量センター。

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1:100,000經建版地形図 宜蘭 (見本図)
画像は國土測繪中心サイトより取得

第二次大戦後、台湾では数種の地形図シリーズが作られたが、經建版以前はいずれも軍用の扱いだった。手元の1:50,000に関する資料によれば、まず1955~64年にかけて米国陸軍地図局(AMS)の協力のもとに「譯註美版臺灣五萬分一地形圖」108面が作製された(下注)。二番目が1966~71年の製作で、図郭を現在の縦長形に改めた「老五萬系列新製五萬分一地形圖」、三番目が、その改訂版として1980~84年に作られた「新五萬系列新製五萬分一地形圖」だ。

*注 この譯註美版1:50,000については復刻書も刊行されている。本ブログ「台湾の旧版地形図地図帳 II-光復初期」参照。

第四のシリーズに相当する經建版は、1975年に整備が開始された平地丘陵1:5,000、山地1:10,000の台灣地圖像片基本圖(航空写真基本図)をもとにして作製された。すでに数回改訂が実施されており、地図を公開している「台灣百年歴史地圖」のサイトではそれぞれ第一版、第二版のように呼んでいる(下注)。

*注 「台灣百年歴史地圖」のサイトについては、本ブログ「台湾の地形図-ウェブ版」参照。

同サイトによれば、縮尺別の作成時期は以下のとおりだ。

1:25,000
第一版 1985~1989年
第二版 1992~1994年
第三版 1999~2001年
第四版 2003年、北部地区のみ

1:50,000
第一版 1990年~1991年
第二版 1996年~
第三版 2002年、北部地区のみ

1:100,000
第一版 2003年、北部地区のみ

どの縮尺も最終版が2000年代前半と古いが、國土測繪中心は別途、2015年までの製作面数を公表しているので、その後も改訂が続けられているようだ。なお、各縮尺の作成時期は、百年歴史地圖と國土測繪中心のサイトで記述に食い違いが見られる。

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1:25,000 第一版 南崁、桃園
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1:50,000 第二版 淡水、桃園
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1:100,000 第一版 台北縣、桃園

經建版地形図は黒、茶、赤、青、緑の5色刷、1面の図郭は1:25,000が東西・南北とも7分30秒、1:50,000が同15分、1:100,000が同30分だ。韓国も同じ仕様で、戦後これらの地域で地図の整備を支援したアメリカの影響が強く表れている。

縮尺が大きくなるほど表現が詳細になるとはいえ、上図でご覧のとおり、どの縮尺も見た目は良く似ている。地勢表現は等高線のみで、間隔は1:25,000が10m間隔、同様に1:50,000が20m、1:100,000は40m。初期の版では、急傾斜地で等高線の間引き(省略)が行われていた。

地図記号はどうか(下図参照)。まず、道路(中国語では公路、以下同じ)はくくりのない赤の実線を使い、線の太さで国道、省道、県道、その他の道路を区別する。これなどはアメリカ式というよりカナダやオーストラリアで採用されている、より簡略化された形状だ。なお、2003年(民国92年)以前の図式では、実線が舗装(硬面路)で、破線が未舗装(鬆面路)を表していたが、未舗装道が少なくなったからか、2007年(民国96年)図式からは区別がなくなった。

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2003年以前の版の凡例
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2007年以降の版の凡例

鉄道(鐵路)は、実線に短線を交差させる形の日本でいう私鉄記号を基本とする。森林鉄道や製糖鉄道などの軽便鉄道(輕便鐵路)は、短線を片側へ交互に突き出す記号が使われる。おもしろいのは都市鉄道(捷運路網)や高速鉄道(高速鐵路=台湾新幹線)で、凡例のとおり他国では見かけないユニークなデザインだ。

市街地(房屋區)は赤のアミをかけるだけで、小集落でも独立家屋の記号を使わずに済ませている場合が多い。学校の記号も、四角の上に三角旗を立てた形がいかにもアメリカ式だ。四角の中に大・中・小と書かれており、日本の記号よりもわかりやすい。他に浄水場(水廠)、ガソリンスタンド(加油站)といった珍しい記号も設けられている。

土地利用の記号は、2007年図式で大きく変わった。従来青色を充てていた水田が緑色に置換えられ、さらに乾田(旱田)と水田に区別されるようになった。沼沢・湿地、緑地、果園のデザインも変更された。氾濫原(易氾濫區)、サトウキビ畑(蔗田)の記号が廃止されたのは、治水の完成や産業構造の変化を反映しているのだろう。

民生用として作られた經建版には、軍用施設が描かれていない。下図は、台湾の空の玄関口、桃園国際空港(図では中正國際機場と表記)付近の1:50,000だが、空港の南、大園郷/蘆竹郷の境界線が走る田園地帯は、周囲からぽっかりと浮き出ており、いかにも怪しげだ。事実ここは空軍基地で、滑走路を含めて全体が水田に改描されている(下注)。

*注 最新の民間道路地図には、桃園空軍基地の名称や滑走路が堂々と描かれているので、存在はもはや機密ではないようだ。

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空軍基地の改描例 1:50,000第三版 淡水

ウェブ公開されている各版を眺めているうちに、気づくことがあった。ふつう時代が下るにつれ、測量精度の向上で地図の描写がより正確になっていくものだが、經建版はその法則に当てはまらない。たとえば、縮尺別の比較に使った桃園市付近では、市街地の南東209mの三角点がある丘陵が、1:50,000の第三版では水田の記号で覆われている(下図の円内)。常識的にこの傾斜地を水田化することはありえず、空中写真で照会するまでもなく、樹林か緑地の誤りだ。

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植生の誤描 (左)1:50,000第二版 淡水、桃園 (右)同 第三版 淡水、桃園
円内の丘陵に水田の記号がある

台湾最大の湖、日月潭を一周する環湖公路の全通は、1:25,000第三版で初めて登場する。よく見ると、新設ルートはまるで等高線と合致せず、急斜面をジェットコースターさながらに登り降りしている(下図の矩形内)。等高線のほうが甘いという可能性は考えにくいので、道路を描く位置の問題だ。こうした等高線に従わない道路描写は、山岳地帯で散見される。参照した道路資料が大雑把だったのか、でなければ製図がずさんかのどちらかだ。

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道路の誤描 (左)1:25,000第一版 日月潭 (右)同 第三版 日月潭
矩形で囲んだエリアの道路が等高線と合致しない

また、阿里山森林鉄道(鐵路)の有名な獨立山ループでは、1:25,000の第一版から駅(獨立山車站)の位置を誤っていた(下注)のだが、第三版ではそれに加えて、ループの二段目と三段目のつなげ方に誤りがあり(下図の矢印)、さらに獨立山頂直下を貫いているはずのトンネル(第十二號隧道)も省かれている。第三版はトンネルの描き方自体も無骨で、全体に技術水準が落ちているように感じる。

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鉄道の誤描 (左)1:25,000第一版 竹崎 (右)同 第三版 竹崎
右図では矢印の地点で線路が交差し、獨立山頂直下のトンネルがない

*注 獨立山車站の正位置は第9号隧道と第10号隧道の間。下図参照。
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國土測繪中心の案内によれば、經建版地形図は現地の地図販売所で入手できるものの、残念ながらいまだに外国へは持出し禁止とされているようだ。しかし昨今の台湾では、民間会社から意欲溢れる旅行地図や地図帳が多数出版されている。どれも地形図としての精度を保ちつつ、はるかに多くの情報量を盛り込んでいて(下注)、官製地形図の出る幕はほとんどないというのが実情だ。

*注 詳細は本ブログ「台湾の1:25,000地図帳」「台湾の1:50,000地図帳」参照。このほか、1枚ものの山岳地図もレベルが高い。

■参考サイト
內政部國土測繪中心 https://www.nlsc.gov.tw/

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2016年4月 2日 (土)

台湾の地形図-ウェブ版

100年にわたる台湾の国土の発展状況を、新旧の地形図でつぶさに観察できるサイトが開設されている。収録されているコレクションは、戦前(日治時期)の実測図・編集図から、米軍による空中写真を使った修正測量図、そして戦後、台湾政府による「經建版」地形図に及ぶ。台湾を対象に作られた公式地形図をおよそ網羅しており、どれも貴重で、興味の尽きない一級資料ばかりだ。

1.台灣百年歷史地圖
http://gissrv4.sinica.edu.tw/gis/twhgis.aspx

一つは、中央研究院人文社會科學研究中心地理資訊科學研究專題中心(中央研究院人文社会科学研究センター地理情報科学研究専門センター、略称GIS專題中心)の「台灣百年歷史地圖」だ。このサイトでは、1890年代から2003年までの間に作成された膨大な地形図画像が扱われている。グーグルマップに同期させてあるので、位置の特定や拡大縮小などの操作も感覚的に使いやすい。

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初期画面

まず、ポップアップ画面の「進入百年歷史地圖系統」のリンクから、初期画面に入る。初期画面には、見慣れたグーグルマップが表示されている。
左メニューの「図階」(上図矢印)をクリックすると、収録されている地図群の一覧が表示される。

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図階を開いた状態

図階リストから、見たい地図名称を選択する(上図②)。
なお、表は8ページに分かれており、例えば1980年代以降の經建版地形図は4ページ目にある。画像レイヤーの読込みには少し時間がかかるかもしれない。

あとは、地図画面右下のズームボタン(+-)を操作して、適切なレベルまで画像を拡大するだけだ。また、地図名称の右にある「圖例」というのは、凡例(地図記号一覧)を意味する。

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重ね表示

これらの地図は、グーグルマップと重ね表示して比較することができる。混合比率は、地図名称を選択して表示される透明度バーで調整する(上図③)。

各地形図とも必ずしも全土をカバーしているわけではなく、特に戦前のものについては山地などで未測地域が散見される。収録されている地形図を以下、縮尺別にまとめておこう。

1:20,000
・日軍攻台戰鬥地圖 1895(明治28)年
・日治二萬分之一台灣堡圖(明治版) 1898(明治31)~1904(明治37)年
・日治二萬分之一台灣堡圖(大正版) 1921(大正10)年~

1:25,000
・日治二萬五千分之一地形圖 1921(大正10)~1928(昭和3)年
・日治二萬五千分之一地形圖(航照修正版) 1944(昭和19)年
・美軍二萬五千分之一地形圖 1944年 *美軍=米軍
・二萬五千分一經建版地形圖(第一版) 1985~1989年
・二萬五千分一經建版地形圖(第二版) 1992~1994年
・二萬五千分一經建版地形圖(第三版) 1999~2001年
・二萬五千分一經建版地形圖(第四版) 2003年

1:50,000
・日治五萬分之一蕃地地形圖 1907(明治40)~1916(大正5)年
・日治五萬分之一地形圖(總督府土木局) 1920(大正9)年
・日治五萬分之一地形圖(陸地測量部) 1925(大正14)~1944(昭和19)年
・美軍五萬分之一地形圖 1944年
・臺灣五萬分一地形圖 1955~1964年
・五萬分之一經建版地形圖(第一版) 1990年~
・五萬分之一經建版地形圖(第二版) 1996年~
・五萬分之一經建版地形圖(第三版) 2002年~

1:100,000
・日治十萬分一臺灣圖 1904(明治37)年~1905(明治38)年
・臺灣十萬分一地形圖 1987年~
・十萬分之一經建版地形圖(第一版) 2003年

1:200,000
・日治臺灣假製二十萬分一圖 1897(明治30)年
・二十萬分一帝國圖 1932(昭和7)~1934(昭和9)年

1:300,000
・日治三十萬分之一台灣全圖(第三版) 1924(大正13)年
・日治三十萬分之一台灣全圖(第五版) 1939(昭和14)年

1:500,000
・五十萬分之一輿地圖 1936(昭和11)年

2.國土測繪圖資網路地圖服務系統
National Land Surveying and Mapping Information Web Map Service System
http://maps.nlsc.gov.tw/

台湾の測量局である内政部國土測繪中心(和訳すれば内務省国土測量センター)も、台湾に関するデジタル地図を表示できるサイトを用意しており、その中に主要な地形図シリーズの画像が含まれている。データは上記「台灣百年歷史地圖」と同じものだ。

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初期画面

まず、「進入地圖」と書かれた画像をクリックして、初期画面に入る。
初期画面は、基本圖層(ベースマップ)に通用電子地圖(デジタル地図)が表示されている。ここで、右上メニューの「圖層設定」(上図矢印)を選択する。

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額外圖層<全部展開>をクリック

これで図層(レイヤー)のメニューが表示される。
メニューにある「基本圖層」はベースマップのことで、電子地圖/正射影像(オルソフォト地図)/Taiwan e-Map(英語版電子地図)/空白底圖(白紙画面)が選択できる。
その下に、表示可能な図層のリストと透明度バーが表示されている。これを使ってもいいのだが、9ページに分割されていて、ページ繰りが面倒だ。その手間を省く別のポップアップメニューが用意されている。赤い帯の「額外圖層<全部展開>」(上図矢印)をクリックする。

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圖資列表で圖層を選択

「圖資列表」のポップアップメニューで、必要な地図(複数選択可)にチェックマークを入れる(上図矢印)。

地図の拡大縮小は、画面左のズームバーを操作する。
任意の地点の拡大は、画面上部の「框選放大(ルーペに+の印)」を選択してから、地図上で任意の地点をクリックする。
任意の地域の拡大は、Shiftキーを押しながらマウスで表示範囲をドラッグする(矩形を描く)。
図層の重ね表示は、図層を複数選択(チェックマーク)して、透明度バーで調整する。「台灣百年歴史地圖」では重ね表示の相手がグーグルマップに限られているが、こちらは地形図同士の重ね表示もできる。

収録されている地形図シリーズは以下の通りだ。

・日治臺灣堡圖(明治版1904)
・日治臺灣堡圖(大正版1921)
・日治二萬五千分一地形圖
・日治五萬分之一地形圖(陸地測量部)

・美軍五萬分之一地形圖

・臺灣二萬五千分一地形圖(經建1版)
・臺灣二萬五千分一地形圖(經建2版)
・臺灣二萬五千分一地形圖(經建3版)
・臺灣二萬五千分一地形圖(經建4版)

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2016年3月27日 (日)

台湾の旧版地形図地図帳 II-光復初期

太平洋戦争終結後、日本では、占領行政に資する目的で米軍が地形図を製作した。米軍は戦時中すでに、日本の陸地測量部が作った地図資料を入手して、密かに軍用地形図を製作しており、空中写真を使ってこれに現状の修正を施したのが、いわゆる米軍地形図だ。図式は米国陸軍地図局 Army Map Service(略称 AMS)の仕様で、地名もアルファベット表記だったが、漢字表記を赤字で加刷した版も用意された。

同じような地図製作が、日本撤退後の台湾でも実行されている。1955年から1964年にかけて、当時台湾政府の測量局であった聯勤測量製図廠は、米軍の成果をもとに新しい5色刷の1:50,000地形図を発行した。「譯註美版臺灣五萬分一地形圖(訳注美版台湾五万分一地形図、下注)」と呼ばれるこのシリーズは、周辺の島嶼を含めて108面あり、それまで単色刷しかなかった台湾で最初の多色刷の地形図となった。

*注 美版の「美」はアメリカ(中国語で美國)を意味する。

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上河文化股份有限公司が今年(2016年)1月に刊行した「光復初期五萬分一臺灣地形圖」は、これを1冊にまとめた地図帳だ。「光復」は、日本の降伏撤退に伴う国土回復を意味している。同社にはすでに、戦前の1:50,000地形図を集成した「日治時期臺灣地形圖新解」(2007年、下注)があるので、これはその続編ということになるだろう。

*注 本ブログ「台湾の旧版地形図地図帳 I-日治時期」で詳述。なお、日治時期または日拠時期は、日本の統治下にあった1895~1945年の50年間を指す。

対象となった訳注美版1:50,000の図郭は、戦前のそれを踏襲して、東西15分×南北10分の横長タイプだ(下注1)。しかし地図帳ではそのままのサイズで複製するのではなく、同社の現代版1:50,000地図帳である「台灣地理人文全覧圖」(下注2)の図郭に合せて、区分し直している。つまり3種の地図帳は基本的に編集スタイルが共通で、同じページに同じエリア範囲が掲載されていることになる(ただし現代版は南北2冊に分冊)。そのため、各地図帳の当該ページを並べれば、そのエリアの戦前から戦後、現代に至る変遷をたやすく追うことができる。

*注1 現行の東西15分×南北15分の縦長形になるのは、1966~1971年に刊行された老五萬系列新製五萬分一地形圖(旧五万シリーズ新製五万分一地形図)から。
*注2 本ブログ「台湾の1:50,000地図帳」で詳述

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第5図大台北(北)の一部
©上河文化社 2016 (画像は同社サイトより取得)

AMSの図式仕様は、日本でも特定図式という名で知られている。1960年代には古い1色刷に代わって、この図式を取り入れた1:50,000地形図が多数出回ったので、見覚えのある方もおられるだろう。図式の特徴として二点挙げておこう。

一つはいうまでもなく多色化だ。黒、茶、赤、青、緑の5色を使い分けることにより、まず等高線とその他の地物との判別が容易になった。日治時期地図帳では集落や水部に色を付加して読取りの便を図っていたが、本来の単色版では、等高線と地物が錯綜する丘陵地のようなエリアの読図には根気を要したからだ。

色の効用はさらに、濃い赤の舗装道、赤いアミ掛けの市街地、緑色で塗られる植生にも顕著に現れる。この時代、台湾でも道路の舗装は幹線に限られるので、図面を支配するのは、未舗装道を示す独特の赤い破線だ。また、樹林は濃いアミを置き、菓園・農場は粗いアミにしているので(ただし図式の異なる図幅もある)、開墾された台地に目を遣れば、土地利用区分が明瞭にわかる。

もう一つの特色は、表現の簡略化だ。軍用地図は短期間に多量の図化作業が要求されるため、仕様もそれに適したものになっている。したがって、繊細かつ入念に描き込まれた戦前の地形図と対比すると、その差は歴然とする。

たとえば、集落は一定規模になると、独立建物の形では描かず、範囲を縁取るだけになる。街路網は描かれるものの、均一化され、主従関係はほとんど判別できない。公共施設の記号も全く見あたらない。戦前図では村落の周辺に小道、築堤、切通し、並木、小さな池などが事細かに描かれ、土地の風景を彷彿とさせていたが、これもほとんど省かれてしまった。

AMS図式の仕様は確かに大味なのだが、一方で注目すべき点もある。写真測量の成果で、特に人跡稀な奥地において等高線が格段に精緻化されているのだ。日治時期版では粗い描画の蕃地地形図を充てるしかなかった地域が、一定の精度を有する等高線でぎっしり埋め尽くされているのには感動すら覚える。中には、改測せずに旧図を引用したことを示す破線状の等高線や、NO PHOTO COVERAGE として空白にされた個所も残るが、全体から見ればごく一部に過ぎない。

内容はどうだろうか。ここには、およそ1950年代の状況が収められている。やがて台湾は、急速な経済成長を遂げて、韓国、香港、シンガポールとともにアジアの四小龍と称されるようになるのだが、これはまだ興隆前夜の段階だ。土地利用景観や産業基盤は、戦前のそれを反映していると考えていいだろう。

たとえば多数の産業鉄道が残っている。製糖、製茶、産炭地に張り巡らされた軌道群、羅東や八仙山の山間に分け入る森林鉄道など。それから台北南郊へ行く新店線(旧 台北鉄道)も現役だ。桃園台地を埋めつくす溜池が、堤の記号でことさら強調されているし、遠浅の西部海岸もまだ多くは自然のままに置かれている。

その一方で、戦前道路橋のなかった濁水渓には、長さ1.9kmの長大な西螺大橋が完成した(1952年)。また、嘉南大圳(かなんたいしゅう)の要となる台湾最大の烏山頭ダム(1930年)や、溢寮渓の大規模な流路固定(1938年)など、戦前完成済みの大型土木事業もこの地図でようやく登場する(下注)。

*注 参考までに各施設が表示されている地図帳の図幅番号を記しておく。羅東森林鉄道:21、22、27図、八仙山森林鉄道:37、44、45図、台北鉄道:5、10図、桃園台地の溜池群:8、9図、西螺大橋:56図、烏山頭ダム:93図、溢寮渓の水路固定:118、119図。なお、厳密に言えば、烏山頭ダムは戦時中の1:25,000地形図(航照修正版、1944年)で初めて表示された。

台湾の旧版地形図集として、日治時期の1:50,000を題材にしたものがあることは冒頭に述べた。これは日本で外邦図のジャンルに含まれており、国立国会図書館などへ行けば実物に接することもできる。しかし、日本が関与しなくなった後の地形図は、これまでまず目にする機会がなかった。その意味で「光復初期五萬分一臺灣地形圖」は待望の書であり、戦後台湾の出発点を示す貴重な資料と言えるだろう。

■参考サイト
上河文化社-光復初期五萬分一臺灣地形圖
http://www.sunriver.com.tw/map_21.htm

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 台湾の旧版地形図地図帳 I-日治時期
 台湾の1:25,000地図帳
 台湾の1:50,000地図帳

2016年3月21日 (月)

台湾の1:25,000地図帳

台湾の民間会社が作る地図は、国の地形図データをベースにしながらも、おおもとの官製地形図に比べてはるかに進化している。その先導役を務めたのが上河文化社で、2001年刊行の「台灣地理人文全覽圖」全2巻は、台湾全土を縮尺1:50,000でカバーする画期的な地図帳だった。これはその後3回の全面改訂を経て、現在に至る(本ブログ「台湾の1:50,000地図帳」で詳述)。

今回紹介するのは、内容から見てその延長線上に位置する地図帳だ。「台灣1/25000全覽百科地圖集(台湾1:25000全覧百科地図集)」全4冊。北から南へ4つに分冊され、主要都市で言えば第1冊に台北、第2冊に台中・花蓮、第3冊に嘉義、第4冊に台南・高雄・台東の市街地が含まれる。

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台灣1/25000全覽百科地圖集第1冊
(左)表紙(右)裏表紙の索引図

刊行しているのは旅行書出版の大手、戶外生活圖書股份有限公司(英語名 Outdoor Life Books Co.,Ltd. 以下、戸外生活社)だ。判型は、B4判の上河文化社版に比べて一回り小さく、ほぼA4判の21.5×30.5cm。日本の道路地図帳によくあるタイプだ。そのため1冊あたりのボリュームは450ページ前後、4冊合せて1800ページを超える大著になっている。

タイトルの示すとおり、メインの地図の縮尺は1:25,000(図上1cmが実長250m)で統一されている。等高線は10m間隔で、精度も高そうだ。そこに明瞭なぼかし(陰影)が加えられ、地色もアップルグリーンの低地から、標高1500mあたりを境にベージュ系へとシームレスに変化する。細かい起伏や山襞が手に取るようにわかり、平地、低山と高山域の違いも一目瞭然になる。

筆者はつい地形図としての出来栄えに目を奪われがちだが、この地図帳の真価はそれを超えて、百科地図と銘打った内容そのものにあるだろう。地図記号や注記で与えられる情報の豊かさが尋常ではないからだ。

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凡例

詳細は図例(凡例)をご覧いただくとして、まず道路の記号を見てみよう。赤色の高速公路から無色の農道小径まで、記号形状ではなく塗りの色で区別するのが特徴だ。主要道路は日本の道路地図のそれよりやや太めに描かれ、道路網の骨格を強調しようとしている。加えて、市街地のたいていの街路、郊外でも郷道/区道まで、道路名が確実に記載されているのには驚く。道路記号に重ねて記し、かつ字体にいわゆる教科書体を使っているので、視認性も良好だ。

描く対象はクルマの走る道ばかりではない。山地には百岳歩道や古道といった登山道、平地には各所に自転車のマークを添えた自行車道(自転車道)のルート表示が見られ、自然に親しもうとする人々のニーズにも応えている。

公共施設や観光施設を表す地図記号にも、実に多くの種類がある。古典的な幾何学模様から現代風イラストや企業のロゴまでデザインも様々で、眺めるだけでも飽きることがない。おもしろいのは日本の地形図記号との共通点だ。交差する警棒を象った警察局、「公」の字に由来する其他政府機関、赤十字マークの衛生所、「文」の字の大専院校(大学、専門学校)、逆さくらげの温泉、それに三角点、水準点などいくつも見つかる。日治時期の官製地形図から引き継がれてきたのだろうか。

対する名勝與休旅場所(名所とレジャー施設)のくくりでは、一般的な宿泊施設やレジャー施設の記号の間に、古蹟、牌楼、原住民祭典、廟舎、民族祭などご当地らしさが窺える。南の島とあって、柑橘、草苺、水蜜桃、葡萄、揚桃と果樹園の記号もバラエティに富む。いずれも一見して認識でき、かつ旅情を誘うものばかりだ。こうしたカラフルで発想豊かな記号が、地図上の至る所に散りばめられ、律儀に固有の名称が付されているのだ。

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表紙の一部を拡大

大小の行政地名や自然地名、道路・街路名、そして地図記号に伴う固有名称を加えれば、注記は膨大な数に上る。しかし、フォント(字体)を選び、色を分けることで区別を可能にしているのは見事だ。漢字表記のため文字数が少なくて済むという利点はあるにせよ、ただでさえ記載事項が錯綜する市街地にこれだけの地図記号と文字情報を収めるのは、並大抵の工夫ではないだろう。

巻末には索引集がある。こちらも充実していて、項目数の最も多い第1冊では130ページにも及ぶ。リストは行政機関、学校、交通関係、観光施設、街路名などに分類され、クロスリファレンス(相互参照)とともに、住所と電話番号が付される。山岳の項では標高、等級、三角点番号までセットになっている。

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第2冊~第4冊表紙

「台灣1/25000全覽百科地圖集」が1:25,000地形図の地図帳としてだけでなく、台湾の道路地図、旅行地図としても秀逸だということがご理解いただけただろうか。お断りしなければならないが、この地図帳は2012年3月の刊行で、すでに4年が経過している。当時、台湾在住の方から情報を頂いていたにもかかわらず、今まで紹介しそびれていた。そのため、出版社のサイトによれば、第1冊については単品販売がすでに終了しており、第1冊が入用ならセット販売を選択するしかない。

最後に注文方法だが、戸外生活社のウェブサイトに発注書(信用卡訂購證と記載)のPDFファイルがある。決済用のクレジットカードの内容を含め、必要事項を記入して同社に直接FAXすればよい。同社では日本語によるメールの問合せにも対応している。

■参考サイト
戸外生活社 http://www.outdoorlife.com.tw/
戸外生活社 台灣1/25000全覽百科地圖集
http://www.outdoorlife.com.tw/Taiwanview25K.htm

なお、戸外生活社は、上記地図帳のほかに「台灣全覽地圖百科大事典」という全5冊の地図帳シリーズを最近完成させた。こちらは市街、近郊、村落・丘陵地、高山によって1:5,000から1:40,000まで縮尺を変え、観光写真も付けた合理的でビジュアルな編集を特色としている。筆者としては、全国地形図のもつ意義に照らして、全土を一律の基準で製作する「百科地圖集」の方針を支持したいところだが、実用性の点ではこちらも捨てがたい。

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 韓国の地形図地図帳
 香港の地形図
 香港の旅行地図
 マカオの地形図

2010年10月28日 (木)

マカオの地形図

マカオ(澳門)Macau / Macao は、香港中心街から西へ60km、珠江の河口をはさんだ対岸に位置し、広州、香港などが立地する珠江デルタ(三角州)の一角を占めている。古くからの市街は、中国本土と地続きのマカオ半島 Península de Macau にある。南の沖合に浮かぶタイパ島(氹仔島)Ilha de Taipa とコロアネ島(路環島)Ilha de Coloane は、近年急速に開発が進んだところで、2島を隔てていた海が陸地化されて、実態は1つの島と化している。面積29.5平方km(2009年現在)という小さなマカオだが、世界遺産に登録された旧市街、音に聞こえたカジノなど、今や全域が観光地だ。

ここは長らくポルトガルの植民地だったが、1999年に中国に返還され、香港とともに50年間一定の自治が認められる特別行政区となった(下注)。官製地形図も、公開が制限されている本土と違って、外国人でさえ自由に購入することができる。作成している機関は、中国語で地圖繪製暨地籍局(暨は及びの意)、ポルトガル語で Direcção dos Serviços de Cartografia e Cadastro(略称DSCC)といい、測量・図化と地籍管理を行う部局だ。地形図はすでにデジタル化が完了し、発注すると、デジタルプリントしたうえ、エンボスのスタンプを押して送ってくれる。

*注 正式名は、中国語で澳門特別行政區(現地では香港同様、繁体字を使用)、ポルトガル語で Região Administrativa Especial de Macau。英語では Macao Special Administrative Region。

■参考サイト
地圖繪製暨地籍局(DSCC) http://www.dscc.gov.mo/
 英語版の場合、地形図リストは、トップページ > Services and Cost > Providing topography map

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1:20,000地形図

小規模なエリアとあって、縮尺1:20,000の地形図1面で全域をカバーする。上記の3地区は南北に並んでいるので、A0判用紙が縦長に使われている。1:20,000の地図記号はとてもシンプルだ。凡例を見ると、市街地は街道(道路)以外に、樓宇(建物)、木屋/棚屋(簡易建物)、興建中樓宇(建設中の建物)、公園/草地の区別しかない。注記も大通りや緑地、大きな施設などに限られていて、あくまで都市計画のベースマップといった仕様だ。

等高線は20m間隔とこの縮尺にしては粗いが、ていねいに段彩がかけられているので、地勢を明瞭に読み取ることができる。マカオ半島は元来、いくつかの小島が砂州によって大陸側と連結されたいわゆる陸繋島だった。核となった島は、市街地の随所に小高い丘となって残存している。また、タイパ島とコロアネ島には砂浜以外、平地がほとんどなかった(タイパ島は2つの島に分かれていた)。今から100年前には、マカオの面積はわずか11.6平方km、現在の4割ほどしかなかったのだ。山や丘が強調されたこの地図から、かつての原風景を想像してみたい(下注)。

*注 土地の拡張ぶりは、DSCCが製作した "The Evolution of the 20th century of Macao SAR(マカオ特別行政区の20世紀の発展)" に詳しく図示されている。この図はプリントの発注も可能。
http://www.dscc.gov.mo/dscc/engl/newthematic1.htm
また、DSCCのサイトで、1912年の実測図を含む古地図が閲覧できる。
http://www.dscc.gov.mo/dscc/engl/newoldmap.htm

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1:20,000地形図の一部
(c) 2010 Direcção dos Serviços de Cartografia e Cadastro

縮尺1:10,000、1:5,000は各地区1面ずつに分かれ、3面で域内をカバーする。等高線は10m間隔になるが、段彩は省かれている。市街地の描写は1:20,000と比べて格段に細かくなり、おそらく街路はすべて記載されているようだ。しかし、建物名称はせいぜい役所や大規模な公共施設が表示されるにとどまり、相変わらず街案内の用はなさない(下注)。

*注 この稿を読まれる方は先刻ご承知だと思うが、地形図に町歩きのガイドを期待するのは無理がある。商店や観光スポットの位置を調べるなら、その目的でデザインされた市販の旅行地図を用意したほうがよい。ちなみに筆者は、「地球の歩き方」マカオ編の添付地図が大変詳しいので気に入っている。

DSCCが開設するサイトを見ていたら、これら地形図シリーズのほかに、縮尺1:45,000の特別図が紹介されているのに気づいた。名称は「澳門特別行政區與周邊地區地圖(マカオ特別行政区及び周辺地区地図)」。英語サイトで "Macao Special Administrative Region, Zhuhai and Zhongshan city(マカオ特別行政区、珠海市及び中山市)"と表記されているとおり、隣接する本土の2市域を図郭に含めた大判(横77×縦105cm)のフルカラー地図だ。DSCCと広東省国土資源庁の合同編集、広東省地図出版社の刊行とクレジットされている。

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1:45,000澳門特別行政區與周邊地區地圖

特筆すべきは繊細なぼかし(陰影)を用いた地勢表現で、山地をまるで立体視しているような感覚を味わえる。また、マカオの区域は、等高線や市街地も上記1:20,000と同レベルの描写が施されて、詳しさが際立っている。片や本土の表現はより粗く、段彩はつけられているものの、等高線は50m間隔だ。主要街路が太く描かれ、道路番号も添えられているところを見ると、道路地図からの転用だろう。とはいえ、先述した官製地形図は中国本土をほとんどシルエット程度にしか扱っていないので、マカオとその後背地域との位置関係や交通網を知るには格好の地図だ。

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1:45,000澳門特別行政區與周邊地區地圖の一部
(c) 2010 Direcção dos Serviços de Cartografia e Cadastro

ちなみに、香港の測量局が刊行している1:300,000「香港與其鄰近地區」にも、マカオとその周辺が含まれている。珠江デルタの地理をより広範囲に把握したいと思う方には、こちらもお薦めしたい。

マカオの測量局に関する情報は、「官製地図を求めて」を読まれた方からご提供いただいた。この場を借りて感謝申し上げたい。

■参考サイト
「官製地図を求めて-マカオ」 http://homepage3.nifty.com/homipage/map/map_macao.html

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 香港の旅行地図
 平凡社の中国地図帳
 台湾の地形図-經建版
 台湾の1:25,000地図帳
 台湾の1:50,000地図帳

2008年9月 4日 (木)

台湾の旧版地形図地図帳 I-日治時期

百聞は一見に、と謂われるとおり、過去に作られた地図は、土地の歴史を遡る上で文字資料を補う重要な語り部だ。近代測量が導入されて130年余、この間に作成された地形図には、行政区分、交通網、公共施設、土地利用その他、人が土地に刻んだ足跡が何層にもわたって記録されている。太平洋戦争が終結する1945年以前、日本は台湾、千島樺太、朝鮮半島、旧満州などでも測量活動を実施し、地形図を作成していた。また、戦時下で外国製の地図を応急的に編集した作戦用地図が、太平洋、東南アジア地域などを対象に多数存在する。膨大な地図群は、総括して「外邦図」と呼ばれている。

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1:50,000 高雄 1928年測図

このうち、台湾は日清戦争後の1895年から1945年までの50年間、日本が統治していた。この期間を台湾史では日治時期という。当時、1:50,000の縮尺で製作された地形図シリーズには、以下のものがある(清水靖夫「台湾の地形図類」地図情報24巻3号, 2004, p.20による)。

・「台湾五万分一図」
 陸地測量部混成枝隊により、1895年測量、1903年製版。102面(後に2面追加)。一部の山岳部を除き全島について作成された、台湾史上最初の地形図。等高線(「水平曲線の等距離」と表現)は20m単位。これをもとに「仮製二十万分一」が編集された。

・「五万分一蕃地地形図」
 台湾総督府民生部警察本署により、1907~16年測量、1911~24年製版・発行。上記地形図未作成の図葉を含む台湾島の東半をカバーする。標高は尺単位で、等高線は100尺ごと(1尺30.3cmで、ほぼ1フィート)。急峻な山岳部では500尺単位の計曲線のみ、および未測の部分が残る。

・「(正式)五万分一地形図」
 陸地測量部により、1925~44年にかけて1:25,000地形図から編集図化。110面。本土と同じ水準の地形図で、1:25,000未作成の地域は地上写真測量を併用するなどしたが、中央山脈の一部に欠図が残り、ついに全島完成には至らなかった(上図はその1枚)。

これらの地形図は戦前、軍事上秘図とされたもの以外、市販されて一般市民の利用に供された。しかし、日本が領土権を放棄してまもなく、台湾では、大陸から渡ってきた国民党政権と戦前から住む本省人との間に大きな混乱が生じ、鎮圧のために戒厳令が発布されるに至る。地形図の頒布も禁じられて、一部の関係者しか閲覧できなくなった。台湾の測量局は旧版図を使って軍用地形図を編集していたが、一般市民の目に触れるものではなかった。

日本でも戦災で地図原版が失われ、印刷図は各所に散在してしまっていた。旧版地形図の全貌が明らかになったのは、1982年に学生社から刊行された「台湾五万分の一地図集成」によってだった。軍事施設設置のため非公表だった澎湖群島の一部を除いて、110面の完全復刻が果たされ、正式図の存在しない地域は、蕃地地形図や台湾五万分一図で代用された。

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一方、台湾でも昨年(2007年)、上河文化社から「日治時期五萬分一臺灣地形圖新解」が刊行された。学生社版が地形図1葉をまるごと複製していたのに対して、原図の図郭にこだわらず、同社が別途刊行する同じ縮尺の「台灣地理人文全覧圖」の図郭に合わせたのが、最大の特徴だ。「全覧圖」については、台湾の現在を描く優れた地図帳として以前紹介したことがある(本ブログ「台湾の1:50,000地図帳」参照)。上下2巻の分冊になっているが、「地形圖新解」は、これを見開き136図の全1冊に収めている。さらに、衛星画像のアトラス「台灣衛星影像地圖集」を参照すれば、図郭を同一にした台湾地図帳三部作が揃う。

「地形圖新解」の序文によると、編集に当って考慮したのは、実用性、使いやすさ、検索のしやすさだ。両者とも地図には1kmグリッド(方眼)が付されており、これを基準にすれば、地点を絞って70年前と現在を厳密に照合できる。新旧の図で共通する三角点や地物を重ね合わせると、間違いなく一致するそうだ。原図は黒1色刷りだが、「地形圖新解」では、集落に紅、集落名に黄、主要道に黄土、水部に青などの塗色を置いている。より多くの人の注意を引くために、単色の地図に生気を起こすのだと説明している。

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第63図虎尾・斗六の一部
©上河文化社 2007 (画像は同社サイトより取得)

両者を見比べると、発達した市街地や道路・鉄道の整備状況など、変貌のすさまじさには驚きを禁じえない。同時に、3世代を遡った日治時期に対する興味がむくむくと湧き上がるのを感じる。現代図だけでもまだ見ぬ土地への関心に応えてくれるが、そこに歴史の持つ厚みを加えるのが旧版地形図集だ。

なお、使用された地形図は、学生社版との間で若干異同がある。学生社版では台湾五万分一図や蕃地地形図による代用や、山地の未測地域が目立ったが、「地形圖新解」では多くが正式地形図に置き換えられている。前者の刊行から25年を経る間に資料の発掘が進んだということだろう。しかし、学生社版で無欠の図が採用されているのに、「地形圖新解」で一部欠図となっているものもあり(枋山図葉の北半分、台南南部図葉の南半分)、必ずしも前者を完全に補うわけではない。

上河文化社は自社書籍の通信販売をしており、日本への発送もしてくれる。

■参考サイト
上河文化股份有限公司「臺灣地形圖新解」
http://www.sunriver.com.tw/map_13.htm
上河文化社の以下のページで、地図帳三部作を精細なサンプル図で比較できる
http://www.sunriver.com.tw/map_01_show.htm

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 台湾の1:25,000地図帳
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 台湾 台東線(現 花東線)を地図で追う
 台湾 阿里山森林鉄道を地図で追う

2008年8月28日 (木)

Atlas of Korea (英語版コリア地図帳)

昨年(2007年)12月、韓国の国土地理情報院が英語版ナショナルアトラス(大韓民国国家地図集)を発表した。280ページ以上もある堂々たる官製地図集で、ウェブ上でも閲覧できるようになっている。それに比べればこちらは一般市民向けの普及書だが、出来栄えの見事さでは勝るとも劣らない。そのようなアトラスが一民間会社の手で刊行されている。「Atlas of Korea」、ソウルの成地文化社(韓国語読みではソンジムンファサ)が2000年に刊行した英語版総合地図帳だ(写真は2005年改訂版)。

Blog_korea_atlas2 A4判、地図128ページ、統計・索引32ページ、計160ページ(見返しを含まず)、現地価格30,000ウォン(3000円)で、内容は以下のとおり。なお、原著の"Korea"は韓国と北朝鮮を包括した概念で使われているため、ここではコリアと訳しておく。

・1:2,700,000(270万分の1)コリア全図
・コリアの地理的位置
・コリアの歴史地図、1920~40年代の人口と産業
・1:1,000,000(100万分の1)中央コリア、南部コリア
・主題図77図(地質・地形、気候、土壌・植生、産業構造の変化、農業、林業・漁業・鉱業、貿易、製造業、人口、運輸・通商、観光・地域開発・環境、都市、土地利用、医療・教育・文化・福祉)
・1:250,000一般図(索引図に続いて韓国の区分図、見開き21面)
・主要都市の市街図(25都市。縮尺は1:100,000ソウル広域図以外、1:25,000~1:65,000)
・仁川国際空港案内図
・行政区分図
・1:1,000,000一般図(索引図に続いて北朝鮮の区分図3面)、同地域の市街図(3都市)
・名山地図(白頭山、七寶山、金剛山、雪岳山)
・ソウル地下鉄路線図
・古地図15面(15~20世紀初頭)

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1:2,700,000コリア全図の一部
(c)2005 Sung Ji Mun Hwa Co., Ltd

あたかも社会科地図帳のようにぎっしりと並ぶ主題図は、事象をくまなく取り上げているだけでなく、一つ一つの図が丁寧に描かれている。1970~80年ごろと直近の2000年を比較した図もいくつかあって、この間に韓国が経験した産業構造の急激な変化と、それに伴う人口の都市集中や農山村部の高齢化が進む状況が読み取れる。

1:250,000一般図は、日本の1:200,000のような「地勢図」だが、よりカラフルでかつ上品な、鑑賞に耐える佳品だ。地勢表現は、100m間隔の等高線に段彩とぼかし(陰影)を重ねている。等高線に使われたミントグリーンと段彩の精妙なグラデーションとがうまく調和しているし、ぼかしはおそらく手描きだろうが、うるさくなくピンボケでもない適度な濃さと細かさを備える。その結果、特に山岳地帯は手に取るように立体的に見え、かつ美しい。道路の記号は、高速道路が青の二重線、国道と道道はオレンジの塗りに赤で縁取りしてある。どちらも落ち着いたトーンなので、背景とは争わず、しかし弁別性も失っていない。韓国の官製図にも同じ縮尺のシリーズがあるが、そちらは線のみで表された無骨な印象の地図なので、比較の対象にもならないくらいだ。

北部コリアすなわち北朝鮮区域は縮尺が1:1,000,000で、等高線は省略されているものの、地勢表現は上記1:250,000と同等だ。

一般図の地名や注記はすべて英字で書かれ、ハングルや漢字は一切添えられていない。その代わり、デザインのバリエーションが豊富な英字フォントの特色を生かして、大地名から小地名まで視覚的に判別できるようにしている。なお、現在適用されているローマ字表記法では、プサン(釜山)が Busan、テグ(大邱)が Daegu、クァンジュ(光州)が Gwangju となり、特定の字母に現れる無声音と有声音の違いを区別しない。日本語転写で清音と濁音を区別するのに慣れた私たちにとって、少し読みにくいのも確かだが、ハングルをたどたどしく追うよりは遥かに楽だろう。

一方、市街図は、地図ページの残り半分を占めるほどのボリュームがある。ソウル広域図を除いて地勢表現がないので、一般図から入ってくるとのっぺりした印象をもつが、こちらの特徴は、注記が非常に充実していることだ。主要街路名はもとより、各種施設の名称がおびただしく書き込まれている。地図の常套手段である記号化はほとんどされていない。現地名称を機械的にローマ字化するのではなく、一般名詞の部分(たとえば役所、学校、病院、公園、工場など)を英語に翻訳してあるので、記号がなくても何の施設かがすぐわかるからだ。巻末の索引では、都市ごとに施設の名称も調べられるので、目的の施設を地図から探し出すのは難しくない。

このように「Atlas of Korea」が到達したレベルはかなり高いが、それが自国語ではなく英語表記であるところにより大きな意義がある。どの国のナショナルアトラスでも、英語版は国勢を広く世界に紹介する公式資料と位置づけられているが、韓国の場合は、官庁が実行するより先に、民間大使がその使命を果たしてしまったように見える。

■参考サイト
成地文化社 Sung Ji Mun Hwa Co.,Ltd.  http://www.sjmap.co.kr/
 トップページにある一覧から個別地図のページに飛ぶと、地図のサンプル画像が提供されている。

英語版 韓国ナショナルアトラス http://atlas.ngii.go.kr/english/
 トップページの"e-book search"で内容を閲覧できる。

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 韓国の地形図地図帳

2008年8月21日 (木)

韓国の地形図地図帳

韓国は、無断で地形図を国外へ持出すことができない国の一つだ。地形図にもそのことが明記され、無断複製などと同列で、国土地理情報院長の事前承認を得ずに国外へ搬出することを禁止し、違反者に対する刑罰にまで言及している。測量法の定めとあらば仕方がないのだが、グーグルの衛星画像で世界中の地表のディテールが見られるような時代では、このような規制はあまり意味を成さない。防衛上の問題点があるのかというと、韓国で市販されている地形図には、軍事施設や空港などは初めから描かれていないのだ。

現実には(許可を得てのことだろうが)、韓国の地形図はかなり日本に持ち込まれており、誰でもアクセスできる。たとえば、国立国会図書館では「新版1:50,000基本圖地圖帖」全4巻が、開架図書として閲覧に供されている。大学図書館などでも備えているようだ。これは、地形図の元捌きの1社である中央地図文化社が数年に一度出していたもので、縦長の1:50,000地形図を2つ折りの上、裏面を貼り合わせて製本してある。4巻で韓国全土をカバーするが、北朝鮮との間に設けられたDMZ(非武装地帯)を含む図葉はカットされている。

Blog_korea_atlas1 それに対して、1:50,000の測量成果を編集してオリジナルの地図帳に仕立てたものも刊行されている。ランダムハウスコリア Random House Korea の「大韓民国5万地図」だ。横25cm×縦35cmの判形(ほぼB4判)で752ページあり、現地定価は59,000ウォン(5,900円)。

先の基本図地図帳は表装からして専門書的で、一辺50cm以上もあり、気軽に扱いにくい図書だった。こちらは重量と厚みはともかく、普通の机に広げられる大きさで、韓国内の書店に道路地図と並べて置いてあるような普及版だ。韓国の一般的な道路地図帳でも等高線のような地形図的要素が盛り込まれているが、まして官製地図と同じ精度で表示された全国地図帳が刊行されているというのは、かの国の地図文化の浸透度を示すものだと思う。

収載された地図(以下、RHK版)は、国土地理情報院の地形図(以下、官製版)といくつかの点で違いがある。官製版の本来の図郭は経度15分×緯度15分だが、RHK版は見開き15分×9分の横長サイズで、巻末に両者の図郭の照合図がある。

色の使い方では、官製版は等高線が赤茶で、他に赤、青、緑、黒の計5色刷りだが、RHK版では等高線を緑に変えて山林のハッチをなくしたほか、道路を藍、赤、緑、クリームイエローの4色で区別して、格段に読取りやすくしている。官製版(上記地図帳収載の図)と比較すると市街地の道路網も詳しくなり、道路番号もこまめに書き入れられているので、道路地図としての利用も想定しているのだろう。それから、集落の表示がかなり詳細で、より大縮尺の基本図からデータを借りているように見える。

さらに大きな相違点は地名表記だ。韓国語は現在、ハングルのみで表記するが、大多数の地名は漢字音に由来している。官製版がこのような漢字語地名をもとの漢字で表記しているのに対して、RHK版はハングルに統一していて、かろうじて市郡名だけ漢字、英字を併記してある。目次、索引、凡例集に至るまでハングル以外の表記はない。識字がおぼつかない筆者は、手元に中央地図文化社の漢文・英文版「韓國道路地圖」を広げ、それを辞書代わりに地図探索をしているところだ。

読図のハードルは少々高くても、718ページもの膨大な地形図の集積はたいへん貴重だ。その気になれば、DMZが横断する北辺から南海(東シナ海)の済州島まで、韓国を自由に図上旅行することができる。新空港をはじめ大規模な干拓が進行する西海岸、高速鉄道や高規格道路が次々オープンする中央部、その一方で村里の古刹が昔と変わらぬ姿で残る山岳地帯...。時空を超えたダイナミックな風景をこの地図帳から想像してみたい。

なお、地図帳の購入に際して、筆者は現地のオンラインショッピングサイトを利用したが、日本国内の韓国書籍専門店(たとえば水道橋の高麗書林など)でも扱っている。

■参考サイト
ランダムハウスコリア  http://www.randomhousekorea.co.kr/

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 台湾の1:50,000地図帳

2008年8月14日 (木)

平凡社の中国地図帳

Blog_heibonsha_chinaatlas北京オリンピックで人々の関心が集まるのを見計らっての出版なのだろう。2008年7月に、平凡社から「ベーシックアトラス中国地図帳」が刊行された。A4判、地図59ページ、地名索引等35ページ、計94ページ(見返しを含まず)、価格も1400円(税別)と、お手ごろな冊子だ。中国大陸にテーマを絞った地図帳が日本の出版社から出されるのは、1980年代にあった帝国書院と中国地図出版社のタイアップ企画以来ではないか。

内容構成は以下のとおりだ。まず見返しに、中国の基礎データ、行政区分図、行政区の概要がある。中国の行政区は、23省(ただし台湾省は地図帳の範囲外)、5自治区、4直轄市(北京、上海、天津、重慶)、2特別行政区(香港、マカオ)に区分されている。省都、面積、人口、主要都市を列挙した表には、省を一字で表現するときの略称も載っているが、これは鉄道ファンにとっても有益だ。上海の略称が滬(こ)、内陸の甘寧省が隴(ろう)と知れば、北京~上海間の南北幹線を京滬線、蘭州~連雲港間の東西幹線を隴海線という訳もわかるからだ。

目次のあとは全体図になる。東は日本、韓国、北朝鮮、南は東南アジア諸国やインド、西は中央アジア諸国、北はモンゴル、ロシアと、中国をとりまく国々を一望する1:16,000,000(1600万分の1)の地勢図と行政区分図で、広大な国土の概略がつかめる。

次のページからは、地域別の区分図と、その中に含まれる主要都市の市街図が続く。まず、省レベルの区分図は1:3,000,000(300万分の1)~1:9,000,000(900万分の1)の小縮尺図だ。平凡社の地図といえば、世界大百科事典の地図帳を真っ先に思い浮かべるが、デザインはそれを踏襲している。地勢は低地の緑から高地の茶系へと移り変わる段彩で表現される。地名には日本の常用漢字の字体を採用するが、現地読みのルビがふられ、主要都市については簡体字が併記されている。また、世界遺産の位置がプロットされているのを見るのも楽しい。四川盆地では半径200kmの範囲に、九寨溝、黄龍、青城山と都江堰、ジャイアントパンダ保護区、峨眉山と楽山大仏、大足石刻といった重要な遺産が集中しているのに、筆者は今頃やっと気づいた。

主要都市の市街図は、縮尺が図示されているものの、分数表示はない。後述する特別扱いの都市を除くと、大きいものでカシュガルの1:30,000、小さいもので武漢の1:150,000になる。縮尺をどれぐらいにするのか、編集者は都市域の広がりと紙面のスペースの兼ね合いで、苦心したに違いない。残念だがユーザとしては、大多数の市街図が街路網と主要施設の概略位置を知るためのものと、覚悟しておく必要がある。街歩きにはもう少し大縮尺の地図が必要だ。

その点、北京、上海、香港だけは別格で扱われていて、広域図から都市図、中心街の詳細図へと順にクローズアップしていく。北京を例に挙げると、1:450,000広域図では万里の長城が首都の北郊を護る様子がわかる程度だが、次の1:80,000都市図では、郊外の別荘である頤和園(いわえん)や鳥の巣のあるオリンピック公園が目に入ってくる。最後の1:25,000中心街図になると、故宮の伽藍配置や、王府井(ワンフーチン)の大通りに並ぶ主要施設まで読み取れる。

ちなみに、同社の市街図は、道路をくくり(縁取り)無しで白く抜いて、背景から浮かび上がらせるデザインが伝統だった。しかしこの地図帳では、くくりを用いたオーソドックスな表現に変えている。筆者としてはすっきりしたこれまでのやり方も好みだが、一般には違和感があるのかもしれない。

また、鑑賞する立場で少し難点を挙げるなら、それぞれの地図表現に精度の開きがあるのが気になる。例えば北京広域図は、精巧な陰影で描かれた地勢に対して、デフォルメ気味の交通網の表現が必ずしもマッチしていない。1:320,000上海市域図や1:800,000珠江デルタ図では、その地勢も省略されて、美しい省別図に比べるとかなり粗っぽい印象を受ける。細かいところでは、市街図の地下鉄記号が、同じ水色の実線を使う河川や縦横の方眼線と混在して、区別がつきにくくなっている。

しかし、「こんな地図がほしかった。日本で初めて本格的中国地図帳。旅行にも、ビジネスにも必携」とオビに記されたキャッチコピーは、的外れではないと思う。市街図には蘇州、景徳鎮、楽山、麗江のような小都市が仲間入りし、桂林近くの漓江下りや西域の敦煌周辺の図も入って、旅の予習には十分使える。日本語と中国語両方の読みで引けて、難読字の音読手引きまでついた索引は、ニュースの現場を手早く確認するのに役立つ。知っているようで知らない中国大陸。その上を思うままに飛び回れる切符が、わずか新書2冊分の値段で手に入ると考えれば、読者となるのをためらうことはないだろう。

■参考サイト
平凡社地図出版 http://hcpc.co.jp/ 
ブログ「今日の平凡社」にある本地図帳の記事
http://heibonshatoday.blogspot.com/2008/07/blog-post_16.html

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