2017年4月25日 (火)

オーストラリアの地形図-西オーストラリア州

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南オーストラリアが英語で "South" Australia であるのに対して、西オーストラリアは "Western" Australia になる。名称はスワン川植民地 Swan River Colony を改称した1832年から使われていて、南(1836年)よりわずかながら先輩だ。州は大陸の西側1/3を占めている。面積253万平方kmで日本の約7倍、世界でも2番目に大きな行政区だそうだ。約260万人の人口の約8割が、州都パース Perth と周辺の都市圏に集中する。オーストラリアの輸出量の6割近くを算出するという大規模鉱業もそこに地域本部を置く。

地形図を所管しているのは西オーストラリア州土地情報局 Western Australian Land Information Authority だが、「ランドゲート Landgate」というブランド名で呼ばれることが多い。それ以前は土地情報省 Department of Land Information (DLI) で、さらに遡れば1829年創立の測量総局 Surveyor-General's Office を起源とする歴史ある組織だ。

筆者は2003年にDLIに地図事情を問い合わせたことがある。当時、州製作の地形図は縮尺1:1,000,000(R313シリーズ)9面で全域をカバーしていたものの、1:100,000や1:250,000はなく、連邦 AUSLIG(現 ジオサイエンス Geoscience)の刊行図が案内されていた。より大縮尺の1:25,000や1:50,000は、パースを含む南西岸をかろうじて固める程度の刊行状況だった。

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地形図索引図の一部

それに比べれば、近年のランドゲート製品の充実ぶりは目を見張るものがある。地形図はWA トポ(トポ Topo は地形(図)を意味する Topographic の略)と呼ばれ、広大な州全域を1:25,000、1:50,000、1:100,000のいずれかでカバーしている。ここ10数年で整備されてきたので、座標系はすべてGDA94に統一されている。

縮尺別に見ていこう。まず1:25,000の製作範囲は、人口が集中するパースメトロ(都市圏)Perth Metro やサウスウェスト(南西地区)South West が中心だが、それだけでなく内陸部にも相当数が点在している。おそらく人が活発に動いているエリアはすべてカバーしているのだろう。図郭は経度緯度とも7分30秒で、1:50,000のそれを縦横2等分したものだ。等高線間隔は10~20m。

次に1:50,000の範囲は、南西部の1:25,000エリアの外縁に加えて、天然資源開発が盛んな北西部にも拡大されている。AUSLIGの同縮尺図と整備範囲がほぼ重なるので、その成果を引き継いでいるのかもしれない。図郭は経度緯度とも15分で、1:100,000のそれを縦横2等分した範囲だ。それ以外のエリアでは、1:100,000が作成されている。

オフセット印刷図はすでに全廃されてしまい、現在は地理参照型PDFファイルか、オンデマンド印刷での供給になっている。PDFファイルはCDに焼いて送られてくる。パース近郊フリーマントル Fremantle の地図商はそのショッピングサイトで、印刷図でも自社にある大判プリンタで出力するから速く届けられる、と言っている。販売店にとっては収納スペースも在庫チェックも不要で助かるはずだ。にもかかわらず、1面あたりの価格が前者でも12.39豪ドル、後者で26ドルというのはいささか高く、利用者にはデジタル化の恩恵があまり届いていない。

ランドゲートの地形図は、同局公式サイトからリンクしている "Map Viewer" という地図サイト経由で直接発注できるほか、西オーストラリア州の地図商でも扱っている。「官製地図を求めて-オーストラリア」の発注の項を参照。

なお、発注したサンプル図が届き次第、内容について記事を追加したい。

■参考サイト
ランドゲート Landgate  https://www.landgate.wa.gov.au/

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2017年4月16日 (日)

オーストラリアの地形図-南オーストラリア州

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キャンベラのある首都特別地域は別として、本土のすべての州・準州と境を接しているのは、南オーストラリア州 South Australia だけだそうだ。トリビアが示すとおり、同州は大陸の真ん中にあり、南はグレートオーストラリア湾 Great Australian Bight に面している。州人口の3/4以上が州都アデレード Adelaide とその周辺に集中し、ほかに小都市は点在するものの、それを除けばいくつかの低山地と乾燥または半乾燥の放牧地がどこまでも続く土地柄だ。

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1:50,000図の例
公園緑地に囲まれたアデレード中心街
6628-3 & PT 6528-S Adelaide 2001年
© Department of Environment, Water and Natural Resources, State of South Australia, 2017, License: CC-BY 4.0

南オーストラリア州の地形図作成は、環境・水・天然資源省 Department of Environment, Water and Natural Resources (DEWNR) が所管している。官製図の愛称は「マップランド Mapland」で、どこかのテーマパークと間違えそうな響きだ。

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1:50,000地形図表紙の変遷
(左)6028-I & PT 6128-IV Lincoln 1981年
(右)6628-3 & PT 6528-S Adelaide 2001年

連邦ジオサイエンスが1:250,000や1:100,000縮尺図で州全域をカバーしている(下注)ためか、マップランドは作成範囲を絞っている。市販されている地形図は1:50,000のみで、それも主として沿岸部の比較的人口が多いエリアでの刊行にとどまる。手元にある2002年版と2016年版の索引図を比較してもエリア拡張の気配がないから、これはもう確定事項なのだろう。

*注 ただし内陸部(いわゆるレッドラインの内側)の1:100,000は、編集原図のコピーで頒布されている。

1:50,000の図郭は、1:100,000のそれを縦横2等分した経度15分、緯度15分の範囲だ。初版は1970年代後半に遡り、現在は1980年代後半から2000年代前半製作のものが出回っている(下注)。旧版は主として2ツ折りで青表紙がついていた。1990年前後から印刷方式がプロセスカラー(CMYKの4色)になり、3ツ折りで、表紙もカラーの風景写真を配したものに変わった。座標系は2000年を境に、それ以前の版は旧測地系 AGD66またはAGD84、以降は新測地系 GDA94 が適用されている。

*注 同州アンリー Unley の地図商サイトhttp://cartographics.com.au/ の記述による。

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地形図の図郭
中央に数字4桁がある太枠の図郭が1:100,000、それを縦横2等分した細枠が1:50,000の図郭

等高線間隔は10mで、日本の同縮尺図の20mと比べると精度は高い。それなら、対象となる一帯が緩傾斜地ばかりかというとそうでもなく、アデレード・ヒルズ Adelaide Hills を含むマウント・ロフティー山脈 Mount Lofty Ranges やその北に続くフリンダーズ山脈 Flinders Ranges の山腹は、結構な斜度がある。こうした場所は等高線でぎっしりと埋まることになる(下図参照)。

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1:50,000図の例
傾動山地の断層崖が続くアデレード・ヒルズの西斜面。アデレードメトロのブレア線がくねりながら上っていく
6628-3 & PT 6528-S Adelaide 2001年、6627-4 & PT 6527-1 Noarlunga 2001年
© Department of Environment, Water and Natural Resources, State of South Australia, 2017, License: CC-BY 4.0

地図記号にはさほど特徴的なものはないが、あえて挙げるとすれば、一つは道路の舗装区分だ。他州では未舗装道に薄赤やオレンジを充てるところ、マップランドは茶色にしているので、妙に実感がある。また、旧版では道路の分類基準が等級別(主要道、地方道等)ではなく車線数で、細線が1車線、太線が2車線以上を表していた。しかし現行図では、他州と同じように等級別に改められている。

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1:50,000の凡例(2001年)

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「マウント・ロフティー山脈エマージェンシーサービス・マップブック」表紙

上述のように単品の折図は更新中止になっているようだ。しかし別途、主要地域をまとめた地図帳シリーズが、「エマージェンシーサービス・マップブック Emergency Services Map Book」の名称で刊行されており、比較的新しい情報が入手できる。これは以前、CFSマップブック CFS Map Book と呼ばれていたもので、本来、地方消防隊 Country Fire Service (CFS) が実施している緊急業務を支援するための内部資料だが、一般にも販売されてきた。

マップランドのサイトによれば、現在8冊刊行されており、沿岸部の地域を1:50,000または1:100,000でカバーしている(ただし、西海岸 West Coast の一部は1:250,000)。例えば、アデレード周辺域は「マウント・ロフティー山脈編 Mount Lofty Ranges Emergency Services Map Book」に収録されており、人気の観光地カンガルー島 Kangaroo Island には「カンガルー島編 Kangaroo Island Emergency Services Map Book」がある。現地価格79豪ドル(1ドル85円として6715円)と少々値は張るが、地形図を1枚ずつ買うよりはずっと経済的だ。

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マップブックの図例
from "Mount Lofty Ranges Emergency Services Map Book"
© Department of Environment, Water and Natural Resources, State of South Australia, 2017, License: CC-BY 4.0

マップランドの地形図(オフセット印刷図)は、オーストラリア国内の主要地図商で扱っている。「官製地図を求めて-オーストラリア」の発注の項を参照。

なお、前回のビクマップと同じく、マップランドでも地形図の閲覧サイトは作られていない。Map Finder というサイトがあるが、これは地図や空中写真の発注(有料)のためのものだ。上記のマップブックや最新地形図(プロッター出力)は、このサイトで入手できる。

■参考サイト
環境・水・天然資源省 Department of Environment, Water and Natural Resources (DEWNR)
http://www.environment.sa.gov.au/
Map Finder
https://apps.environment.sa.gov.au/MapFinder/

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2017年4月 9日 (日)

オーストラリアの地形図-ビクトリア州

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VICMAP印刷図索引図
2014年版表紙

古風な雰囲気の残る州都メルボルン Melbourne のゆったりとした美しい街並みが、人々がこの州に抱くイメージを規定する。ビクトリア Victoria(下注)は、オーストラリア大陸の南東部の一角を占める州で、面積こそ本土で最小だが、人口はニューサウスウェールズに次いで多い。

*注 「ヴィクトリア」と書きたいところだが、オーストラリア観光局の表記に従って「ビクトリア」とする。

州の繁栄は、19世紀半ばに北中部のバララット Ballarat やベンディゴ Bendigo 周辺で起きた金の採掘ブーム、いわゆるゴールドラッシュによってもたらされた。渦中の地への玄関口として、ポートフィリップ湾 Port Phillip Bay に面するメルボルンやジーロング Geelong も急速に発展した。大陸第一の都市となったメルボルンが、オーストラリア連邦発足に際してシドニー Sydney と首都の座を争い、結局、双方痛み分けで内陸の小村キャンベラ Canberra に決まった話は有名だ。それでも首都が建設されるまでの約20年間、首都機能を果たしたのはメルボルンだった。

現在、ビクトリア州の地形図作成は、環境・土地・水・計画省 Department of Environment, Land, Water and Planning (DELWP) が所管している。州の略称が VIC なので、地図シリーズの愛称も「ビクマップ Vicmap」だ。もっとも最近は、地形図に限定せず、州の地図情報データベースの総称として使用されている。データベース全般の紹介は筆者の手に余るので、地形図に絞って紹介するが、それでさえ体系はなかなか複雑だ。

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1:50,000図の例
パッフィンビリー鉄道の終点ジェムブルック Gembrook 周辺
8022-S Neerim 2008年
© Department of Environment, Land, Water and Planning, State of Victoria, 2017, License: CC-BY 4.0

ビクマップの製品記述書によれば、ハードコピー・マッピング(印刷地形図)Hardcopy Mapping には、大別して2つのカテゴリーがある。一つ目は標準図郭の区分図シリーズで、1:25,000、1:50,000、1:100,000と3種類の縮尺が用意されている。

1:25,000は、かつて経度7分30秒、緯度7分30秒の縦長判だったが、後に、これを横2面接続した経度15分、緯度7分30秒(+隣接図との若干の重複)の横長判に改められた。便宜上、前者はシングルフォーマット、後者はダブルフォーマットと呼ばれる。1:25,000は北西部の平原や東部の山岳地帯では初めから整備の対象外だが、刊行済みのエリアでも更新間隔が最大6年とされているためか、いまだに両フォーマットが混在している。図番も、前者は6桁目が1~4、後者はN(北)かS(南)と異なる(例:7822-2-1、7822-2-N)。

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1:25,000地形図表紙の変遷(左から)
旧版(シングルフォーマット)7922-2-3 Lysterfield 1988年
旧版(ダブルフォーマット)8022-3-S Gembrook South 1993年
新版(ダブルフォーマット)7921-4-N Frankston North

1:50,000も2種のフォーマットがある事情は同じだが、すでに経度30分、緯度15分のダブルフォーマットで全面刊行が完了している。換言すれば、1:50,000が州全域をカバーする最大縮尺ということだ。図番は1:100,000のそれの後にNかSが付く(例:7822-S)。ただ、王立オーストラリア測量隊 Royal Australian Survey Corps (RASC) がかつて製作した1:50,000図(シングルフォーマット)も索引図に表示されているので、在庫のある限り並行販売されているようだ。

またこれらとは別に、国立・州立公園などで標準図郭に捉われずに自由に図郭を設定した「特別図 Special」もある。縮尺は1;25,000または1:50,000で、裏面には同じエリアのオルソフォト(正射写真)が印刷されている。

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1:50,000地形図表紙の変遷(左から)
旧版(ダブルフォーマット)7324-N Horsham-Murtoa 1991年
新版(標準図郭)8022-S Neerim 2008年
新版(特別図)Wilsons Promontry Special 2008年

これに対して1:100,000は本来、連邦の測量機関ジオサイエンス Geoscience の守備範囲であり、ビクトリア州域ではとうに完成済みだ。ところが、州は一部地域でオリジナル版を刊行し始めた。しかも連邦図(経緯度とも30分)に倣うのではなく、図郭を横2面接続したダブルフォーマット(経度1度、緯度30分)での提供だ。図番は、連邦のそれを単純に連結している(例:7722-7822)。想像するに連邦の印刷版更新が停止状態のため、州として必要な図葉を自らの手で維持する方針なのだろう。まだ刊行面数は少ないが、今後整備が進めば、連邦図は旧版の扱いになっていく。

ここまでが標準図郭シリーズの話だが、もう一つのカテゴリーというのは、オンデマンド出力の地形図だ。これは図面が汎用のA判プリンタに対応するサイズに調整されており、発注は専用サイトを通じてオンラインで行う。ユーザーはプロッター(実際はカラープリンター)出力された印刷図を受取ることもできるし、地理参照型PDFファイルでダウンロードすることもできる。縮尺はA0判が1:25,000、A3判とA4判が1:30,000になる。印刷する範囲も、標準図郭と任意の図郭を選択できるのが特徴だ。

実は標準図郭でも、近年は業務合理化のために、需要の少ない図葉がオフセット印刷ではなく、プロッター出力に移されてきている。そのため、2つのカテゴリーといっても、相違点
は結果的に、用紙サイズ(と縮尺)のバリエーションに収斂されてしまうのだが…。

オーストラリアでは2000年に、地図投影の基礎となる座標系が変更された。刊行図のうち2003年以前のものは旧測地系 AGD66 が、その後は新測地系 GDA94 が適用されている(下注)。縮尺、フォーマット、印刷方法に加えて、この測地系の区別があるため、それらを一枚に表現するビクマップの地図索引図(下図はその一部)は、かなり難解なものと覚悟しておく必要がある。

*注 ADG66はAustralian Geodetic Datum 1966、GDA94はGeocentric Datum of Australia 1994の略。

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地形図の図郭
黄枠は1:100,000ダブルフォーマット、青枠は1:50,000ダブルフォーマット、
赤枠は1:50,000特別図、緑枠は1:25,000ダブルフォーマット、
灰色の細線枠は1:25,000シングルフォーマットで現在はオンデマンド出力地形図の定形図郭

地図の図式は各カテゴリー・縮尺ともほぼ共通だ。ただ、地籍界が描かれるのは1:25,000だけで、道路網や街路名も縮尺が小さくなるにつれて適宜省略される。

地図記号には他の州にないものも見られる。たとえば、主要道では、道路地図のようなデザインの道路番号が付されている。鉄道関係では、トラムが発達するメルボルン市内を想定した併用軌道の記号がある。主要なトレール(自然歩道)には、図上で跡がたどれるように色三角の目印が置かれている。さらに地勢表現としてぼかし(陰影)が加えられ、見栄えの点でも他州とは一線を画している。

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1:25,000凡例の一部

このように意欲的な整備が進行中のビクマップだが、今のところウェブサイトでの提供は行われていない。VicmapTopoOnline と銘打ったサイトが存在するが、地形図閲覧サイトではなく、上述したオンデマンド出力の地形図を発注(有料)するためのものだ。画面に表示される地図は旧式の線画レベルで、あまりに物足りない。せめて地形図ファイルのダウンロードを無料化してくれると嬉しいのだが。

ビクマップ(印刷図)は、オーストラリア国内の主要地図商で扱っている。「官製地図を求めて-オーストラリア」の発注の項を参照。

■参考サイト
環境・土地・水・計画省 Department of Environment, Land, Water and Planning (DELWP)
http://www.depi.vic.gov.au/

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2017年4月 3日 (月)

オーストラリアの地形図-ニューサウスウェールズ州

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NSW州地形図カタログ
2011年版表紙

ジェームズ・クック James Cook が英国軍艦エンデヴァー号で南太平洋のタヒチへ向かったのは1768年のことだ。表向きの目的は金星の太陽面通過の観測だったが、それとは別に未知の南方大陸を探索せよという密命も受けていた。彼はタヒチからニュージーランドに到達し、次いで西へ進んで、1770年4月に現在のオーストラリア大陸を「発見」した。

ニューサウスウェールズ New South Wales というのは、彼がこの探検航海の間に、大陸の東岸全体につけた地名だ。しかし、クックは命名の理由を書き残していないし、彼自身はヨークシャー生まれで、ウェールズ南部には縁がない。それどころか、サウスウェールズがウェールズの南部を意味するのか、それとも南半球のウェールズと言いたかったのかさえわからないのだ。

現在のニューサウスウェールズ州 State of New South Wales(以下 NSW)は、クックが最初に上陸した場所を含むオーストラリアの南東部を占めている。地形図を所管しているのは、州財務・サービス・イノベーション省 Department of Finance, Services and Innovation のもとにある国土・資産情報局 Land and Property Information (LPI) だ(下注)。広大な州域を独自の地形図群で完全にカバーしている。紙地図(オフセット印刷図)も、クイーンズランドのように刊行停止されてはおらず、州内のみならず他州の地図商経由でも問題なく入手が可能なのは嬉しい。

*注 州の地形図製作を所管していた旧 国土・資産管理局 Land and Property Management Authority (LPMA) が2011年に廃止され、LPIが業務を引き継いだ。

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1:25,000地形図表紙の変遷(左から)
旧版 8929-2S Mittagong 1981年、旧版 9130-3S Botany Bay 1987年
新版 8525-2S Perisher Valley 2001年、新版 9029-1S Appin 2012年

LPIが製作している中縮尺地形図には、1:25,000、1:50,000、1:100,000の3種のシリーズがある。それぞれ緑、青、赤の表紙で区別されるが、下図のとおり刊行エリアは明確に分けられ、重複はない。そのうち1:25,000の縮尺は、先述の地勢区分でいうと、およそ海岸平野から西部斜面までの、比較的人口が集中し、土地利用が密な地域に適用されている。それだけ地形図の需要が多く、精度も必要とされるためだろう。

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縮尺ごとの適用エリア

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1:25,000図の例
入江に沿ってシドニーの観光名所ハーバーブリッジやオペラハウスが見える
9130-3N Parramatta River 2002年
© Land and Property Information, NSW, 2017, License: CC-BY 3.0
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1:25,000図の例
カトゥーンバ市街地のへりに断崖の記号が続き、ブルーマウンテンズの展望台が多数並ぶ 
8930-1S Katoomba 2000年
© Land and Property Information, NSW, 2017, License: CC-BY 3.0

対する1:50,000の製作範囲はそれより内陸の西部平原一帯で、一部の例外を除き、連邦のレッドライン Red Line までだ。レッドラインというのは、連邦の1:100,000地形図整備計画で、地形図を刊行せずに編集原図のコピー頒布にとどめたエリアの境界を指す。ラインを越えると主として内陸の砂漠地帯なのだが、LPIはそこでも1:100,000を刊行しているので、結果的に、連邦が諦めた地形図刊行を州が代行した形になっている。かつて連邦ジオサイエンスの製品カタログにも、NSW州域の1:100,000は連邦では刊行しておらず、NSWで入手できると記載されていた。

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1:50,000地形図表紙(左から)
旧版 8225-I & IV Albury 1980年、旧版 8428-N Sebastopol 1985年
新版 8428-S Junee 2012年
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1:100,000地形図表紙 (左から)
旧版オルソフォト地図 7931 Willandra 1975年、 新版 7333 Menindee 2000年

次に図郭の切り方だが、前回紹介したクイーンズランドの同縮尺図と比べると、横が2倍の長方形になる。1:25,000の場合、1:100,000の図郭を横2等分、縦4等分するので、経度15分、緯度7分30秒の範囲をカバーする。1:50,000の図郭はその4面分、すなわち1:100,000の図郭を縦2等分したサイズになる。

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地形図の図郭と付番方式
図郭は1:100,000(赤枠)を縦2等分すると1:50,000(青枠)、それを縦横各2等分すると1:25,000(緑枠)
図番は1:100,000に対して、1:50,000はN(北半分)とS(南半分)、1:25,000は1~4とN・Sを加える

図式は、各縮尺でほぼ共通の設計だ。等高線間隔は1:25,000の場合、平地・中間地は10m、山地は20mとされている。そのため、日本の同縮尺図(等高線間隔10m)を見慣れた目には、山地の表現がかなり粗く感じられる。1:50,000の等高線は20m間隔だ。

等高線の色は、スポットカラー(特色)印刷だった時代は道路と同じ赤を使っていたが、今はプロセスカラー(CMYKの4色刷)化され、少し灰味を帯びたテラコッタ色が充てられている。森を表すアップルグリーンと掛け合わせると薄い茶色のようにも見え、違和感はない。

市街地は黄色のベタ塗りの上に、各戸の敷地を示す地籍界がこまめに描かれ、道路(街路)名も詳しく注記されている。さらに、教会(礼拝所)、学校、救急施設、警察などかなりの種類の公共施設がアルファベットの略号で表され、広場 playground や公衆トイレ toilets まで記載されている。地形図でありながら、市街図としても使えるものを目指しているのだろう。

一方、農場や牧場が展開する平原に目を向けると、農道にストックグリッド stock grid(家畜の逃走を防ぐために道路に設ける格子状の仕掛け)や渡渉地 floodway、目標となる構造物 landmark feature の例としてサイロ silo やヤード yards(家畜用の囲い場)など、特徴的な記号が現地の風景を想像させる。鉱山 mine の記号がつるはしの交差ではなく、片方がスコップ(ショベル)形になっているのもおもしろい。

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1:25,000凡例の一部

1990年代までNSW州独自のシリーズは、地形図か、そうでなければオルソフォト地図(1:50,000や1:100,000図の一部)のどちらかで供給されていた。これに対して2000年から、新たなシリーズへの置換えが始まった。新版は両面刷で、おもて面に地形図、裏面には同じエリアのカラー空中写真(オルソフォト)を配している。

クイーンズランド州の取組みに倣ったように見えるが、空中写真は地図仕様ではなく、画像の上に1kmグリッドと最小限の地名を加えただけの簡素な作りだ。実際のところ、このほうが純粋に地表の様子を読み取ることができてよい。とはいえ、その後グーグルマップなどの普及で空中写真が身近になり、新版登場のときに感じたありがたみはすっかり薄れてしまったのだが…。

なお、これらの地形図(印刷図)はオーストラリア国内の主要地図商で扱っている。「官製地図を求めて-オーストラリア」の発注の項を参照。

最後に、州全域にわたってLPI刊行の地形図データを閲覧することができる NSW Topo Map (MapServer) というサイトを紹介しておこう。

■参考サイト
NSW Topo Map (MapServer)
http://www.arcgis.com/home/webmap/viewer.html?url=http://maps.six.nsw.gov.au/arcgis/rest/services/public/NSW_Topo_Map/MapServer&source=sd

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NSW Topo Map (MapServer) 画面

これは、地理情報統合プラットフォーム ArcGIS を利用しており、シームレスな地形図ラスタデータがレイヤーとして表示される。内容は刊行図と同じもので、解像度が高く、2倍程度の拡大表示にも耐えられる。

初期画面は縮尺が小さいため、何が描かれているのか判然としないが、地図画面左上にある+ボタンで拡大していくと、次第に地形図画像が見えてくる。ArcGIS のベースマップには衛星画像も用意されているので、表示を地形図から衛星画像に切り替えれば、印刷図で試みられた仕掛けがいとも簡単に実現できる。

■参考サイト
国土・資産情報局 Land and Property Information (LPI)  http://www.lpi.nsw.gov.au/

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 オーストラリアの地形図-連邦1:250,000
 オーストラリアの地形図-クイーンズランド州
 オーストラリアの地形図-ビクトリア州
 オーストラリアの地形図-南オーストラリア州

2017年3月27日 (月)

オーストラリアの地形図-クイーンズランド州

連邦制をとるオーストラリアでは、地形図の製作業務も連邦と各州が分担している。連邦が受け持つ1:100 000以下の小縮尺図は以前紹介している(下注)ので、今回から州が独自に製作する地形図を見ていきたい。初回はクイーンズランド州だ。

*注 「オーストラリアの地形図-連邦1:100,000」「オーストラリアの地形図-連邦1:250,000ほか」参照

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クイーンズランド州
地形図カタログ第3版
(2002年)表紙

オーストラリア大陸の東北部を占めるクイーンズランド Queensland は、同国第2の面積をもつ大きな州だ。日本からの直行便が飛ぶ州都ブリスベン Brisbane(現地の発音はブリズベン)やケアンズ Cairns のような拠点都市、ゴールドコースト Gold Coast やグレートバリアリーフ Great Barrier Reef といった海洋リゾートはよく知られている。

2017年現在、同州の測量業務を担当しているのは、天然資源・鉱山省 Department of Natural Resources and Mines だ。官製図にはお堅いイメージがつきまといがちなので、オーストラリアのいくつかの州では愛称を付して親近感の演出に努めている。クイーンズランドの場合は、亜熱帯の陽光が降り注ぐイメージから「サンマップ Sunmap」だ。

残念なことに、紙地図(オフセット印刷図)の新規発行はすでに全面停止され、ウェブサイトでの画像提供に移されている。だが、そこでは現行図だけでなく、旧版図も扱われているので、まずは基礎知識として、かつての紙地図の体系に触れておきたい。

手元に2002年5月発行の地形図カタログ第3版がある。それによると、州全域をカバーする最大縮尺は1:100,000だ。しかし、大鑽井盆地 Great Artesian Basin が広がる内陸部については、正式図ではなく測量原図の青焼き dyeline copy でのみ供給可能としている。1:100,000でそれだから、1:50,000より大縮尺図の整備範囲は推して知るべしで、人口が張り付く南太平洋岸の限られたエリアで作成されているに過ぎない。

縮尺体系はさまざまで、1:10,000や古い1:31,680(半マイル図、図上1インチが実長1/2マイルを表す)も若干数見られるが、一定量の面数があるのは、1:25,000と1:50,000だ。

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1:25,000地形図表紙の変遷(左から)
等高線地図 8064-32 Redlynch 1986年
写真図 9242-11 Toowoomba 1996年
等高線/写真図両面刷 8557-41 Bowen 2001年
デジタル等高線図 9242-11 Toowoomba 2010年

1:25,000 は州の整備計画のもとで製作されてきた。図郭は1:50,000のそれを縦横2等分しており、経度7分30秒、緯度7分30秒になる。ユニークなのは図葉によって地図の種類が異なることだ。製作年代に応じて、次に述べる3種のいずれかが入手できた。

1977年に標準地図の製作計画がスタートした当初は、等高線地図 Line Map、つまり一般的な地形図が作られていた。等高線間隔は5mまたは10mと、日本の1:25,000(10m間隔)と比べても遜色ない精度だが、その代わり、急傾斜地では主曲線を省略して計曲線のみにした。そのため、山がちの地域では地勢表現が大雑把になりがちだった。また、等高線に紅色を配したため、赤(朱色)や橙の道路記号とやや紛らわしい。その他の地図記号はおおむね連邦の1:100,000に準じていた。

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1:25,000地形図の例
大分水嶺の急斜面に臨むトゥーンバ市街
いずれも 9242-11 Toowoomba 図葉 (左)等高線地図 2010年 (右)写真地図 1996年
© The State of Queensland, 2017, License: CC-BY 3.0

次に登場したのが、写真地図またはオルソフォト地図 Image or Orthophoto Map だ。同州のそれは、カラー空中写真の上にUTMグリッド、等高線、交通網、行政界などの記号と地名を加えてあった。写真地図は、地表の様子がありのまま読み取れるという空中写真の利点を生かしつつ、写真には表現されない高度、境界、道路区分、地名といったデータを補うものだ。理想的な地図のように見えるが、実際に作業に用いるには、決して使いやすいものではない。情報量が多すぎて地表の様子を大掴みすることが難しく、また書込みが効かない(書込んだものが目立たない)からだ。

*注 オルソフォトは、地表の高度差、あるいは写真の中心からの距離によって生じる歪みを修整した正射投影画像のこと。

その反省もあったのだろう。1990年代に、等高線地図と写真地図を両面刷りする形式に切り替えられた。1枚で2種の地図を見比べられるから徳用版だ。なお、等高線地図の等高線の色が変えられ、主曲線が灰色、計曲線が茶色になった。識別しやすいかどうかは別にして、線幅(線の太さ)でなく色で区別するという仕様は、世界的にも珍しいものだ。

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等高線地図 凡例の一部。州作成図のなかでは最もカラフル

これに対して1:50,000 は、1:25,000整備計画以前に、軍の測量機関であった王立オーストラリア測量隊 Royal Australian Survey Corps が製作していたものだ。陸上交通路の重点防衛地域で実施された地図整備事業の成果物だが、一般にも供されていた。図郭は1:100,000のそれを縦横2等分した経度15分、緯度15分になる。1:25,000の製作範囲とおよそ重複しているので、縮尺は異なるものの、およそ1世代前の地表の状況を記録した地図と考えればいいだろう。

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1:50,000地形図の例
(左)港湾開発前の、マングローブが広がっていたブリスベン川河口
9543-3 Brisbane 1971年
(右)州境の峠を越える北海岸本線はループ線(スパイラル)を構える
9441-2 Grevillia 1990年
© The State of Queensland, 2017, License: CC-BY 3.0

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地形図の図郭と付番方式
図郭は1:100,000(外側の黒の太枠)を縦横2等分すると1:50,000(赤枠)、同4等分すると1:25,000(黒の細枠)
図番は1:100,000に対して、1:50,000は枝番1桁(1~4)、1:25,000はそれに2桁目(1~4)を加える

クイーンズランドの旧版地形図は、広範なスキャニング作業により、現在はウェブサイトで自由に閲覧できるようになっている。

■参考サイト
クイーンズランド州旧版地形図 Historical topographic map series—Queensland
https://data.qld.gov.au/dataset/historical-topographic-map-series-queensland

使い方は次のとおりだ。

1.上記参考サイトの Data and resources(データおよびリソース)の見出しの下に列挙されているシリーズ名から見たいものを選択する。さまざまなシリーズが挙げられているが、代表的なものは以下の2種だ。

・25000 series 1965-2012—Queensland(=1:25,000多色刷等高線地図)
・25000 image series 1993–2003—Queensland(=1:25,000オルソフォト地図)

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旧版地形図シリーズをリストから選択

2.タイトルのリンクを選択すると上の画面になる。Download ボタンで、地形図の目録データ(csv形式)が取得できる。あるいは、Visualisation Preview ボタンで、同じ目録データがブラウザ上に表示される。

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目録データの取得

3.目録データの "jpg_linkage" の列で見たい図葉を選択し、(Windowsなら右クリックで)開き方を選択すると、高精度の地図画像が取得できる。

残念ながら、図葉選択に欠かせない索引図は周辺のページに見当たらなかった。次の QTopo(現行デジタル地図閲覧サイト)で、1:25,000の図郭を表示して確認するしかなさそうだ。

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目録データから画像にリンク

現行デジタル地図は QTopo と呼ばれるサイトで見ることができる。

■参考サイト
QTopo(現行デジタル地形図)
http://qtopo.dnrm.qld.gov.au/desktop/

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QTopo 初期画面

地図の閲覧では、地図画面左上のスケールバーを操作すれば拡大縮小ができる。また、画面上部の Print タブ、または左上の Click here to... を選択すると、印刷やPDF取得のオプションが見つかる。

1.Generated a Printable Map: 画面に表示した任意の範囲の地形図を印刷する。
2.Download a Standard MapSheet: 標準図郭の地形図PDFが取得できる。

また、各縮尺の地形図の図郭は次の方法で表示できる。

画面左下の Map Layers ロゴを選択する。左メニューに表示される Operational Layers を展開して、縮尺を選択する。1:100,000、1:50,000、1:25,000の選択肢があるが、画面にはいずれか1種しか表示できない。そのため、例えば1:25,000図郭なら、ベースマップをかなり拡大表示(表示縮尺 1:144,448 以上)しておく必要がある。

■参考サイト
天然資源・鉱山局 Department of Natural Resources and Mines
https://www.dnrm.qld.gov.au/

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2011年7月 9日 (土)

オーストラリアの地形図-連邦1:250,000ほか

ジオサイエンス・オーストラリア Geoscience Australia の刊行する地形図(区分図)には、前回紹介した1:100,000のほかに、1:250,000と1:1,000,000(100万分の1)がある。

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連邦1:250,000 ウロンゴン付近
© Commonwealth of Australia (Geoscience Australia) , 2011. License: CC-BY 4.0

1:250,000は、全土をカバーする最大縮尺の地形図で、面数は513面。図郭は1:1,000,000の図郭を縦横とも4分割(計16分割)したもので、経度1度30分、緯度1度をカバーする。ただし、海岸線などでは、隣接図郭を取り込んだ拡大版も50面ほど作られている。Sydney Special のように、図名の後ろに "special" が付いているのがそれだ。また、タスマニア島は全島を4面でカバーする独自仕様で、同州測量局が刊行している。

1:250,000も通常折図で販売されるので、用紙の左側に表紙がデザインされている。1:100,000の赤帯に対して、1:250,000は青帯で識別される(タスマニア島を除く)。

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1:250,000地形図表紙
(左から)Sydney(JOG)1989年、Melbourne(NTMS)1984年、Sydney Special(デジタル)2004年、Tasmania Nort East(タスマニア測量局製)2010年

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索引図(シドニー周辺)
青字が1:250,000図名、紫字は "Special"のつく拡張版

地勢表現は50m間隔の等高線による。わが国の1:200,000地勢図が100m間隔であることと比較しても、地形の描写精度は高い。実際、大分水嶺山脈のような山地を含む図葉では、等高線がほとんど隙間もないほど、ぎゅうぎゅう詰めに描かれる。ただ残念なことに、以前はあったぼかし(陰影)が、1998~2003年に実施されたデジタル図化版への切替えに伴って省かれてしまったため、地勢は格段に読取りにくくなった。デジタルファイルの容量を減らす目的かもしれないが、これは明らかに改悪だろう。

道路網の表現も、このときの図式改正で味わった失望の理由の一つだ。道路の記号は新旧とも、くくりのない赤色の実線を用いるが、旧版では、舗装道だけに原色を充て、未舗装道は網掛けで薄めた色を使っていた。こうすることで幹線道路が強調され、地図にメリハリがつくからだ。ところが、デジタル図化版ではどちらも原色が使われ、未舗装道は破線で表現されることになった。その結果、錯雑感が強まると同時に、ぼかしの省略と相まって、視覚的な奥行きが感じられないものになってしまった。

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1:250,000凡例の一部

地図記号の話のついでに、オーストラリアの地形図で特徴的な地図記号といえば、何だろうか。筆者なら空路に関するものをあげたい。道路網の赤に対して空港・着陸施設は紺色と、対比を意識した配色になっているし、記号の形状も具体的に滑走路の配置や方向を表したものだ。さらに、飛行時に注意を要する送電線も同じ紺色で強調されている。

航空図に似たこれらの記号は、1:250,000地形図の一部が、標準軍用地形図である JOG(Joint Operations Graphic、直訳すると共同作戦図)として整備されてきたことに関係がある。1988年に全土の地形図整備事業が完了したとき、1:250,000全544面(当時)のうち、軍の測量機関だった王立オーストラリア測量隊 Royal Australian Survey Corps が製作したものが3割を占めていた。そうしたJOGの航空情報に関する記号が、民生図(下注)にも引き継がれている。飛行機が一般的な交通手段であるこの国ならではのことだ。

*注 軍用のJOG(1501シリーズ)に対して、NATMAPやAUSLIGが刊行した民生用は NTMS(National Topographic Map Seriesの略)と呼ばれる。デジタル図化以前は、表紙に配されたサンプル図を見れば、JOGかNTMSかが判断できた。

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(左)JOG図の例 SG56-15 Brisbane
(右)NTMS図の例 SJ55-2 Wangaratta
© Commonwealth of Australia (Geoscience Australia) , 2011. License: CC-BY 4.0

1:250,000地形図は、1:100,000図から編集されていることもあって、概観図というイメージがある。しかし、等高線精度のおかげで細かい地形も表現できるし、東西150km、南北110kmという収載エリアがクルマによる小移動の範囲にも適合する。わが国の20倍の国土面積があるオーストラリアでは、これでちょうど手軽さと詳しさのバランスがとれた縮尺だといえるだろう。また、1:250,000はデジタルデータでも無償提供されていて(ダウンロード方法は下記「官製地図を求めて-オーストラリア」参照)、著作権表示をすれば二次利用も可能となっている。使いでのある地形図が、自由に利用できるパブリックドメイン(公有物)とされているのは、アメリカ、カナダなどと並んでオーストラリア連邦の地形図の大きなアドバンテージだ。

1:1,000,000は国際図図式によるもので、1面で経度6度、緯度4度のエリアをカバーする。地勢表現は等高線(200m、そのあと500m間隔)と段彩に加えて、ぼかしもかけられる。経緯度で区切った図郭を図式どおり忠実に守っているため、ほとんど海が占めるような図葉も存在する。その点であまり一般向けとは言えないのだが、わが国土地理院の地図もそうであるように、この図郭はオーストラリアのすべての地形図図郭の基準となっている。

1:1,000,000は、1975年に全土49面の刊行が完了したものの、1983年以降、更新が行われていない。そのため、在庫切れとなる図葉が相次いでいたが、その後もとの印刷図からの複製が作られて、すべての図葉が入手可能になった。また、ジオサイエンスのサイトによれば、2006年製作の国際航空図 World Aeronautical Charts (WAC)  42面をベースにした新シリーズ製作の計画もあるとされている。

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1:1,000,000国際図 Melbourne
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図の一部を拡大
© Commonwealth of Australia (Geoscience Australia) , 2011. License: CC-BY 4.0

■参考サイト
ジオサイエンス・オーストラリア  http://www.ga.gov.au/
 トップページ > Topographic Mapping

地図ダウンロード、紙地図購入の方法については「官製地図を求めて-オーストラリア」にまとめた。
http://map.on.coocan.jp/map/map_australia.html

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 オーストラリアの地形図-ビクトリア州

2011年7月 3日 (日)

オーストラリアの地形図-連邦1:100,000

オーストラリアの官製地形図の製作体制は、ドイツに似て、連邦と州の二段構造になっている。連邦は1:100,000とそれより小縮尺の図を担当し、各州は1:50,000、1:25,000など大きな縮尺の図を整備するというのが原則だ。ただし、例外もあるので、それは文中で言及していくとして、まずは連邦の地図を概観してみたい。

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連邦1:100,000, 1:250,000 キャンベラ周辺
© Commonwealth of Australia (Geoscience Australia) 2009, 2006. License: CC-BY 4.0

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ジオサイエンス
地図索引図表紙
2002年10月改訂版

連邦が作成する地形図群は NATMAP(下注)と呼ばれ、州の地図と区別されている。担当しているのは、資源・エネルギー・観光省 Department of Resources, Energy and Tourism の管轄下にあるジオサイエンス・オーストラリア Geoscience Australia という組織だ。ジオサイエンスは地学、地球科学を意味する。筆者などは、一世代前の組織であるオースリグ AUSLIG、すなわちオーストラリア測量・土地情報グループ Australian Surveying and Land Information Group の名が耳に馴染んでいるが、それが2001年にオーストラリア地質調査所 Australian Geological Survey Organisation と統合されて、いまの形となった。

*注 NATMAP はもともと、1956年に当時の国土開発省に設置された地図作成部門、Division of National Mapping の略称だった。同部門は1987年に廃止され、AUSLIGに改組されていくのだが、NATMAPの名称だけは連邦の地図を表す名称としてまだ使われている。州が刊行する地図でも、VICMAP(ヴィクトリア州)、TASMAP(タスマニア州)のように愛称をつけている例が見られる。

ジオサイエンスが製作した区分図は NTMS と呼ばれる(下注)。これは「官製地形図シリーズ National Topographic Map Series」の頭文字をとったもので、後述する軍の測量機関が製作した図と区別するための呼称だ。NTMSには縮尺1:100,000と1:250,000のシリーズがあり、ほかに国際図規格の1:1,000,000(100万分の1)もある。

表紙に赤い帯が入っているのが1:100,000で、全国統一規格としては最も大縮尺の地形図シリーズだ。1965年に、今後10年間(1975年度末まで)でオーストラリア全土の地図作成を完了するという大規模な計画が閣議承認されたときに、これが基本図の縮尺と定められた。残念ながら整備計画自体は、予算不足のために目標の期間内に終えられなかったのだが。

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1:100,000地形図表紙
(左)Perth(NTMS 旧表紙)1976年
(中)Malbourne(NTMS)1984年
(右)Moss Vale(デジタル)2000年

では、冒頭に掲げた首都キャンベラ Canberra の図で、1:100,000の仕様を確かめてみよう。対比のために、同じ範囲の1:250,000(次回紹介)を右上に挿入してある。まず、市街地の道路表示では、1:250,000がほぼ貫通路に限定されるのに対して、1:100,000では小街路も忠実に書き込まれている。環状道路に囲まれた国会議事堂 Parliament House は両図でまったく形が異なり、当然1:100,000のほうが真影に近い。市街地の右(東)に位置する国際空港も、1:250,000は滑走路のみだが、1:100,000では誘導路やヘリポート(円の中にH字の記号)まで分かる。

*注 図名はACT Special、図郭を拡張し、ぼかし(陰影)の入った特別版だ。なお、ACTは首都特別地域 Australian Capital Territory の意。

このように、特定の範囲を拡大して見たいときには、1:100,000は確かに役に立つツールだ。1988年に最初の整備計画を完遂したとき、1:100,000は全土で計3,066面を数えた。だが、予算上の制限から、比較的人口が張付いていない内陸地域(全体の48%)については編集原図の段階にとどめられ、刊行対象とされなかった。

刊行域と未刊行域を分ける境界線はレッドライン Red Line(下注)と言われ、後者の図葉は、リクエストに応じて原図のコピーで提供される形をとった。該当する図葉は1,410面あり、刊行図はそれを差し引いた1,656面にとどまった。その後、1:100,000にも図郭拡大版(図名の後ろに Special がつく)が少数ながら作られており、総面数は若干減少している。

*注 大陸中央部(アウトバック Outback)の大部分は乾燥地で、赤い砂地と岩山の光景からレッドセンター Red Center と呼ばれる。レッドラインはおよそその範囲と重なる。

1:100,000の1面がカバーしているのは、1:250,000の図郭を横3×縦2=6分割した経度30分、緯度30分の区画だ。そのため、横長判の1:250,000に対して、こちらは縦長になる。図番の振り方は国際図の体系ではなく、フランスやドイツの官製図に見られる4桁コードを使う。すなわち、前2桁は東西方向30分(=1図葉)ごとの列の位置を、後ろ2桁は南北方向30分ごとの行の位置を表している。例えば、西南岸のパース Perth 図葉は2034、東北岸ケアンズ Cairns 図葉は8064となる。

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索引図(シドニー周辺)
緑字が1:100,000図名、茶字はレッドライン内の未刊行区域

等高線間隔が20mと1:250,000(50m間隔)に比べて精度は高まるが、地図記号はほぼ共通している。2000年5月からデジタル図式への切替えが始まったときに、ぼかしの省略と道路記号の変更が行われたのも同じだ。1:250,000と事情が異なるのは、面数がはるかに多いのと、ジオサイエンスが担当していない地域もあるという点だ(後述)。製作年代の古い図葉がまだ相当数残っており、1:250,000のように旧図式が一掃されることは当分ないだろう。

冒頭で全国統一規格と書いたが、実際に統一されているのは図郭と図番だけで、地図の仕様は複数存在する。そうなった理由は、先述の全国地形図整備にあたって軍の測量機関が相応の寄与をしたことと、更新作業を一部、州の測量機関が引受けている例があるからだ。

軍の測量機関であった王立オーストラリア測量隊 Royal Australian Survey Corps (下注)は、1982年までに862面の1:100,000作成委任業務を完了している。これが現在も残っていて、筆者が購入した例では、たとえばクイーンズランド州ケアンズ Cairns, Queensland のような沿岸部やニューサウスウェールズ州バサースト Bathurst, NSW といった比較的近郊域でも、測量隊製だった。しかも、ケアンズはJOG系の図式によるR631シリーズ、バサーストはNATMAP図式のR651シリーズと、場所によって別仕様だ。

*注 王立オーストラリア測量隊は、1915年に創立された軍用地図の作成機関。第二次大戦後、整備が遅れていた国土測量を国家プロジェクトとして推進した際の実行組織となり、その後も国内外での地図作成事業を多数手がけた。1990年代に進んだ軍事部門の民間移管の一環で、1996年に解散した。

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1:100,000地形図表紙
(左)Brisbane(SUNMAP)1982年
(右)Pipers(TASMAP)2000年

一方、州の測量機関が1:100,000の更新と刊行をしているのは、クイーンズランド州(一部の地域)とタスマニア州だ。

クイーンズランド州のそれは、中身こそ標準の1:100,000図式だが、右図のとおり、表紙はオリジナル仕様だ。この州の官製図は、陽光降り注ぐリゾートのイメージを喚起させるサンマップ Sunmap という愛称を持っていて、1:100,000もそのラインナップに組込まれているようだ。後者タスマニア州の官製図はタスマップ Tasmap と称し、内製化が一層徹底している。表紙デザインに共通性がないばかりか、折り寸法が違い、図式も一部変えているなど、独自色が濃厚だ。

全国一律の1:250,000に対して、1:100,000は地域ごとのスタイルを温存していて、地図ファンにとっては興味深いシリーズになっている。ここで紹介した各縮尺の地形図(紙地図およびデジタルメディア)は、ジオサイエンスのセールスセンター Geoscience Australia Sales Centre をはじめ、各州の地図商で扱っており、容易に入手できる。

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旧版は地勢を表すぼかし(陰影)入り 7722 Bacchus Marsh 1986年
© Commonwealth of Australia (Geoscience Australia) 2017. License: CC-BY 4.0
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洗練された地図表現が見られるタスマニア州版 8212 Tyenna 2009年
© Tasmanian Government, 2017
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新版はぼかしが省かれ、平板な印象に 9029 Wollongong 1998年
© Commonwealth of Australia (Geoscience Australia) 2017. License: CC-BY 4.0

連邦の1:250,000地形図については次回

■参考サイト
ジオサイエンス・オーストラリア  http://www.ga.gov.au/
 トップページ > Topographic Mapping

地図ダウンロード、紙地図購入の方法については「官製地図を求めて-オーストラリア」にまとめた。
http://map.on.coocan.jp/map/map_australia.html

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